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「……それで、お話というのは何でしょうか、ラーニャ様。いじめなら、なるべく痛くない方法でお願いしたいのですが」
昨日の昼下がり。
学園の裏庭にある、人目を忍ぶには絶好のガゼボに、私はメリルさんを呼び出していた。
彼女は今にも泣きそうな顔で、自分自身の肩を抱いて震えている。
「あら、私があなたをいじめる? そんな生産性のないことに時間を使うほど、私は暇ではありませんわ」
「えっ、でも……王子はいつも言っていますよ。『ラーニャは嫉妬に狂って君を害そうとしている。僕が守ってあげるからね』って」
「あの方は物語の読みすぎですわ。……座りなさい。お茶を淹れさせます」
私は手際よく準備をしていた侍女に目配せし、最高級の茶菓子をテーブルに並べさせた。
その瞬間、メリルさんの鼻がピクピクと動き、視線がケーキに釘付けになる。
「……これ、有名店の新作ですよね? 一個で私の実家の三食分くらいの……」
「食べなさい。胃袋を満たさなければ、冷静な判断はできませんもの」
メリルさんは躊躇しながらも、一口食べると「ふぁあああ……」と情けない声を漏らしてとろけてしまった。
よし、第一段階完了ですわね。
「さて、メリルさん。単刀直入に伺いますわ。あなたは、あのアホ王子……失礼、ウィルフレッド様を愛していますの?」
「ごふっ!? げほっ、げほっ!……愛、ですか?」
「ええ。一生を添い遂げ、彼の無能さを共に背負い、王室という名の窓際部署で、常に監視されながら生きていく覚悟はありますの?」
メリルさんは真顔になり、フォークを置いた。
「……正直に申し上げて、よろしいでしょうか」
「どうぞ。ここには私と、私の息のかかった使用人しかいませんわ」
「……顔は、まあ、いいと思います。でも、会話が噛み合わないんです。私が『最近、実家の小麦の収穫が減って困っている』と相談したら、彼は『大丈夫だよ、僕が君に愛の歌を贈るから』って歌い出したんですよ」
「……お気の毒に」
「その歌で腹は膨れないんです! 愛の言葉よりも、私は肥料代が欲しいんです!」
メリルさんの叫びは切実だった。
やはり彼女は、私が睨んだ通り「こちらの側」の人間だ。
「いいですわ、メリルさん。では、現実的な話をしましょう。こちらをご覧になって」
私は机の上に、一冊の帳簿を広げた。
それは、王家の財政状況を独自に調査し、まとめたものだ。
「これは……?」
「王家の家計簿です。あの方は第一王子ですが、王位継承権の順位は怪しいもの。しかも、あの方個人の資産は、私とのデート費用や無意味な贈り物で、すでに底をついています」
「え、王子なのに貯金なしですか?」
「それどころか、私に多額の借金がありますわ。もしあなたが彼と結婚すれば、その負債は夫婦のもの。つまり、あなたは結婚した瞬間から、一生かかっても返せない借金を背負うことになります」
メリルさんの顔から血の気が引いていく。
ケーキのおかわりを伸ばそうとしていた手が、ピタリと止まった。
「……一方、こちらはアストレア公爵家の求人票です」
私はもう一枚の紙を差し出した。
「職種は、私の個人秘書。仕事内容は、私のスケジュール管理と、王子の撃退。給与は今の王子の生活費の三倍。ボーナス年二回、住宅手当あり。さらに、実家のランバート男爵家への経済支援も約束いたします」
「……っ!」
「私についてくれば、あなたは『愛に溺れる悲劇のヒロイン』ではなく、『経済的に自立した勝ち組の独身貴族』になれますわ。さあ、どちらを選びますの?」
メリルさんは、一分も悩まなかった。
彼女は震える手で、しかし力強く私の求人票を掴み取った。
「ラーニャ様……いえ、社長! 私、一生ついていきます!」
「いい返事ですわ。では、明日の卒業パーティーでの動きを確認しましょう……」
ガゼボの中で、私たちは悪魔のような微笑みを交わした。
あのアホ王子が、自分を巡って二人の女が争っていると勘違いしている間に、私たちは着々と「脱出計画」を練り上げていたのである。
昨日の昼下がり。
学園の裏庭にある、人目を忍ぶには絶好のガゼボに、私はメリルさんを呼び出していた。
彼女は今にも泣きそうな顔で、自分自身の肩を抱いて震えている。
「あら、私があなたをいじめる? そんな生産性のないことに時間を使うほど、私は暇ではありませんわ」
「えっ、でも……王子はいつも言っていますよ。『ラーニャは嫉妬に狂って君を害そうとしている。僕が守ってあげるからね』って」
「あの方は物語の読みすぎですわ。……座りなさい。お茶を淹れさせます」
私は手際よく準備をしていた侍女に目配せし、最高級の茶菓子をテーブルに並べさせた。
その瞬間、メリルさんの鼻がピクピクと動き、視線がケーキに釘付けになる。
「……これ、有名店の新作ですよね? 一個で私の実家の三食分くらいの……」
「食べなさい。胃袋を満たさなければ、冷静な判断はできませんもの」
メリルさんは躊躇しながらも、一口食べると「ふぁあああ……」と情けない声を漏らしてとろけてしまった。
よし、第一段階完了ですわね。
「さて、メリルさん。単刀直入に伺いますわ。あなたは、あのアホ王子……失礼、ウィルフレッド様を愛していますの?」
「ごふっ!? げほっ、げほっ!……愛、ですか?」
「ええ。一生を添い遂げ、彼の無能さを共に背負い、王室という名の窓際部署で、常に監視されながら生きていく覚悟はありますの?」
メリルさんは真顔になり、フォークを置いた。
「……正直に申し上げて、よろしいでしょうか」
「どうぞ。ここには私と、私の息のかかった使用人しかいませんわ」
「……顔は、まあ、いいと思います。でも、会話が噛み合わないんです。私が『最近、実家の小麦の収穫が減って困っている』と相談したら、彼は『大丈夫だよ、僕が君に愛の歌を贈るから』って歌い出したんですよ」
「……お気の毒に」
「その歌で腹は膨れないんです! 愛の言葉よりも、私は肥料代が欲しいんです!」
メリルさんの叫びは切実だった。
やはり彼女は、私が睨んだ通り「こちらの側」の人間だ。
「いいですわ、メリルさん。では、現実的な話をしましょう。こちらをご覧になって」
私は机の上に、一冊の帳簿を広げた。
それは、王家の財政状況を独自に調査し、まとめたものだ。
「これは……?」
「王家の家計簿です。あの方は第一王子ですが、王位継承権の順位は怪しいもの。しかも、あの方個人の資産は、私とのデート費用や無意味な贈り物で、すでに底をついています」
「え、王子なのに貯金なしですか?」
「それどころか、私に多額の借金がありますわ。もしあなたが彼と結婚すれば、その負債は夫婦のもの。つまり、あなたは結婚した瞬間から、一生かかっても返せない借金を背負うことになります」
メリルさんの顔から血の気が引いていく。
ケーキのおかわりを伸ばそうとしていた手が、ピタリと止まった。
「……一方、こちらはアストレア公爵家の求人票です」
私はもう一枚の紙を差し出した。
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「……っ!」
「私についてくれば、あなたは『愛に溺れる悲劇のヒロイン』ではなく、『経済的に自立した勝ち組の独身貴族』になれますわ。さあ、どちらを選びますの?」
メリルさんは、一分も悩まなかった。
彼女は震える手で、しかし力強く私の求人票を掴み取った。
「ラーニャ様……いえ、社長! 私、一生ついていきます!」
「いい返事ですわ。では、明日の卒業パーティーでの動きを確認しましょう……」
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