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第三話 僕の仕事…後編

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現在の時間は17:47…
そろそろ皆が帰って来ると思い、僕は御飯の支度…では無く、風呂の用意をする。
艸亥家の風呂は、普通の家の…五倍くらいの広さがある。
この家を建てたのは祖父なんだけど、祖父の時も父の時も家族は多かった。
なので、家族が入れる大きさの風呂として…風呂場が広いのであった。

「掃除する時がメチャクチャ面倒なんだけどね。」

風呂は最後に使った者が湯船の栓を抜く…んだけど、大体は僕と学が最後に入る。
…というのも、湯船には家族数人が入れる広さなので、栓も特注サイズでそれなりに大きく重い。
夕食前に全員入るというのが規則なので、掃除も終わった後にするので楽なのである。
まぁ、シャワーもあるので…湯船に入らない人は夕食後でも構わないのだけれど。
そして艸亥家の風呂は、もう1つ…面倒な特徴がある。
シャワーやお湯はボイラーを使用している割に、風呂は薪で沸かしている。
オール電化が当たり前の時代で、何故風呂だけ薪なのかが…未だに謎ではあるんだけど、理由を聞いて納得した。
我が家の風呂は、追い焚きをしても水量が一般家庭の広さの風呂ならすぐに沸かせるのだけれど、うちの風呂の大きさだと温まるまでに時間が掛かる。
なので、薪で沸かした方がはるかに早いという利点があった。

「案の定というか…薪割りされてねぇ‼︎」

薪割りの担当は、琴姉さんの役目だったんだけれど…?
祖母が居た頃は率先していたんだけど、現在ではたまにしかやらない。
なので、僕と学がやる羽目になったのだった。

「兄さん…薪割りってやっぱり?」
「うん、馬鹿姉がサボった。」
「道場でかなり扱かれているみたいだから、そこまで手が回らないんでしょ。 僕がやっておくから、兄さんは夕食の準備をしてて良いよ。」
「助かる…」

こういう時に学の存在は非常に有り難い。
学がいなかった頃は、薪割りに時間を割いて夕食の準備が疎かになって…「飯はまだか!」という遥姉さんの怒鳴り声が聞こえてくるからだ。
飯が食いたければ少しは手伝えよ…という事を何度か言った事はあるけど、女性にそんな事をやらせる気か⁉︎…と、怒鳴られた事があった。
女性って…誰の事を言っているのだろうか?
僕に目の前にいる遥姉さんは、僕よりはるかに優った力を持つSheハ○クにしか見えない。
まぁ、思っているだけで口に出した事はない。
喧嘩では勝てないし、力でも恐らく敵わないからだ。

「まぁ、今日の夕食は手抜き鍋なので…それ程用意するのに時間は掛からないのだけれどね。」

僕は母屋の台所に行く時に、居間でくつろいでいる妹達に声を掛けて学を手伝う様に言っておいた。
妹達は…渋々と母屋から出て行った。
女性というのは、何故か毎日の様に風呂に入るというのが日課になっているらしい。
これが男所帯だったら、湯船に浸からなくても良いという考えになるのだけれど…?
遥姉さんや静姉さん、琴姉さんは夏場のクソ暑い時でも湯船に入る為に…年中沸かさないといけない。

「年寄りって…風呂が好きなんだな。」
「誰が年寄りだ‼︎」

僕は遥姉さんにどつかれた。
台所で調理をしている時は、刃物を持っているからちょっかいを出すなと言ってあるのだけれど?
弁当箱を流し台に置いた時に、どうやら聞かれていたらしかった。
まぁ…それ以外にも朝の目覚ましの事で物申すという感じでもあるんだろうけど。

「なんだ、今日は手抜き鍋か?」
「何度も言う様だけど、鍋料理は別に手抜き料理じゃない‼︎」
「切った具材を鍋に入れて火に掛けるだけだろう?」
「そう思うんだったら、少しは調理の手伝いをしてくれよ! 彼氏とか結婚相手が出来た時に苦労するぞ‼︎」
「弁護士になるまでは彼氏なんか作っている暇はないし、ましてや結婚なんか話すらない‼︎」

遥姉さんは、自信満々に言い放った。
恐らくだけど、この姉は…というか、姉妹達は結婚が出来ない様に思える。
たまにだけど、調理の手伝いをしてくれる恋や桜華は問題無いのだろうけど、他の姉妹達は…米の研ぎ方や味噌汁の作り方すら知らないのではないかと思う。

「その時が来た時に後悔すれば良い。」
「料理なんか、覚えようと思えばいつでも覚えられるからな!」

僕はそう公言した女性が、結婚出来なくて独身を貫いている人を数人知っている。
遥姉さんもその数人に当て嵌まらないと良いのだが…?
まぁ、そんなこんなで夕食用の鍋料理の準備は終わった。
なので次は、犬達用の御飯の準備に取り掛かる。
犬達の御飯の準備は非常に楽なものだった。
大きな鍋に、肉屋で貰ってきた骨を煮れば良い。
…別に、犬達の御飯は骨だけというわけではありませんよ。
僕達が食べる玄米と野菜を薄味に調理してから、煮出した骨を加えて御飯にするのです。
そして家族の夕食が始まる前に、犬達には御飯を与えます。

「皆…御飯だよ!」

僕は庭に向かって声を掛けると、犬達は尻尾を振りながらやって来ては御飯を食べる。
我が家の犬達の御飯には、市販で売られているドッグフードは与えない。
子犬の頃までは与えていたんだけど、経済的な事を考えると…ドッグフードは少しお高い。
なので、僕達の食べる食材を与えているんだけど…ドックフードに比べたら経済的になるのかな?

「何か…また大きくなっていないかな?」

我が家の犬達は、バランスに良い食事に骨を与える事によって…付近に住んでいるシベリアンハスキーを飼っている人の犬より遥かに大きい。
狼の血が入っているからなのか…シベリアンハスキーは大きく育つという話なのだが、他の家のシベリアンハスキーよりも大きい気がする。
まぁ、身体が大きくないと番犬には向かないので、大きくなる分なら別に構わないのだが…?
我が家の犬達には、僕達が学校に行っている間は…番犬というかお庭番をしてくれている。
門から入って来る者達には客として認識させ、塀から入って来た者達は侵入者として容赦無く撃退する様に育てている。
それは例え家族でも…と育てているのだけれど、僕が塀から入っても襲われる事はなかった。
調教が失敗したのかな…?
そう思って、学に塀を越えさせてみたんだけど…学は容赦無く襲われていた。

「あの時の学には悪い事をしたなぁ…」

学には念の為にプロテクターを装着させていたので、それ程の被害は無かったのだけれど…?
少しに間は、学は犬に近付けなかったという話だった。
それから暫くして、夕食が始まった。
姉妹達は風呂から出てから食事をしているのだけれど、僕と学はその間は風呂に入っていた。
初めの頃は…一番の功労者が一番風呂に入れないのが納得出来なかったのだが、ゆっくり入浴する事を考えれば、それが良かったりもする。
僕達が入っている時は誰も火の番をしてくれない為に、僕達が入る時は焼け石を用意して風呂の温度を調節している。
なので、僕と学の食事の時間は皆より少し遅くなる。
そして風呂から出ると、僕は風呂を掃除し始めて…学にはその間は食事をして貰っている。

「兄さん、僕も手伝おうか?」

そう…学に言われた事があったけど、1人でやった方が早いし効率も良いので断った。
そして掃除が終わると、窓を全開にしてから風呂場を出て…食卓に向かうのだった。
それから…1人寂しく食事をしてから、大量の洗い物が待っている。
その時は恋や桜華が手伝ってくれるのだが…?
同じ居候で桜華の妹の風華は一切手伝おうとはしなかった。
まぁ、二人の父親から居候代は受け取っているので別に構わないのだが…?

片付けが終わり、居間で談笑をしていると…時間は21:00になりつつある。
母屋は21:00を過ぎると、僕と学は追い出されるので…僕達はその前に蔵のある自分の部屋に帰るのだった。
学はまだ起きているのだが、僕は朝が早い為に寝る事にした。

これが僕の1日の仕事でもあり、毎日のルーティンでもある。
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