お黙りなさい!婚約破棄された毒舌令嬢は甘くない毒を吐く

ちゃっぴー

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「……ちょっと、これどういうこと? このお茶、いつもの最高級エメラルド・リーフじゃないわよね? 色が薄いし、何より香りが『雑草』のそれなんだけど?」

王宮の令嬢用客室。
ララ・フワリンは、目の前に出されたティーカップを忌々しげに睨みつけていた。
これまでの「ぴえん」とした儚げな表情はどこへやら、その瞳には鋭利なまでの苛立ちが宿っている。

「申し訳ございません、ララ様。……ですが、現在、王宮の備品管理室からの支給が制限されておりまして。……予算が、その、底をついているそうでございます」

メイドが震えながら答える。
ララは「チッ」と大きな舌打ちを漏らした。

「予算が底をつく? 冗談言わないで。ここは王宮よ? 王子様の婚約者になる私に、こんな安物を出して恥ずかしくないの?」

「は、はい……。ですが、以前まではレーズン様が私費を投じて、王宮内の嗜好品の質を維持されていたそうで……。あの方がいなくなってから、帳簿通りの中身になっただけでございます」

「またレーズン、レーズン……! あんな可愛げのない女、名前を聞くだけで反吐が出るわ。……もういいわ、下がりなさい!」

メイドが逃げるように去った後、ララは豪華なソファに深く身を沈めた。
彼女の計算では、今頃はセドリック王子の正妃として、国庫を自由に使い、宝石とドレスに囲まれた生活を送っているはずだった。
だが、現実は違った。

「なによこれ……。舞踏会の予算は出ない、宝石商は『前金の支払いがない限り新作は見せられない』って門前払い。……あのバカ王子、本当に金を持ってないじゃないの!」

ララの本性が、独り言として漏れ出す。
彼女にとって恋愛とは「投資」であり、王子とは「高額な財布」に他ならない。
これまではレーズンが完璧に管理していたおかげで、王子の財布は常に潤っているように見えていただけだったのだ。

そこへ、ドタドタと慌ただしい足音が近づき、扉が乱暴に開かれた。

「ララ! 大変だ! 聞いてくれ!」

現れたのは、髪を振り乱し、目の下にひどい隈を作ったセドリック王子だった。
かつての輝かしい王子オーラは見る影もなく、今の彼は「徹夜明けの疲弊した事務員」にしか見えない。

「……あら、殿下ぁ。どうなされたんですかぁ? そんなに慌てて、ララ、心配になっちゃいますぅ」

一瞬で「ぴえん顔」に切り替え、ララは王子の腕にすり寄る。
だが、セドリックの反応はいつもと違っていた。

「心配している場合じゃないんだ! さっき、近衛騎士団の給与が未払いだと騒ぎになって、騎士たちがストライキを始めた! さらには、王宮の厨房まで『食材の仕入れ先が支払いを拒否された』と言って、今日の夕食はパンとスープだけだと言うんだ!」

「……えっ。パンとスープ? 殿下、冗談ですよねぇ?」

「冗談なものか! アイアン宰相に泣きついたら、『レーズン様が置いていった運営マニュアルの、百二十ページから二百四十ページまでを今日中に理解して実行すれば、なんとか解決の糸口が見えるでしょう』と言われたんだぞ!」

セドリックが差し出したのは、辞書のように分厚い、レーズン直筆の「有事の際の国家財政立て直し手順書」だった。
その細かな文字の羅列を見ただけで、ララは眩暈がした。

「そんなの……無理ですよぉ。殿下ぁ、もっと簡単に、こう、魔法みたいにお金が増える方法はないんですかぁ?」

「あるわけないだろう! ……ララ、君はレーズンからいじめられていたと言っていたな? その時、彼女が隠していた予備の金庫の場所とか、聞いていないか?」

「……はあ? 金庫? そんなの知るわけないじゃないですか」

ララの声から、少しずつ「甘さ」が消えていく。

「困った……。このままだと、来週の僕の誕生日祝いも中止だ。……ララ、君が持っているその真珠のネックレス、売れないか? それで当座のパン代を……」

「……ちょっと、今なんて言いました?」

ララの手が、セドリックの腕から離れた。
彼女の瞳から、完全に「ぴえん」の光が消滅する。

「私のネックレスを売れ? 正気ですか? これは殿下が『僕の愛の証だ』と言って贈ってくれたものですよね? それをパン代にするなんて、殿下の愛はその程度の価値しかないってことですか?」

「い、いや、そうじゃないんだ! 背に腹は代えられないというか……」

「代えられないのは、あなたの無能さでしょうが!」

ララの絶叫が部屋に響き渡った。
セドリックは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まる。

「な、ララ……? 今、なんて……」

「いい加減にしてよ! 私はね、豪華な王宮生活と、贅沢三昧な毎日を約束されたから、あんなシワシワ女を追い出す手伝いをしたのよ! それなのに、蓋を開けてみれば金はない、仕事は山積み、おまけに食事はパンとスープ!? 詐欺もいいところよ!」

「ラ、ララ……君、キャラが……顔が怖いぞ……」

「うるさい! ぴえんぴえんって言っておけば、鼻の下伸ばして喜んでたくせに! 大体ね、あなたがレーズン様に勝っているところなんて、髪の毛の量くらいしかないのよ! あ、それも最近のストレスで怪しくなってきたわね!」

ララは地べたに転がっていた「国家機密の折り紙」を踏みつけ、鼻で笑った。

「もういいわ。こんな沈みかけの泥舟、こっちから願い下げよ。私はもっと別の、ちゃんと中身の詰まった財布……じゃなくて、王子様を探しに行くわ!」

「ま、待ってくれララ! 僕を見捨てるのか!? 愛していると言ったのは嘘だったのか!」

「愛? そんなもの、金貨で買えないならただのゴミよ。……さよなら、種無しスイカ王子の二番煎じさん!」

ララはドレスの裾を荒々しく掴むと、呆然と立ち尽くすセドリックを突き飛ばして部屋を飛び出していった。

一人残されたセドリックは、静まり返った部屋で、床に落ちたレーズンの手順書を見つめた。
そこには、彼女の几帳面な文字で、こう記されていた。

『殿下へ。もしこのページを開くことになったのなら、それはあなたが最悪の選択をし、周囲に誰もいなくなった時でしょう。……まあ、自業自得ですが』

「……レーズン。君は……君だけは、僕を裏切らなかったのに……」

王子の後悔の言葉は、誰にも届くことなく、冷え切った紅茶の中に溶けていった。
一方その頃、辺境の別荘では、レーズンがヴィンセントに「全自動・高効率の罵倒」を浴びせながら、優雅に最高級のステーキを楽しんでいた。
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