悪役令嬢は婚約破棄を待っていた!

ちゃっぴー

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「はい、次! 西の塔の傾き修正! 『ジャッキアップ・ゴーレム』起動!」

ズズズズズ……!!

王都の中心で、地響きが鳴り響く。

「うおぉぉぉ!? 塔が! 塔が持ち上がったぞ!?」

「すげえ! 基礎工事が五分で終わった!」

見守る大工たちが腰を抜かす中、私は巨大なゴーレムを遠隔操作し、傾いていた石塔を物理的に持ち上げて、その隙間に『速乾性・超硬度コンクリート(ピンク色)』を流し込んだ。

「水平器確認。……よし、誤差ゼロミリ。完璧ね」

私はパンパンと手を払った。

王都に戻って一週間。
私の「大修理祭り」は、佳境を迎えていた。

当初、数年はかかると言われていた王都の復興作業だが、私の発明品(という名のチート道具)を投入した結果、驚異的なスピードで進んでいた。

「ユーミア様、あそこの跳ね橋が錆びついて動きません!」

「了解。『錆食いスライム(金属光沢仕上げ)』を散布して!」

「ユーミア様! 城壁の強度が足りません!」

「『強化ガラスコーティング剤』を塗って! ついでに落書き防止機能もつけたから!」

私は現場監督として、拡声器片手に指示を飛ばし続けていた。

その横で、アレクセイ様が遠い目をしている。

「……速い。速すぎる。王都の景色が、俺の知っているそれではなくなっていく」

「何を言ってるんですか。機能美こそ正義ですよ」

私は胸を張った。

今の王都は、劇的な進化を遂げていた。
壊れた石畳は『自動修復アスファルト』になり、暗かった路地裏には『人感センサー街灯』が設置され、下水道には『全自動浄化システム(ミナとギルバートの労働力で稼働中)』が完備された。

もはや中世風のファンタジー都市ではない。
魔法と科学が融合した、謎のハイテク都市だ。

「便利になるのはいいが……民衆が堕落しそうで怖いな」

「大丈夫ですよ。便利さの対価として、定期的なメンテナンス(私の懐にお金が入る仕組み)が必要ですから」

「……お前、商魂も逞しくなったな」

その時、王城から使いの騎士が走ってきた。

「ユーミア様! アレクセイ閣下! 国王陛下がお呼びです!」

***

「――よくぞやってくれた。余は感動しておる」

王城の謁見の間。
玉座に座る国王陛下は、ピカピカに磨き上げられた床(私が開発したお掃除ロボ『ルンバ君・改』の仕業)に自分の顔が映るのを見て、満足げに頷いた。

「崩壊寸前だった我が国が、たった一週間でここまで復興するとは。……ユーミア嬢、そなたは国宝だ」

「恐縮です。研究データを取らせていただいただけで」

私が頭を下げると、隣の王妃陛下(あの最強のオカン)が微笑んだ。

「謙遜なさらなくて結構よ。……地下の『発電施設』も順調のようですしね」

王妃様が床下を指差す。
この謁見の間の真下が、例の発電ルームだ。
耳をすませば、微かに『回せぇぇぇ!』『お尻叩かないでぇぇ!』という悲鳴が聞こえる気がするが、王族の皆様は華麗にスルーしている。

「さて、今日二人を呼んだのは他でもない」

国王陛下が姿勢を正した。

「此度の内乱の鎮圧、そして王都復興の功績を称え……来週末、城にて『戦勝祝賀舞踏会』を開催したいと思う」

「舞踏会、ですか」

私は少し眉をひそめた。

「はい。そこで、アレクセイとユーミア嬢の婚約を、正式に国内外へ発表するつもりだ」

「「っ!?」」

私とアレクセイ様が同時に顔を見合わせた。

「国一番の英雄と、稀代の天才魔導具師の結合だ。これほど国民を安心させるニュースはあるまい」

陛下はニカっと笑った。

「ユーミア嬢。かつて『悪役令嬢』と呼ばれたそなたが、今や国の救世主として讃えられる。……最高の舞台を用意してやるぞ。元婚約者(ギルバート)を見返す、これ以上ない機会だろう?」

(……なるほど。復讐の総仕上げ、というわけね)

普通の令嬢なら、「まあ素敵!」と目を輝かせる場面だろう。
だが、私はユーミア・ベルンシュタインだ。

「……面倒くさいですね」

「「「えっ」」」

陛下、王妃様、そしてアレクセイ様の声が重なった。

「め、面倒くさい、だと?」

「はい。舞踏会って、ただ立ってニコニコして、お世辞を言い合うだけじゃないですか。非生産的です。その時間があれば、新しい『自動芋掘り機』の開発がしたいんですが」

「い、芋……?」

国王陛下が絶句した。

「それに、ドレスも窮屈で嫌いです。コルセットで内臓が圧迫されると、脳への酸素供給量が減って計算効率が落ちるんです」

私は淡々と断った。
正直、社交界デビュー(第6話)で懲りているのだ。

「ま、待てユーミア」

アレクセイ様が慌てて私の肩を掴んだ。

「陛下の御前だぞ。それに……お前、俺との婚約発表が嫌なのか?」

「え?」

アレクセイ様が、少し傷ついたような、不安そうな瞳で私を見ている。

「俺は……お前と並んで、堂々と歩きたいと思っているんだが」

「……っ」

その言葉に、胸がトクンと鳴った。

(ずるい。この人、最近私の扱い方をわかってきているわ)

「い、嫌じゃありませんよ! ただ、その……効率が悪いと言っただけで……」

「なら、効率を良くすればいい」

アレクセイ様は私の耳元で囁いた。

「舞踏会だぞ? 国中の貴族や、他国の使節も来る。……お前の『新作ドレス』をお披露目する、絶好の展示会(ショーケース)になるんじゃないか?」

「……!」

私はハッと顔を上げた。

「展示会……!」

その発想はなかった。
そうだ。ただ着飾るだけではない。
私が開発した「最新技術」を搭載したドレスを、公衆の面前でデモンストレーションするチャンスなのだ。

「なるほど……。光るドレス、空調付きドレス、あるいは『自動ダンス補正機能付きシューズ』……。夢が広がりますね!」

私の目に、マッドサイエンティストの炎が宿った。

「わかりました陛下! 謹んでお受けします! 当日は、歴史に残る『最高のショー』をお見せすることを約束します!」

「お、おう……。なんか目が怖いけど、期待しておるぞ」

陛下が若干引き気味に頷いた。

***

帰り道。

「……なあ、ユーミア」

アレクセイ様が、不安そうに私を見た。

「一応言っておくが、ドレスに『ミサイル』とか『火炎放射器』は積むなよ?」

「当たり前です。TPOはわきまえますよ」

私は手帳に猛スピードで設計図を書き込みながら答えた。

「今回のテーマは『優雅さと機能性の融合』です。……ふふふ、見ていてくださいアレクセイ様。あなたの婚約者が、世界で一番輝く(物理的に)夜にしてあげますから!」

「……『物理的に』という部分が最高に不安だが、まあいい」

アレクセイ様は諦めたように笑い、私の腰に手を回した。

「楽しみにしてる。……どんなお前でも、俺が一番近くで見ているから」

「……はい」

(もう、またそうやって甘いことを言う……)

私の心拍数が上がる。
このドキドキも、ドレスの動力源に使えないかしら。

こうして、私たちは「戦勝祝賀舞踏会」への準備に入った。
それは、かつて私を「悪役令嬢」と蔑んだ社交界への、最後にして最大のリベンジマッチとなるはずだった。

しかし。
私が開発した「ハイテク・ドレス」が、当日まさかの誤作動を起こし、舞踏会をダンスフロア(ディスコ)に変えてしまう未来が待っているとは、まだ誰も知らない。
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