悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー

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「アクア・ラズライト! 覚悟しろ! 今日こそ貴様の不届きな商売に引導を渡してやる!」

朝の爽やかな空気。
それを切り裂くようにして、またしてもジュリアス殿下が相談所に乗り込んできた。
しかも今回は一人ではない。
王宮の役人たちを数人引き連れ、手には金縁の豪華な巻物を握りしめている。

「……あら、殿下。昨日の『出入り禁止』の看板、読み上げ機能をつけて差し上げればよろしかったかしら?」

私は優雅に椅子に座ったまま、特売のチラシを整理する手を止めずに応対した。
殿下は勝ち誇ったように、その巻物を私の鼻先に突きつける。

「フン、吠えるのも今のうちだ! これは王命による『営業停止命令書』である! 無許可での相談業務、および貴族の品位を汚す過度な営利活動……これらを罪状とし、この相談所を即刻封鎖する!」

役人たちが一斉に、事務所の壁に封印の紙を貼ろうと動き出す。
だが、その時。
私の隣で「シュレッダー」の準備をしていたリルが、信じられないほどの速さで役人の腕を掴んだ。

「お姉様の聖域に、そんな下俗な紙を貼らせるわけにはいきませんわ! 殿下、この命令書……紙質が最高級の羊皮紙ですね? これ一枚で、平民が三日は暮らせるお値段ですわ。なんて無駄遣い!」

「そこかよ! おいリル、離せ! これは正式な手続きなんだぞ!」

殿下が喚き散らす中、私はゆっくりと立ち上がり、命令書をひょいと取り上げた。
そして、その内容を一瞥して鼻で笑う。

「……殿下。この命令書の第百二十四条、および商務規定の附則第三項をお読みになりました?」

「な、何だそれは。そんな細かいことは役人に任せて――」

「だからあなたは『負債』なのですわ。……この国において、公爵家が所有する私有地内での『慈善活動を兼ねた個人的相談』は、納税義務こそあれど、営業許可の対象外ですわ。私はここを『悪役令嬢による精神修養の場』として届け出ておりますの」

「せ、精神修養……?」

「ええ。悩める令嬢たちに、私の高潔な精神(と節約術)を叩き込む教育機関、という扱いですわ。教育は王室の干渉を受けない……これは建国以来の不可侵条約ですわよね?」

殿下は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、後ろの役人たちを振り返った。
役人たちは気まずそうに目を逸らし、小声で「……はい、確かにその通りでございます」と囁く。

「な、ならば『貴族の品位を汚す』という点についてはどうだ! 金、金と卑しくも口にする公爵令嬢など、品位の欠片もない!」

「あら、心外ですわ。国の富を正確に把握し、無駄を削ぎ落とすことこそ、真の貴族の義務ではありませんか? 品位だけで腹が膨れるなら、今すぐこの国の貧民層にあなたの『品位』を配って差し上げなさいな」

私は扇子で殿下の胸元をトン、と突いた。

「それに、殿下。……この営業停止命令を発行するために、わざわざ臨時議会を招集したそうですわね? その議事録作成費用、会場の設営費、および役人の残業代……合計で金貨五十枚相当の国税が投入されたと聞き及びましたわ」

「そ、それがどうした! 貴様を止めるためなら安いものだ!」

「安くありませんわ。その金貨五十枚があれば、王都の孤児院の屋根をすべて新調できました。……つまり殿下。あなたは、ご自分の個人的な『アクアへの嫌がらせ』のために、子供たちの安眠を奪ったことになりますわね」

その瞬間、事務所の外に集まっていた見物人(平民たち)から、「ひどい……」「王子様ってそんな人だったの?」という冷ややかな声が漏れ始めた。

「な、何っ!? ち、違う、私はただ、正義のために……!」

「正義とは、数字の裏付けがあって初めて成立するものですわ。……さあ、殿下。不当な理由による営業妨害、および私のスタッフに対する精神的苦痛。さらに、この貴重な羊皮紙の資源浪費罪。……すべて合算して、先日の慰謝料に上乗せさせていただきますわね」

私はリルの差し出した、三枚綴りの「損害賠償請求書」に、サラサラと追加の数字を書き込んだ。

「あ、それから。この命令書、裏面が白紙ですわね。もったいないので、私のメモ帳として再利用させていただきます。……リルさん、殿下を『納税の義務を忘れた哀れな迷い子』として、門の外へご案内して」

「はい、お姉様! さあ殿下、子供たちの屋根代を返すために、まずはその金ピカのボタンを置いていってくださいな!」

リルが殿下の胸ぐらを掴み、容赦なく外へと引きずり出していく。
殿下は「ま、待て! 私は王子だぞ! そんな目で見ないでくれぇぇ!」と叫びながら、民衆の冷たい視線の中に消えていった。

「……ふぅ。朝から大きな『損失』の対応で、肩が凝りましたわ」

私は椅子に座り直し、殿下が置いていった最高級の羊皮紙に「本日の特売:キャベツ三割引き」と大きくメモを書いた。
すると、部屋の隅で事の顛末を見ていたゼノが、肩を震わせて笑い出した。

「……アクア。お前、ついに王子を『子供の敵』に仕立て上げたな。政治家としての才能がありすぎるぞ」

「失礼ね、ゼノ。私はただ、事実を述べただけですわ。……あ、それよりゼノ」

「今度はなんだ? 肩揉みか?」

「いえ。……この羊皮紙、すごく書き心地がいいんですの。ゼノの騎士団で余っているものがあれば、格安で払い下げてもらえませんかしら?」

「……お前、本当に隙がないな」

ゼノは呆れながらも、私の机に新しいお茶を置いてくれた。
不当な権力には屈しない。なぜなら、権力よりも「計算」の方が、この世界では遥かに強いからですわ。
私は新調したメモ帳を眺めながら、次なる「利益」の香りを嗅ぎ取るのであった。
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