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「……ノノカ。頼むから、もう一度だけ鏡を見てくれないか。私自身、自分の姿が信じられないんだ」
控え室のカーテン越しに聞こえるセシル様の声は、どこか震えていました。
伝説の職人ムンク様が、自らの命を削るようにして織り上げた白銀の正装。それをお召しになったセシル様が、ついに私の前に姿を現しました。
「…………」
「……ノノカ? やはり、おかしなところがあるか? 光を反射しすぎて、目が痛いのではないか?」
おかしいどころではありませんわ。三行で今の私の状態をご報告しますわね。
一つ、私の心臓が、王城の鐘よりも大きな音で乱れ太鼓を叩いていますわ。
二つ、あまりの神々しさに、私の網膜が「これ以上の光は処理できません」と、嬉しい悲鳴を上げて白旗を振っていますの。
三つ、要するに……セシル様。今のあなた、控えめに言って5000兆点ですわ。……全人類が跪くレベルですわよ。
「……5000兆点か。相変わらず、貴様の採点基準は極端だな。だが、貴様がそう言ってくれるなら安心した」
セシル様は、月の光をそのまま布にしたような、流動的な輝きを纏って立っていました。一歩歩くたびに、周囲の空気が清められていくような錯覚さえ覚えます。
私たちはそのまま、王都のメインストリートをパレードし、大聖堂へと向かいました。
沿道に詰めかけた国民たちの反応は、凄まじいものでした。歓声が上がるかと思いきや、セシル様が姿を見せた瞬間、数万人規模の「静寂」が訪れたのです。
あまりの美しさに、人間は叫ぶことすら忘れるようですわね。
「……ノノカ、皆が黙り込んでいるが。やはり、私がおかしな格好をしているのでは?」
「とんでもありませんわ。皆様、あなたの美しさに魂を吸い取られて、一時的な仮死状態に陥っているだけですわよ」
私たちは無事に大聖堂の祭壇へと辿り着きました。誓いの言葉を交わそうとした、その時です。
「そこまでだ! この『美の独裁者』どもめ! 私を忘れてもらっては困るな!」
大聖堂の天井付近のステンドグラスを突き破り、黒いマントを翻した男が降ってきました。
ボサボサの髪、泥だらけの顔、そして狂気に満ちた瞳。修道院を脱走したエドワード殿下ですわ。
「エドワード様……。三行で、あなたのその『演出』にダメ出しをしますわね」
「だ、ダメ出しだと!? 私は今、この魔導爆弾を持って貴様らと心中しに来たのだぞ!」
エドワード殿下の手には、不気味な赤色に明滅する魔導爆弾が握られていました。
「一つ、ステンドグラスを割っての登場なんて、掃除の手間を考えない最低の自己満足ですわ」
「二つ、その爆弾の色。今日の私のドレスのカラーと、致命的に致命的に、色が合っていませんのよ!」
「三つ、何より。……その『泥棒のような薄汚い格好』で、セシル様の神々しい結婚式を汚すなんて。……あなたの美的センス、地の果てまで腐り落ちていますわね」
「……黙れ、黙れ! 美しさなど何になる! 私は全てを失ったのだ! 爆発しろ、全て灰になれ!」
エドワード殿下が爆弾のスイッチを押し込もうとした、その瞬間。
セシル様が、ただ一歩、前に出ました。
「……エドワード。三行で、貴様に引導を渡してやろう」
「な、なんだと……っ!?」
「一つ、貴様の絶望には、一欠片の気品もない」
「二つ、貴様の憎しみは、私の愛を揺るがすにはあまりに矮小だ」
「三つ、……そして。今の私の衣装は、爆風で汚すには、あまりに『高価』すぎる」
セシル様が指を鳴らした瞬間、ムンク様が織り上げた布から、目も眩むような白銀の光が放たれました。
それは伝説の布に込められた「美の守護魔法」。爆弾から噴き出そうとした黒い煙は、その光に飲み込まれ、キラキラと輝く「ただの花吹雪」へと浄化されてしまったのです。
「な、な……なんだ、これは……!? 爆弾が、花に……!?」
「あら、素敵な演出ですわね。セシル様の美しさが、破壊衝動すら『芸術』に変えてしまいましたわ」
私は膝をついて呆然とするエドワード殿下を見下ろし、優雅に扇を広げました。
「近衛兵の皆様。この『美しくない不審者』を連れて行って。今度こそ、徹底的に鏡のない部屋で、自分の心の醜さと向き合わせて差し上げなさい」
エドワード殿下は、花吹雪の中に埋もれながら、引きずられていきました。
静寂が戻った大聖堂。私はセシル様の手を、そっと握りしめました。
「……お疲れ様ですわ、セシル様。爆弾を花に変えるなんて、2億点満点ですわ!」
「……衣装の力だと言っただろう。……さて、ノノカ。邪魔者は消えた。続きをしよう」
セシル様は私の腰を引き寄せ、誓いのキスを。
王都中に、平和と美しさの勝利を告げる鐘の音が、いつまでも響き渡っていました。
控え室のカーテン越しに聞こえるセシル様の声は、どこか震えていました。
伝説の職人ムンク様が、自らの命を削るようにして織り上げた白銀の正装。それをお召しになったセシル様が、ついに私の前に姿を現しました。
「…………」
「……ノノカ? やはり、おかしなところがあるか? 光を反射しすぎて、目が痛いのではないか?」
おかしいどころではありませんわ。三行で今の私の状態をご報告しますわね。
一つ、私の心臓が、王城の鐘よりも大きな音で乱れ太鼓を叩いていますわ。
二つ、あまりの神々しさに、私の網膜が「これ以上の光は処理できません」と、嬉しい悲鳴を上げて白旗を振っていますの。
三つ、要するに……セシル様。今のあなた、控えめに言って5000兆点ですわ。……全人類が跪くレベルですわよ。
「……5000兆点か。相変わらず、貴様の採点基準は極端だな。だが、貴様がそう言ってくれるなら安心した」
セシル様は、月の光をそのまま布にしたような、流動的な輝きを纏って立っていました。一歩歩くたびに、周囲の空気が清められていくような錯覚さえ覚えます。
私たちはそのまま、王都のメインストリートをパレードし、大聖堂へと向かいました。
沿道に詰めかけた国民たちの反応は、凄まじいものでした。歓声が上がるかと思いきや、セシル様が姿を見せた瞬間、数万人規模の「静寂」が訪れたのです。
あまりの美しさに、人間は叫ぶことすら忘れるようですわね。
「……ノノカ、皆が黙り込んでいるが。やはり、私がおかしな格好をしているのでは?」
「とんでもありませんわ。皆様、あなたの美しさに魂を吸い取られて、一時的な仮死状態に陥っているだけですわよ」
私たちは無事に大聖堂の祭壇へと辿り着きました。誓いの言葉を交わそうとした、その時です。
「そこまでだ! この『美の独裁者』どもめ! 私を忘れてもらっては困るな!」
大聖堂の天井付近のステンドグラスを突き破り、黒いマントを翻した男が降ってきました。
ボサボサの髪、泥だらけの顔、そして狂気に満ちた瞳。修道院を脱走したエドワード殿下ですわ。
「エドワード様……。三行で、あなたのその『演出』にダメ出しをしますわね」
「だ、ダメ出しだと!? 私は今、この魔導爆弾を持って貴様らと心中しに来たのだぞ!」
エドワード殿下の手には、不気味な赤色に明滅する魔導爆弾が握られていました。
「一つ、ステンドグラスを割っての登場なんて、掃除の手間を考えない最低の自己満足ですわ」
「二つ、その爆弾の色。今日の私のドレスのカラーと、致命的に致命的に、色が合っていませんのよ!」
「三つ、何より。……その『泥棒のような薄汚い格好』で、セシル様の神々しい結婚式を汚すなんて。……あなたの美的センス、地の果てまで腐り落ちていますわね」
「……黙れ、黙れ! 美しさなど何になる! 私は全てを失ったのだ! 爆発しろ、全て灰になれ!」
エドワード殿下が爆弾のスイッチを押し込もうとした、その瞬間。
セシル様が、ただ一歩、前に出ました。
「……エドワード。三行で、貴様に引導を渡してやろう」
「な、なんだと……っ!?」
「一つ、貴様の絶望には、一欠片の気品もない」
「二つ、貴様の憎しみは、私の愛を揺るがすにはあまりに矮小だ」
「三つ、……そして。今の私の衣装は、爆風で汚すには、あまりに『高価』すぎる」
セシル様が指を鳴らした瞬間、ムンク様が織り上げた布から、目も眩むような白銀の光が放たれました。
それは伝説の布に込められた「美の守護魔法」。爆弾から噴き出そうとした黒い煙は、その光に飲み込まれ、キラキラと輝く「ただの花吹雪」へと浄化されてしまったのです。
「な、な……なんだ、これは……!? 爆弾が、花に……!?」
「あら、素敵な演出ですわね。セシル様の美しさが、破壊衝動すら『芸術』に変えてしまいましたわ」
私は膝をついて呆然とするエドワード殿下を見下ろし、優雅に扇を広げました。
「近衛兵の皆様。この『美しくない不審者』を連れて行って。今度こそ、徹底的に鏡のない部屋で、自分の心の醜さと向き合わせて差し上げなさい」
エドワード殿下は、花吹雪の中に埋もれながら、引きずられていきました。
静寂が戻った大聖堂。私はセシル様の手を、そっと握りしめました。
「……お疲れ様ですわ、セシル様。爆弾を花に変えるなんて、2億点満点ですわ!」
「……衣装の力だと言っただろう。……さて、ノノカ。邪魔者は消えた。続きをしよう」
セシル様は私の腰を引き寄せ、誓いのキスを。
王都中に、平和と美しさの勝利を告げる鐘の音が、いつまでも響き渡っていました。
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