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王都、エドワード王子の執務室。
そこには、一束の「もやし」を虚ろな目で見つめる王太子の姿があった。
パールの追放から、王宮の食生活は日を追うごとに過激な「草食化」を遂げていた。
「……遅いな。親書を届けた伝令は、まだ戻らないのか」
エドワードは、空腹で鳴り続ける腹をさすりながら、窓の外を眺めた。
「殿下、ご安心ください。あんなに慈悲深い手紙を読めば、パール嬢も涙を流して喜んでいるはずですわ。今頃、最高のステーキ肉を抱えてこちらへ向かっているに違いありません」
隣に座るルルが、力なく微笑む。
彼女もまた、裏取引で手に入れた干し肉のクズを使い果たし、今や空腹で理性が消えかかっていた。
その時、廊下からバタバタと激しい足音が響き、扉が勢いよく開かれた。
「で、殿下! 伝令が、伝令が戻ってまいりました!」
「おお! ついに来たか!」
エドワードは椅子から飛び上がった。
しかし、部屋に入ってきた伝令の姿を見て、二人は言葉を失った。
出発した時は土気色でガリガリだったはずの男が、なぜか……。
肌に艶があり、唇はテカテカと脂で輝き、全身から「燻製」の香ばしい匂いを漂わせているではないか。
「……貴様、その顔はどうした。そしてその匂いは……まさか、肉を食べてきたのか!?」
エドワードが詰め寄ると、伝令は恍惚とした表情で頷いた。
「は、はい……。パール様から、骨付きのベーコンを……。あんなに、あんなに厚みがあって、噛めば噛むほど命の汁が溢れ出す食べ物がこの世にあるなんて……!」
「肉だと!? ずるい! ずるいですわ! ルルにも一口よこしなさい!」
ルルが伝令の襟元を掴んで揺さぶる。
「それで、パールの返事はどうした! いつ戻ってくると言っていた!」
エドワードの問いに、伝令は一瞬で現実に引き戻されたような顔になり、震えながら答えた。
「……そ、それが。パール様は殿下の手紙を読み終えるなり……『良い着火剤になりますわ』と仰って、そのまま窯の火の中に投げ込まれました」
「なっ…………着火剤!?」
エドワードの叫びが部屋に響き渡った。
「そ、そうです。そしてその火で子羊を焼き上げ、『紙屑を読んでいる暇はありません』と……」
「紙屑……。私の、心のこもった親書を、紙屑と言ったのか!?」
エドワードはショックのあまり、その場に崩れ落ちた。
王太子の、それも将来の夫となるはずの男からの慈悲を、彼女は燃料として消費したのだ。
「……信じられない。パールがそこまで冷酷な女だったなんて。きっと、あの野獣公爵に洗脳されているに違いない!」
「洗脳……? 殿下、それはどういう……」
「決まっているだろう! あのガイ・ベルフェゴールは、力ずくでパールを従わせ、肉の力で彼女を支配しているんだ! パールは今、泣きながら無理やり肉を食べさせられているんだよ!」
「……ええ、きっとそうですわね(ルルも無理やり食べさせられたいですわ)」
ルルが遠い目をして同意する。
「パール……可哀想に。君は本当は、私の側でもやしを食べていたいはずなのに。君のその『肉への執着』すら、あの男に利用されているんだ!」
エドワードの脳内では、今やパールは「肉の暴力に晒される悲劇のヒロイン」へと変換されていた。
自分の手紙が燃やされたのは、彼女の本心ではなく、ガイによる妨害であると。
「許さん……。許さんぞ、ベルフェゴール公爵! 私のパールと、我が国の肉資源を独占し、彼女を洗脳するとは!」
エドワードは、机を叩いて立ち上がった。
「衛兵を呼べ! これはもはや、一令嬢の問題ではない! 王国の尊厳をかけた、肉の奪還作戦だ!」
「殿下、まさか……戦うおつもりですか?」
「ああ! 私が直々に辺境へ赴き、パールの目を覚まさせてやる。そしてあの野獣から彼女を救い出し、王都へ連れ戻すんだ!」
エドワードの瞳に、空腹による狂気……もとい、使命感の炎が宿った。
(待っていろ、パール。君を救い出し、再び王宮の清らかな豆苗生活に戻してあげよう!)
その頃、辺境のパールは、焼き上がった子羊の脂身を頬張りながら、「あ、今の着火剤、火力が安定してて最高でしたわね」とガイと笑い合っていたのだが。
王都の勘違い軍団が、自分たちを救出(という名の肉の強奪)に来ようとしていることなど、知る由もなかった。
そこには、一束の「もやし」を虚ろな目で見つめる王太子の姿があった。
パールの追放から、王宮の食生活は日を追うごとに過激な「草食化」を遂げていた。
「……遅いな。親書を届けた伝令は、まだ戻らないのか」
エドワードは、空腹で鳴り続ける腹をさすりながら、窓の外を眺めた。
「殿下、ご安心ください。あんなに慈悲深い手紙を読めば、パール嬢も涙を流して喜んでいるはずですわ。今頃、最高のステーキ肉を抱えてこちらへ向かっているに違いありません」
隣に座るルルが、力なく微笑む。
彼女もまた、裏取引で手に入れた干し肉のクズを使い果たし、今や空腹で理性が消えかかっていた。
その時、廊下からバタバタと激しい足音が響き、扉が勢いよく開かれた。
「で、殿下! 伝令が、伝令が戻ってまいりました!」
「おお! ついに来たか!」
エドワードは椅子から飛び上がった。
しかし、部屋に入ってきた伝令の姿を見て、二人は言葉を失った。
出発した時は土気色でガリガリだったはずの男が、なぜか……。
肌に艶があり、唇はテカテカと脂で輝き、全身から「燻製」の香ばしい匂いを漂わせているではないか。
「……貴様、その顔はどうした。そしてその匂いは……まさか、肉を食べてきたのか!?」
エドワードが詰め寄ると、伝令は恍惚とした表情で頷いた。
「は、はい……。パール様から、骨付きのベーコンを……。あんなに、あんなに厚みがあって、噛めば噛むほど命の汁が溢れ出す食べ物がこの世にあるなんて……!」
「肉だと!? ずるい! ずるいですわ! ルルにも一口よこしなさい!」
ルルが伝令の襟元を掴んで揺さぶる。
「それで、パールの返事はどうした! いつ戻ってくると言っていた!」
エドワードの問いに、伝令は一瞬で現実に引き戻されたような顔になり、震えながら答えた。
「……そ、それが。パール様は殿下の手紙を読み終えるなり……『良い着火剤になりますわ』と仰って、そのまま窯の火の中に投げ込まれました」
「なっ…………着火剤!?」
エドワードの叫びが部屋に響き渡った。
「そ、そうです。そしてその火で子羊を焼き上げ、『紙屑を読んでいる暇はありません』と……」
「紙屑……。私の、心のこもった親書を、紙屑と言ったのか!?」
エドワードはショックのあまり、その場に崩れ落ちた。
王太子の、それも将来の夫となるはずの男からの慈悲を、彼女は燃料として消費したのだ。
「……信じられない。パールがそこまで冷酷な女だったなんて。きっと、あの野獣公爵に洗脳されているに違いない!」
「洗脳……? 殿下、それはどういう……」
「決まっているだろう! あのガイ・ベルフェゴールは、力ずくでパールを従わせ、肉の力で彼女を支配しているんだ! パールは今、泣きながら無理やり肉を食べさせられているんだよ!」
「……ええ、きっとそうですわね(ルルも無理やり食べさせられたいですわ)」
ルルが遠い目をして同意する。
「パール……可哀想に。君は本当は、私の側でもやしを食べていたいはずなのに。君のその『肉への執着』すら、あの男に利用されているんだ!」
エドワードの脳内では、今やパールは「肉の暴力に晒される悲劇のヒロイン」へと変換されていた。
自分の手紙が燃やされたのは、彼女の本心ではなく、ガイによる妨害であると。
「許さん……。許さんぞ、ベルフェゴール公爵! 私のパールと、我が国の肉資源を独占し、彼女を洗脳するとは!」
エドワードは、机を叩いて立ち上がった。
「衛兵を呼べ! これはもはや、一令嬢の問題ではない! 王国の尊厳をかけた、肉の奪還作戦だ!」
「殿下、まさか……戦うおつもりですか?」
「ああ! 私が直々に辺境へ赴き、パールの目を覚まさせてやる。そしてあの野獣から彼女を救い出し、王都へ連れ戻すんだ!」
エドワードの瞳に、空腹による狂気……もとい、使命感の炎が宿った。
(待っていろ、パール。君を救い出し、再び王宮の清らかな豆苗生活に戻してあげよう!)
その頃、辺境のパールは、焼き上がった子羊の脂身を頬張りながら、「あ、今の着火剤、火力が安定してて最高でしたわね」とガイと笑い合っていたのだが。
王都の勘違い軍団が、自分たちを救出(という名の肉の強奪)に来ようとしていることなど、知る由もなかった。
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