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「……おい、パール。そんなに牛の尻ばかり見つめてどうした」
牧場の柵に身を乗り出し、食い入るように牛群を観察している私に、ガイ様が背後から声をかけた。
今日のガイ様は、いつにも増して野性味あふれる格好をしている。
腕まくりされた太い二の腕に、浮き出た血管。
不覚にも「最高の筋繊維だわ……」と見惚れてしまいそうになるのを、私は懸命に堪えた。
「ガイ様、見てください。あの子ですわ。あの子の歩き方、まるで極上の霜降りが全身に行き渡っているような、優雅な揺れを感じませんか?」
「……歩き方でサシの入り方が分かるのかよ。お前、いよいよ人間を辞めてきてないか?」
「失礼ね。これは愛ですわ。慈しみ、育み、そして最後に最高の状態で胃に収める……これぞ至高の愛の形です」
私は真顔で断言した。
ガイ様は呆れたように鼻を鳴らしたが、そのまま隣に並んで柵に手をかけた。
「……なあ、パール。あんた、王都にいた頃は本当にそんなんじゃなかったんだろ?」
「ええ。サラダのドレッシングを数滴減らしては、体重計の前で絶望するような、つまらない日々を送っていましたわ」
「……何が楽しくてそんなことをしてたんだ」
「それが令嬢の『義務』だと教えられてきましたから。でも、エドワード殿下に婚約破棄されて、ようやく気づいたのです。私の義務は、自分を偽ることではなく、美味しい肉と共に生きることだったのだと」
私が遠い目をして語ると、ガイ様はしばらく沈黙した。
そして、ぼそりと呟く。
「……そうか。まあ、今のあんたの方が、見ていて飽きねえのは確かだ」
「あら、ガイ様。今、私のことを褒めてくださいました?」
私が顔を覗き込むと、ガイ様は慌てて視線を逸らした。
夕日に照らされているせいか、彼の耳の端が少しだけ赤く見える。
「……褒めてねえ。ただの事実だ。お前みたいな、王都の流行りにも宝石にも興味を示さねえ女、初めて見たからな」
「興味はありますわよ? 宝石のような赤身と、真珠のような脂身には目がありませんもの」
「……結局それかよ。少しはムードってもんを考えろ」
ガイ様は大きな手でガシガシと頭を掻くと、私の顔に手を伸ばした。
えっ。
これって、恋愛小説でよくある「頬に触れる」というシチュエーションではなくて?
「……ほら、ついてるぞ。スパイスの粉だか、干し草だか」
ガイ様の親指が、私の頬を優しく撫でた。
その指はゴツゴツとしていて硬いが、驚くほど温かい。
私の心臓が、まるでステーキを焼く時のように、激しくバクバクと音を立てた。
「……あ、ありがとうございます、ガイ様」
「……ああ」
見つめ合う二人。
沈む夕日が、私たちの影を長く伸ばす。
辺境の風が、二人の間を優しく吹き抜けていった。
(……待って。この香り、この温もり……)
私は、ガイ様の指先から漂う「ある香り」に気づいてしまった。
「ガイ様……あなた、さては私に黙って『燻製』を作っていましたわね!?」
「なっ……!? な、なんで分かったんだよ!」
「この指先から漂う、芳醇なサクラチップの香りと、熟成された豚バラ肉の芳香! 隠しても無駄ですわ、私の鼻は騙せません!」
私はガイ様の腕をガシッと掴み、彼の指の匂いをくんくんと嗅いだ。
「白状してください! どこですの!? その素晴らしいベーコンはどこに隠してありますの!?」
「……お、おい、近けえよ! 鼻を押し付けるな! 分かった、分かったから離せ!」
ガイ様は顔を真っ赤にして私を引き離そうとするが、肉の香りを嗅ぎつけた私がそう簡単に離れるはずがない。
「ずるいですわ、一人で試食なんて! 私だって、ガイ様の作ったベーコンでカリカリの朝食を楽しみたかったのに!」
「……試作品だよ! お前に食べさせる前に、毒味……じゃなくて、味が整ってるか確認してたんだよ!」
「そんなの、私以上に正確な味見ができる人間がこの世にいて? さあ、案内してください! 今すぐそのベーコンを厚切りにして焼きましょう!」
私はガイ様の腕を引っ張り、屋敷へと走り出した。
「……たく。いい雰囲気だったのに、全部肉に持っていかれやがった」
ガイ様が小声で何かを呟いたが、私の耳にはすでに「ジュウジュウ」とベーコンが焼ける幻聴しか届いていなかった。
(ガイ様……あなた、最高ですわ。女心は分からなくても、肉の心は分かっていらっしゃる!)
恋の予感よりも食欲。
パールの辺境生活は、今日もスパイシーで脂の乗った展開を見せていた。
牧場の柵に身を乗り出し、食い入るように牛群を観察している私に、ガイ様が背後から声をかけた。
今日のガイ様は、いつにも増して野性味あふれる格好をしている。
腕まくりされた太い二の腕に、浮き出た血管。
不覚にも「最高の筋繊維だわ……」と見惚れてしまいそうになるのを、私は懸命に堪えた。
「ガイ様、見てください。あの子ですわ。あの子の歩き方、まるで極上の霜降りが全身に行き渡っているような、優雅な揺れを感じませんか?」
「……歩き方でサシの入り方が分かるのかよ。お前、いよいよ人間を辞めてきてないか?」
「失礼ね。これは愛ですわ。慈しみ、育み、そして最後に最高の状態で胃に収める……これぞ至高の愛の形です」
私は真顔で断言した。
ガイ様は呆れたように鼻を鳴らしたが、そのまま隣に並んで柵に手をかけた。
「……なあ、パール。あんた、王都にいた頃は本当にそんなんじゃなかったんだろ?」
「ええ。サラダのドレッシングを数滴減らしては、体重計の前で絶望するような、つまらない日々を送っていましたわ」
「……何が楽しくてそんなことをしてたんだ」
「それが令嬢の『義務』だと教えられてきましたから。でも、エドワード殿下に婚約破棄されて、ようやく気づいたのです。私の義務は、自分を偽ることではなく、美味しい肉と共に生きることだったのだと」
私が遠い目をして語ると、ガイ様はしばらく沈黙した。
そして、ぼそりと呟く。
「……そうか。まあ、今のあんたの方が、見ていて飽きねえのは確かだ」
「あら、ガイ様。今、私のことを褒めてくださいました?」
私が顔を覗き込むと、ガイ様は慌てて視線を逸らした。
夕日に照らされているせいか、彼の耳の端が少しだけ赤く見える。
「……褒めてねえ。ただの事実だ。お前みたいな、王都の流行りにも宝石にも興味を示さねえ女、初めて見たからな」
「興味はありますわよ? 宝石のような赤身と、真珠のような脂身には目がありませんもの」
「……結局それかよ。少しはムードってもんを考えろ」
ガイ様は大きな手でガシガシと頭を掻くと、私の顔に手を伸ばした。
えっ。
これって、恋愛小説でよくある「頬に触れる」というシチュエーションではなくて?
「……ほら、ついてるぞ。スパイスの粉だか、干し草だか」
ガイ様の親指が、私の頬を優しく撫でた。
その指はゴツゴツとしていて硬いが、驚くほど温かい。
私の心臓が、まるでステーキを焼く時のように、激しくバクバクと音を立てた。
「……あ、ありがとうございます、ガイ様」
「……ああ」
見つめ合う二人。
沈む夕日が、私たちの影を長く伸ばす。
辺境の風が、二人の間を優しく吹き抜けていった。
(……待って。この香り、この温もり……)
私は、ガイ様の指先から漂う「ある香り」に気づいてしまった。
「ガイ様……あなた、さては私に黙って『燻製』を作っていましたわね!?」
「なっ……!? な、なんで分かったんだよ!」
「この指先から漂う、芳醇なサクラチップの香りと、熟成された豚バラ肉の芳香! 隠しても無駄ですわ、私の鼻は騙せません!」
私はガイ様の腕をガシッと掴み、彼の指の匂いをくんくんと嗅いだ。
「白状してください! どこですの!? その素晴らしいベーコンはどこに隠してありますの!?」
「……お、おい、近けえよ! 鼻を押し付けるな! 分かった、分かったから離せ!」
ガイ様は顔を真っ赤にして私を引き離そうとするが、肉の香りを嗅ぎつけた私がそう簡単に離れるはずがない。
「ずるいですわ、一人で試食なんて! 私だって、ガイ様の作ったベーコンでカリカリの朝食を楽しみたかったのに!」
「……試作品だよ! お前に食べさせる前に、毒味……じゃなくて、味が整ってるか確認してたんだよ!」
「そんなの、私以上に正確な味見ができる人間がこの世にいて? さあ、案内してください! 今すぐそのベーコンを厚切りにして焼きましょう!」
私はガイ様の腕を引っ張り、屋敷へと走り出した。
「……たく。いい雰囲気だったのに、全部肉に持っていかれやがった」
ガイ様が小声で何かを呟いたが、私の耳にはすでに「ジュウジュウ」とベーコンが焼ける幻聴しか届いていなかった。
(ガイ様……あなた、最高ですわ。女心は分からなくても、肉の心は分かっていらっしゃる!)
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パールの辺境生活は、今日もスパイシーで脂の乗った展開を見せていた。
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