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「……はぁ。やっと終わりましたわ。一日でこれほどハンコを押したのは人生で初めてです」
深夜の宰相執務室。
私はデスクに突っ伏し、重い溜息を吐き出した。
予算会議の後も、各部署からの「相談(という名の泣きつき)」が殺到し、気づけば窓の外は真っ暗。
「お疲れ様、リコ。君の采配のおかげで、この国の財政はあと数年は安泰だよ。……さあ、約束の『ご褒美』だ」
隣で涼しい顔をしていたシリウス様が、私の手首をクイッと引く。
鎖がチャリ、と鳴り、私は彼の膝の上へ……ではなく、強引に立たされて隣のプライベートダイニングへと促された。
「ご褒美って、ただの食事でしょう? 私は今、豪華なフルコースより、静かな部屋での十時間睡眠を欲しているのですが」
「まあそう言わずに。君の好きなものばかりを用意させたんだ。……ほら、座って」
案内されたテーブルには、キャンドルの火に照らされた絶品料理が並んでいた。
フォアグラのパテ、白身魚のポワレ、そしてメインは最高級牛の赤ワイン煮込み。
食欲をそそる香りに、私のお腹が小さく鳴った。
「……負けました。いただきますわ」
私はナイフとフォークを手に取ろうとした。
しかし、左手首が鎖で繋がれているため、どうしても動きが制限される。
「……シリウス様。食事の間だけでも、この手錠、外せませんか? これではお肉が上手く切れません」
「いいや、外さない。逃亡の隙を与えるわけにはいかないからね」
「食事中にどうやって逃げるんですか。窓から飛び降りろと?」
「君ならやりかねない。……代わりに、私が切ってあげよう。はい、あーん」
シリウス様が、手際よく切り分けたお肉を私の口元へ運んできた。
……またこれだ。
「……自分で食べられます」
「拒否権はないよ。君は疲れているんだろう? 甘えるのも仕事のうちだ」
「どんなブラック校則ですか、それは」
私は屈辱に頬を染めながら、差し出されたお肉をパクりと口にした。
……美味しい。悔しいけれど、とろけるような絶品だ。
「美味しいかい?」
「……素材がいいだけです」
「ふふ、素直じゃないね。……次はこれだ」
その後も、シリウス様は甲斐甲斐しく私に食事を運び続けた。
一口ごとに「いい子だ」「よく噛んで」などと、まるで子供かペットを扱うような言葉を添えて。
「……閣下。いい加減にしてください。私はこれでも公爵令嬢ですのよ。こんな……恥ずかしい……っ」
「恥ずかしがる必要なんてない。ここは二人きりだ。……それとも、もっと情熱的な『ご褒美』の方がよかったかな?」
シリウス様が、不意に私の顔を覗き込んできた。
至近距離。
彼の氷の瞳に、困惑した私の顔が映り込んでいる。
「な、何を……」
「リコ。君は自分がどれだけ愛されているか、本当に理解していないようだ」
彼は空いている方の手で、私の頬をそっとなぞった。
指先の熱が、冷え切った私の肌にじわりと染み込んでくる。
「……私は、君が欲しくてたまらなかった。殿下の隣で、死んだような目で書類を捌いている君を見るたびに、その首に鎖を繋いで、私の元へ連れ去りたいと願っていたんだ」
「……っ」
冗談だと思っていた「執着」の言葉が、重みを伴って胸に刺さる。
「君を追放した殿下には感謝しているよ。おかげで、こうして君を私の支配下に置くことができた」
「支配下……。貴方は、私の能力が惜しかっただけでしょう?」
「能力? ああ、それも素晴らしい。だが、私が一番欲しかったのは、その不敵な微笑みと、私を罵倒するその唇だ」
シリウス様の顔が、さらに近づく。
逃げようとしても、鎖がガチャリと音を立てて逃げ道を塞ぐ。
物理的にも、精神的にも、私はこの男の網の中にいた。
「リコ……。逃がさないと言っただろう? 一生、私の隣で、私のために知恵を絞り、私だけを見つめていればいい」
「……傲慢ですわ、宰相閣下」
「傲慢で結構。私は欲しいものは必ず手に入れる主義なんだ」
彼の唇が、私の耳元をかすめる。
「明日は休暇を与える。……ただし、私のベッドの上で過ごしてもらうことになるがね」
「…………はい?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「な、何を仰って……! 仕事が山積みですわよ! 休暇なんて取っている暇は……」
「仕事は私が終わらせておいたよ。君はただ、私に甘やかされていればいい」
シリウス様は満足げに微笑むと、私の首筋に軽く唇を落とした。
背中をゾクゾクとした戦慄――いや、甘い痺れが駆け抜ける。
(……まずいわ。この男、本気で私をダメにする気だ……!)
ブラック労働からの解放を願っていたけれど、代わりに待っていたのは、逃げ場のない「溺愛」という名の監獄。
私は熱くなる顔を隠すように、シリウス様の胸板を弱々しく押し返した。
「……最低ですわ。貴方のような執念深い男、お断りです」
「嫌よ嫌よも、好きのうち……だろう?」
鎖が甘い音を立てて鳴る。
夜はまだ始まったばかり。
私の「自由」への戦いは、どうやら方向転換を余儀なくされたようだった。
深夜の宰相執務室。
私はデスクに突っ伏し、重い溜息を吐き出した。
予算会議の後も、各部署からの「相談(という名の泣きつき)」が殺到し、気づけば窓の外は真っ暗。
「お疲れ様、リコ。君の采配のおかげで、この国の財政はあと数年は安泰だよ。……さあ、約束の『ご褒美』だ」
隣で涼しい顔をしていたシリウス様が、私の手首をクイッと引く。
鎖がチャリ、と鳴り、私は彼の膝の上へ……ではなく、強引に立たされて隣のプライベートダイニングへと促された。
「ご褒美って、ただの食事でしょう? 私は今、豪華なフルコースより、静かな部屋での十時間睡眠を欲しているのですが」
「まあそう言わずに。君の好きなものばかりを用意させたんだ。……ほら、座って」
案内されたテーブルには、キャンドルの火に照らされた絶品料理が並んでいた。
フォアグラのパテ、白身魚のポワレ、そしてメインは最高級牛の赤ワイン煮込み。
食欲をそそる香りに、私のお腹が小さく鳴った。
「……負けました。いただきますわ」
私はナイフとフォークを手に取ろうとした。
しかし、左手首が鎖で繋がれているため、どうしても動きが制限される。
「……シリウス様。食事の間だけでも、この手錠、外せませんか? これではお肉が上手く切れません」
「いいや、外さない。逃亡の隙を与えるわけにはいかないからね」
「食事中にどうやって逃げるんですか。窓から飛び降りろと?」
「君ならやりかねない。……代わりに、私が切ってあげよう。はい、あーん」
シリウス様が、手際よく切り分けたお肉を私の口元へ運んできた。
……またこれだ。
「……自分で食べられます」
「拒否権はないよ。君は疲れているんだろう? 甘えるのも仕事のうちだ」
「どんなブラック校則ですか、それは」
私は屈辱に頬を染めながら、差し出されたお肉をパクりと口にした。
……美味しい。悔しいけれど、とろけるような絶品だ。
「美味しいかい?」
「……素材がいいだけです」
「ふふ、素直じゃないね。……次はこれだ」
その後も、シリウス様は甲斐甲斐しく私に食事を運び続けた。
一口ごとに「いい子だ」「よく噛んで」などと、まるで子供かペットを扱うような言葉を添えて。
「……閣下。いい加減にしてください。私はこれでも公爵令嬢ですのよ。こんな……恥ずかしい……っ」
「恥ずかしがる必要なんてない。ここは二人きりだ。……それとも、もっと情熱的な『ご褒美』の方がよかったかな?」
シリウス様が、不意に私の顔を覗き込んできた。
至近距離。
彼の氷の瞳に、困惑した私の顔が映り込んでいる。
「な、何を……」
「リコ。君は自分がどれだけ愛されているか、本当に理解していないようだ」
彼は空いている方の手で、私の頬をそっとなぞった。
指先の熱が、冷え切った私の肌にじわりと染み込んでくる。
「……私は、君が欲しくてたまらなかった。殿下の隣で、死んだような目で書類を捌いている君を見るたびに、その首に鎖を繋いで、私の元へ連れ去りたいと願っていたんだ」
「……っ」
冗談だと思っていた「執着」の言葉が、重みを伴って胸に刺さる。
「君を追放した殿下には感謝しているよ。おかげで、こうして君を私の支配下に置くことができた」
「支配下……。貴方は、私の能力が惜しかっただけでしょう?」
「能力? ああ、それも素晴らしい。だが、私が一番欲しかったのは、その不敵な微笑みと、私を罵倒するその唇だ」
シリウス様の顔が、さらに近づく。
逃げようとしても、鎖がガチャリと音を立てて逃げ道を塞ぐ。
物理的にも、精神的にも、私はこの男の網の中にいた。
「リコ……。逃がさないと言っただろう? 一生、私の隣で、私のために知恵を絞り、私だけを見つめていればいい」
「……傲慢ですわ、宰相閣下」
「傲慢で結構。私は欲しいものは必ず手に入れる主義なんだ」
彼の唇が、私の耳元をかすめる。
「明日は休暇を与える。……ただし、私のベッドの上で過ごしてもらうことになるがね」
「…………はい?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「な、何を仰って……! 仕事が山積みですわよ! 休暇なんて取っている暇は……」
「仕事は私が終わらせておいたよ。君はただ、私に甘やかされていればいい」
シリウス様は満足げに微笑むと、私の首筋に軽く唇を落とした。
背中をゾクゾクとした戦慄――いや、甘い痺れが駆け抜ける。
(……まずいわ。この男、本気で私をダメにする気だ……!)
ブラック労働からの解放を願っていたけれど、代わりに待っていたのは、逃げ場のない「溺愛」という名の監獄。
私は熱くなる顔を隠すように、シリウス様の胸板を弱々しく押し返した。
「……最低ですわ。貴方のような執念深い男、お断りです」
「嫌よ嫌よも、好きのうち……だろう?」
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