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「……ちょっと、ヴィンセント。あなたの足元に、得体の知れないピンク色のスライムがへばりついているけれど。帝国の害虫は、そんなに粘着質なのかしら? 見ていて不愉快だから、今すぐその足を切り離して捨ててきてくださる?」
大公の連行が終わり、静寂が戻りかけた会場。
そこへ、ボロボロのドレスを翻し、なりふり構わずヴィンセントの足元へ縋り付いた影があった。
王国でセドリックを捨て、新たな「財布」を求めて帝国まで密航してきた女、ララ・フワリンである。
「殿下ぁ……! アストラ帝国のヴィンセント殿下ですよね!? 私、ララと言いますぅ……。王国で、あの恐ろしいレーズン様にいじめられて、居場所をなくしてしまった可哀想な令嬢なんですぅ……。ぴえん」
ララは、涙で濡れた瞳(自称・宝石)を潤ませ、上目遣いでヴィンセントを見上げた。
セドリックを虜にしたその「ぴえん」の技が、帝国の皇子にも通じると信じて疑っていないようだ。
「……レーズン。この生物、何と言っているんだ? 私の耳が、あまりにも低レベルなノイズを検知して、自動的にシャットダウンしてしまったようなのだが」
ヴィンセントは、足元のララをまるで「落ちていた濡れ雑巾」を見るような目で見下ろした。
その冷淡な声に、ララは一瞬ひるんだが、すぐにさらに声を震わせた。
「ひどいですぅ……殿下までそんな。私、殿下のようなお優しくて強い方に、お守りしていただきたいんですぅ。……レーズン様みたいな、シワシワで性格の悪い女よりも、私の方がずっと殿下を癒やして差し上げられますわぁ!」
ヴィンセントの眉間が、この世の終わりかと思うほど深く刻まれた。
彼の周囲の空気が、一瞬で絶対零度まで急降下する。
「……今、君はなんと言った? レーズンを……『シワシワで性格が悪い』と言ったのか?」
「そうですぅ! あんな毒を吐くだけの女、殿下にはふさわしくありませんわ! 殿下には、私のような可愛くて……」
「……黙れ。汚らわしい」
ヴィンセントは、縋り付いていたララの手を無慈悲に振り払った。
ララは床を数メートル転がり、呆然として彼を見上げた。
「……君のその、ヘドロに砂糖をまぶしたような甘ったるい声。聞いているだけで私の鼓膜が腐敗しそうだ。……癒やし? そんな生産性のないものを、私がいつ求めた? 私は、彼女の吐く鋭利な毒によってのみ、生を実感できるのだ」
「え、えぇ……!? 毒……!?」
「そうだ。レーズンの罵倒は、研ぎ澄まされたダイヤモンドの刃だ。それに比べて君の言葉は、ただの湿った生ゴミの臭いだ。……不快だ、今すぐ私の視界から消えろ。君が吸っている空気が、彼女に届くと思うだけで、私はこの会場ごと君を焼却したくなる」
私は扇子をパタパタと仰ぎながら、床に這いつくばるララを見下ろした。
「……ヴィンセント、正解よ。あなたのその、ゴミをゴミとして正しく認識する能力だけは、唯一評価してあげてもいいわ。……さて、ララさん。王国でも言ったはずだけれど、あなたのその『他人の資産に寄生する』というビジネスモデル、もう破綻しているわよ」
「レ、レーズン様……! あなたさえ、あなたさえいなければ、私は今頃王妃に……!」
「王妃? 笑わせないで。あなたの知能指数では、王妃どころか王宮の地下にあるネズミの餌やり当番すら務まらないわ。……あなたが帝国まで来た旅費、どこから工面したのかしら? ……あら、調べてみたら、セドリック殿下が最後の手切れ金として持っていた、王宮の銀食器を盗んで売ったそうね」
「な……っ!? なぜそれを……!」
「私の情報網を舐めないで。……ヴィンセント、この女は窃盗、および不法入国の現行犯よ。帝国の法律では、こういう『移動式の汚物』はどう処理されるのかしら?」
「……そうだな。通常なら強制送還だが、我が国の名誉を汚した罪は重い。……ガルフ、この女を一番過酷な、石鹸工場の下働きにでも放り込んでおけ。……全身の汚れと共に、その醜い根性まで洗い流してこい」
「ハッ! 承知いたしました、ヴィンセント殿下!」
「嫌ぁぁぁ! 石鹸工場なんて、私の肌が荒れちゃうぅぅ! ぴえん、ぴえん、ぴえーーん!!」
ララは、もはや誰も同情しない情けない悲鳴を上げながら、ガルフの部下たちに引きずられていった。
彼女が去った後の床には、涙ではなく、剥がれ落ちた厚化粧の跡だけが虚しく残っていた。
「……ふう。これでようやく、会場の空気清浄度(クリーンレベル)が戻ったわね」
「すまない、レーズン。あんな下俗なものに君の名前を呼ばせてしまった。……お詫びに、さっきの『唯一評価してあげてもいい』という言葉を、もっと詳しく、一万語ほど使って私に浴びせてくれないか?」
「一万語? ……あなたのその、底なしの強欲さには呆れるわね。……いいわ、今夜の残業の合間に、あなたの欠点を一から百までリストアップして、音読してあげるわよ。感謝しなさい、このロイヤル粗大ゴミ」
「……っ、ありがとうございます! 一生、君の汚点として仕え続けます!」
周囲の貴族たちは、もはや何を見せられているのか分からないといった表情で固まっていた。
だが、確信したはずだ。
帝国の未来を握るのは、この美しくも冷酷な「悪役令嬢」と、彼女に心酔する「変態皇子」なのだと。
大公の連行が終わり、静寂が戻りかけた会場。
そこへ、ボロボロのドレスを翻し、なりふり構わずヴィンセントの足元へ縋り付いた影があった。
王国でセドリックを捨て、新たな「財布」を求めて帝国まで密航してきた女、ララ・フワリンである。
「殿下ぁ……! アストラ帝国のヴィンセント殿下ですよね!? 私、ララと言いますぅ……。王国で、あの恐ろしいレーズン様にいじめられて、居場所をなくしてしまった可哀想な令嬢なんですぅ……。ぴえん」
ララは、涙で濡れた瞳(自称・宝石)を潤ませ、上目遣いでヴィンセントを見上げた。
セドリックを虜にしたその「ぴえん」の技が、帝国の皇子にも通じると信じて疑っていないようだ。
「……レーズン。この生物、何と言っているんだ? 私の耳が、あまりにも低レベルなノイズを検知して、自動的にシャットダウンしてしまったようなのだが」
ヴィンセントは、足元のララをまるで「落ちていた濡れ雑巾」を見るような目で見下ろした。
その冷淡な声に、ララは一瞬ひるんだが、すぐにさらに声を震わせた。
「ひどいですぅ……殿下までそんな。私、殿下のようなお優しくて強い方に、お守りしていただきたいんですぅ。……レーズン様みたいな、シワシワで性格の悪い女よりも、私の方がずっと殿下を癒やして差し上げられますわぁ!」
ヴィンセントの眉間が、この世の終わりかと思うほど深く刻まれた。
彼の周囲の空気が、一瞬で絶対零度まで急降下する。
「……今、君はなんと言った? レーズンを……『シワシワで性格が悪い』と言ったのか?」
「そうですぅ! あんな毒を吐くだけの女、殿下にはふさわしくありませんわ! 殿下には、私のような可愛くて……」
「……黙れ。汚らわしい」
ヴィンセントは、縋り付いていたララの手を無慈悲に振り払った。
ララは床を数メートル転がり、呆然として彼を見上げた。
「……君のその、ヘドロに砂糖をまぶしたような甘ったるい声。聞いているだけで私の鼓膜が腐敗しそうだ。……癒やし? そんな生産性のないものを、私がいつ求めた? 私は、彼女の吐く鋭利な毒によってのみ、生を実感できるのだ」
「え、えぇ……!? 毒……!?」
「そうだ。レーズンの罵倒は、研ぎ澄まされたダイヤモンドの刃だ。それに比べて君の言葉は、ただの湿った生ゴミの臭いだ。……不快だ、今すぐ私の視界から消えろ。君が吸っている空気が、彼女に届くと思うだけで、私はこの会場ごと君を焼却したくなる」
私は扇子をパタパタと仰ぎながら、床に這いつくばるララを見下ろした。
「……ヴィンセント、正解よ。あなたのその、ゴミをゴミとして正しく認識する能力だけは、唯一評価してあげてもいいわ。……さて、ララさん。王国でも言ったはずだけれど、あなたのその『他人の資産に寄生する』というビジネスモデル、もう破綻しているわよ」
「レ、レーズン様……! あなたさえ、あなたさえいなければ、私は今頃王妃に……!」
「王妃? 笑わせないで。あなたの知能指数では、王妃どころか王宮の地下にあるネズミの餌やり当番すら務まらないわ。……あなたが帝国まで来た旅費、どこから工面したのかしら? ……あら、調べてみたら、セドリック殿下が最後の手切れ金として持っていた、王宮の銀食器を盗んで売ったそうね」
「な……っ!? なぜそれを……!」
「私の情報網を舐めないで。……ヴィンセント、この女は窃盗、および不法入国の現行犯よ。帝国の法律では、こういう『移動式の汚物』はどう処理されるのかしら?」
「……そうだな。通常なら強制送還だが、我が国の名誉を汚した罪は重い。……ガルフ、この女を一番過酷な、石鹸工場の下働きにでも放り込んでおけ。……全身の汚れと共に、その醜い根性まで洗い流してこい」
「ハッ! 承知いたしました、ヴィンセント殿下!」
「嫌ぁぁぁ! 石鹸工場なんて、私の肌が荒れちゃうぅぅ! ぴえん、ぴえん、ぴえーーん!!」
ララは、もはや誰も同情しない情けない悲鳴を上げながら、ガルフの部下たちに引きずられていった。
彼女が去った後の床には、涙ではなく、剥がれ落ちた厚化粧の跡だけが虚しく残っていた。
「……ふう。これでようやく、会場の空気清浄度(クリーンレベル)が戻ったわね」
「すまない、レーズン。あんな下俗なものに君の名前を呼ばせてしまった。……お詫びに、さっきの『唯一評価してあげてもいい』という言葉を、もっと詳しく、一万語ほど使って私に浴びせてくれないか?」
「一万語? ……あなたのその、底なしの強欲さには呆れるわね。……いいわ、今夜の残業の合間に、あなたの欠点を一から百までリストアップして、音読してあげるわよ。感謝しなさい、このロイヤル粗大ゴミ」
「……っ、ありがとうございます! 一生、君の汚点として仕え続けます!」
周囲の貴族たちは、もはや何を見せられているのか分からないといった表情で固まっていた。
だが、確信したはずだ。
帝国の未来を握るのは、この美しくも冷酷な「悪役令嬢」と、彼女に心酔する「変態皇子」なのだと。
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