バイオレンスサッカーばあちゃん、故郷に帰ったらテロを食い止めることになった件

達見ゆう

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第22話 子供たちの独走はすぐバレる

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「池内、今日も若葉苑行くんだろ?」

 浅葱小学校の三年一組の教室。帰りの会が終わり、ランドセルを背負いかけたところで、優太は美桜に声をかけた。

「うん、優太君も行くでしょ?」

「ああ、でも、その前に……」


「よお! お二人さん、デートかよ」

「ヒューヒュー、熱いねえ」

 最近、二人で話すことが増えたためか、クラスメイト達は面白がって囃した。

「そんなんじゃねえよ、施設にいるじいちゃんの見舞いだよ」

 優太が反論するも、クラスメイトは相変わらず冷やかしていく。

「なんだよ、見舞いデートかよ」

「おじいちゃん公認かあ、そういうのを外堀固めるって言うんだぜ」

「るせぇな。あー聞こえない聞こえない」

「で、優太君。何か言ってなかった?」

「あ、そうだ。じいちゃんの見舞い前に俺たちで肥料の捜索しないか?」

「え? だって千沙子おばあちゃん達が見つからなかったって……」

「そりゃ、時間少なかったからさ。まだ探してないところあるよ。生徒しか行けない場所とかあるだろ? そういう所を探索しようぜ」

「って、どこ?」

「え、えっと……」

 美桜が小首を傾げて尋ねると、優太は気まずそうな顔をしてさっさと歩き出した。

「とにかく歩いてみようぜ、なんか見つかるさ」

「えー、何も考えてないの。早く若葉苑に行こうよ。宿題見てもらいたいし」

「よーし、まずは西校舎からだ」

「人の話を聞いてないし」

 しぶしぶと美桜はランドセルを背負ったまま、優太の後を慌てて追い始めた。


「優太達、いつもより今日は来るのが遅いな。もしや、母ちゃんにここに通ってるのがバレたのか」

 健三が談話室の時計を見ながら、そわそわする。

「美桜ちゃんもまだ来ないし、いつもの時間より三十分遅いだけじゃないですか。掃除当番か栽培委員会の仕事かもしれませんよ」

 千沙子がすみれや健三達にお茶を注ぎながら宥めるように優しく語りかける。

「そういや、健さんは息子の嫁と仲悪かったので、ここへ来たのだっけ? ブービートラップがどうのとかで」

「大……すみれさん。ちょっと家庭の事情に踏み込むのは」

 すみれのやや無神経な発言を総一郎が止めようとしたが、健三はカラカラと笑いながら答えた。


「ああ、ちょっと教育番組を真似てピタゴラなんとかみたく居間にマリンバが鳴るように仕掛けたら、驚いた嫁がパニック起こしてテレビに激突してな。怪我は無かったが、買いたてのテレビが壊れてしまってな。息子夫婦共々こっぴどく叱られたのさ」

「お、おう。なんで、そこにマリンバ?」

 すみれがひきつりながら尋ねたと同時に鳴子の音が談話室中に響き、優太達が会話に入ってきた。

「ちょっと前にじいちゃんと一緒に動画で観たから」

「おう、優太達。遅かったな、どこで道草食ってた?」

「えっと、学校のた……」

「が、学校のクラブ活動を見学してたんだよ。来年からクラブ加入の学年だからさ」

 美桜が言いかけるのを慌てて優太が遮る。

「ふーん、よし、お前らの分のおやつを持ってきてやるから待ってろよ」

「じゃ、あたしゃ、庭でサッカーの準備をしてくるよ」

 二人が居なくなった談話室で優太達はひそひそ話を始めた。

(バカ、喋るなよ)

(なんでさ、探索してるのがバレちゃ困るの?)

(じいちゃん達にバレると面倒だろ。止められるに決まってる。それに俺たちだって活躍したいだろ?)

(うーん……純粋な少年探偵団みたいなもの?)

(まあ、そんなところさ)

「聞~いちゃった~、聞いちゃった~」

 ひょっこりとすみれが二人の間に割って入ったから、素っ頓狂な声を上げたのも同時だった。

「うわぁぁぁ!?」

「すね当て忘れたから取りに戻ったら、何やら楽しそうな話をしているねぇ。少年探偵団かぁ」

 ニヤニヤとすみれは何か思索している。

「しーっ! す、すみればあちゃん、じいちゃんには内緒にしておいて」

「じゃ、仲間に入れてよ。あの探索は千沙子さんたちでやってて、本当は私も参加したかったんだ」

「えー、少年探偵団じゃなくなる」

 優太が不満そうに異議を唱えるとすみれはもっともだとうなづいた。

「ふむ、確かに。じゃ、今度は私が安楽椅子探偵になるかい」

「安楽椅子探偵?」

「人から聞いた情報だけで名推理する探偵さ。こないだ君たちがゴミの中から手がかり見つけたみたいにさ。ええと、アガサクリスティのミスマープルとか、あれもおばあさんだね」

「池内、知ってる?」

「アガサクリスティは知ってるけど、それはまだ読んでない」

「まあ、まだ小学三年生じゃ、難しいからね。とにかく、あんたたちが探索してあたしに報告するんだ。それを元に推理したりアドバイスしよう。これならば実行部隊はあんたたち、私も参加しているからいいだろ?」

「えー……。わ、分かったよ」

 優太が不満げな顔をするが、健三がおやつを持ってきたので、慌ててうなづいた。

「よし、あとで学校の間取り図を書いてちょうだい。それで考えましょ。あとで秘密連絡のためのLINE交換もね」

「おう、三人でなんか楽しくやってるな」

「あ、えーと、すみれおばあちゃんにサッカー上達のコツを聞いてたの」

 とっさに美桜が誤魔化す。そういう機転は利くし、アガサ・クリスティも知っているし、ネグレクト児童にしては彼女は元々賢いし、それなりに頑張って勉強しているのだろう。

「で、すみれさんはなんて答えたんだ?」

「そ、そりゃあ、ポーンと飛んできたボールを足の角度を上手く使ってバーンと蹴ればゴールできるさね」

「……それ、どっかの野球選手並のアドバイスだな。というか、アドバイスになってねーぞ。ま、まずはおやつだ。今日は白玉入りフルーツポンチだぞ」

 とりあえず誤魔化せたようだ。三人はほっとした。
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