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第二話 僕の仕事…中編

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僕は学校から家に帰ると、犬達が出迎えてくれた。

「皆、ただいま! 何か変わった事はなかった?」

犬達は、言葉を話すことはできないが…僕の言っている言葉は理解しているみたいだった。
その証拠に烈神は、家のポストに入っている手紙を持って来てくれたのだった。
僕はその手紙を玄関脇に置いてある家族用の受け取りボックスに入れて行った。

「僕に関する手紙は無いか…」

僕は蔵の部屋に入り着替えていると、2階に住んでいる学が声を掛けて来た。

「兄さん、おかえり!」
「今日は学の方が早かったんだ?」

学は中学生なので、僕より帰宅時間は幾らか早い。
僕も学も部活活動は一切やっていないので、帰宅は皆よりも早かった。

「これから家事?」
「そうなんだけど、学も洗濯物があるなら出しておいて。」
「いや、僕は明日になったら自分でやっておくから心配しないで。」

学は一通りの事を自分でこなしてくれる。
姉達や妹達も学の様にしてもらいところだ。
あ…学は父さんの妹の息子で、僕の従兄弟になる。
学の父親が事業に失敗して蒸発し、母親は無理が祟ってしまい過労で他界した。
元々身体の丈夫な人ではなかった為に、仕方がないという話だった。
学の引取先は、本来なら父親の親族に預けられる物なのだが…?
父親は駆け落ちみたいな感じで親族と縁を切っていた為に、父さんに引き取られて艸亥家で住む事になった。
学も最初の頃は僕の事を香さんと呼んでいたのだが、僕はその呼ばれ方が慣れなかったという事もあり…兄さんと呼んで欲しいと頼んだら、以降はそう呼んでくれたのだった。

「兄さんは今日も買い物に行くの?」
「米や魚類はまだあるんだけど、肉類と野菜類が少ないからね…」

庭にも小さな畑があって野菜を作ってはいるんだけど、供給量は遠く及ばなかった。
なので、紫蘇や茗荷などを育てる事にして、他の野菜は商店街で購入する事にしたのだった。

「だけどその前に…洗濯と掃除を先にやらないとだな。」
「洗濯機が終わったら、乾燥機に放り込んでおけば良いんだよね? それは僕がやっておくから、兄さんは掃除に専念してよ。」

学にそう言われたので、僕は洗濯機を回してから母屋の掃除をする事にした。
洗濯機は…元は一般の家にある家庭用の洗濯機を使用していたのだけれど、3台フル稼働で半年くらいしか持たずに、現在では業務用というか…コインランドリーの大型洗濯機を使用している。
電気代や水道代は多少掛かるけど、家庭用洗濯機をフル稼働で3回回して使用するよりは経済的には助かる。
ちなみに…この洗濯機は、祖母の知り合いの家電販売の旦那様から購入させてもらった物だった。
それにしても…姉や妹も自分の下着を良く人任せに出来るな?
恥じらいというものがないのか、それとも僕や学を男として認識されていないのだろうか?

「さて、1号…今日も頼むよ!」

家にはダイ○ンの充電式掃除機が3台ある。
一昔前はコード付きでやっていたのだけれど、部屋数が多い上にコード式だと面倒だったので、これも祖母の知り合いの家電製品を取り扱う旦那様から、最新式では無い型落ちしたタイプを安く譲って貰った。
仕事が早く終わる事に越した事はないんだけれど、別に最新式で無くても事は足りる。
ただ、何故3台あるのかというと、使っている最中に途中でフル充電されていても充電が切れるからだった。
そんなこんなで掃除が終わると、時刻は16:30になろうとしていた。

「学、買い物に行ってくるけど…アレを頼める?」
「あ、うん。 起動しておくから、行ってらっしゃい!」

僕は犬達を連れて商店街に買い物に行く事にした。
学に頼んだアレとは、犬達がいなくなった場合に防犯設備を起動して貰う事だった。
僕の家は、犬達が来る前は結構空き巣の被害に遭っていた。
祖父が生きていた頃は、祖父の弟子達が見回りを買って出てくれた事もあって問題は無かったんだけど、祖父が他界した後からは何かと空き巣に被害に遭った。
犬達が番犬として使い物になってからは、空き巣の被害もなくなったのだけれど、買い物に犬達を連れて行く時間に以前やられた事があった。
そこで学は、父さんの助力を受けて…犬達が不在の時用にセキュリティーを強化してくれた。

「しかし…この塀を良く越えようと思うよねぇ?」
「普通なら、もっと警戒するもんだろうけどね。」

艸亥家の敷地の周りには、高い塀で囲まれていた。
門も…昔の武家屋敷の様な巨大な門がある。
なので、あまり外から敷地内が見える様にはなっていないのだけれど?
この家の事を知らない余所者には、この家は金持ちの家なのだと思われるのだろう。

早速、僕は犬達を連れて…商店街に向かって行った。
僕が犬達を連れて行く理由は、買い物の荷物持ちをさせる為だった。
うちの周囲は高台になっているという以外に、路地が狭くて車が通れない。
かろうじてバイクが通れる道になってはいるんだけど、車が通れない感じになっていた。
なので、この付近に配達に来る宅急便の方々達は…この不便さにあまり良い顔はしなかった。

「この不便さがあるから、300坪の敷地がある家を購入出来たんだろうな…」

艸亥家は別に資産家というわけではなかったが、他の家に比べたら金を持っていた方だったと祖母から聞いたことがある。
この土地も市街地に比べたら、土地代は安いという話だったので購入を決めたんだとか…?
まぁ、冬場に雪が積もったりすると通勤や通学にかなりの支障が出るので、値段が安かったというのは分からなくはない。
そうこうしている内に、商店街に着いたのだった。
一般の方々達は、主にスーパーを利用して一度に済ませるのだけれど、僕には犬達もいるしスーパーには入れないので、商店街の存在はありがたかった。
それに、スーパーに比べて値段交渉によっては安くして貰えるという利点もある。

「お、兄ちゃん! 今日は良いネタが揃っているよ!」
「今日は魚を買う予定はないんだけど、安くしてくれるなら鯖を3匹欲しいんだけど…」
「他の客なら断る所だけど、兄ちゃんはウチを贔屓にしてくれているからなぁ…他の魚も買ってくれるのなら、負けてあげるけど…どうだい?」

この魚屋のおっちゃんは結構ちゃっかりしている。
こう言われると、本来なら魚を買う予定はなかったんだけど…?

「なら、鯵を20匹ほど…」
「毎度!」

余計な出費が増えてしまったが、ブリをおまけしてくれたので有り難かった。
僕は烈神の荷物入れに魚をしまってから、次は八百屋に行く事にした。
犬達の荷物持ち…は、馬の様な鞍に収納機能が備わっている。
祖母がいた時までは、食材は運んでくれていたのだけれど…?
配達する人も高齢になり、配達が困難という事で…犬達がいなかった時は自転車に荷物を括り付けていた。
ただ…毎回凄い重量で、自転車に乗って移動する事は困難だった。

「香君、今日は何が必要なんだい?」
「そうだなぁ…?」

僕は八百屋に品出しされている野菜を見ていた。
夕食の献立は野菜によって決まる!
…のだけれど、煮物でも作ろうと思ったけど…気に入った野菜がない為に諦めるしか無かった。
なので今夜の夕食は、手抜き料理の鍋に決定した。
※…誤解のない様に言っておきますが、鍋料理は決して手抜き料理ではありません。
ただ、遥姉さん達には…鍋は食材を切って煮込むという事で、手抜き料理に見えるみたいです。
なので僕は、鍋に必要な野菜を購入してから大牙と零夜叉にしまってから、次に肉屋に向かった。

「香くん、今日はいつものやつかい?」
「それと…今日は鍋をする予定なんだけど、お手頃なお肉は無いかな?」
「何の肉を欲しいのかを言ってくれないとねぇ…?」

そりゃあそうだ!
ただ、このご時世は牛肉や豚肉の価格も高騰している。
なので、牛や豚以外の食材を聞いてみた。

「無いとは思いますが…猪肉はありますか?」
「無い!…っていうか、無いと思うなら聞くな!」
「やっぱ、そうですよね。」

猪肉は…牛や豚に比べたら安く販売されている。
時期的に…販売されていてもおかしくは無いのだけれど、その日は無かったみたいだった。
鍋なので、猪鍋…にしようかと思ったんだけど、当てが外れてしまった。
僕はガラスケースを一通り見てから、購入する食材を眺めていた。
すると、牛肉や豚肉に比べたら安く手に入る食材を見つけて、それを購入する事にした。
その食材とは、鶏皮と軟骨と牛ホルモンだった。
まさに安い物オンパレード!
別に金がないわけでは無いんですよ、ただ…生活費をあまり負担をかけたくなくて。

「では、これと…いつもの骨だ!」
「どうも、有り難う御座います!」

お肉屋さんに寄ったのには理由がある。
食材を購入するというのもあるんだけど、犬達に食べさせる骨を貰えるからだった。
今回貰ったのは、豚のアバラ部分と牛骨だった。
それを紅の収納機能にしまってから、僕達は帰路につく事になった。

さて、これから夕飯の支度をしたり、まだまだやる事が多いんだよなぁ?

後編に続く…
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