悪役令嬢は婚約破棄を待っていた!

ちゃっぴー

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「……ユーミア。確認するが、そのドレスは安全なんだろうな?」

王城の大広間の扉の前。
アレクセイ様が、私の腰に手を回しながら、深刻な顔で囁いた。

今日の彼は、いつもの騎士服ではなく、純白の礼服に身を包んでいる。
銀髪をオールバックに流し、その美貌は直視できないほど眩しい。
まさに「物語の王子様」そのものだ。(隣にいるのが悪役令嬢でなければ)

対する私は、徹夜で完成させた最高傑作を身に纏っていた。

「もちろんです。安全性テスト(マネキンを使用)はクリアしました」

私は自信満々に胸を張った。

純白のシルクに、無数のレースとフリル。
一見すると、清楚で可憐なデザインのドレスだ。
だが、その生地の裏には、髪の毛より細いミスリル銀糸が張り巡らされ、コルセットの内部には超小型魔導回路が組み込まれている。

「名付けて『全自動舞踏会制圧用・可変式ドレス・白鳥(スワン)Mk-II』です!」

「名前が兵器なんだよ……」

「大丈夫です。今日の私は『ダンスが苦手な令嬢』ではありません。物理演算プロセッサが最適なステップを弾き出す『ダンスの天才』ですから!」

「……頼むから、俺の足を踏むなよ」

ギイィィィ……。

重厚な扉が開かれた。
ファンファーレが鳴り響く。

『ヴォルフ辺境伯、アレクセイ閣下! ならびにベルンシュタイン公爵令嬢、ユーミア様のご入場です!』

「行きますよ、アレクセイ様。……私たちの晴れ舞台です」

「ああ、行くか」

私たちは腕を組み、光り輝くシャンデリアの下へと歩み出した。

***

会場に入った瞬間、数百の視線が私たちに突き刺さった。

好奇心、羨望、そして畏怖。
かつては「悪役令嬢」として蔑まれていた私が、今や国の英雄の婚約者として、堂々と凱旋したのだ。

「まあ、あれがユーミア様……?」

「なんて美しい……。以前のような陰気さは微塵もありませんわ」

「隣のアレクセイ様とお似合いだこと……」

ひそひそ話が聞こえてくる。
ふふん、チョロいものね。
今日の私は『美肌フィルター(光の屈折率を調整してシワを飛ばす魔法)』を展開しているから、肌の輝きが違うのよ。

「ベルンシュタイン嬢! 先日は我が家のトイレを直していただき感謝する!」

「私の義足も調子がいいぞ!」

貴族たちが次々と挨拶に来る。
もはや社交界というより、修理業者への感謝祭だ。

「ええ、ええ。アフターサービスも万全ですので」

私は愛想笑い(表情筋アシスト機能付き)を浮かべて対応した。

「……順調だな」

アレクセイ様が小声で言う。

「今のところは、な」

「油断しないでください。メインイベントはこれからです」

楽団の指揮者がタクトを振った。
優雅なワルツの調べが流れ始める。
ファーストダンスの時間だ。

「踊っていただけますか、マイ・レディ?」

アレクセイ様が恭しく手を差し出す。

「喜んで」

私はその手を取り、ダンスフロアの中央へと進み出た。
周囲の貴族たちが場所を空け、私たちを見守る。

(さあ、ここからが本番よ! ダンススキル・ゼロの私が、アレクセイ様についていくには、科学の力が必要不可欠!)

私はドレスの裾に隠されたスイッチを、足の親指でカチリと押した。

『システム起動。ダンスモード:ワルツ。シンクロ率100%』

脳内に電子音が響く。
ドレスの関節部分に仕込まれた形状記憶ワイヤーが収縮し、私の体を強制的に動かし始める。

「……っ!」

私の背筋が、定規が入ったようにピンと伸びた。
足が勝手にステップを踏む。

「お、おい。力が強いぞ」

組んでいるアレクセイ様が驚く。

「委ねてください、アレクセイ様! 自動操縦(オートパイロット)です!」

タン、タタッ、ターン。

完璧だ。
私の体は、教科書通りの美しいワルツを刻んでいた。
ターンも鋭く、姿勢も崩れない。

「すごい……! ユーミア様があんなにお上手に!」

「まるで妖精のようだわ!」

周囲から感嘆の声が上がる。
アレクセイ様も、最初は戸惑っていたが、持ち前の運動神経ですぐに合わせてくれた。

「……悪くないな。人間味がなさすぎてロボットと踊っている気分だが」

「褒め言葉として受け取ります! では、少しテンポを上げましょうか!」

私は調子に乗った。
このままではただの「上手なダンス」で終わってしまう。
ユーミア・ベルンシュタインの発明品は、常に予想を超えなければならない。

「オプション機能、開放! 『演出モード・キラキラ』!」

ポチッ。

その瞬間。

ブォン!!

私のドレス全体が、発光した。

「うおっ!?」

アレクセイ様が眩しさに目を細める。

ただ光っただけではない。
ドレスに織り込まれたミスリル銀糸が、七色に変化しながら明滅を始めたのだ。

赤、青、緑、黄色、紫。
いわゆる『ゲーミング・カラー』である。

「な、なんだあれは!?」

「ユーミア様が……光っている!?」

「後光か!? 女神の後光なのか!?」

会場がざわめく。

「見てくださいアレクセイ様! 私の感情に合わせて色が変わり、会場のムードを盛り上げます!」

「盛り上げるというか、目がチカチカするんだが!」

「さらに! 回転速度アップ!」

私はワルツのターンに合わせて、ドレスに内蔵された『ジャイロ・スタビライザー』の出力を上げた。

ギュイイイイーン!!

「わわっ!?」

私の回転速度が、人間の限界を超えた。
コマのように高速回転しながら、フロアを移動する。

「速い! 目が回る!」

「振り落とされるなよ!」

アレクセイ様が、遠心力に耐えながら必死に私を支える。
普通のパートナーなら吹き飛ばされているところだが、さすがは騎士団長だ。

「ユーミア! やりすぎだ! 止まれ!」

「止まれません! 慣性モーメントが最大値に達しました! このままサビまで突っ走ります!」

『警告:冷却ファン作動』

シュゴオオオオオオ!!

ドレスの背中部分から、排気のための蒸気が噴き出した。
光り輝き、高速回転し、背中からスモークを吐き出す私。
もはや人間ではない。エレクトリカルなパレードだ。

「なんだあれは……新しい舞踏なのか?」

「きっと『聖女の舞』ですわ!」

「ありがたや……拝んでおこう」

なぜか貴族たちが手を合わせて拝み始めた。
光るものは尊いという本能だろうか。

「くそっ、どうにでもなれ!」

アレクセイ様は覚悟を決めたようだ。
私の高速回転に合わせて、彼自身も超人的なステップで追随し始めた。

二人の動きは残像となり、光の帯となってフロアを描く。
楽団も、私たちの異常なテンポに引っ張られ、優雅なワルツがいつの間にか高速のトランス・ミュージックのような演奏になっていた。

ズン! ズン! ズン!

「はーっはッは! 最高ですアレクセイ様! 私たちが夜会を支配しています!」

「早く曲終われぇぇぇ!!」

***

ジャジャーン!

曲が終わると同時に、私のドレスのワイヤーが急停止した。
ピタリ、と私たちは決めポーズで静止した。

私のドレスからは、余熱で白い煙が上がっている。
アレクセイ様は、髪が少し乱れ、肩で息をしていた。

シーン……。

会場が静寂に包まれる。
全員が、口をポカンと開けて私たちを見ていた。

(あ、やりすぎたかしら? ドン引き?)

数秒の沈黙の後。

ワァァァァァァァッ!!

割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。

「ブラボー!!」

「素晴らしい! なんて情熱的なダンスだ!」

「光と煙の演出……あれぞ最先端の芸術だわ!」

「感動した! 涙が出た!(目がチカチカして)」

大成功だ。
スタンディングオベーションである。
国王陛下も、玉座から身を乗り出して拍手している。

「……はぁ、はぁ。……信じられん」

アレクセイ様が、力なく笑った。

「これだけ無茶苦茶をやって……称賛されるとはな」

「計算通りですよ。人は理解できないものを見ると、とりあえず感動するものなんです」

私はVサインをした。

「……まあいい。お前が満足なら」

アレクセイ様は、私の手を取り、甲にキスを落とした。

「輝いていたぞ、ユーミア。(物理的に)」

「ありがとうございます、アレクセイ様。あなたも最高のリードでした」

こうして、私たちのファーストダンスは、王国の社交界史に「光の伝説」として刻まれることになった。

***

舞踏会の後。
バルコニーで涼んでいると、一人の初老の男性が近づいてきた。

「……久しぶりだな、ユーミア」

「!」

私は振り返った。
そこに立っていたのは、厳しい顔をした白髪の紳士。
私の実父、ベルンシュタイン公爵だった。

かつて私を「能無し」と呼び、勘当状を叩きつけた父。
今更なんの用だろうか。

「……お久しぶりです、お父様。何か修理の依頼ですか? 見積もりは高いですよ」

私が冷たくあしらうと、父は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……いや。礼を言いに来た」

「礼?」

「王都の復興……そして、我が家の名誉を守ってくれたことだ」

父は不器用に視線を逸らした。

「お前が『悪役令嬢』として追放された後……私は、お前の部屋に残された研究ノートを見た」

「えっ、見たんですか!? 恥ずかしいポエムとか書いてあったかも……!」

「……そこには、この国の未来を憂い、民の生活を豊かにしようとする、膨大なアイデアが記されていた」

父の声が震えていた。

「私は……お前の才能を、何も見ていなかった。型にはめようとして、宝石を石ころ扱いしていたのだな」

父は私に向き直り、深く頭を下げた。

「すまなかった、ユーミア。……勘当は取り消す。戻ってきてはくれまいか?」

「……」

私は少し驚いた。
あの頑固な父が、頭を下げるなんて。

でも。

「お断りします」

私はきっぱりと言った。

「え?」

「家には戻りません。だって……」

私はバルコニーの手すりにもたれ、隣に来たアレクセイ様を見上げた。

「私の居場所は、もう見つけましたから」

「……そうか」

父は寂しげに、しかしどこか安心したように微笑んだ。

「ヴォルフ辺境伯。……娘を頼む」

「はい。……私の命に代えても」

アレクセイ様が力強く答える。

父は背を向けて去っていった。
その背中は、以前よりも少し小さく、そして優しく見えた。

「……よかったのか?」

アレクセイ様が尋ねる。

「はい。これでいいんです。……それに、実家に戻ったら、また『爆発させるな』って怒られますし」

「俺も毎日怒ってるんだが?」

「アレクセイ様の怒り方は優しいですから」

「……調子のいいやつめ」

夜風が心地よい。
王都の空には、復興を祝う花火が上がり続けている。
私の作った花火だ。

「ねえ、アレクセイ様」

「なんだ」

「結婚式、どうしましょうか」

「……ドレスが光らないなら、なんでもいい」

「じゃあ、空を飛びましょうか」

「は?」

「ロケット花火付きのゴンドラで入場するんです! ド派手ですよ!」

「却下だ!!」

私たちの騒がしい夜は、まだまだ終わらない。

これで王都編は一区切り。
次回からは、再び辺境へ戻り、ついに迎える「結婚式」への準備……という名の、新たなドタバタ実験の日々が始まる。
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