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「――さて、アレクセイ様。結婚式の準備、最優先事項に取り掛かりましょう」
王都から辺境に戻って数日後。
久々の我が家(研究所)で、私は机の上に「とある設計図」を広げた。
「最優先事項? 招待状の発送か? それとも料理のメニュー決めか?」
アレクセイ様が、執務の合間にコーヒーを飲みにやってくる。
彼もまた、王都での激務から解放され、どこかホッとした表情だ。
「いいえ。……『拘束具』の作成です」
「は?」
アレクセイ様がカップを取り落としそうになった。
「訂正します。『結婚指輪』です。世間一般では、これを互いの指に嵌めることで『契約の永続性』と『所有権の主張』を行うと聞いています」
「言い方が怖いな! 愛の誓いと言え、愛の誓いと!」
「同じことです。で、市販の指輪カタログを見たんですが……どれも強度が足りません」
私はカタログをパラパラと捲り、バサッとゴミ箱に捨てた。
「プラチナ? ゴールド? あんな柔らかい金属、実験中にちょっとプレス機に挟まれただけでひしゃげますよ。論外です」
「普通の貴族令嬢は、指輪をしたままプレス機に挟まれないんだよ」
「というわけで、作ります! 世界一硬くて、多機能な指輪を!」
私は白衣のポケットから、ゴロリと「黒い石塊」を取り出した。
机がミシミシと悲鳴を上げる。
拳大の大きさだが、異常に重い。
「……なんだそれは」
「先日、裏山に落ちてきた『隕石』です」
「隕石!?」
「成分分析の結果、未知の宇宙金属が含まれていました。ダイヤモンドの十倍の硬度があり、魔力伝導率はオリハルコンを超えます。……これぞ、私たちの愛の結晶にふさわしい素材!」
「お前の愛は宇宙由来なのか……」
アレクセイ様は遠い目をした。
「で、これをどうするんだ?」
「削り出して指輪にします。……ただし、普通の炉では溶けません。なので」
私は壁のスイッチを押した。
ウィィィン……ガシャン!
研究所の奥から、巨大な「レーザー溶断機」と「魔力プレスハンマー(五トン)」が出現した。
「ここからは『愛の共同作業』です、アレクセイ様! 私がレーザーで加熱しますから、あなたはハンマーで叩いて延ばしてください!」
「指輪作りって、こんな製鉄所みたいな光景だったか……?」
***
カン! カン! ドォォォォン!!
辺境の研究所に、鍛冶屋というよりは戦争のような音が響き渡る。
「もっと熱く! 愛の温度は三千度です!」
「熱いわ! 前髪が焦げる!」
「アレクセイ様、腰が入っていません! 親の仇のように叩いて!」
「結婚指輪だぞ!? なんで憎しみを込めなきゃいかんのだ!」
汗だくになりながら、私たちは隕石と格闘した。
アレクセイ様の剣技で鍛えられた正確無比なハンマー捌きと、私の精密な魔力制御。
二人の呼吸は(文句を言い合いながらも)完璧にシンクロしていた。
「よし、不純物が抜けました! 今です、冷却!」
ジュワァァァァァァ!!
液体窒素のプールに、赤熱した金属を放り込む。
猛烈な白煙が上がり、視界が真っ白になる。
「……できたか?」
「ええ。完璧な仕上がりです」
煙が晴れると、そこには二つの銀色の輪が輝いていた。
見た目はシンプルだ。
だが、その存在感は異常だった。
光を吸い込むような深みのある銀色。表面には、微細な魔力回路が幾何学模様として刻まれている。
「……ふぅ。やっと終わったか」
アレクセイ様が額の汗を拭う。
「見た目は意外と普通だな。これなら式で着けても恥ずかしくない」
「ふふふ、甘いですねアレクセイ様。見た目は普通でも、中身はハイテクの塊ですよ」
私はピンセットで指輪をつまみ上げた。
「機能解説その一! 『自動サイズ調整機能』! 指がむくんでも痩せても、ナノマシンが形状を変化させて常にジャストフィットします!」
「それは便利だな」
「機能その二! 『バイタル・モニタリング』! お互いの心拍数、体温、血圧を常時監視し、異常があれば即座にパートナーに通知が行きます!」
「……監視されている気分だが、まあ健康管理にはいいか」
「そして機能その三! これが目玉です!」
私は指輪を掲げた。
「『緊急蘇生(AED)機能』!!」
「は?」
「もしパートナーの心臓が止まった場合、指輪から最大十万ボルトの電流が流れ、強制的に心臓を再起動させます!」
「殺す気か!!」
アレクセイ様が叫んだ。
「十万ボルトって黒焦げになるぞ!?」
「死ぬよりマシでしょう? これで私たちは、文字通り『死が二人を分かつまで(いや、分かたせませんけど)』一緒です!」
「愛が重い……。そして物理的に痛そうだ……」
「さあ、着けてみてください! サイズ合わせの必要はありませんから!」
私はアレクセイ様の左手を取り、強引に指輪を嵌めた。
シュンッ。
指輪が微かに駆動音を立て、アレクセイ様の薬指に吸い付くように収まった。
「……お」
アレクセイ様が、不思議そうに指輪を見つめた。
「どうですか?」
「……悪くない。重さも、肌触りも。……まるで体の一部になったみたいだ」
彼は指輪を撫で、そして優しく微笑んだ。
「ありがとう、ユーミア。……一生、外さないよ」
「ええ、外せませんよ」
「え?」
「機能その四、『ロック機能』を説明し忘れました。一度嵌めると、専用の解除コード(愛の言葉)を叫ばない限り、物理的に外れません」
「お前なぁぁぁぁ!!」
アレクセイ様が指輪を引っ張るが、びくともしない。
「ちなみに無理に外そうとすると、防衛機能が働いて指に電流が流れます」
バチッ!
「痛っ!?」
「あ、浮気防止機能も兼ねてますので。他の女性と手をつないだりすると、高圧電流でお仕置きされます」
「呪いの装備じゃないか!!」
アレクセイ様は頭を抱えた。
「……はぁ。わかった、降参だ。一生お前の尻に敷かれてやるよ」
「あら、人聞きが悪い。共同研究者(パートナー)として対等ですよ」
私は自分の指にも指輪を嵌めた。
ひやりとした金属の感触。
でも、すぐに体温に馴染み、じんわりと温かくなっていく。
(……これが、結婚指輪……)
今まで数々の魔導具を作ってきたけれど、これほど「意味」のあるものを作ったのは初めてかもしれない。
左手の薬指を見るたびに、アレクセイ様の顔が浮かぶ。
心拍数モニターを見なくてもわかる。
今、私の心臓は、壊れそうなくらい早く動いている。
「……似合ってるぞ、ユーミア」
アレクセイ様が、私の左手を取った。
「お前の作った、世界一頑丈で、世界一重い指輪だ。……俺たちの絆そのものだな」
「……はい」
私は素直に頷いた。
「絶対に壊れませんから。……私の愛も、この指輪くらい頑丈ですから」
「知ってる」
彼は私の指先に、口づけを落とした。
「……愛してる」
ドクンッ!!
その瞬間。
二人の指輪が、カッと赤く発光した。
『ピピピッ! 心拍数急上昇! 興奮状態を検知! AED充電開始!』
「わわっ!? 待って、充電しないで! ただの照れだから!」
「ユーミア! 指がビリビリするぞ! 愛の言葉に反応したのか!?」
「誤作動です! 閾値設定をミスりました! 『愛してる』が『心停止寸前』として判定されてます!」
「どんな欠陥品だ!」
『放電まで、3、2……』
「逃げてアレクセイ様! 離れて!」
「外れないんだよぉぉぉ!!」
バチバチバチィィィン!!
「「ぎゃあああああああ!!」」
研究所の窓ガラスが、二人の悲鳴と衝撃波で割れ飛んだ。
***
翌日。
私たちは髪をチリチリに焦がした状態で、式場の下見に向かった。
「……ユーミア」
「はい」
「式の誓いのキスの時、感電しないように対策を頼む」
「……絶縁体リップクリームを開発します」
指輪は完成した。
あとは式を挙げるだけだ。
だが、その「結婚式」自体にも、私の魔改造の手が伸びようとしていた。
普通の結婚式?
そんな退屈なもの、私が許すわけがない。
目指すは「列席者の度肝を抜く、エンターテインメント・ウェディング」だ。
王都から辺境に戻って数日後。
久々の我が家(研究所)で、私は机の上に「とある設計図」を広げた。
「最優先事項? 招待状の発送か? それとも料理のメニュー決めか?」
アレクセイ様が、執務の合間にコーヒーを飲みにやってくる。
彼もまた、王都での激務から解放され、どこかホッとした表情だ。
「いいえ。……『拘束具』の作成です」
「は?」
アレクセイ様がカップを取り落としそうになった。
「訂正します。『結婚指輪』です。世間一般では、これを互いの指に嵌めることで『契約の永続性』と『所有権の主張』を行うと聞いています」
「言い方が怖いな! 愛の誓いと言え、愛の誓いと!」
「同じことです。で、市販の指輪カタログを見たんですが……どれも強度が足りません」
私はカタログをパラパラと捲り、バサッとゴミ箱に捨てた。
「プラチナ? ゴールド? あんな柔らかい金属、実験中にちょっとプレス機に挟まれただけでひしゃげますよ。論外です」
「普通の貴族令嬢は、指輪をしたままプレス機に挟まれないんだよ」
「というわけで、作ります! 世界一硬くて、多機能な指輪を!」
私は白衣のポケットから、ゴロリと「黒い石塊」を取り出した。
机がミシミシと悲鳴を上げる。
拳大の大きさだが、異常に重い。
「……なんだそれは」
「先日、裏山に落ちてきた『隕石』です」
「隕石!?」
「成分分析の結果、未知の宇宙金属が含まれていました。ダイヤモンドの十倍の硬度があり、魔力伝導率はオリハルコンを超えます。……これぞ、私たちの愛の結晶にふさわしい素材!」
「お前の愛は宇宙由来なのか……」
アレクセイ様は遠い目をした。
「で、これをどうするんだ?」
「削り出して指輪にします。……ただし、普通の炉では溶けません。なので」
私は壁のスイッチを押した。
ウィィィン……ガシャン!
研究所の奥から、巨大な「レーザー溶断機」と「魔力プレスハンマー(五トン)」が出現した。
「ここからは『愛の共同作業』です、アレクセイ様! 私がレーザーで加熱しますから、あなたはハンマーで叩いて延ばしてください!」
「指輪作りって、こんな製鉄所みたいな光景だったか……?」
***
カン! カン! ドォォォォン!!
辺境の研究所に、鍛冶屋というよりは戦争のような音が響き渡る。
「もっと熱く! 愛の温度は三千度です!」
「熱いわ! 前髪が焦げる!」
「アレクセイ様、腰が入っていません! 親の仇のように叩いて!」
「結婚指輪だぞ!? なんで憎しみを込めなきゃいかんのだ!」
汗だくになりながら、私たちは隕石と格闘した。
アレクセイ様の剣技で鍛えられた正確無比なハンマー捌きと、私の精密な魔力制御。
二人の呼吸は(文句を言い合いながらも)完璧にシンクロしていた。
「よし、不純物が抜けました! 今です、冷却!」
ジュワァァァァァァ!!
液体窒素のプールに、赤熱した金属を放り込む。
猛烈な白煙が上がり、視界が真っ白になる。
「……できたか?」
「ええ。完璧な仕上がりです」
煙が晴れると、そこには二つの銀色の輪が輝いていた。
見た目はシンプルだ。
だが、その存在感は異常だった。
光を吸い込むような深みのある銀色。表面には、微細な魔力回路が幾何学模様として刻まれている。
「……ふぅ。やっと終わったか」
アレクセイ様が額の汗を拭う。
「見た目は意外と普通だな。これなら式で着けても恥ずかしくない」
「ふふふ、甘いですねアレクセイ様。見た目は普通でも、中身はハイテクの塊ですよ」
私はピンセットで指輪をつまみ上げた。
「機能解説その一! 『自動サイズ調整機能』! 指がむくんでも痩せても、ナノマシンが形状を変化させて常にジャストフィットします!」
「それは便利だな」
「機能その二! 『バイタル・モニタリング』! お互いの心拍数、体温、血圧を常時監視し、異常があれば即座にパートナーに通知が行きます!」
「……監視されている気分だが、まあ健康管理にはいいか」
「そして機能その三! これが目玉です!」
私は指輪を掲げた。
「『緊急蘇生(AED)機能』!!」
「は?」
「もしパートナーの心臓が止まった場合、指輪から最大十万ボルトの電流が流れ、強制的に心臓を再起動させます!」
「殺す気か!!」
アレクセイ様が叫んだ。
「十万ボルトって黒焦げになるぞ!?」
「死ぬよりマシでしょう? これで私たちは、文字通り『死が二人を分かつまで(いや、分かたせませんけど)』一緒です!」
「愛が重い……。そして物理的に痛そうだ……」
「さあ、着けてみてください! サイズ合わせの必要はありませんから!」
私はアレクセイ様の左手を取り、強引に指輪を嵌めた。
シュンッ。
指輪が微かに駆動音を立て、アレクセイ様の薬指に吸い付くように収まった。
「……お」
アレクセイ様が、不思議そうに指輪を見つめた。
「どうですか?」
「……悪くない。重さも、肌触りも。……まるで体の一部になったみたいだ」
彼は指輪を撫で、そして優しく微笑んだ。
「ありがとう、ユーミア。……一生、外さないよ」
「ええ、外せませんよ」
「え?」
「機能その四、『ロック機能』を説明し忘れました。一度嵌めると、専用の解除コード(愛の言葉)を叫ばない限り、物理的に外れません」
「お前なぁぁぁぁ!!」
アレクセイ様が指輪を引っ張るが、びくともしない。
「ちなみに無理に外そうとすると、防衛機能が働いて指に電流が流れます」
バチッ!
「痛っ!?」
「あ、浮気防止機能も兼ねてますので。他の女性と手をつないだりすると、高圧電流でお仕置きされます」
「呪いの装備じゃないか!!」
アレクセイ様は頭を抱えた。
「……はぁ。わかった、降参だ。一生お前の尻に敷かれてやるよ」
「あら、人聞きが悪い。共同研究者(パートナー)として対等ですよ」
私は自分の指にも指輪を嵌めた。
ひやりとした金属の感触。
でも、すぐに体温に馴染み、じんわりと温かくなっていく。
(……これが、結婚指輪……)
今まで数々の魔導具を作ってきたけれど、これほど「意味」のあるものを作ったのは初めてかもしれない。
左手の薬指を見るたびに、アレクセイ様の顔が浮かぶ。
心拍数モニターを見なくてもわかる。
今、私の心臓は、壊れそうなくらい早く動いている。
「……似合ってるぞ、ユーミア」
アレクセイ様が、私の左手を取った。
「お前の作った、世界一頑丈で、世界一重い指輪だ。……俺たちの絆そのものだな」
「……はい」
私は素直に頷いた。
「絶対に壊れませんから。……私の愛も、この指輪くらい頑丈ですから」
「知ってる」
彼は私の指先に、口づけを落とした。
「……愛してる」
ドクンッ!!
その瞬間。
二人の指輪が、カッと赤く発光した。
『ピピピッ! 心拍数急上昇! 興奮状態を検知! AED充電開始!』
「わわっ!? 待って、充電しないで! ただの照れだから!」
「ユーミア! 指がビリビリするぞ! 愛の言葉に反応したのか!?」
「誤作動です! 閾値設定をミスりました! 『愛してる』が『心停止寸前』として判定されてます!」
「どんな欠陥品だ!」
『放電まで、3、2……』
「逃げてアレクセイ様! 離れて!」
「外れないんだよぉぉぉ!!」
バチバチバチィィィン!!
「「ぎゃあああああああ!!」」
研究所の窓ガラスが、二人の悲鳴と衝撃波で割れ飛んだ。
***
翌日。
私たちは髪をチリチリに焦がした状態で、式場の下見に向かった。
「……ユーミア」
「はい」
「式の誓いのキスの時、感電しないように対策を頼む」
「……絶縁体リップクリームを開発します」
指輪は完成した。
あとは式を挙げるだけだ。
だが、その「結婚式」自体にも、私の魔改造の手が伸びようとしていた。
普通の結婚式?
そんな退屈なもの、私が許すわけがない。
目指すは「列席者の度肝を抜く、エンターテインメント・ウェディング」だ。
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