断罪!婚約破棄され、念願の「肉食生活」を求めて辺境へ

ちゃっぴー

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「……ここだ。勝手に開けるなよ、まだ煙が籠もってるんだからな」

ガイ様が渋々案内してくれたのは、屋敷の裏手にある頑丈な石造りの燻製小屋だった。
扉が開いた瞬間、私の全身を包み込んだのは、香木が燃えた芳醇な煙と、熟成された肉の濃厚な脂の香り。

「ああ……。なんて、なんて芳しい芳香(アロマ)なのかしら……」

私は恍惚として目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
王宮の香水よりも、バラの花束よりも、この煙たい匂いの方が千倍は私の魂を揺さぶる。

「……そんなに、俺のことが気になるか?」

「ええ、もう! 気になって夜も眠れないほどですわ!」

私は目を見開き、吊るされたバラ色の肉塊――ベーコンの原型――を見つめて叫んだ。
ガイ様は一瞬たじろぎ、耳まで真っ赤にして顔を背けた。

「……そ、そうか。追放された先で俺みたいなガサツな男を好きになるとは、お前も物好きだな」

「え? あ、はい。ガイ様のその……『仕込みの技術』には、心底惚れ込んでおりますわ」

「技術? ……ああ、リードする力ってことか。まあ、俺も領主だからな」

ガイ様が何かを激しく勘違いしているようだが、今の私の目には、飴色に輝く豚バラ肉しか映っていない。
彼は大きなナイフを手に取り、吊るされていた肉を一本、まな板の上に置いた。

「おい、パール。そんなに熱心に見るな。今すぐ焼いてやるから」

「お願いしますわ! できれば、私の指の厚さくらい……そう、贅沢に厚切りで!」

ガイ様がナイフを振り下ろすと、サクッ、という心地よい音が響く。
断面からは、熟成された脂がじわりと滲み出していた。
彼は手際よく鉄板を熱し、その上に厚切りベーコンを並べた。

ジュワアアアァァ……!!

暴力的なまでの快音が、静かな夜の小屋に響き渡る。
煙と共に立ち上る、塩気と燻製の香ばしい香り。

「見てください、ガイ様! 脂が、脂が踊っていますわ!」

「……ああ。お前、本当に嬉しそうだな。そんなにキラキラした目で俺を見て……」

「ええ! もう、今すぐ噛みつきたいくらいですわ!」

「なっ!? ……は、はやすぎるだろ! 心の準備ってものが……」

「準備なんていりませんわ! 野性的に、本能のままにいただくのが一番ですもの!」

私は鉄板の上で震える肉を見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
ガイ様は「本能……」と呟きながら、なぜかシャツの襟元を緩めて、ますます顔を赤くしている。
熱気に当てられたのかしら。少し体調が心配ですわね。

「……ほら、焼けたぞ。熱いから気をつけろ」

ガイ様が、木皿に山盛りのベーコンを乗せて差し出してくれた。
私はフォークを突き立て、まだ油が跳ねている肉を口に運んだ。

「――っ!! …………ふぉふぉふぉふぉ!!(美味しい!!)」

熱い。けれど、それ以上に旨い。
噛んだ瞬間に弾ける、圧倒的な肉の弾力。
そして、鼻から抜けるスモーキーな香りと、口いっぱいに広がる濃厚なバターのような脂の甘み。

「ガイ様、これは犯罪的ですわ……! この塩加減、そしてこの燻製の深み……王都の高級レストランが裸足で逃げ出しますわよ!」

「……気に入ったなら、よかった。俺の『想い』も伝わったみたいだな」

「ええ、痛いほど伝わりましたわ! ガイ様の豚に対する深い慈愛が!」

「……豚?」

ガイ様がポカンとした顔で固まったが、私は構わず二切れ目に手を伸ばした。

「この絶妙なスモーク加減……サクラだけではなく、少しだけリンゴの木も混ぜましたわね? このフルーティーな後味、私には分かりますのよ」

「……ああ。よく分かったな。お前のために、少し甘みを残したかったんだ」

「なんて素晴らしい配慮! ガイ様、あなたこそ私の運命のパートナーですわ!」

「……運命の、パートナー……」

ガイ様は呆然としながらも、嬉しそうに口元を綻ばせた。
私はベーコンを咀嚼しながら、確信した。

(この人と一緒なら、世界中の肉を制覇できる……。この辺境こそが、私の真の居場所だわ!)

窓の外には、静かな月夜が広がっていた。
厚切りベーコンを頬張る元悪役令嬢と、彼女の食欲を愛の告白だと信じ込む野獣公爵。
二人の夜は、脂っこくも甘い誤解に包まれて更けていくのだった。
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