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「ガイ様! もっとリズミカルにハンドルを回してくださいませ! 中の肉の温度が上がってしまいますわ!」
「……分かってる! だがこの手回し機、意外と重いんだよ。お前の指示が細かすぎるんだ!」
屋敷の広い厨房。
私とガイ様は、今、人生で最も重要な共同作業の一つに打ち込んでいた。
それは、ベルフェゴール領が誇る黒鉄牛の端肉と、最高級の豚脂を配合した『特製生ソーセージ』作りだ。
私は羊の腸を機械のノズルにセットし、ガイ様が練り上げた肉のタネを送り出す。
「いいですか、ガイ様。詰めすぎれば破裂し、足りなければ食感が損なわれる。これは、愛の駆け引きと同じくらい繊細な作業なのですわ!」
「……愛の駆け引きがソーセージの詰まり具合で決まるのかよ」
ガイ様は毒づきながらも、私の指の動きに合わせて慎重にハンドルを回す。
彼の逞しい腕の筋肉が、一定の速度を保つためにピクピクと躍動している。
……不覚にも、その職人じみた横顔に、胸の奥が少しだけ熱くなった。
「あら。ガイ様、意外と器用ですのね」
「……これでも領主だ。不器用じゃ、荒くれ者の領民は付いてこねえよ」
「ふふ、素敵ですわ。……あっ、ガイ様、そこ! 少し緩めて!」
腸の中に肉が充填されていく際、私の手がガイ様の大きな手に重なった。
彼の体温が、指先を通して伝わってくる。
王都での冷え切った政略結婚の相談では、一度も感じたことのない、生命力に溢れた熱だ。
「……っ。パール、手が……」
「……あ。申し訳ありません、つい夢中で」
私が手を引っ込めようとすると、ガイ様が逆に私の手をグッと握り込んだ。
「……別に、離さなくていい。この方が、速度が安定する気がする」
「ガイ様……」
見つめ合う二人。
香辛料の香りが漂う厨房で、私たちの距離はこれまでにないほど急接近した。
彼の黄金色の瞳が、私の唇……ではなく、たぶんその後ろにあるソーセージを見ている。
「……パール。俺は、お前を王都には返さねえぞ」
「……え?」
「あんなもやし野郎のところに、お前みたいな……こんなに肉を美味そうに食う女を渡せるか。お前は、この辺境で、俺の隣で一生肉を焼いてればいいんだ」
それは、世界で一番脂の乗った、最高にジューシーなプロポーズだった。
私の心臓が、フライパンの上で跳ねるベーコンのように激しく躍った。
「ガイ様……。もちろんですわ! 私、ガイ様以外の人が焼く肉なんて、もう満足できませんもの!」
「……そうか。なら、決まりだ」
ガイ様は満足げに頷くと、再び力強くハンドルを回し始めた。
「よし! この勢いで、あと百本は作るぞ!」
「ええ! 冬越しの備蓄まで一気に仕上げましょう!」
ロマンチックな雰囲気は、一瞬にして「大量生産の現場」へと変貌した。
けれど、私たちの心は、このソーセージのようにぎっしりと、お互いへの信頼と食欲で満たされていた。
その時、厨房の扉が勢いよく開いた。
「だ、旦那様! 大変です! 王都の方から、軍勢らしき砂埃が見えます!」
「……軍勢だと?」
ガイ様が眉を寄せ、ハンドルの手を止めた。
「エドワードか。手紙を燃やされたのが、そんなにショックだったのかよ」
「あらあら。せっかくソーセージが完成しそうなのに、お邪魔虫ですわね」
私は、エプロンで手を拭くと、腰に差した解体ナイフの感触を確かめた。
「ガイ様。我が家の貯蔵庫……いえ、領地の平和を守りましょう。もやし王子に、私たちの『愛の結晶(ソーセージ)』を横取りさせるわけにはいきませんわ!」
「ああ。……愛の結晶って言うな、ややこしいだろ」
ガイ様は苦笑しながらも、私の肩を抱き寄せた。
辺境に迫る、王都の迷走軍。
パールの肉生活を守るための、絶対に負けられない戦いが始まろうとしていた。
「……分かってる! だがこの手回し機、意外と重いんだよ。お前の指示が細かすぎるんだ!」
屋敷の広い厨房。
私とガイ様は、今、人生で最も重要な共同作業の一つに打ち込んでいた。
それは、ベルフェゴール領が誇る黒鉄牛の端肉と、最高級の豚脂を配合した『特製生ソーセージ』作りだ。
私は羊の腸を機械のノズルにセットし、ガイ様が練り上げた肉のタネを送り出す。
「いいですか、ガイ様。詰めすぎれば破裂し、足りなければ食感が損なわれる。これは、愛の駆け引きと同じくらい繊細な作業なのですわ!」
「……愛の駆け引きがソーセージの詰まり具合で決まるのかよ」
ガイ様は毒づきながらも、私の指の動きに合わせて慎重にハンドルを回す。
彼の逞しい腕の筋肉が、一定の速度を保つためにピクピクと躍動している。
……不覚にも、その職人じみた横顔に、胸の奥が少しだけ熱くなった。
「あら。ガイ様、意外と器用ですのね」
「……これでも領主だ。不器用じゃ、荒くれ者の領民は付いてこねえよ」
「ふふ、素敵ですわ。……あっ、ガイ様、そこ! 少し緩めて!」
腸の中に肉が充填されていく際、私の手がガイ様の大きな手に重なった。
彼の体温が、指先を通して伝わってくる。
王都での冷え切った政略結婚の相談では、一度も感じたことのない、生命力に溢れた熱だ。
「……っ。パール、手が……」
「……あ。申し訳ありません、つい夢中で」
私が手を引っ込めようとすると、ガイ様が逆に私の手をグッと握り込んだ。
「……別に、離さなくていい。この方が、速度が安定する気がする」
「ガイ様……」
見つめ合う二人。
香辛料の香りが漂う厨房で、私たちの距離はこれまでにないほど急接近した。
彼の黄金色の瞳が、私の唇……ではなく、たぶんその後ろにあるソーセージを見ている。
「……パール。俺は、お前を王都には返さねえぞ」
「……え?」
「あんなもやし野郎のところに、お前みたいな……こんなに肉を美味そうに食う女を渡せるか。お前は、この辺境で、俺の隣で一生肉を焼いてればいいんだ」
それは、世界で一番脂の乗った、最高にジューシーなプロポーズだった。
私の心臓が、フライパンの上で跳ねるベーコンのように激しく躍った。
「ガイ様……。もちろんですわ! 私、ガイ様以外の人が焼く肉なんて、もう満足できませんもの!」
「……そうか。なら、決まりだ」
ガイ様は満足げに頷くと、再び力強くハンドルを回し始めた。
「よし! この勢いで、あと百本は作るぞ!」
「ええ! 冬越しの備蓄まで一気に仕上げましょう!」
ロマンチックな雰囲気は、一瞬にして「大量生産の現場」へと変貌した。
けれど、私たちの心は、このソーセージのようにぎっしりと、お互いへの信頼と食欲で満たされていた。
その時、厨房の扉が勢いよく開いた。
「だ、旦那様! 大変です! 王都の方から、軍勢らしき砂埃が見えます!」
「……軍勢だと?」
ガイ様が眉を寄せ、ハンドルの手を止めた。
「エドワードか。手紙を燃やされたのが、そんなにショックだったのかよ」
「あらあら。せっかくソーセージが完成しそうなのに、お邪魔虫ですわね」
私は、エプロンで手を拭くと、腰に差した解体ナイフの感触を確かめた。
「ガイ様。我が家の貯蔵庫……いえ、領地の平和を守りましょう。もやし王子に、私たちの『愛の結晶(ソーセージ)』を横取りさせるわけにはいきませんわ!」
「ああ。……愛の結晶って言うな、ややこしいだろ」
ガイ様は苦笑しながらも、私の肩を抱き寄せた。
辺境に迫る、王都の迷走軍。
パールの肉生活を守るための、絶対に負けられない戦いが始まろうとしていた。
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