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ベルフェゴール領の空は、雲一つない快晴に恵まれた。
今日、この「肉の聖地」では、歴史上最も香ばしい結婚式が執り行われようとしている。
屋敷の広場には、領民たちだけでなく、王都から「肉の配給」を求めて移住してきた元貴族たちも集まり、今か今かと主役の登場を待ちわびていた。
「……パールお姉様! 準備はよろしいですか!? もう、お肉の焼き加減が限界ですわ!」
控室に飛び込んできたのは、今や私の有能な「肉研究助手」となったルルだ。
彼女は、かつての可憐なドレスではなく、機能的なエプロン姿でトングを握りしめている。
「分かっているわ、ルル。……でも見てちょうだい、このウェディングドレス」
私が鏡の前で披露したのは、純白のシルクで作られた、豪華な……。
……いえ、胸元に『肉』という刺繍が施された、耐油・防汚加工済みの特注ドレスだ。
「まあ! なんて機能美にあふれた白ですこと! 返り血……いえ、赤ワインソースが飛んでも目立ちませんわね!」
「ええ。それに、このスカートの裏には隠しポケットがあって、予備のスパイスが十種類は入るのよ」
「流石はお姉様ですわ! さあ、ガイ様がお待ちです。行きましょう、私たちの『聖域』へ!」
私が広場に一歩足を踏み出すと、地鳴りのような歓声が上がった。
バージンロードの両脇には、花びらではなく、乾燥させた「サクラスモークチップ」が撒かれている。
その先で待っていたのは、漆黒のタキシードに身を包んだガイ様だった。
「……パール。綺麗だ。……その、肉の刺繍も、お前らしいぜ」
「ガイ様こそ。……今日のあなたは、まるでじっくり熟成されたヴィンテージ・ビーフのような色気がありますわ」
「……褒め言葉として受け取っておく。さあ、始めようか」
私たちは、祭壇……という名の、巨大な炭火コンロの前へと並んだ。
神父様が、重々しく聖典(という名のレシピ本)を開く。
「……ガイ・ベルフェゴールよ。貴方は、このパール・ド・ラ・メールを妻とし、健やかなるときも、胃もたれのときも、赤身の日も、脂身の日も、共に肉を焼き続けることを誓いますか?」
「誓う。俺の育てた最高の肉は、すべてこいつのものだ」
「パール・ド・ラ・メールよ。貴方は、このガイ・ベルフェゴールを夫とし、彼が仕留めた獲物を残さず食らい、火加減の失敗を許し合い、共に骨までしゃぶり尽くすことを誓いますか?」
「誓いますわ! 彼の筋肉と、私の胃袋は、永遠に一対(ペア)ですもの!」
「よろしい。……では、誓いの『ステーキカット』を!」
神父様の宣言と共に、運ばれてきたのは三段重ねのウェディングケーキ……。
……ではなく、三段重ねに積み上げられた、総重量百キロを超える「黒鉄牛の特大ローストビーフ」だった。
「「せーのっ!!」」
私とガイ様は、ケーキナイフではなく、巨大な「牛刀」を二人で握りしめた。
そして、その中心にある、一番柔らかい希少部位へと力強く刃を沈めた。
シュパァァァッ!!
溢れ出す、黄金色の肉汁。
それは太陽の光を反射して、どんな宝石よりも美しく輝いた。
「おめでとうございますーー!!」
「肉の女神様、万歳!!」
「野獣公爵、万歳!!」
領民たちが、一斉に手持ちの肉を空に掲げて祝福する。
私たちは、切り分けた最初の一切れを、お互いの口へと運び合った。
「……美味しい、ガイ様。……今までで、一番の味だわ」
「……ああ。お前と一緒に食うから、余計にな」
ガイ様は、私の腰をグイと引き寄せると、脂のついた唇のまま、優しく私に口づけた。
周囲の歓声は、肉を焼くパチパチという音と共に、どこまでも高く響き渡っていく。
その頃、王都の外れの開拓地では。
クワを片手に泥まみれになったエドワード元王子が、風に乗って届く肉の香りに鼻をひくつかせていた。
「……いい匂いだ。……いつか、いつか私も、あんな風に誰かと肉を……。いや、今は豆苗を育てなければ……」
彼が流した一筋の涙は、彼が植えたばかりのもやしの苗を、静かに湿らせるだけだった。
「ガイ様、見てください! あちらの予備の牛も、いい感じに焼けてきましたわ!」
「おい、パール! 式はまだ終わってねえぞ! トングを置け!」
「嫌ですわ! 幸せは、熱いうちに食べなければなりませんもの!」
笑い声と、脂の跳ねる音。
そして、止まることのない食欲。
悪役令嬢パールの物語は、ここで一旦幕を閉じる。
けれど、彼女と野獣公爵の「肉食系新婚生活」は、今、最高にジューシーなスタートを切ったばかりなのだ。
今日、この「肉の聖地」では、歴史上最も香ばしい結婚式が執り行われようとしている。
屋敷の広場には、領民たちだけでなく、王都から「肉の配給」を求めて移住してきた元貴族たちも集まり、今か今かと主役の登場を待ちわびていた。
「……パールお姉様! 準備はよろしいですか!? もう、お肉の焼き加減が限界ですわ!」
控室に飛び込んできたのは、今や私の有能な「肉研究助手」となったルルだ。
彼女は、かつての可憐なドレスではなく、機能的なエプロン姿でトングを握りしめている。
「分かっているわ、ルル。……でも見てちょうだい、このウェディングドレス」
私が鏡の前で披露したのは、純白のシルクで作られた、豪華な……。
……いえ、胸元に『肉』という刺繍が施された、耐油・防汚加工済みの特注ドレスだ。
「まあ! なんて機能美にあふれた白ですこと! 返り血……いえ、赤ワインソースが飛んでも目立ちませんわね!」
「ええ。それに、このスカートの裏には隠しポケットがあって、予備のスパイスが十種類は入るのよ」
「流石はお姉様ですわ! さあ、ガイ様がお待ちです。行きましょう、私たちの『聖域』へ!」
私が広場に一歩足を踏み出すと、地鳴りのような歓声が上がった。
バージンロードの両脇には、花びらではなく、乾燥させた「サクラスモークチップ」が撒かれている。
その先で待っていたのは、漆黒のタキシードに身を包んだガイ様だった。
「……パール。綺麗だ。……その、肉の刺繍も、お前らしいぜ」
「ガイ様こそ。……今日のあなたは、まるでじっくり熟成されたヴィンテージ・ビーフのような色気がありますわ」
「……褒め言葉として受け取っておく。さあ、始めようか」
私たちは、祭壇……という名の、巨大な炭火コンロの前へと並んだ。
神父様が、重々しく聖典(という名のレシピ本)を開く。
「……ガイ・ベルフェゴールよ。貴方は、このパール・ド・ラ・メールを妻とし、健やかなるときも、胃もたれのときも、赤身の日も、脂身の日も、共に肉を焼き続けることを誓いますか?」
「誓う。俺の育てた最高の肉は、すべてこいつのものだ」
「パール・ド・ラ・メールよ。貴方は、このガイ・ベルフェゴールを夫とし、彼が仕留めた獲物を残さず食らい、火加減の失敗を許し合い、共に骨までしゃぶり尽くすことを誓いますか?」
「誓いますわ! 彼の筋肉と、私の胃袋は、永遠に一対(ペア)ですもの!」
「よろしい。……では、誓いの『ステーキカット』を!」
神父様の宣言と共に、運ばれてきたのは三段重ねのウェディングケーキ……。
……ではなく、三段重ねに積み上げられた、総重量百キロを超える「黒鉄牛の特大ローストビーフ」だった。
「「せーのっ!!」」
私とガイ様は、ケーキナイフではなく、巨大な「牛刀」を二人で握りしめた。
そして、その中心にある、一番柔らかい希少部位へと力強く刃を沈めた。
シュパァァァッ!!
溢れ出す、黄金色の肉汁。
それは太陽の光を反射して、どんな宝石よりも美しく輝いた。
「おめでとうございますーー!!」
「肉の女神様、万歳!!」
「野獣公爵、万歳!!」
領民たちが、一斉に手持ちの肉を空に掲げて祝福する。
私たちは、切り分けた最初の一切れを、お互いの口へと運び合った。
「……美味しい、ガイ様。……今までで、一番の味だわ」
「……ああ。お前と一緒に食うから、余計にな」
ガイ様は、私の腰をグイと引き寄せると、脂のついた唇のまま、優しく私に口づけた。
周囲の歓声は、肉を焼くパチパチという音と共に、どこまでも高く響き渡っていく。
その頃、王都の外れの開拓地では。
クワを片手に泥まみれになったエドワード元王子が、風に乗って届く肉の香りに鼻をひくつかせていた。
「……いい匂いだ。……いつか、いつか私も、あんな風に誰かと肉を……。いや、今は豆苗を育てなければ……」
彼が流した一筋の涙は、彼が植えたばかりのもやしの苗を、静かに湿らせるだけだった。
「ガイ様、見てください! あちらの予備の牛も、いい感じに焼けてきましたわ!」
「おい、パール! 式はまだ終わってねえぞ! トングを置け!」
「嫌ですわ! 幸せは、熱いうちに食べなければなりませんもの!」
笑い声と、脂の跳ねる音。
そして、止まることのない食欲。
悪役令嬢パールの物語は、ここで一旦幕を閉じる。
けれど、彼女と野獣公爵の「肉食系新婚生活」は、今、最高にジューシーなスタートを切ったばかりなのだ。
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