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王宮の最高裁判所。普段は国家の重罪人を裁くその厳粛な場所に、私は「被告人」として立たされていました。
目の前には、眉間に深い皺を刻んだ最高判事と、私を敵視する保守派の貴族たちがずらりと並んでいます。
「ノノカ・フォン・アスタール! 貴女に対する『悪役令嬢的振る舞い』の告発状が届いている! 言葉の暴力による精神的苦痛、および美的独裁による王宮の秩序乱容……。これらについて弁明はあるか!」
最高判事が、カビの生えたような声で尋ねてきました。
私は、首筋のラインが最も美しく見える角度を保ったまま、優雅に扇を広げました。
「弁明? とんでもありませんわ。三行でこの茶番の感想を述べさせていただきます」
「な、なんだと……っ!? ここは神聖な法廷だぞ!」
「一つ、判事様。その法服の襟が左に2ミリほど傾いていますわ。公平な審判を望むなら、まずご自身の中心線を整えるべきですの」
「二つ、私を告発したというその『匿名希望』の方。筆跡からにじみ出る卑屈な性格が、用紙の四隅から不快なオーラを放っていますわよ」
「三つ、要するに……美しさを維持するための私の『教育』を暴力と呼ぶなんて、怠惰な方々の甘えに過ぎませんわ。……以上ですの」
法廷内に、ざわめきが広がりました。
「黙れ! 貴女がマリア嬢を泣かせ、エドワード殿下を辺境へ追いやり、さらには隣国の王まで侮辱した事実は消せんのだ!」
告発側の代理人である、いかにも不健康そうな顔色をした貴族が声を張り上げました。
「あら。マリア様は自分自身の『あざとさ』に溺れて自滅されただけですし、殿下はご自身の『中身の空っぽさ』に見合う場所へ行かれただけですわ」
私は一歩、その貴族の方へ詰め寄りました。
「そして隣国の王は、私という『至高の審美眼』に出会えた幸運を噛み締めてお帰りになりました。……これのどこが『悪行』だと言うのかしら?」
「屁理屈を! 貴女の存在そのものが、我が国の伝統ある『淑女の奥ゆかしさ』を破壊しているのだ!」
その時、法廷の重厚な扉が開き、王太子の正装に身を包んだセシル様が入ってこられました。
その場にいた全員が、その圧倒的な「美の権威」に気圧されて跪きます。
「……セシル様。三行で、この裁判への介入理由を仰ってくださる?」
私は彼に向かって、いたずらっぽく微笑みました。
セシル様は、私を告発した貴族たちを冷徹な銀色の瞳で射抜くと、私の隣に並びました。
「一つ、私の婚約者が不在の間、執務室の花が活けられていなくて私の気分が酷く損なわれた」
「二つ、法廷の空気があまりに淀んでいて、ノノカの喉に悪いと判断した」
「三つ、……そして何より。私の王妃を『悪役』と呼ぶ者は、すなわち私に喧嘩を売っていると見なす」
セシル様の、低く響くような宣言。
判事も貴族たちも、まるで氷を流し込まれたかのように震え上がりました。
「バ、バレンシア王太子殿下……! しかし、法は平等に……」
「法は美しさを守るためにあるのではないか? ノノカがこの国に来てから、犯罪率は下がり、街は清潔になり、国民の顔には生気が戻った。……これを悪行と呼ぶなら、我々全員が悪人だ」
セシル様は私の腰を抱き寄せ、判事に向かって不敵に微笑みました。
「……判事。三行で判決を下せ。私の時間がもったいない」
判事は額の汗を拭い、震える手で木槌を握りました。
「……は、はい! 判決を言い渡します!」
「一つ、ノノカ・フォン・アスタールに対する全ての容疑は冤罪である!」
「二つ、むしろ彼女の活動は『国家美化功労賞』に値するものである!」
「三つ、この裁判を企てた者たちは、後ほど王太子府にて徹底的な『美的再教育』を受けること! ……以上、閉廷!」
「あら。最後の一行、最高にワクワクいたしますわね、セシル様」
私は、腰を抜かして震えている告発者たちを見つめ、優雅にカーテシーを披露しました。
「皆様。私の再教育は、エステの三倍は厳しいですわよ? せいぜい、肌を荒らさない程度に覚悟しておいてくださいな」
法廷を去る私たちの背中に、もはや反論する者は一人もいませんでした。
「……ノノカ。貴様は本当に、裁判所すら自分のステージに変えてしまうのだな」
「あら。主役が一番美しくなければ、物語として成立しませんもの。……あ、セシル様。今のその『守り切ったぜ』という満足げなドヤ顔。……170点ですわ!」
「……ドヤ顔と言うな。私は真剣だったんだぞ」
私たちは、再び平和と美しさが保証された王宮の廊下を、誇らしげに歩いて行きました。
目の前には、眉間に深い皺を刻んだ最高判事と、私を敵視する保守派の貴族たちがずらりと並んでいます。
「ノノカ・フォン・アスタール! 貴女に対する『悪役令嬢的振る舞い』の告発状が届いている! 言葉の暴力による精神的苦痛、および美的独裁による王宮の秩序乱容……。これらについて弁明はあるか!」
最高判事が、カビの生えたような声で尋ねてきました。
私は、首筋のラインが最も美しく見える角度を保ったまま、優雅に扇を広げました。
「弁明? とんでもありませんわ。三行でこの茶番の感想を述べさせていただきます」
「な、なんだと……っ!? ここは神聖な法廷だぞ!」
「一つ、判事様。その法服の襟が左に2ミリほど傾いていますわ。公平な審判を望むなら、まずご自身の中心線を整えるべきですの」
「二つ、私を告発したというその『匿名希望』の方。筆跡からにじみ出る卑屈な性格が、用紙の四隅から不快なオーラを放っていますわよ」
「三つ、要するに……美しさを維持するための私の『教育』を暴力と呼ぶなんて、怠惰な方々の甘えに過ぎませんわ。……以上ですの」
法廷内に、ざわめきが広がりました。
「黙れ! 貴女がマリア嬢を泣かせ、エドワード殿下を辺境へ追いやり、さらには隣国の王まで侮辱した事実は消せんのだ!」
告発側の代理人である、いかにも不健康そうな顔色をした貴族が声を張り上げました。
「あら。マリア様は自分自身の『あざとさ』に溺れて自滅されただけですし、殿下はご自身の『中身の空っぽさ』に見合う場所へ行かれただけですわ」
私は一歩、その貴族の方へ詰め寄りました。
「そして隣国の王は、私という『至高の審美眼』に出会えた幸運を噛み締めてお帰りになりました。……これのどこが『悪行』だと言うのかしら?」
「屁理屈を! 貴女の存在そのものが、我が国の伝統ある『淑女の奥ゆかしさ』を破壊しているのだ!」
その時、法廷の重厚な扉が開き、王太子の正装に身を包んだセシル様が入ってこられました。
その場にいた全員が、その圧倒的な「美の権威」に気圧されて跪きます。
「……セシル様。三行で、この裁判への介入理由を仰ってくださる?」
私は彼に向かって、いたずらっぽく微笑みました。
セシル様は、私を告発した貴族たちを冷徹な銀色の瞳で射抜くと、私の隣に並びました。
「一つ、私の婚約者が不在の間、執務室の花が活けられていなくて私の気分が酷く損なわれた」
「二つ、法廷の空気があまりに淀んでいて、ノノカの喉に悪いと判断した」
「三つ、……そして何より。私の王妃を『悪役』と呼ぶ者は、すなわち私に喧嘩を売っていると見なす」
セシル様の、低く響くような宣言。
判事も貴族たちも、まるで氷を流し込まれたかのように震え上がりました。
「バ、バレンシア王太子殿下……! しかし、法は平等に……」
「法は美しさを守るためにあるのではないか? ノノカがこの国に来てから、犯罪率は下がり、街は清潔になり、国民の顔には生気が戻った。……これを悪行と呼ぶなら、我々全員が悪人だ」
セシル様は私の腰を抱き寄せ、判事に向かって不敵に微笑みました。
「……判事。三行で判決を下せ。私の時間がもったいない」
判事は額の汗を拭い、震える手で木槌を握りました。
「……は、はい! 判決を言い渡します!」
「一つ、ノノカ・フォン・アスタールに対する全ての容疑は冤罪である!」
「二つ、むしろ彼女の活動は『国家美化功労賞』に値するものである!」
「三つ、この裁判を企てた者たちは、後ほど王太子府にて徹底的な『美的再教育』を受けること! ……以上、閉廷!」
「あら。最後の一行、最高にワクワクいたしますわね、セシル様」
私は、腰を抜かして震えている告発者たちを見つめ、優雅にカーテシーを披露しました。
「皆様。私の再教育は、エステの三倍は厳しいですわよ? せいぜい、肌を荒らさない程度に覚悟しておいてくださいな」
法廷を去る私たちの背中に、もはや反論する者は一人もいませんでした。
「……ノノカ。貴様は本当に、裁判所すら自分のステージに変えてしまうのだな」
「あら。主役が一番美しくなければ、物語として成立しませんもの。……あ、セシル様。今のその『守り切ったぜ』という満足げなドヤ顔。……170点ですわ!」
「……ドヤ顔と言うな。私は真剣だったんだぞ」
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