悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー

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王都の夜会。シャンデリアの輝きの下、クロード伯爵は浮気相手の腰を抱き、ナルシスト全開の笑顔を振りまいていた。
「やはり、真の美しさを理解できるのは君だけだ。マリアのような、意思の疎通もままならない人形では刺激が足りなくてね」
その言葉に、周囲の貴族たちがクスクスと下卑た笑いを漏らす。
そこに、静寂が訪れた。

会場の扉が開き、一人の女性が足を踏み入れる。
マリア・ベル公爵令嬢。
だが、その姿は昨日の「儚げな綿菓子」ではない。
背筋を鋭く伸ばし、顎を上げ、獲物を定める鷹のような三白眼(※アクア直伝のメイク)を周囲に飛ばしている。

「あら。ゴミの不法投棄でもされているのかと思いましたら、クロード様ではありませんか」
そのドスの利いた、しかし透明感のある声が会場に響き渡った。

「マ、マリア……? 何だその格好は。それにその失礼な物言いは――」
「失礼? いいえ、客観的な事実に基づいた評価ですわ。不燃物(あなた)を片付ける手間を考えて、少し気分を害しただけです」
マリアは優雅に扇子を広げ、アクア直伝の「見下しポーズ」を完璧に決めた。

私は会場の隅で、ゼノとリルと一緒にワインを飲みながら(もちろん公爵家のコネで無料だ)、その様子を見守っていた。
「お姉様! 見てください! あの口角の上げ方、三十点から一気に八十五点まで上昇しましたわ!」
「ええ、筋がいいわねマリア様。……さあ、ここからが本番よ」

マリアは怯むクロード伯爵の前に立ち、ドレスの隠しポケットから一枚の紙――ではなく、三枚綴りの複写式書類を取り出した。
「クロード様。あなたがこれまでに、我が公爵家からの援助金を使ってそのお隣の方に贈られた宝石、および夜会の会費。すべて計算させていただきましたわ」

「な、何を……! 婚約者同士の贈り物に、金を返すなどと!」
「『婚約者』という契約が有効である間は、確かに贈与として扱われましたでしょうね。ですが、契約不履行――つまり、あなたの不貞が発覚した今、これは『不当利得』に該当いたしますわ」

マリアは事務的な手つきで、書類の一枚をクロードの胸元に叩きつけた。
「合算して、金貨三百枚。あ、お隣の令嬢に奢ったパフェ代の利息も含めてあります。三日以内に返済がない場合、あなたの領地の抵当権を行使させていただきますわね」

「て、抵当権だと!? いつの間にそんな契約を!」
「先月のあなたの誕生日に、私が渡した『愛の誓約書(※超極小文字で借用証書の特約付き)』に、あなたは自分でサインなさいましたでしょう? 『君の愛なら何にでもサインするよ』と仰りながら」

会場がざわめきから、爆笑へと変わる。
クロード伯爵は顔を真っ赤にし、プルプルと震えながら叫んだ。
「こ、こんな横暴が許されるか! マリア、君は……君はもっと優しくて、僕の言うことを何でも聞く女だったはずだ!」

マリアは、かつての彼女なら決して見せなかった「冷徹な笑み」を浮かべた。
「ええ。ですが、無料のサービス期間は終了いたしましたの。これからは有料……いえ、高額納税者として接していただきますわ」

「マリア様、トドメですわ!」
リルの小声の合図と同時に、マリアは一歩前に出た。
「婚約破棄、承らせていただきます。……あ、お帰りの際は、私の視界を汚した清掃代として、玄関の門番に銀貨三枚置いていってくださいな。それでは、さようなら、低所得者(精神的な意味で)さん」

クロード伯爵はその場に崩れ落ち、周囲からは拍手喝采が巻き起こった。
マリアは一礼し、こちらに向かって歩いてくる。
その足取りは、かつての迷いを感じさせないほど力強い。

「アクア様、リル様! 私、やりましたわ! あんなに胸がすく思いをしたのは初めてです!」
「合格よ、マリア様。特に最後の『低所得者』というフレーズ、センスを感じたわ。……さて、リルさん。成功報酬の請求書をマリア様に」

「はいっ、お姉様! あ、マリア様、これお祝いの『卵1円割引券(有効期限:本日中)』ですわ!」
「まあ、ありがとうございます! 早速帰りに寄りますわね!」

意気揚々と語り合う二人を見送りながら、ゼノが私の隣で深い溜息をついた。
「……なぁ、アクア。お前、本当にこの国をどうするつもりだ? 淑女たちがみんな、お前みたいな『歩く計算機』になりつつあるぞ」

「あら、いいことではありませんか。感情で動くより、数字で動く方が争いは減りますわよ。……それよりゼノ、私の分のご飯(ブッフェの残り)を確保しておいてくれたかしら?」

「お前なぁ……。ほら、最高級のローストビーフだ。お前のために皿ごと確保しておいたよ。無料(タダ)だぞ、喜べ」

「さすが見どころがありますわね、ゼノ。……よし、マリア様の案件が片付いたところで、次はもっと大きな『負債』を抱えたカモ、いえ、お客様を探しましょうか」

夜会の喧騒の中、私は肉を頬張りながら、次なる利益(と、ちょっぴりの正義)に思いを馳せるのであった。
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