お黙りなさい!婚約破棄された毒舌令嬢は甘くない毒を吐く

ちゃっぴー

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「……ちょっと、ヴィンセント。この帝国の予算案を作成した担当者を、今すぐ私の前に引きずり出してきてくださる? 『予備費』という名の項目が、まるで食べ残したスープのカスのようにあちこちに散らばっているわ。この非効率な帳簿を見るだけで、私の視力が三段階ほど低下した気がするのだけれど」

アストラ帝国の皇宮、その一角にある私の執務室。
そこは今や、帝国の全ての情報と数字が集積される「心臓部」と化していた。
かつての隠居計画はどこへやら、私は連日、帝国の腐りきった行政システムを外科手術のように切り刻む日々を送っている。

「……おはよう、レーズン。朝から君のその、一切の妥協を許さない『正論の咆哮』を聞けるなんて……私の耳は世界一の幸福者だ。……ちなみにその担当者は、君の視線の鋭さに耐えかねて、三分前に胃を押さえて医務室へ逃げ込んだよ」

「逃げた? ……まあ、驚いたわ。自分の無能から逃げ出せると思っているなんて、おめでたい脳みそだこと。……ガルフさん、その担当者のベッドに、今の予算案の修正箇所を千箇所ほど書き込んだ『呪いの手紙』を置いてきなさい。……寝言でも謝罪の言葉を吐くようになるまで、徹底的に追い詰めるのよ」

「ハッ! 了解いたしました、レーズン様! 教育的指導(物理的な精神攻撃)を開始します!」

影のように控えていたガルフが、嬉々として部屋を飛び出していく。
……この騎士団長も、最近は私の毒に当てられて、部下を「掃除」する楽しさに目覚めてしまったようね。

「……ふう。それで? ヴィンセント。あなたの今日の仕事は何かしら? 私の隣で、その無駄に整った顔を緩ませて、二酸化炭素を排出するだけのマシーンになることが目的?」

「心外だな。私は君の『盾』であり、君が捨てた不要な書類を細断する『シュレッダー』としての役目を完璧にこなしているつもりだよ。……あと、君の罵倒を一言も漏らさず記憶に刻み込むという、極めて高度な知的作業もね」

「……シュレッダー? あら、今のあなたの仕事ぶりなら、よく訓練されたヤギに紙を食べさせる方がまだ役に立つわ。……いい? 私の時間は一秒が一万ゴールドの価値があるのよ。……あなたのその、私の集中力を削ぐ不敵な微笑みにかかる罰金、今月分だけで帝国の一つや二つ、買い取れる額に達しているわよ?」

「……っ、帝国を買い取れるほどの罰金! ああ、私の存在そのものが君への負債になるなんて……最高の契約だ!」

ヴィンセントが私のデスクに手をつき、情熱的な視線を送ってくる。
私は手に持っていた羽ペンの先を、彼の鼻先にピタリと突きつけた。

「……動かないで。一ミリでも動いたら、その高い鼻を、私の嫌いなキュウリの形に成形してあげるわ。……さて、午後の閣僚会議の準備はできているのかしら? 今度はどの大臣を社会的抹殺にするか、もう決めてあるのよ」

「……ああ。君の処刑リストに載っている面々は、今頃全員で震えながら遺書を書いているよ。……レーズン、君がこの国に来てから、帝国の不祥事は昨月比で九割減少した。……みんな、君に罵倒されるのが怖くて、必死に『有能な人間』のフリをし始めたんだ」

「フリ? ……いいわよ、一生フリをし続けなさいな。……嘘も百回言えば真実になるけれど、無能も千回強制労働させれば、少しはマシな部品になるでしょう。……私はこの国を、一つの淀みもない、完璧に調整された魔導時計のように作り変えてあげるわ」

私は立ち上がり、窓の外に広がる帝都の街並みを眺めた。
王国では、私の言葉は「可愛げのない毒」として忌み嫌われていた。
だが、この帝国では、私の毒は「国を治す薬」として、ある者は恐れ、ある者は(ヴィンセントのように)狂信的に崇拝している。

「……レーズン。君は、今、幸せかな?」

ヴィンセントが、珍しく真剣な声で問いかけてきた。
私は扇子を翻し、彼を冷たく、しかしどこか満足げな目で見つめた。

「幸せ? ……そんな抽象的で、数字で証明できない概念に興味はないわ。……ただ、目の前にある無数の『ゴミ』を、自分の手で一つずつ片付けていく作業は……そうね。精々、三ツ星レストランのデザートよりは、マシな気晴らしにはなっているわよ」

「……はは、君らしい答えだ。……さあ、行こうか。……世界で最も厳しく、そして最も正しい、私たちの『政務』という名のデートへ」

「デートじゃないわ。……無能の根絶やし(ジェノサイド)よ。……遅れないで、私の汚点(ヴィンス)。あなたの歩幅が私と三ミリでもズレたら、今日からあなたの寝床は、馬小屋の隅に変更するから」

「……了解した、私の女王!」

私の新生活。それは、王国の頃よりもずっと忙しく、ずっと毒に満ちている。
けれど、私の言葉を理解し、その毒に酔いしれる「最高のゴミ」が隣にいる限り。
私の毒舌は、どこまでも高く、鋭く、世界を貫いていくのだ。
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