この最強悪役令嬢、実は平穏を愛する!

ちゃっぴー

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「到着したぞ……。我が国、栄光の王宮へ」


飛空艇が、王宮の専用ポートに静かに着陸した。


国王陛下が、まるで「魔窟」の入り口に立ったかのような、重苦しい声で呟く。


タラップが下ろされ、赤絨毯が敷かれる。


通常であれば、国王の帰還を祝うファンファーレが鳴り響くところだが、今日の王宮は奇妙なほど静まり返っていた。


「……空気が淀んでいますわね」


私はタラップを降りながら、ハンカチで口元を覆った。


そこら中に、疲労と絶望、そしてカフェインの匂いが充満している。


「やれやれ。数日留守にしただけで、ここまで荒廃するとは」


私の後ろで、クラウスが呆れたように肩をすくめる。


彼がタラップに足をかけた瞬間。


ヒュッ。


出迎えに並んでいた近衛兵たちの喉が鳴る音が、一斉に聞こえた。


「き、来たぞ……!」


「『氷の宰相』と……『鉄の女(マグナ様)』だ!」


「ひぃっ! 目が合った! 石にされる!」


兵士たちが直立不動のまま、ガタガタと震え始める。


彼らは知っているのだ。


私たちがここにいるということは、これから「地獄の残業祭り」が開催されるということを。


「陛下。まずは執務室へ向かいます。現状把握が最優先ですので」


私は兵士たちの怯えを無視し、陛下に指示を出した。


「う、うむ。案内しよう」


国王が先導し、私とクラウスが続く。


その並びは、どう見ても「連行される国王と、その看守たち」にしか見えない。


王宮の長い廊下を歩く。


コツン、コツン、コツン。


私のヒールの音が、大理石の床に冷たく響き渡る。


その音が近づくにつれ、廊下の向こうで働いていた文官たちの動きが、ピタリと止まるのがわかった。


「あ……あ……」


書類を抱えた若い文官が、角を曲がったところで私と鉢合わせになった。


彼は私の顔を見た瞬間、幽霊でも見たかのように顔面蒼白になり、


「ひでぶっ!?」


奇妙な悲鳴を上げて、その場に書類をぶちまけて気絶した。


「……あら」


私は足元に散らばった書類を一枚拾い上げた。


「財務省の月次報告書……。計算ミスが三箇所ありますわね。これでは気絶するのも無理はないわ」


私は赤ペンを取り出し(常に携帯している)、ササッと修正を入れて、気絶した彼の胸の上に置いた。


「行くわよ、クラウス」


「ああ。相変わらず、歩く災害だな君は」


私たちは屍(気絶した文官)を乗り越えて進んだ。


廊下を進むたびに、部屋の中から「ひぃっ!」「来た!」「隠れろ!」という悲鳴が聞こえ、扉がバタンバタンと閉ざされていく。


モーゼの十戒のごとく、私の前だけ道が開いていく。


(……快適ね。いつもこうなら移動時間が短縮できるのに)


そして、ついに私たちは王太子殿下の執務室の前に到着した。


「……ここだ。レオナルドは中にいるはずだ」


陛下が重い扉をノックしようとした、その時。


ドォォォン!!


中から何かが崩れるような音がした。


「!? レオナルド!」


陛下が慌てて扉を開ける。


そこには、地獄絵図が広がっていた。


部屋中を埋め尽くす書類、書類、書類。


その紙の山から、金髪の頭が辛うじて突き出ていた。


「……うぅ……もう無理だ……。数字が……文字が、僕を襲ってくるぅぅ……」


レオナルド殿下だった。


かつてのキラキラした王子様の面影はない。


髪はボサボサ、髭は伸び放題、目の下には隈ができ、頬はこけ、まるで遭難者のようだ。


「レオナルド様ぁぁ! 大丈夫ですかぁぁ!」


書類の山の向こうから、ミナ様が這い出してきた。


彼女もまた、ドレスはしわくちゃで、顔中インクだらけだ。


「あ、父上……? それに……」


殿下が虚ろな目でこちらを見る。


そして、私の姿を認めた瞬間。


カッ!


彼の目に、生気が戻った。


「マ、マグナ……!? マグナなのか!?」


殿下が書類の山をかき分けて、這いずりながら私に近づいてきた。


「戻ってきてくれたのか! やはり君は、僕を見捨てられなかったんだな! そうだと言ってくれ!」


殿下が泥だらけの手で、私のドレスの裾を掴もうとする。


バシィッ!!


私は持っていた扇子で、その手を躊躇なく叩き落とした。


「痛っ!?」


「気安く触らないでいただけますか、殿下。このドレスはレンタル品(父のコレクションから拝借)なのです。汚損した場合はクリーニング代を請求しますわよ」


私は冷徹に見下ろした。


殿下は呆然と私を見上げた。


「な、なんだその態度は! 婚約者に向かって……!」


「元、です。お忘れですか? それに、今の私は貴方の部下ではありません」


私は懐から、先ほど陛下と交わしたばかりの羊皮紙を取り出し、殿下の目の前に突きつけた。


「私は現在、国王陛下と『特別業務委託契約』を結んだ外部コンサルタントです。貴方とは対等なビジネスパートナーであり、指揮系統は陛下に直結しています」


「こ、こんさる……?」


「わかりやすく言えば、『貴方の尻拭いをしにきた有料の助っ人』です。一時間につき金貨10枚発生しますので、無駄話をしている暇はありません」


私はクラウスに目配せをした。


「クラウス、現状の確認を」


「了解だ。……ひどいな、これは」


クラウスが部屋を見渡し、数枚の書類を拾い上げた。


「決裁済みの箱に、未決裁の書類が入っている。重要度の分類もデタラメだ。……これは隣国への返信状の下書きか? 『うるさい、バーカ』と書いてあるが」


「なっ!?」


私はその紙をひったくった。


「殿下。これは何です?」


「だ、だって! ガルガディアの奴らが、生意気なことばかり言ってくるから……!」


「それをそのまま外交文書に書くバカがどこにいますか! これは宣戦布告と受け取られますよ!?」


私が怒鳴ると、殿下は「ひいぃっ」と縮こまった。


「もういいです。貴方はそこで座っていてください。呼吸以外のことは何もしないで」


私は部屋の中央に立ち、腕まくりをした。


「クラウス、やるわよ。まずはこのゴミ屋敷の掃除(整理)からよ!」


「ああ。……久々に腕が鳴るな」


私とクラウスは、同時に魔力を解放した。


ゴォォォッ!


部屋の中に風が巻き起こり、書類が渦を巻いて空中に舞い上がった。


「えっ? えっ?」と慌てる殿下とミナ様をよそに、私たちは超高速で書類の分類を開始した。


「要、不要、保留! 焼却、シュレッダー、保管!」


私たちの手から放たれる魔法が、書類を次々と仕分けていく。


その光景は、まさに台風。


王宮の歴史上、最も効率的で、最も乱暴な「大掃除」が始まった瞬間だった。


だが、これはまだ準備運動に過ぎない。


本当の戦い――『鉄血の外交官』との交渉は、明日、この場所で行われるのだ。
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