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第12話 招かれざる客
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出来上がった料理を配膳し、子供達が着席した時であった。
「ああ、困りますよ! 保護者のお迎えはまだまだ後ですよ!」
食堂の入り口付近で綾小路の困惑した声が聞こえるや否や、保護者らしき女性が乱入してきた。
「なんで子供達しか食べられないのよ! 余ってるんでしょ! 私にもちょうだいよ!」
女性は年の頃は四十代前後だが、キツめの濃いピンクのニットに蛍光イエローのスカート、その年齢には似合わないラメ入りのストッキング、化粧も濃く、どう見ても下品な水商売の女といった出で立ちだ。
「だから、食事はお子様達の分だけです!」
追い付いた綾小路が女性を連れ戻そうとしているが、手を払いのけてなおもキンキン声で叫ぶ。
「だって、そこのジジババも食べているじゃない!」
なおも興奮している女性を見て子供達が迷惑しているだろうにと思ったが、すみれは少し違和感に気づいた。子供達は派手な女性と美桜を見比べている。先ほどクスクス笑っていた坂本くんや田野中さんは美桜を見ながらニヤニヤしている。
「また池内のかーちゃんだぜ」
「またケバい格好だぜ、だっせえ」
「ああはなりたくねーよ」
「あーあ、早く食べたいのになー。誰かさんのせいで冷めちゃうなー」
当の美桜はうつむいて半泣きになっている。
なるほど、あの女性は美桜の母親であり、こうやって度々問題行動を起こしているから、子供達の間でも有名なのだろう。だから先ほどの調理時も子供達は美桜のことを嘲笑していたのだ。
このままだと子供達に悪影響だし食事も冷める、とにかく力ずくでもあの母親をつまみ出そうとすみれが立ち上がりかけた時、総一郎が宥め始めた。
「所長の浅葱と申します。お母さん。今回は子供達の食育が目的のためなので、保護者の分はありません。こちらのお年寄り達はこの苑の入居者で食育の協力者です。お土産に茹でタケノコを持たせますからそれで勘弁してください」
「何よ! アンタ……あら、イケメン」
興奮して睨みかけた母親は総一郎を見るや否や態度を軟化させた。
「まあ、そうねえ、あなたがそういうのならば。それでもいいかしら」
急にしなを作り、媚を売る態度に切り替わった。それは下品であり、滑稽そのものである。子供達が居なければ彼女の頭にバイシクルシュートでもくらわすのに、とすみれは歯噛みした。
「じゃあ、イケメンさんに免じて引っ込んであげるわ。美桜! あとで料理しなさいっ!」
当の美桜は俯いて恥じているのに気づかないのか、声をかけて女性は引っ込んでいった。
ようやく食事にありつけたが、なんだかしらけた空気が漂ってしまった。
「やれやれ、とんだ食育になってしまったね」
すみれが誰に対してでなくぼやく。
あのままだとあの母親は美桜に料理を押し付けると判断した総一郎によって、タケノコを料理してから美桜に渡すことになった。そのため、食育終了後ではあるが、苑には美桜だけ残ってもらっている。
タケノコを煮付けながら千沙子は語りかける。
「美桜ちゃん、もうちょっと待っててね」
「……すみません、私がやることなのに」
美桜は消え入りそうな声で返事をする。
「とんでもない! あの母親がおかしいのよ! 小学三年生に料理を押し付けるなんて」
悦子が余ったタケノコご飯でお握りを作りながら怒る。
「……」
ふと、すみれは気になって尋ねてみた。
「美桜ちゃん、お父さんはあんなお母さんを止めないのかい?」
「……お父さん、私が小さい頃に離婚して出て行っちゃったの」
「ああ、なんか済まないね」
予想していた答えではあるが、やはり聞いてはいけなかったかもしれないとすみれは内心で謝りながら気まずそうに答えた。
「おう、ついでに聞くが三食満足に食べてるか?昼は給食あるけど、朝や晩は?」
「……」
健三が尋ねたが美桜は黙ってうつむいた。答えが無くとも細い体に低い身長から察するものがあった。
すみれは優しく問いかけた。
「美桜ちゃん、あまり深くは聞かないがお母さんは昼も夜もいないだろ?」
「はい……」
「良ければ学校から帰った後、夕方までこの苑に遊びにくるといい」
「え、でも……」
「いいんだよ、ここは元々人が少なくってガラガラなんだし、子供がいた方がにぎやかになる。マンガやアニメもあるし、動画も観られる。なんなら私がサッカー教えてあげることもできるよ。これでもサッカーは上手なんだよ」
傍らに持っていたサッカーボールですみれは軽快にリフティングを始めた。くるくるとなめらかに動くボールに美桜は見とれる。
「すごーい、まるでボールが生き物みたいになついているように見える」
「すみれさん、保護者に無断でそんな勝手に決めてしまっていいのかしら」
千沙子が心配そうに異議を唱えるが、すみれは一蹴した。
「あれは保護者として機能していないよ。ここならおやつだって早めの夕飯だって提供できる。防犯上でも家でひとりぼっちよりいいでしょ。お金かかるというなら私のポケットマネーで補てんするよ。息子が厄介払いとばかりに小遣いは沢山貰ってきたからね」
「それはいいかもしれせんね。宿題も教えてあげることできますわ」
「おう、今のご時世は子供一人で留守番も危険だし、俺がこいつをちらつかせながら送っていけば安心だろ」
意外と乗り気なのは健三と悦子だった。特に健三はノリノリでAK47のモデルガンを掲げている。
「よし! 決まり! 浅葱さんはどうだい?」
すみれはボールを頭の上でバランスを取りながら尋ねる。
「それが人に物を尋ねる態度ではないですが……。まあ、構いませんけど、無断だとややこしくなるから、児相への報告と、イベントの結果報告がてら小学校の担任には話をしておきましょう」
「ああ、困りますよ! 保護者のお迎えはまだまだ後ですよ!」
食堂の入り口付近で綾小路の困惑した声が聞こえるや否や、保護者らしき女性が乱入してきた。
「なんで子供達しか食べられないのよ! 余ってるんでしょ! 私にもちょうだいよ!」
女性は年の頃は四十代前後だが、キツめの濃いピンクのニットに蛍光イエローのスカート、その年齢には似合わないラメ入りのストッキング、化粧も濃く、どう見ても下品な水商売の女といった出で立ちだ。
「だから、食事はお子様達の分だけです!」
追い付いた綾小路が女性を連れ戻そうとしているが、手を払いのけてなおもキンキン声で叫ぶ。
「だって、そこのジジババも食べているじゃない!」
なおも興奮している女性を見て子供達が迷惑しているだろうにと思ったが、すみれは少し違和感に気づいた。子供達は派手な女性と美桜を見比べている。先ほどクスクス笑っていた坂本くんや田野中さんは美桜を見ながらニヤニヤしている。
「また池内のかーちゃんだぜ」
「またケバい格好だぜ、だっせえ」
「ああはなりたくねーよ」
「あーあ、早く食べたいのになー。誰かさんのせいで冷めちゃうなー」
当の美桜はうつむいて半泣きになっている。
なるほど、あの女性は美桜の母親であり、こうやって度々問題行動を起こしているから、子供達の間でも有名なのだろう。だから先ほどの調理時も子供達は美桜のことを嘲笑していたのだ。
このままだと子供達に悪影響だし食事も冷める、とにかく力ずくでもあの母親をつまみ出そうとすみれが立ち上がりかけた時、総一郎が宥め始めた。
「所長の浅葱と申します。お母さん。今回は子供達の食育が目的のためなので、保護者の分はありません。こちらのお年寄り達はこの苑の入居者で食育の協力者です。お土産に茹でタケノコを持たせますからそれで勘弁してください」
「何よ! アンタ……あら、イケメン」
興奮して睨みかけた母親は総一郎を見るや否や態度を軟化させた。
「まあ、そうねえ、あなたがそういうのならば。それでもいいかしら」
急にしなを作り、媚を売る態度に切り替わった。それは下品であり、滑稽そのものである。子供達が居なければ彼女の頭にバイシクルシュートでもくらわすのに、とすみれは歯噛みした。
「じゃあ、イケメンさんに免じて引っ込んであげるわ。美桜! あとで料理しなさいっ!」
当の美桜は俯いて恥じているのに気づかないのか、声をかけて女性は引っ込んでいった。
ようやく食事にありつけたが、なんだかしらけた空気が漂ってしまった。
「やれやれ、とんだ食育になってしまったね」
すみれが誰に対してでなくぼやく。
あのままだとあの母親は美桜に料理を押し付けると判断した総一郎によって、タケノコを料理してから美桜に渡すことになった。そのため、食育終了後ではあるが、苑には美桜だけ残ってもらっている。
タケノコを煮付けながら千沙子は語りかける。
「美桜ちゃん、もうちょっと待っててね」
「……すみません、私がやることなのに」
美桜は消え入りそうな声で返事をする。
「とんでもない! あの母親がおかしいのよ! 小学三年生に料理を押し付けるなんて」
悦子が余ったタケノコご飯でお握りを作りながら怒る。
「……」
ふと、すみれは気になって尋ねてみた。
「美桜ちゃん、お父さんはあんなお母さんを止めないのかい?」
「……お父さん、私が小さい頃に離婚して出て行っちゃったの」
「ああ、なんか済まないね」
予想していた答えではあるが、やはり聞いてはいけなかったかもしれないとすみれは内心で謝りながら気まずそうに答えた。
「おう、ついでに聞くが三食満足に食べてるか?昼は給食あるけど、朝や晩は?」
「……」
健三が尋ねたが美桜は黙ってうつむいた。答えが無くとも細い体に低い身長から察するものがあった。
すみれは優しく問いかけた。
「美桜ちゃん、あまり深くは聞かないがお母さんは昼も夜もいないだろ?」
「はい……」
「良ければ学校から帰った後、夕方までこの苑に遊びにくるといい」
「え、でも……」
「いいんだよ、ここは元々人が少なくってガラガラなんだし、子供がいた方がにぎやかになる。マンガやアニメもあるし、動画も観られる。なんなら私がサッカー教えてあげることもできるよ。これでもサッカーは上手なんだよ」
傍らに持っていたサッカーボールですみれは軽快にリフティングを始めた。くるくるとなめらかに動くボールに美桜は見とれる。
「すごーい、まるでボールが生き物みたいになついているように見える」
「すみれさん、保護者に無断でそんな勝手に決めてしまっていいのかしら」
千沙子が心配そうに異議を唱えるが、すみれは一蹴した。
「あれは保護者として機能していないよ。ここならおやつだって早めの夕飯だって提供できる。防犯上でも家でひとりぼっちよりいいでしょ。お金かかるというなら私のポケットマネーで補てんするよ。息子が厄介払いとばかりに小遣いは沢山貰ってきたからね」
「それはいいかもしれせんね。宿題も教えてあげることできますわ」
「おう、今のご時世は子供一人で留守番も危険だし、俺がこいつをちらつかせながら送っていけば安心だろ」
意外と乗り気なのは健三と悦子だった。特に健三はノリノリでAK47のモデルガンを掲げている。
「よし! 決まり! 浅葱さんはどうだい?」
すみれはボールを頭の上でバランスを取りながら尋ねる。
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