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第三章 サーディリアン聖王国の章

第十五話 厄介事と魔剣との出会い!(良くトラブルに巻き込まれます。)

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 「いや、やめて下さい!」
 「クリアベールが大人しくしていればすぐに終わるから…」 
 「私は嫌だと言ったんです! お願いだからやめて下さい!!」
 「部屋の中であまり暴れるなよ、宿屋の人に迷惑が掛かるだろう!」
 「私は絶対に嫌です!」
 「埒があかないな…レイリアは腕を、クリスは足を押さえろ!!」

 レイリアがクリアベールの両腕を押さえて、クリスが両足を押さえた。
 クリアベールは本気で嫌がっている…
 僕はクリアベールの服のボタンをはずし始めたが…
 2つ目を外したところで、クリアベールの信じられない位の力でレイリアの両腕を振りほどいて腕でガードしていた。

 「僕が腕を押さえるから、レイリアはボタンを外して…」
 「わかった!」
 「いやーーーやめてーーー!!」

 レイリアの手によってボタンを外され、胸元があらわになった。
 確かにこの大きさはメロンだ…と思った。
 そして僕はクリアベールの胸の谷間に顔を近付けてこう言った。

 「クリアベールが大人しくしていれば早く終わるんだよ。 君は天井のシミでも数えていなさい、その隙に終わらせるから…」
 「いかがわしい言い方をしないで下さい、やめてーーー!!!」

 僕は行為を終えると、クリアベールの体の力は抜けて…

 「お母さん、私は汚されました…」
 「人聞きの悪い事を言うな! 舐めた所はクリーン魔法をしたから綺麗になっているよ。」

 そう、僕がやっていたのは【舌鑑定】でクリアベールの胸元を舐めただけだったのだが…
 クリアベールは頑なに嫌がった。
 
 ~~~~~こうなる前の15分前~~~~~

 久々にレイリアの顔色が悪く感じられた。
 僕はレイリアに頼むと、レイリアは胸元を開けて舐めた。
 その様子をクリアベールは顔を赤くして手で顔を覆いながら指の隙間から見ていた。
 そしてレイリアにクリーン魔法をすると、ステータスにはMPが基準値よりオーバーしていた。
 僕は10個の空の球体を渡し、全て魔力のみを詰めて貰った。

 クリスもギルドカードを確認してから、胸元をさらけ出してきた。
 僕はクリスも舐めると、「にゃあぅん♡」と変な声を出した。
 クリスは寝不足と表示され、それ以外は健康体だった。
 
 何度も言うけど、他人のギルドカードは見る事は出来ない。
 パーティメンバーのステータスは把握しておきたい。
 僕と2人はクリアベールを見ると、「ひっ!」と声を出して後ずさりした。
 そして、僕が近付くと…最初に戻る。

 ~~~~~現在~~~~~

 【クリアベール・クリクラ】16歳 デミヒューマン
 ジョブ・【アリスウィザード】Lv11
 スキル・無属性魔法・具現化能力
 人間の父とサキュバスの母から生まれたデミヒューマンの子。
 本来なら多種多様の魔法が使える筈だったのだが、無属性魔法と強大な魔力だけしか持てなかった。
 ジョブの【アリス】と名前の付くジョブは、想像力を具現化出来る能力を秘めている総称。

 「クリアベールって、ハーフだったのか…」
 「ぐすっ…話しちゃ駄目だってお母さんに言われたのに…」
 「大丈夫だよ、ベルって呼んでも良いかな?」
 「そうにゃ! このパーティは種族関係ないにゃ!」
 「しかもジョブが【アリスウィザード】かぁ…これも聞いた事ないジョブだけど。」
 「どんなジョブなの?」
 「想像した物を具現化出来る能力があるんだよ、僕の【創造作製】に似ているかも。」
 「知りませんでした…【アリスウィザード】というジョブと無属性魔法は解っていましたけど、特性までは知りませんでした。」 
 「考え方によっては、ある意味最強に近いジョブかもね。」 
 「私にそんな力が!?」
 「でも、想像力がしょぼいから最強には程遠いけど…。」
 「あぅーーー!」 
 「でも、それに対する修行法はもうあるから、それをやっていこう!」
 「はい、何をすればよいですか?」
 「まず無属性魔法で、糸を作って…こんな風に」

 僕は糸を作りだした。
 糸の端をベルに持たせる。
 
 「この糸は、糸であるけど本物の糸ではない。 どこまでも伸びるし、柔軟性もあるし、剣で斬ろうとしても硬くて斬れない、炎魔法でも焼き切れたりしない最強の糸。 まずはこれを作りだせる様にしよう。」
 「はい…こうですか?」
 「ベルさぁ、盾の事忘れてない?」
 「盾…あ!」
 「あの盾も本物なら硬かったけど、魔力の込める量によっては、どんな物でも弾き返せるような盾を作りだせる事が出来るんだよ。 でも、ベルの糸は目に見える範囲でしか具現化出来ておらず、背中に回した糸は消えかかっているでしょ?」
 「なるほどです、解りました!」

 クリアベールは、これで大丈夫だろう。
 だけどレイリアを見るとそわそわしているし、クリスは尻尾が揺らいでいる…。
 こういう時は、絶対に何か強請られるな…。

 「ダン、私クレープをまた食べたい!」
 「あちきも食べたいにゃ! レイリアに言われて食べてみたいと思っていたにゃ!」
 「やっぱりか…作りたくても材料がないなぁ? 牛乳と卵が必要なんだけど。」

 「卵と牛乳なら、市場で買ってくれば!」
 「いや、牛乳はともかく卵はこの時間にはない。 この街の近くにロックバードがいるから倒せば手に入るね。大量に…」
 「じゃあ、レイリアと一緒に取って来るにゃ! いくにゃ、レイリア!」

 食べ物に対する欲求とは凄まじいな…
 クレープと聞いて、クリアベールの意識がこっちに向いていた。

 「ベル、集中!」
 「あ、はい!」

 よし、これで3人から解放された!
 これで武器屋に行ける!!
 僕は宿屋をでた。
 
 人目を避ける為に、路地に入った。
 さてと、武器屋は…と?
 この街に武器屋は3か所ある。
 ガイウスが通うエルヴ族の店、ザッコスさんが紹介してくれたドワーフが経営するギムル工房、そしていつ開いているか解らない不定期の店だが品揃えはかなり良いレピンの店と。
 そして肝心な事だが、僕の武器は包丁しか装備できないのは変わらないらしい。
 デカ包丁も使い難かったけど、切れ味だけは良かったからなぁ…。
 ただ、問題が1つある。
 レピンの店は、東の街のイースタルの街の近くにある。
 今日の残り時間を考えると、開いているかどうかわからない店に行くのは時間が勿体ない。
 それに結構遠い。
 ギムル工房に行くか、ただあそこは…?
 冒険者ギルドとマダム・ラスティーナの店の前を通らないと行けないのだが、多分何かしらで捕まる可能性がある。
 エルヴ族の店だとガイウスがいて、ついてきそうな気がする。
 いや、別に嫌だという訳ではないのだが、アイツは買おうとする物にイチイチケチをつけるから買い物だけは一緒にいたくは無い。
 仕方ない、ギムル工房に行くか。
  
 地竜を倒した翌日にギルドカードを見た時に、慱からメッセージが入っていて、こう書いてあった。
 『観察者が封じた攻撃系スキルは、まだまだ封印を解くにの時間が掛かるけど、それ以外のスキルはある程度開放したよ。 ただし、攻撃系のスキルが1つもない。 非戦闘以外で使う物ばかりだから、戦闘に活かせるかどうかはダン次第だよ。 ただ、ごめんね、レベルだけは上げられなかった。 これはモンスター倒して経験値を稼いでね。 あ、スキルの方ね。』

 それで、今回覚えた物がこれ。
 【交渉】【商談】【無心】【化粧メイク】の4つだった。
 【化粧】は、頭の中のイメージで髪の色を変えたり、髪を伸ばしたり短くしたり、服装を変えたり、顔を作り替えたりとする事が出来るスキルなんだけど、【フェイク】と違って全身を全て別人に変えるのというのは無理そうだ。
 例えば、身長を伸ばしたり縮ましたり…。
 ただ、【フェイク】と併用出来るらしい。
 
 英雄となってからの僕は、街のほとんどの人に顔を覚えられている。
 なので、1人でいると何かしらの声を掛けられる。
 青空魔法教室の時の生徒なんかに見付かった日には、絶対に足止めを喰らう。
 えっと、そうだな…?
 【化粧】発動…髪を腰まで長く、顔は女性の様に、服は地味目なドレス、髪の色はそのままの黒で良いか…。
 この世界で黒髪はいない訳ではないが、かなり少ない。
 よし、これで良いだろう!
 僕は路地から出て歩いていた。
 すると、僕だと思われずに声を掛けられることはなかった…はずだった。

 「そこ行く黒髪の可憐なお嬢さん、お待ち下さい…」
 「ごめんなさい、急いでますので…」

 この世界にもナンパってあるんだな。
 面倒だから適当に断って素通りしよう。
 おかしいな、そんなに美少女に作ったつもりは無いんだけどなぁ? 

 「時間は取らせません!」
 「目の前にいるだけで時間を取らされています。」

 僕はナンパ男の横を通り抜けた。
 すると、回り込んで前を立ち塞いだ。
 
 「君の寂しそうな顔を見ていると心が痛くなってね、癒してあげようかと…」
 「不快なのでやめて下さい。」

 これだけ言えば来ないだろう…と思った。
 ナンパ男はこの程度では引き下がらない。

 「僕は純粋に君との会話を…」
 「したくありませんのでお構いなく。」
 「待ちたまえ!」

 そういって、僕は男に手を取られて路地に連れ込まれた。
 
 「下手に出ていれば良い気になりやがって、お前みたいな女がいなくなったってこの街では気にしないんだよ!!」
 「なるほど、犯罪者でしたか…」
 「お前みたいな地味な女でも高く買い取ってくれる店があるんだよ!」
 「では、続きは冒険者ギルドでお話ししましょう!」

 僕はそういって【化粧】を解除した。
 そして、右手に雷と左手に炎を発生させた。

 「英雄ダン…様…」
 「最近、令嬢が攫われているという話(嘘です)があってさ、おとり役を買って魔法で釣れる(偶然です)のを待っていたんだよね。」

 右手の雷を男に当ててスタンを行った。
 男は痺れて、動かなくなったので襟を掴んで引きずりながら冒険者ギルドに入った。
 そして、キャサリアさんに事情を話して引き渡した。
 さて、気を取り直して行きます。

 「ダン様、お待ち下さい!」
 「ごめんなさい、今日は用事があるので!」

 僕はギルドを出ようとしたが、キャサリアさんが追いかけてきた。
 素早くギルドから出て、メイクで先程の姿に化けた。
  
 「そこの方、お待ちください! ダン様をお見掛けしませんでしたか?」
 「そちらに走って行き…かれました。」

 僕はそういって、行き先と逆方向を指さして言った。
 キャサリアさんは、僕の指を差した方に走って行った。
 冒険者ギルドを過ぎれば、あと1.2㎞で…!

 「そこの女! ちょっと待て!!」
 「待ちません。」

 僕は小走りで走った。
 またナンパはもう面倒臭い。
 そうしようとしたのだが、腕を掴まれて引き寄せられ…

 「…様、この女なんてどうでしょう?」
 「地味だが、まぁ良いだろう。乗せろ!」

 そう言われて僕は馬車の荷台に乗せられた。
 この場所は、市場が途切れた場所で人通りが少ない。
 抜かった…女性が1人で歩くような場所ではないな。
 荷台に乗せられると、街娘たちが4人乗っていて泣いていた。
 こいつら…さっきのナンパ男の仲間なのか?
 見過ごせる訳もないので、目的地まで行く事にした。

 「着いたぞ、降りろ!」
 
 僕等はどこかの屋敷の牢屋に入れられた。
 するとそこには、20人くらいの若い女性が捕まっていた。
 「お家に帰りたい」と泣く子や、「私達どうなるの?」と不安そうな顔をした子がいた。
 そして、牢屋の窓を見ると、もう空が赤く染まっていた。
 あぁ…店が閉まる!!
 今日も行けなかった…が、そんな事を心配している場合ではない!

 「結構集まったな…お前たちはこれから奴隷として御貴族様が買い取って下さるのだ、ありがたく思え!」

 小太りの禿げた男は、ゲハゲハと下品な笑い方をして言い放った。
 奴隷売買はこの国では禁止されているのに、密売があったのか。
 僕は見張りをしている男を呼んで、腕に触れた。
 
 「ギガンティックボルトォォォ!スタンガン最大出力
 「ギャアアアアアア!!」

 僕は「静かにしてね!」と言って【化粧】を解いた。
 皆、僕を見て安心した表情をした。

 「大丈夫です、貴女方は全員助けます!」
 
 僕は牢屋の柵を腐食で全部溶かした。
 先程の見張りの男の声を聴いた男達と小太りの下品な男も一緒に来た。
 
 「お前は…英雄ダン!!」
 「貴様ら…死ぬ覚悟は出来ているんだろうな…!!」
 「お前等! 殺れ!!」
 「いや、え? 無理ですよ!! こんな化け物に勝てる訳ないだろ!!」

 化け物?
 
 「しかも、さっきの女に変装していたなんて、こいつは変態か!?」

 変態…?

 「お前は女装が趣味なのか? このオカマ!!」

 女装が趣味? オカマだと!?
 コイツ等は僕を怒らせるのが上手いみたいだな…!
 もう手加減はいらないな!
 僕は念の為、彼女達に【結界】を施した。
 
 「右手に業火、左手に豪風、中央に雷光…三種複合………」
 
 巨大な渦巻く炎と雷を見て、男達と小太りの下品な男は動けずに震えていた。
 
 「!! 複合統一魔法・ヴォルガニックヒートォォォ武器屋に行けなかった恨み
 
 僕の貴重で武器屋に行けなかった恨みを最大級に込めて放った!
 小太りの男以外の男達は炎と雷を纏った竜巻に飲み込まれ、そのまま牢屋は崩壊して空高く飛んで行った。
 
 「す…すまん、何でもするから命だけは!!」
 「お前はこれから国で裁かれるんだよ! お前が加担した貴族もな…そして…!!!」

 僕は小太りの男の顔面を殴り、「これは彼女達を怖がらせた分!」といって腹を蹴り、「これは彼女達を攫った分!」と言って股間を蹴り上げ、「これは僕の貴重な時間を潰した分!」といって雷魔法を散々ぶち込み、水魔法をぶっ掛けてから目を覚まさせ、「これは武器屋に行けなかった分!」と言って最大級の雷魔法をぶち込んだ!!

 助かったはずの女の子達だったが、僕を見て恐怖していたらしい。
 そして1時間後に、警備隊と冒険者ギルドが一緒に来て、僕は事情を話し小太りの下品な男はボロボロになった状態で連行されて行った。
 そして小太りの下品な男の自白調査の結果、奴隷を買った貴族も摘発され、奴隷たちは家に帰る事が出来た。
 僕はその日の夜に、王宮に呼び出され報奨金を貰ったが、辞退をして奴隷にされていた子や今日拉致された子達に分配する様にお願いした。
 全てが終わり宿屋に帰ると、レイリア達におかえりを言われたが、約束のクレープを作らされる羽目になった。

 こうして僕の貴重な時間はまた1日潰れた。
 だが今回の場合は、こういう事情なんだと諦めた。
 そして僕の知らないところで英雄ダンは更に評価が上がった。

 街からの出発まで後1日…
 僕は武器屋に行けるのだろうか?

 ~~~~~翌日~~~~~

 岩に突き刺さっているソレは今日も使い手が来ないかと佇んでいた。

 《オレを使いこなせる使い手を待ち続けて、もう数世紀経つが一向に現れないな…。 妹は前回に勇者に使われて大活躍だったという話なのに、オレはこの岩の上で数世紀も見付からずに使い手を待ち続けてる…》

 誰も立ち入る事の無い洞穴で、銅貨10枚で売られていそうな剣は、みすぼらしい姿の時代遅れみたいな形をしていた。
 この時代には合わない姿の剣は、今日も使ってくれる主を待ち続けている。
 
 ~~~~~宿屋・午前9時~~~~~

 僕は今日こそは武器屋に行く!
 それには10時に市場が開く前に、冒険者ギルドやマダム・ラスティーナの店を通り抜けて行くのだ!
  
 「ダン、今日の事なんだけど…」
 「すまん、今日は本当に用事があるから、1人にさせてくれ!」

 そう言って、僕は宿屋を出た。
 すると、宿の前に人だかりが出来ていて、僕の姿を見るなり詰め寄ってきた。
 僕はたくさんの記者に囲まれて動けずにいた。
 英雄ダンは、トラブルに巻き込まれても断ない男で、質問されても断ない男と世間では言われているらしい…
 何とも失礼で不快な話だ。

 「すいません、本当に今日は用事があるんです! 通してください!」
 「一言だけ! 一言だけで良いですから!」
 「英雄ダン、目線をこっちに…」

 この手の輩は質問に答えても逃がしてはくれないので、僕は風魔法を足の裏から放って空中に逃げて、屋根に着地して屋根伝いに走って行った。
 考えてみれば、この方法を昨日使っていたら楽に行けたんだよな。
 ただ、昨日の事件を考えるとあそこで捕まったのは正解だったのかと…

 「こっちに居たぞ! 英雄ダンだ!!」
 「うわ、本当にしつこい…」

 記者達は、先回りをして屋根まで追いかけてきた。
 これ以上は先に進めない…うん、諦め…る訳ないだろ!!
 僕は屋根から飛び降りて、武器屋とは反対方向に走った。
 こうなったら、開いているかどうか解らないけど、レピンの店に行くか!!
 本来の目的は、ドワーフのギムル工房だったのだが、この先に待ち構えている人だかりを抜けて行くのは無理だと思い行く先を変えた。
 
 「英雄ダンは、武器屋に行くらしいぞ! そっちの方角はレピンの店の方角だ!!」
 「え? そこまで調べがついているのかよ!? 記者の情報量舐めてたわ…。」

 僕は路地に逃げ込むと、【化粧】で昨日の姿に化けてぶつかって座ったフリをした。
 記者たちが路地に来ると…?
 
 「君、英雄ダンを見掛けなかったか?」 

 そう聞かれたので、僕は反対側の道をしめした。
 そしてその場を離れようとすると…

 「魔道具に反応した、英雄ダンはその女性に化けている!!」

 そしてバレて、追いかけられる羽目になった。
 ちくしょう…そんな魔道具あるなんて聞いてないぞ!!
 僕は前後から追い詰められる姿を見て、カイナンの街の外に出る道に急いだ。
 門の外に出て、しばらくほとぼりが冷めてから戻ろうと。
 それに記者達は、迂闊に外には出れない…はず!
 僕はカイナンの入り口を出た。
 そして街道を走っていると、後ろから馬車が6台追い掛けてきた。

 「うわぁ…マジか⁉」

 ほとぼりが冷めてから帰るという考えは無理そうだ。
 僕は武器屋に行く事を諦めて、シルフィンダーを出して間所に向けて走った。
 シルフィンダーなら、誰にも追いかけられない…と思っていた。
 すると、200m前方に馬車が道を塞いでいた。
 記者達に先を読まれていた。
 あまり騒がれたくないが仕方ない! 
 僕はフライトモードで飛んで逃げた。

 「さて、何処に行くか…」
 
 シルフィンダーは空中でゆっくり飛んでいる。
 本当にシルフィンダーが使える様になっていて良かったと、この時僕は慱に感謝した。
 僕は下を見ると、赤い炎の玉が飛んできた。
 まさか、撃ち落とす気か?
 僕は方向を変えて、適当に海の方向に飛んで行った。
 しばらく飛んでいると、下に港町が見えていた。
 たまには海の物が食べたいな…なんて思って、港町の近くでシルフィンダーを降ろして、町に入ろうとした。
 さすがにここまでは追って来れまい…と思っていたのだが?

 「いたぞ! 英雄ダンだ!」

 ここにも記者達がいた。
 しかもカイナンの街程ではないが、10数人いる。
 考えてみると、この港町もサーディリアン領内の1つだ。
 記者達のネットワークがあってもおかしくはない。
 これは想像だが、多分飛んでいく方向を見て何処に行くかを予想したのだろう。
 っていうか、そこまでするか!?
 僕は再びシルフィンダーに乗って、フライトモードで海の上を飛んだ。 
 そして適当な無人島を見付けると、そこに降りた。

 「さすがに海を渡ってまでは来れないだろう…」

 そう思って、無人島を散策した。
 海を見て、海産物が食べたいなぁ…と思ったが、異世界の海に素潜りする様な馬鹿な真似はしない。
 テルシア王国でモンスターの生態の本を見たけど、海の中のモンスターはいくつか書いてあったが、ただどこに何がいるかまでは書かれていなかった。
 それこそ、図鑑より漁師に聞いた方がより詳しいのだが…?

 無人島の散策を続けたが、1時間ほどで一周出来るほどの小さな島だった。
 海を見て潮の香りを嗅いでいると、どうしても海産物を食べたい思いが強かった。
 釣りでもするか…。
 【創造作製】でハルモニアで竿とリールと針を作り、シルクで釣り糸を作りリールに通した。
 餌は…何もなかったので、保存加工してあったボアの干し肉を付けて海に垂らした。
 待っている間、静かな時間が流れた。
 思い返してみると、ここ最近は何かと忙しかった。
 こんなにゆったりとした時間は久々だった。

 「お? 何か当たりが!」

 竿が強く引いていた。
 というか、引きがかなり強い…!
 ハルモニアで作った竿なので折れる事は無いけど、このままだと海に引きずりこまれそうだった。
 
 「まさか、クラーケンとかじゃないだろうな⁉」

 リールを巻きながら海を見るが、魚影がタコやイカの形ではなかった。
 ただ、ぶっとく丸い姿が見えた。
 太った魚なのかな?
 そこから20分くらい格闘していると、魚が弱ってきたみたいなので一気に引き上げた。
 すると、僕以上の大きな魚が釣れた…のだが?

 「こんなの良く竿が折れなかった…というか、引き上げられたな!!」

 どうみても僕の体重が8~10倍くらいありそうな巨体だった。
 弱ってはいるけど、仕留めてはいないな。
 姿を見ると、鋭くギザギザした歯、硬い鱗に覆われた体、頭から触手みたいなのが生えていた…
 
 「これ、アンコウかな?」

 見た目の印象でそう感じた。
 アンコウは気が付くと、僕をみて這いずりながら向かってきた。
 僕は雷と炎で合成したフレイムスタンアローを放ったが、硬い鱗に弾かれて消えた。
 
 「いや、さすがに硬すぎだろう!!」

 僕はアブソリュートで氷漬けにしてから、雷×3の合成魔法で体に電気を通して止めを刺した。
 僕は氷の一部と溶かして【舌鑑定】を使った。

 【ギュンター・オロボン】Lv68
 海の悪魔と言われ漁師にも恐れられたアンコウ。
 強靭な歯で何でもかみ砕き、船の船影が見えると船底を食い破って転覆させる事もある。
 体に覆われている鱗は、鉄の矢も通さない。
 毒はないが、早めに調理しないと肉が腐りやすい。
 高級食材。

 「なるほど、調理は…あとでやるか。」

 僕は【球体魔法】で収納した。
 すると、ギルドカードが光ったので確認した。

 【やっと解析できた中で、無属性魔法だけが使える様になったよ。 それ以外の魔法は、まだまだ時間が掛かりそうだから、気長に待っていて。 無属性魔法は、想像力で具現化…クリアベールという子と同じ能力だと思ってね。 これは生活魔法の無属性とは別の魔法だから、気を付けてね。】

 あ、そういえば【解体】があったんだ…。
 まぁ、いっか…。
 それにしても、海は怖いな…こんなのが近くに居たのか。
 素潜りしなくて正解だったな。
 う~ん…?
 さすがにこれと同じのが釣れるとは思えないが、釣りをする気力が無くなったので、もう良いや。
 僕はそう思って、釣り竿も【球体魔法】で収納した。
 
 「さて、この島の中央に盛り上がっていた場所があったけど、何かあるかな?」

 そして中心の盛り上がっている場所に行くと、洞穴があった。
 すると、岩がありその中に1本の剣が突き刺さっていた。
 物語だと、聖剣エクスカリバー…というのが有名だけど、この剣を見る限り…それはないな。
 どうみても、武器屋で長い事放置されている値段が安く設定されたボロい剣にしか見えない。
 
 「意外と見た目がこんなだけど、抜いたら姿が変わって立派になる…なんて事はなさそうだな。」
 《お主よ、何か失礼な事を考えてないか?》
 「うわっ、驚いたぁ…! 剣が喋った!?」
 《ぬ? お主、オレの声が聞こえるのか?》
 「喋る剣か…魔剣かな?」
 《一応、妹がいてな妹はかなり前の異なる世界の救世主に使われた聖剣なんだが…》
 「で、あなたは?」
 《オレは、太古の昔にこの世界に異なる世界から来た勇者に使われた聖剣の1対だ。》
 「では、あなたは聖剣なんですか?」
 《いや、オレは聖剣の力を失って久しい。》

 聖剣だったら多分装備は出来ないだろうが、喋る剣は珍しいし欲しいと思ったが。
 聖剣ではないと本人が言っている所を見ると、考え付くとしたら呪われた魔剣とかのイメージが強かった。
 
 「そうですか、なら用がないので失礼します。」
 《おい、ちょっとまて…帰るな!》
 「なんですか?」
 《聖剣としての力は失っているが、今は魔剣として力を得ている。》
 「魔剣ですか?」
 《そうだ、異なる世界の者よ!》
 「!? 僕の正体がわかるのですか?」
 《そうだ、勇者よ!》
 「あ、僕は勇者ではないです。 異なる世界から勇者たちと一緒に来ましたが…」
 《お主、ジョブはなんだ? 勇者ではないのなら、賢者か? 剣聖か? 聖女…ではなさそうだな。》
 「きようびんぼうです。」
 《あ?なんて??》
 「器用貧乏です!!」
 《器用貧乏って、なんだそりゃ! ギャッハッハッハッハッハー、クックック…ガーハッハッハッハッハ、ゲホゲホ…ブワッハッハッハ!! ハハ…って、おい、すまん笑い過ぎた。 って、おーい! 帰るなー謝るから!》

 テルシア王国で僕のジョブが発表された時に笑う者はいなかったが、素性を知らない物に話せばこういう反応になるんだろうな?
 まぁ、笑われるのは別に構わないが…岩に突き刺さっていて身動きが取れない剣に笑われるのだけは腹が立った。

 「何ですか? 不快なので帰りたいのですが…」
 《笑った事は本当にすまん。 異なる世界の救世主達は何かしらの強大なジョブを取得出来るから…てっきり…っておい、帰るな!》
 「すいませんね、出来損ないの異世界人で!」
 《だが、久々にオレは久々に会話出来た。 で、異なる世界の人間よ、オレを使ってみないか?》
 「抜いたら呪われて体の自由を奪われる…って事は無いでしょうね?」
 《会話が出来る程度で力を完全に取り戻していないので、幾多の魔物の血肉と魂を喰らえば完全に魔剣として復活する。》
 「魔王は勇者が聖剣で倒すから良いとして、魔剣の最終目標って何?」
 《別に何もない。 数世紀もこの中にいたので外の世界を見たいというのもあるな。》
 「見たいと言ったって、目はないでしょ?」
 《確かに目はないが、魔力感知で剣ごと武器であり目なのだ。》
 「うっわ、気持ち悪っ! ちなみにですけど、その姿が本来の形ですか?」
 《いや、オレは血肉と魂を喰らう事で切れ味が増して姿が変わっていく成長と進化の能力をもつ剣だ。》
 「なら、今の状態は?」
 《そうだな、少し斬れる木刀と同レベル…っておーい、帰るなーーー!!》

 期待して損をした。
 もしかしたら僕にも使えるかも知れないと密かに期待したが、少し斬れる木刀と同程度って?

 「いや、だって…木刀と同レベルの魔剣って需要あるんですか?」
 《今のところはな、だが使ってくれるのであれば期待に応える様に努力しよう!》
 「ただ、1つ問題があって…僕は包丁しか装備できないという一種の呪いみたいな物に縛られているんですが?」
 《オレなら問題ない。 普通の武器と違って、お主と同調すれば良いだけの話だから。》
 「じゃあ、使わせてもらいますよ。 僕の名前は、ダン。 ダン・スーガーと言います。」
 《オレは…なんだっけ? 長い事ここに放置されていたので名前を忘れてしまったから、適当に名付けてくれ!》

 名前…名前ねぇ?
 僕はこう言っては何だが、ネーミングセンスは幼馴染達から絶望的だと言われた事がある。
 なのでスマホのゲームでも自分の名前を入れてプレイしていたのだが。

 「ふむ…なら? 魔剣ネレスティ…なんてどうですか?」
 《ほぉ…名前の由来はなんだ?》
 「昔家の近くにいた猫の名前です。」
 《ばっかやろう! よりにもよって家畜の名前をオレに付けるな!!》
 「なら…魔剣ぽてち…なんてどうです?」
 《まさか、次は家の近くにいた犬の名前とか言うんじゃないだろうな?》
 「おぉ、凄い! 大正解です。 この犬、ぽてちが好きで良く食べていたので。」
 《お主…さすがにオレも怒るぞ!!》 
 「わかりました、真剣に考えます。」
 《良い名前を頼むぞ!》

 良い名前と言われてもなぁ?
 さっき聞いた話だと、かなり昔に聖剣として使われていたとかという話だったから、世界から忘れ去られた存在という感じかな?
 だとすると…?

 「魔剣アトランティカ!…なんてどう?」
 《名前の由来はなんだ?》
 「僕らの世界の失われた古代都市の名前です。 数世紀もここにいるのなら、ある意味あなたは世界から失われた存在ですからね…。」
 《魔剣アトランティカ…か、うむ、良いだろう。》
 「本当ですか?」
 《あぁ、犬や猫の名前を付けられるよりかはずっとましだ。》
 「では、抜くよ! アトランティカ!!」
 《約束しよう、オレが朽ちない限りその加護はお主を守り続けると!!》

 僕は魔剣アトランティカを手に取って岩から抜いてみた。
 すると凄まじい光が僕を包んで…という事は無かった。

 「抜いたら光が溢れて…というのを僅かに期待したのですが、そんなものは無かったですね。」
 《すまんな、力を失っているので、そんな事は起きん。》
 「では、外に出ますね。」
 《おぉ…これが外の世界…んん??》
 「どうかしました?」
 《ここは無人島か? だから誰も来れなかったのか…》
 「さっき、釣りをしたら高レベルのモンスターが引っ掛かりましたからね。 そんな危険生物が徘徊する海の島に足を踏み入れる様な物好きはいないでしょう。」
 《では、お主はどうやって来た?》
 「それは…見せた方が早いな。 シルフィンダー!」
 《なんじゃ、これは!?》
 「刀身が出たままじゃ危ないな…ハルモニアを【創造作製】で鞘を…」
 《お主、珍しいスキルを持っているな!》
 「では、行きますか…」
 《うむ…》

 僕はフライトモードで飛んでカイナンの街に向かった。

 《凄いな! 空を飛べる乗り物か! 数世紀も同じ暗い場所いたので、世界はここまで変わっていたのは知らなかった!?》

 アトランティカが活躍した時代に比べてみたら、世界も多少の進化を遂げているかもしれないが…そうそう変わらないと思うが? 
 僕はカイナンの街の近くに降り立ち、シルフィンダーを収納して街に入った。
 そして宿屋の前で待ち構えていた記者に捕まって、夜中まで質問攻めにあった。
 でも、念願だった武器が手に入った…木刀並みの力しかないけど…。
 
 明日はいよいよ、この街から出発する日だ!
 名残惜しい感じもしたが、まだ僕の…僕達の旅は始まったばかりだ!
 とりあえず、色々疲れたので今日は寝よう。
 おやすみなさい…。
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竜殺しの料理人~最強のおっさんは、少女と共にスローライフを送る~

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追放王子の辺境開拓記~これからは自由に好き勝手に生きます~

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異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

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【完結】捨てられ正妃は思い出す。

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突然の契約結婚は……楽、でした。

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