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第二章

第七話 関所での出来事…(あ〜またこれは、嫌な予感がする…)

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 マリーゴールド領から出て、スムーズに進んでいた。
 この調子で進んでいけば、ダレオリア港に着くのも時間の問題だと思っていたが…
 どうもそう簡単には行かないらしいのだった。

 「この先は関所ですね…さて、どうしますか?」

 僕等は、馬車の順番が来るまでの間…相談をした。

 「恐らくですが…僕の事は、関所には知れ渡っているでしょう。 そしてこの馬車に僕が乗っている事が解れば、取り調べ以外に厄介な事が起きるでしょう。」
 「厄介な事って何だ?」
 「この国の国王陛下からの召喚状をシカトした。」
 「ブッ…お前、国王から召喚状が出ていたのか⁉」
 「だから、ここで見つかると…強制的に城に連行されるんです。」
 「その可能性はあるな…」

 隠れてやり過ごそうにも、向こうには探索型の魔道具があるので隠れているとすぐにバレる。
 身分証の代わりにギルドカードの提示をしなければならないので、そこでも見せれば変装しても終わりだ。
 
 《クルシェスラーファ、メイクとは違う変身魔法って無いかな?》
 《フェイクで良ければ、使えるけど…何に変身するの?》
 《ウォーリアに化けられないかな?》
 《いまフェイクはレベル1だから、レベル3にならないと大型の魔物には変化出来ないわよ。》
 《なら、大型の魔物でなければいけるんだね?》

 「探査型の魔道具を掻い潜り、更にはギルドカードの提示すら回避できる方法を思い付きました!」
 「ほぉ…? それはどんな方法だ?」
 「僕…スライムになります! そして皆さん達は、馬車の中を掃除する専用のスライムだと…見付かったら説明をお願いします。」
 「わかった…が?」
 「では、行きます! フェイク・クリーンスライム!」
 
 僕の体はスライムになった。
 大きさは、45㎝弱といった所だろうか?
 口が無いから喋れない…
 手足が無いから、感情表現が出来ない…
 ただ半透明の丸いスライムがプルプルと揺れているだけだった。

 《ふむふむ…? なるほどね。 ふむ! 何も見えん!》

 せめて目が見える様になりたい所だが…このまま移動すると、外に出たら大変な事になる。
 僕の召喚したスライムは、命令した事を忠実にこなしていたけど…どうやってすんなり移動できたんだろう?
 僕はスライムという種族に凄さを感じていた。
 
 《とりあえず…見えなければ話にならないが? どうやったら見える様になるんだろう?》
 
 索敵魔法でも…うん、ここが馬車の中で皆がいるのは解る。
 だけど、誰が誰までは分からない…ん? 誰かが触っている感覚は解る。
 次に、魔力感知をしてみる事にした。
 すると、建物内がなんとなく把握出来るようになっていた。

 《なるほど…何となくというのは解った。 目が無いから感覚的に把握が出来ているんだな?》

 しかし、人と会話出来ないのは不便だろう…
 会話が出来る方法は…って、スライムに口なんかある訳ではないので喋る事は出来ない。
 ん? レグリーが両手を振っている…あ、順番が来たという事かな?
 僕は持ち上げられて、流し場に置かれた。
 そして、関所の騎士が馬車の中を検査していた。

 《なるほど、だから僕に動かない様に言ったのか…》

 僕はその場でジッとしている…と思うのだが、騎士が僕の方を見て指を指していた。
 レグリーが必死に何かを言っている様だったが、レグリーが止めているのに騎士が僕を持ち上げてから馬車の外にだしてから、僕は小さな檻に入れられた。
 はて? 一体どうしたのだろうか?
 
 ………レグリー視点………

 「シオンさん…本当にスライムになりましたね?」
 「本当にシオンの魔法は凄いな…これで攻撃魔法が出来たら最強なんだろうけど…」
 「それにしても、何も話してきませんね? 念話とか使って話せるものだと思っていたのですが、上下に揺れているだけで意思疎通が出来ません。」
 
 ザッシュは、手袋を外して触ってみた。
 
 「ザッシュさん、何をしているんですか?」
 「何とも言えない感触だ。 モニュモニュしている…」
 「私も触ってみますね…ほんとうですね、モニュモニュで冷たくて気持ちいです。」
 
 すると、それを聞いた他の3人も僕を触っていたらしい。
 この時の僕は、誰かに触られているという感覚はあったが、皆に触られているとは思わなかった。

 「なんだか…先程までに色々な箇所にぶつかっていたのに、急に動きが良くなりましたね?」
 「見える様になったからか? …と、そろそろ順番の様だ。」
 「シオンさん、今から騎士が中を確認するらしいので、シオンさんは流し台の中に移動しますね。」

 グレリーは手を振りながら言った。
 そして少ししてから、騎士が中に入って来た。

 「おい、このスライムは何だ?」
 「このスライムは、馬車の中を綺麗に掃除するクリーンスライムです。」
 「魔物を使役しても良いと思っているのか?」
 「それを言うなら、馬車を引いている馬もギガントウォーリアフェースという上位種の魔物ですが…」
 「獣魔契約が出来ているから、あれは馬として認められているのだ! だが、このスライムは獣魔契約がなされてないでは無いか⁉」
 「それは…英雄シオンさんが使役する獣魔だからです! シオンさんは、マリーゴールド領で魔王の配下を倒した後にスライムを私達に預けてから、合流するまで頼むと言ってからグラットの街に行かれました。」
 「ほぉ…すると、シオン・ノートは後日此方に来るという事なんだな? ならそれまでこのスライムは此方で預かっておこう!」

 レグリーは関所の騎士と相談して、しばらくの間…馬車を関所の停車場に停める許可を取った。
 そしてレグリーは馬車の中に戻ると、今後の事を話し始めた。

 「どうしましょう? シオンさんが捕まってしまいました。」
 「あぁなると、騎士は融通が利かないだろうからな…下手に力尽くで取り返すと、今度は箝口令を敷かれて動きにくくなるしな…」
 「食事を与えないといけないから返して下さい!…と言うのは無理ですかね?」
 「それだと、アイツは便所の中に放り込まれるぞ! スライムの能力は浄化だからな…食事となるとやり兼ねんぞ!」
 「あ、そういえば…奴隷時代にもトイレの中にはスライムが居ましたね。」
 
 さて、どうしたら良いのか?
 あ! 良い事を思い付きました!

 「何か閃いた顔だな?」
 「はい! ただ…それが言い訳として通るかが解りませんが…?」
 「良いから話してみろ!」
 「実はですね…」

 レグリーは、良い案の内容を話した。
 すると、ザッシュは呆れた顔をしながら頭を押さえた。

 「まぁ、面白い策だとは思うが…シオンのイメージが悪くなるぞ!」
 「この際ですから、多少の嘘は仕方が無いと思います。」
 「あとはスライムだが…確かこの川の近くにいたな?」
 「はい、それをザッシュさんとグレンさんで捕まえて来てから、ミーヤさんとアントワネットさんには協力をお願いします。」
 「私は別に良いにゃ! でも…?」
 「私も仲間の為なら体を張ります! シオンにはマリーゴールド領で世話になっているから!」

 ミーヤとアントワネットは、顔を赤くしていた。
 ザッシュとグレンは、スライムを捕まえに行った。
 ザッシュとグレンがスライムを捕まえたら、作戦が開始されるのだった。

 ………シオン視点………

 《参ったな…魔力檻なのか、動けない!》

 僕はたくさんの騎士に見られながら、檻の中でジッとしていた。
 ここで変身を解けば確実のバレるから、変身が解けないのだ。
 しばらくすると、レグリーが部屋に入って来た。
 そして僕を指さしてから、何かを叫んでいる様だった。
 その後、レグリーが騎士に何かを話していると…僕は檻から出されてレグリーが持って馬車に連れて行った。
 ただし…騎士が1人付いてきたのだった。

 《この状態では、まだ変身は解けないな…》

 僕はベッドに置かれてから、その両脇にミーヤとアントワネットが挟み込む様に座っていた。
 そして2人は上着を脱ぐと、下着姿になってから胸を僕の体に押し付けた。
 え? え? これは一体⁉
 アントワネットがジッと見ている騎士に対して、何やら叫んでいたようだった。
 すると騎士は、馬車の外に出て行った。
 ミーヤとアントワネットは素早く服を着てから、ザッシュとグレンが来て…レグリーが僕より少し小さなスライムを外にいる騎士に渡していた。
 すると、騎士は再び関所の方に戻って行った。
 しばらくすると、馬車が発進したようだった。
 そして、レグリーが僕の前に来ると、変身を解いても良いというポーズをしたので、僕はフェイクを解いた。
 
 「色々解らない事だらけなんだけど…一体、何がどうやって進める事が出来る様になったの?」
 「ちなみにシオンさんは、スライムになった時に声は聞こえてましたか?」
 「見る事は出来ていたんだけど、何も聞こえなくてね…」
 「あ、それは良かったです!」

 その後…レグリーは説明してくれたのだが、何か肝心な事だけを抜いて話している様な節があった。

 ………レグリー視点………

 ザッシュとグレンがスライムを捕まえて来た。
 これで、作戦が実行されるのだった。
 レグリーは、関所の騎士の部屋に行った。

 「なんだ? 何か用か?」
 「あ、大変! やっぱり…肥大している!」
 「このスライムがか? 見た感じ変わらないが…どういう事だ⁉」
 「実は…英雄シオンには秘密があるんですが、このスライムにも関係しているという話なんです!」
 「秘密だと? 一体なんだ⁉」
 「実は英雄シオンは…極度のおっぱい好きなんです!」
 「はぁ?」
 「英雄シオンは、早い内に家から追い出されてしまった為にまだまだ甘えたい年頃で、家にいた時は姉のおっぱいで気持ちを紛らわせていたのですが、家から追い出されたから今のチームに入ると、寝る時は猫人族の子と聖女見習いの子のおっぱいに挟まれながらでは無いと寝られないんです! そして、彼の獣魔のスライムにもその特性があって…このままだとストレスで肥大化をして行き、魔力暴走を起こして大爆発を起こすんです‼」
 「その話を裏付ける根拠は?」
 「信じないのでしたら別に良いですよ。 このままだと、この辺り一帯が吹っ飛びますから…一度、ベイルードの草原地帯が大爆発を起こして巨大な穴が出来ましたから…」
 「わかった! それで、どうしたら良いんだ?」
 「スライムが元の大きさに戻るまでの間、こちらにお貸し下さい! 元の大きさになったらお返し致しますので…」
 「良いだろう…ただし、虚偽の可能性もあるから騎士が1人付いて行くが…良いな?」
 「はい、構いません!」

 レグリーはシオンスライムを持ち上げながら馬車に騎士と戻った。
 そしてシオンスライムをベッドに置いてから、ミーヤとアントワネットが上着を脱いで下着姿になってから、シオンスライムに胸を押し付ける様に抱き付いていた。

 「ほ~ら、貴方の好きなおっぱいですよ~~~」
 「嬉しいかにゃ~うにゅうにゅ!」

 その光景を騎士は羨ましそうな目で見ていた。
 その視線に気づいたアントワネットは、騎士に叫んだ。

 「何を見ているのよ! 貴方がいるからこれ以上出来ないじゃない‼ 爆発に巻き込まれて死にたくなかったら、さっさと馬車から降りなさい!」

 騎士は慌てて馬車から降りると、2人は服を着てから…シオンスライムを体で隠すようにして、奥の方から隠れていたザッシュとグレンがスライムを持って来て、レグリーに渡した。
 そしてレグリーは、そのスライムを騎士に渡してからこう言った。

 「これで当分の間は持つ筈です。 後は、シオンさんがここに来たら渡してあげてください。 私達は先にダレオリア港に行って待つと言って置いて下さいね。」
 「わかりました!」

 こうして、馬車は発進して…ダレオリア港に向かうのだった。
 レグリーは、この事をシオンには話していないが…関所では、英雄シオンは【乳離れ出来ないおっぱい好き】という不名誉なあだ名で呼ばれるのだったが…肝心のシオンはこの事を知らないのだった。
 そして…しばらくの間、チーム内でも僕を見るとクスっと笑われていた。
 僕は何故笑われているのか解らなかったが…恐らくスライムの時の姿が面白かったのだろうと思っていた。
 
 そして2日後に、ダレオリア港に着くと最後の買い物をする為にダレオリア港で過ごすのだった。
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