悪役令嬢は婚約破棄を待っていた!

ちゃっぴー

文字の大きさ
23 / 26

23

しおりを挟む
「――さて、アレクセイ様。結婚式の準備、最優先事項に取り掛かりましょう」

王都から辺境に戻って数日後。
久々の我が家(研究所)で、私は机の上に「とある設計図」を広げた。

「最優先事項? 招待状の発送か? それとも料理のメニュー決めか?」

アレクセイ様が、執務の合間にコーヒーを飲みにやってくる。
彼もまた、王都での激務から解放され、どこかホッとした表情だ。

「いいえ。……『拘束具』の作成です」

「は?」

アレクセイ様がカップを取り落としそうになった。

「訂正します。『結婚指輪』です。世間一般では、これを互いの指に嵌めることで『契約の永続性』と『所有権の主張』を行うと聞いています」

「言い方が怖いな! 愛の誓いと言え、愛の誓いと!」

「同じことです。で、市販の指輪カタログを見たんですが……どれも強度が足りません」

私はカタログをパラパラと捲り、バサッとゴミ箱に捨てた。

「プラチナ? ゴールド? あんな柔らかい金属、実験中にちょっとプレス機に挟まれただけでひしゃげますよ。論外です」

「普通の貴族令嬢は、指輪をしたままプレス機に挟まれないんだよ」

「というわけで、作ります! 世界一硬くて、多機能な指輪を!」

私は白衣のポケットから、ゴロリと「黒い石塊」を取り出した。

机がミシミシと悲鳴を上げる。
拳大の大きさだが、異常に重い。

「……なんだそれは」

「先日、裏山に落ちてきた『隕石』です」

「隕石!?」

「成分分析の結果、未知の宇宙金属が含まれていました。ダイヤモンドの十倍の硬度があり、魔力伝導率はオリハルコンを超えます。……これぞ、私たちの愛の結晶にふさわしい素材!」

「お前の愛は宇宙由来なのか……」

アレクセイ様は遠い目をした。

「で、これをどうするんだ?」

「削り出して指輪にします。……ただし、普通の炉では溶けません。なので」

私は壁のスイッチを押した。
ウィィィン……ガシャン!

研究所の奥から、巨大な「レーザー溶断機」と「魔力プレスハンマー(五トン)」が出現した。

「ここからは『愛の共同作業』です、アレクセイ様! 私がレーザーで加熱しますから、あなたはハンマーで叩いて延ばしてください!」

「指輪作りって、こんな製鉄所みたいな光景だったか……?」

***

カン! カン! ドォォォォン!!

辺境の研究所に、鍛冶屋というよりは戦争のような音が響き渡る。

「もっと熱く! 愛の温度は三千度です!」

「熱いわ! 前髪が焦げる!」

「アレクセイ様、腰が入っていません! 親の仇のように叩いて!」

「結婚指輪だぞ!? なんで憎しみを込めなきゃいかんのだ!」

汗だくになりながら、私たちは隕石と格闘した。
アレクセイ様の剣技で鍛えられた正確無比なハンマー捌きと、私の精密な魔力制御。
二人の呼吸は(文句を言い合いながらも)完璧にシンクロしていた。

「よし、不純物が抜けました! 今です、冷却!」

ジュワァァァァァァ!!

液体窒素のプールに、赤熱した金属を放り込む。
猛烈な白煙が上がり、視界が真っ白になる。

「……できたか?」

「ええ。完璧な仕上がりです」

煙が晴れると、そこには二つの銀色の輪が輝いていた。
見た目はシンプルだ。
だが、その存在感は異常だった。
光を吸い込むような深みのある銀色。表面には、微細な魔力回路が幾何学模様として刻まれている。

「……ふぅ。やっと終わったか」

アレクセイ様が額の汗を拭う。

「見た目は意外と普通だな。これなら式で着けても恥ずかしくない」

「ふふふ、甘いですねアレクセイ様。見た目は普通でも、中身はハイテクの塊ですよ」

私はピンセットで指輪をつまみ上げた。

「機能解説その一! 『自動サイズ調整機能』! 指がむくんでも痩せても、ナノマシンが形状を変化させて常にジャストフィットします!」

「それは便利だな」

「機能その二! 『バイタル・モニタリング』! お互いの心拍数、体温、血圧を常時監視し、異常があれば即座にパートナーに通知が行きます!」

「……監視されている気分だが、まあ健康管理にはいいか」

「そして機能その三! これが目玉です!」

私は指輪を掲げた。

「『緊急蘇生(AED)機能』!!」

「は?」

「もしパートナーの心臓が止まった場合、指輪から最大十万ボルトの電流が流れ、強制的に心臓を再起動させます!」

「殺す気か!!」

アレクセイ様が叫んだ。

「十万ボルトって黒焦げになるぞ!?」

「死ぬよりマシでしょう? これで私たちは、文字通り『死が二人を分かつまで(いや、分かたせませんけど)』一緒です!」

「愛が重い……。そして物理的に痛そうだ……」

「さあ、着けてみてください! サイズ合わせの必要はありませんから!」

私はアレクセイ様の左手を取り、強引に指輪を嵌めた。

シュンッ。

指輪が微かに駆動音を立て、アレクセイ様の薬指に吸い付くように収まった。

「……お」

アレクセイ様が、不思議そうに指輪を見つめた。

「どうですか?」

「……悪くない。重さも、肌触りも。……まるで体の一部になったみたいだ」

彼は指輪を撫で、そして優しく微笑んだ。

「ありがとう、ユーミア。……一生、外さないよ」

「ええ、外せませんよ」

「え?」

「機能その四、『ロック機能』を説明し忘れました。一度嵌めると、専用の解除コード(愛の言葉)を叫ばない限り、物理的に外れません」

「お前なぁぁぁぁ!!」

アレクセイ様が指輪を引っ張るが、びくともしない。

「ちなみに無理に外そうとすると、防衛機能が働いて指に電流が流れます」

バチッ!

「痛っ!?」

「あ、浮気防止機能も兼ねてますので。他の女性と手をつないだりすると、高圧電流でお仕置きされます」

「呪いの装備じゃないか!!」

アレクセイ様は頭を抱えた。

「……はぁ。わかった、降参だ。一生お前の尻に敷かれてやるよ」

「あら、人聞きが悪い。共同研究者(パートナー)として対等ですよ」

私は自分の指にも指輪を嵌めた。
ひやりとした金属の感触。
でも、すぐに体温に馴染み、じんわりと温かくなっていく。

(……これが、結婚指輪……)

今まで数々の魔導具を作ってきたけれど、これほど「意味」のあるものを作ったのは初めてかもしれない。
左手の薬指を見るたびに、アレクセイ様の顔が浮かぶ。
心拍数モニターを見なくてもわかる。
今、私の心臓は、壊れそうなくらい早く動いている。

「……似合ってるぞ、ユーミア」

アレクセイ様が、私の左手を取った。

「お前の作った、世界一頑丈で、世界一重い指輪だ。……俺たちの絆そのものだな」

「……はい」

私は素直に頷いた。

「絶対に壊れませんから。……私の愛も、この指輪くらい頑丈ですから」

「知ってる」

彼は私の指先に、口づけを落とした。

「……愛してる」

ドクンッ!!

その瞬間。
二人の指輪が、カッと赤く発光した。

『ピピピッ! 心拍数急上昇! 興奮状態を検知! AED充電開始!』

「わわっ!? 待って、充電しないで! ただの照れだから!」

「ユーミア! 指がビリビリするぞ! 愛の言葉に反応したのか!?」

「誤作動です! 閾値設定をミスりました! 『愛してる』が『心停止寸前』として判定されてます!」

「どんな欠陥品だ!」

『放電まで、3、2……』

「逃げてアレクセイ様! 離れて!」

「外れないんだよぉぉぉ!!」

バチバチバチィィィン!!

「「ぎゃあああああああ!!」」

研究所の窓ガラスが、二人の悲鳴と衝撃波で割れ飛んだ。

***

翌日。

私たちは髪をチリチリに焦がした状態で、式場の下見に向かった。

「……ユーミア」

「はい」

「式の誓いのキスの時、感電しないように対策を頼む」

「……絶縁体リップクリームを開発します」

指輪は完成した。
あとは式を挙げるだけだ。
だが、その「結婚式」自体にも、私の魔改造の手が伸びようとしていた。

普通の結婚式?
そんな退屈なもの、私が許すわけがない。
目指すは「列席者の度肝を抜く、エンターテインメント・ウェディング」だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

あなたにわたくしは相応しくないようです

らがまふぃん
恋愛
物語の中だけの話だと思っていました。 現実に起こることでしたのね。 ※本編六話+幕間一話と後日談一話の全八話、ゆるゆる話。何も考えずにお読みください。 HOTランキング入りをしまして、たくさんの方の目に触れる機会を得られました。たくさんのお気に入り登録など、本当にありがとうございました。 完結表示をしようとして、タグが入っていなかったことに気付きました。何となく今更な感じがありますが、タグ入れました。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

処理中です...