断罪!婚約破棄され、念願の「肉食生活」を求めて辺境へ

ちゃっぴー

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ベルフェゴール領の午後。

私はガイ様と共に、新しく開発した「特製レンガ窯」の火入れを行っていた。
この窯でじっくりと時間をかけて焼き上げる「骨付き子羊の香草焼き」を想像するだけで、私の胸は高鳴り、胃袋は歓喜のスタンディングオベーションを捧げている。

「……よし、火の回りは順調だな。あとは肉を放り込むだけだ」

ガイ様が額の汗を拭い、満足げに頷いたその時。
屋敷の門の方から、馬の激しい嘶きと、悲鳴のような声が聞こえてきた。

「はぁ、はぁ……! ぱ、パール様は……パール・ド・ラ・メール公爵令嬢は、どちらにおわすか!!」

現れたのは、ボロボロの服を纏い、顔を土気色に染めた一人の伝令だった。
彼は馬から転げ落ちるように降りると、私の前で膝をついた。

「王都より……エドワード殿下からの、緊急親書でございます……!」

「あら、ご苦労様。そんなに慌てて、もやしが喉に詰まりでもしたのかしら?」

「え……も、もやし……? い、いいえ、とにかくこれをお読みください……!」

彼が震える手で差し出してきたのは、王家の紋章が刻印された最高級の羊皮紙だった。
ガイ様が不機嫌そうに眉を寄せ、私の隣で腕を組む。

「……王太子からか。今更何の用だ。まさか、あんたを連れ戻しに来たんじゃねえだろうな」

「まさか。あんなに盛大に追放したんですもの。きっと『今まで肉を食べてごめんなさい』という反省文か何かでしょう」

私は封を切り、中に記された流麗な文字を流し読みした。

『親愛なるパールへ。君がいなくなってから、王宮のシェフがもやし料理のレパートリーを使い果たしてしまった。君の肉に対する執着は、ある意味で芸術的だったと認めよう。……戻ってきて私にステーキを焼くなら、婚約破棄を撤回してやってもいいぞ。感謝したまえ。』

「…………」

「……パール? なんて書いてあるんだ。顔が引きつってるぞ」

ガイ様が心配そうに覗き込んでくる。
私は深く、深いため息をついた。

「ガイ様、世の中には『救いようのない馬鹿』というものが存在するのですね」

「……何?」

「見てくださいませ、この文章。『戻ってきて私にステーキを焼くなら、婚約破棄を撤回してやってもいい』ですって。しかも、感謝しろとおっしゃっていますわ」

私が内容を読み上げると、ガイ様の周囲の空気が一瞬で凍りついた。
いや、凍りついたのではない。
あまりの怒りに、彼の魔力が……あるいは野生の闘争本能が、物理的な熱量となって周囲を威圧し始めたのだ。

「……撤回だぁ? あいつ、あんたを追い出しておきながら、今度は飯炊き女として戻れって言ってるのか?」

「ええ。しかも、王宮ではもう食べるものがもやししか残っていないようですわ」

「……ふざけんな。パール、俺が今すぐ王都に乗り込んで、あいつを本物の『もやし』にしてきてやろうか」

「まあ、ガイ様! 私を想ってくださるのは嬉しいですが、暴力は良くありませんわ。肉を捌く以外の目的で血を流すのは、私の美学に反しますの」

私はそう言うと、手紙をヒラヒラと振った。
そして、ちょうど今、火を熾そうとしていた窯の前に歩み寄った。

「パール? 何をする気だ」

「あら、決まっていますわ。これ、とっても燃えやすそうな『最高級の紙』ですもの」

私は迷うことなく、エドワードからの親書を燃え盛る火の中に投げ込んだ。

メラメラと、王家の紋章が炎に包まれていく。
厚みのある羊皮紙は、想像以上に良い着火剤となり、子羊を焼くための火力を力強くサポートしてくれた。

「あ……ああっ!! 殿下の手紙が! 我が国の至宝が!」

伝令の男が絶望の叫びを上げる。

「いいですか、伝令さん。殿下にお伝えなさい。『あいにく、こちらでは子羊の焼き加減を見るのに忙しく、紙屑を読んでいる暇はありませんわ』と。あ、あとこれも」

私は、ちょうど焼き上がったばかりの「骨付きベーコン」の端切れを、男の口に無理やり押し込んだ。

「――っ!? もぐ、もぐ……っ! な、なんという……なんという暴力的な旨味……!!」

「それを食べて、自分の足で王都へ戻りなさい。栄養を摂れば、殿下の目を覚まさせるくらいの正論も吐けるようになるでしょう?」

「う、うまい……! 殿下、申し訳ありません! 私、もう豆苗の待つ王都には帰りたくありません……っ!」

伝令の男は、涙を流しながらベーコンを噛み締めた。

「……パール。お前、本当に恐ろしい女だな」

ガイ様が呆れたように笑った。
けれど、その瞳には私に対する深い信頼と、少しばかりの独占欲が宿っていた。

「あら、ガイ様。私はただ、資源を有効活用しただけですわ。さあ、手紙のおかげで火力が最高潮です! 子羊を入れましょう!」

炎の中に消えた、愚かな王子の傲慢。
その代わりに、辺境の空には香ばしい肉の香りが高く舞い上がった。

王都でエドワードが「返事はまだか!」ともやしを噛み締めながら待っているとも知らず、私たちは「肉の聖地」で至福の晩餐を始めたのである。
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