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第五章 動き出す…?

第十五話 八魔将対策(ある者が加われば…?)

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 全員が揃ったので、皆に話を始めた。

 「八魔将戦は、かなりまずい…」
 「ダン…まさか、八魔将とあったのか?」

 僕の発言に賢斗が反応した。
 僕は冷汗を拭いながら言った。

 「八魔将のガルムというのが来たのだが、見た目はフェンリル…いや、デスウルフの様な黒い狼の様な姿だったけど、強さの桁が違う…化け物だよ。」
 「十六鬼影衆を倒したダンが化け物という位だから、相当なんだろうな?」
 「正直言って、【覚醒】を使えても勝てるかどうか…というレベルだよ。 冗談や挑発を言える様な雰囲気では無かったし…」
 「私も師匠と一緒にいたのですが、恐怖で動けませんでした。」

 僕の発言の後に、クリアベールも言った。
 皆が無言になり、沈黙の時間が流れた。

 「奴はこう言ったよ、【覚醒】を使える時期になってから仲間と共に挑めと…それが丁度良いハンデだともな…舐められているのかと最初は思っていたけど…」
 「皆で挑め…か、正直どうみる?」
 「華奈が戻ってくれば、レイリアと回復役に徹してくれて、賢斗が補助をしてくれたら勝てる見込みもあるかも知れない。 盾役にクリスとクリアベール、攻撃に僕と翔也とガイウス…」
 「仮に、華奈が戻って来なければ…どうなる?」
 
 そう…そうなる可能性が今の段階ではありうるのだ…
 そして…僕の出した結論は…

 「全滅…」
 「やはり、そうなるのか…」

 その言葉を聞いて、皆は更に重い空気が包まれた。
 やはり、華奈がいないと戦力的に厳しいか…?
 
 「皆、少しの間だけ待っていてくれる?」
 「ダン…彼に相談か?」

 飛鳥のいる前で慱の名前を出せない事は、賢斗も知っていたのであえてそう言った。
 僕は頷くと、目を閉じた。

 《本来なら、こうして話す事は出来ないんだけど、今回の場合は緊急事態という事で良いかな?》
 《仕方ないだろう、僕も中から見ていたけど…あの強さは別格だね。 確かに聖女の術なしでガルムに勝つというのは無理だと思う。》
 《でも、戦闘訓練での影響で華奈はやる気を無くしてしまった。 説得がどこまで通用するかと考えると、僕では逆効果だと思う。》
 《あまり僕の存在を他の…翔也と賢斗以外に知られたくは無いんだけど、今回ばかりはそんな事を言ってられないしな…仕方ない、今回は僕が何とかしよう!》
 《ありがとう兄貴! で、どうするの?》
 《兄貴か…良い響きだなw そうだな、アトランティカと少し相談したい事があるから、しばらくアトランティカと話せなくなるけど平気?》
 《あぁ、大丈夫! その間は僕はどうしたら良い?》
 《テルシア王国にダンが行く事は禁じられているんだよね?》
 《でも緊急事態だから、フェイクで誰かに変身してでも行こうかと…》
 《バレた後が厄介だから、この国の王族に協力を仰ごう。》
 《国王陛下に?》
 《いや、王妃殿下に…第一王女だったんだよね?》
 《なるほど! ではその様に動くよ!》
 《あと、テルシアに行く時は飛鳥も一緒に連れて行って…もう、全てを話そう!》
 《では、テルシアで!》

 「皆、予定が…ってどうしたの?」
 「それがな…」

 僕が目を覚ますと、キャサリアさんが部屋に来ていた。
 冒険者ギルドの緊急案件で、バレサステップのダンジョン調査を行って欲しいとの事らしいのだ。
 この忙しい時に、冒険者ギルドの依頼なんてやっている暇はないが…

 「ガイウス、クリス、クリアベール、レイリアは、冒険者ギルドの緊急依頼の方を頼む! 球体を渡しておくので何かあったらこれに入れて持ち帰ってほしい。」
 「わかった、こっちは任せろ! ダンはどうするんだ?」
 「僕と翔也、賢斗、飛鳥は、テルシア王国に行く。 華奈を迎えに行くのと兄貴の存在を話す。」
 「彼の存在を明かすのか?」
 「あぁ、兄貴からこんな状態だから隠しておく必要はないと言われたのでね。」

 僕がそういうと、飛鳥は頭に「?」が浮かんでいた。
 
 「だが、ダンは魔王が討伐されるまでテルシア王国には入れないんだろう? どうするんだ?」
 「この国に協力者がいるので、僕はこれから王宮に向かう。 賢斗達はカイナンの外で待っていてくれ!」
 《アトランティカ、頼みがある。 慱が話があるという事なので向かってくれないか?》
 《話の内容から何となく予想はしていた。 しばらく話せなくなるぞ!》
 《あぁ…それと、シャンゼリオン…少し良いかな?》
 《なんでしょうか?》
 《テルシア王国に着いたら、やってほしい事があるので、その時は声を掛けます。》
 《解りました!》

 「では、僕は王宮に行ってくるので、各自解散!」

 皆はそこで解散し、翔也と賢斗と飛鳥は街の外へ…
 ガイウス達は、ギルドから馬車を借りてバレサステップに向かった。
 僕は王宮に向かった。

 「これは、英雄様! 今日はどんな御用でしょうか?」
 「大至急、国王陛下と王妃殿下にお取次ぎをお願いします! 緊急な案件で…とお伝え下さい!」

 10分ほど待っていると、騎士が僕の所に来て一緒に王宮に連れて行ってくれた。

 「国王陛下、王妃殿下…本来ある手順を飛ばしてしまい大変申し訳ありません!」
 「いや、構わない! ダン殿が緊急という言葉を口にする位だから、余程の事だろう…」
 「話したい事は多々あるのですが、聖女華奈が現在テルシア王国にいるので迎えに行きたいのですが、僕がテルシア王国を追放される条件として、魔王を討伐されるまで国には入ってはならないと国王に言われたのです。」
 「なるほど、それで妻に…という訳か!」
 「はい、手紙…では説得に欠けると思いまして、同行の許可を国王陛下に戴きたいと…」
 「聖女華奈を迎えに行くだけの理由では、妻の動向は許可を出せないな…訳を話してくれないか?」
 「わかりました。 昨日八魔将のガルムという奴が僕の所に来まして、12日後に仲間と共に挑めと言われました。」
 「八魔将か…その様子からすると、相当な相手なのか?」
 「はい、正直に言って僕だけでは勝てません。 十六鬼影衆と違って化け物でした。」
 「十六鬼影衆を倒したダン殿が化け物という位なら、相手は相当なのだな?」
 「ですので、聖女華奈の力が必要なのです。 同行の許可をお願い出来ますか?」
 「そういう事なら、余も妻と一緒に同行しよう! 今すぐ用意をするので、しばし待って戴きたい。」
 「御協力、感謝致します。」

 王妃殿下だけかと思ったら、国王陛下も一緒なら尚の事心強いが…
 この国は平気なのかな?

 30分後、僕が王城の門で待っていると、2人は馬車で来たので僕も乗ってカイナンの街の外まで送ってくれた。
 そこで賢斗達と合流した。

 「あのシルロンダーという物にもう1度乗りたいと思っていたのだ!」
 「今回はシルロンダーでは遅くなりますので、シルフィンダーを使います。 シルロンダーより少し狭くなりますが、すぐにテルシアに着きますので、多少の窮屈な思いをするかもしれません。」

 僕は紋章からシルフィンダーの玉を取り出すと、球体解除をした。
 初めて見る国王陛下と王妃殿下は、シルフィンダーを見て驚いていた。
 僕は運転席に座ると、紋章をセットした。
 シルフィンダーは、凄まじい魔導音を響かせていた。

 「1時間くらいで着きますが、少し飛ばしますので…」
 「なんと! テルシア王国まで1時間で着くとは⁉」

 後部座席の前に国王陛下と王妃殿下、その後ろに翔也と賢斗と飛鳥を乗せた。
 僕はアクセル全開で発進した。
 ある程度スピードに乗ったら、フライトモードでテルシア王国を目指した。
 後方の王と王妃を見たけど、特に気絶している訳でもなく、空の旅を楽しんでいる感じだった。
 
 「テルシア城が見えました。」
 「何⁉ もう見えたのか⁉」
 
 僕はかなり飛ばしていたので、40分弱でテルシア王国領内に入った。
 街中に降りれば騒ぎになるだろうから、僕が追放される時に出た門を目指した。
 城の城壁が見える場所に行くと、フライトモードを解除して城門の前で停止をした。

 「勇者様! それに…トアルディア王女様‼」
 「火急の用で連れて参りました。 サーディリアン聖王国の国王陛下と王妃殿下がテルシア国王陛下とアルカディア王女に会いに来たと伝えて下さい!」

 城の兵士は、さすがにただ事ではないと思い、城門を開けて皆を通した。
 僕は最後に通ろうとすると、兵士に止められた。

 「ダン殿は本来、魔王が討伐されるまでこの国には入れない決まりです!」
 「そんな細かい事を言っている場合ではありません! 私が許可しますので、大至急お父様にそうお伝えなさい!」
 「ハッ! 申し訳ありません!」
 
 兵士は飛んで行くように城に入って行った。
 そしてしばらくすると、アルカディア王女が走って来て、トアルディア様に抱き着いた。
 
 「トア姉様…お久しぶりです!」
 「久しぶりね、アルカ…」
 
 2人の姉妹の久々の再開だった。
 だが、アルカディア王女はすぐに離れると、僕を見て頭を下げた。

 「英雄ダン様…おかえりをお待ちしておりました! 要件は解っております…聖女様は応接室でお待ちです。 兄上と姉様は国王の間にお越し下さい。」

 僕等は、そこで国王陛下と王妃殿下と別れ、応接室に向かった。
 僕等は応接室に入ると、華奈はむくれた顔で僕達を迎えてくれた。
 僕は華奈に謝ろうと近くに行くが、華奈は露骨に距離を取った。

 「参ったな、取り付く島もない…」
 「華奈の中では、ダンの行動は理解してても解決はしてないのかもしれないな…」

 賢斗…フォローありがとう…慰めにもなっていないけど。
 僕は今後の事を考えて、仕方なく折れる事にした。
 
 「華奈、戦闘訓練の時は済まなかった。」
 「別に怒ってなんかいないわよ! あれは私も感情に任せて言ってしまったと反省しているから…」
 「なら、何で距離を取ろうとしているの?」
 「全てを許した訳じゃないからね!」

 《ダン、こちらは準備が出来た! 君にやってほしい事がある…この部屋に、【結界】と【暗転】を展開してから魔力を放出してくれる?》
 《シャンゼリオンは、オレに力を貸してくれ! これからダンがやる事はかなり無茶をするから!》
 《分かったわ兄さん、私は何をすればいいの?》

 「翔也、賢斗…こちらは準備が出来た! これから華奈と飛鳥には会わせたい人物がいるので、この部屋から出ないでくれ! 翔也はシャンゼリオンを中央に…アトランティカの隣に置いてくれ!」
 
 僕は皆を集めてから中心にアトランティカを置いた。
 翔也は、アトランティカに重ねる様にシャンゼリオンを置いた。
 そして僕は【結界】を展開してから、【結界】を覆う様に【暗転】をして魔力を放出した。
 結界の中は、ちょっとした漆黒の空間と同じ様な景色になっていた。
 アトランティカトシャンゼリオンは、空中に浮かぶと…僕の体に張り付いて魔力を吸収していた。
 そして、その暗闇の中から慱が現れた。

 「華奈…飛鳥…久しぶりだね!」
 
 暗闇の中から出て来た子供の慱を見て、僕と交互に見た。
 華奈も飛鳥も呆けている。

 「華奈、僕はね…七年前に獣に襲われて痛みから逃げる為に今のダンを作って全てを背負わせた卑怯者だよ。」
 「なら、あなたは私の知る慱なのね? それが本当だとしたら、証明できる?」
 「ふむ…幼い時に2人で行ったお祭りで、僕の取ってあげた指輪…それをロケットに仕舞える様に作った物を一生の宝物にしてくれると言ってくれたけど、今でも持っているかい?」
 「それは…私と慱しか知らない思い出…私の好きな慱だわ!」
 
 華奈は涙を流して言った。
 手には宝物のロケットを握りしめていた。

 「懐かしい話を色々したい所だけど、実はあまり時間が無いんだ…だから要点だけ伝えるね。 まず、戦闘訓練での華奈への攻撃をこっちのダンに命じたのは僕なんだ。」
 「慱が…私を…?」
 「彼の目を通してみていた時に気付いたんだけど、翔也、賢斗、飛鳥は魔王との戦う覚悟が出来ていた。 だけど、華奈にはその覚悟がある様に見えなかった。」
 「私も覚悟はしていたわ! 魔王を倒して皆で元いた世界に帰る為に!」
 「では、何故彼のした事をまだ許していないのかな? それが答えなんじゃないかな?」
 
 華奈はしばらく考え込んでいた。
 慱はさらに話を続けた。

 「八魔将は、十六鬼影衆と違って甘い連中じゃないよ! 自分の身すら守れないで、それを他人を所為にしている限り魔王を倒すなんて夢のまた夢だよ。」
 「確かに、慱の言う通りね。 私はどこかで甘えていたみたいだったわ!」
 「それが解ってくれれば、後は大丈夫だね。」
 「慱…この会話以降はもう会えないの?」
 「その事なんだけど、今の僕には2つの選択肢がある。 1つは彼と融合して1つになる事…」
 「もう1つは?」
 「もう1つは、彼の細胞から新たな身体を作りだして、僕がその身体に宿る事をね…」
 「そうしたら、慱が2人になるの?」
 「そうなるね、ただし…僕は双子の兄で彼は弟という形になる。」
 「そうなったら、素敵な事だわ! それはいつ実現出来るの⁉」
 「それは、まだまだ先になるけど、もしかするとその計画すらなくなる可能性があるんだ。」
 「それって、一体どういう意味?」
 
 これで話が繋げられた…
 後は、華奈が戦いに参加するかどうかだが…

 「実は彼がね、八魔将の1匹と対面したんだけどね。 僕も彼の目を通してみていたんだけど、今迄の敵と違って強さが圧倒的な化け物だったんだよ。 彼の覚醒でも歯が立たない位にね…」
 「なら、どうするの?」
 「そこで華奈の参加で確率が高くなるんだよ! 華奈、戦いに参加してもらえないかな?」
 「もしも敗北した場合はどうなるの?」
 「彼は魔王には向かった者として殺されて、中の僕も死ぬ事になり…新たな身体という話はなくなるね。」
 「わかったわ! 私は戦いに参加します! そして慱は体を得て、昔みたいに一緒に…」
 
 慱は翔也と賢斗に頷くと、2人も頷いて見せた。
 これで、戦いのメンバーが揃った。
 八魔将との戦いは正直かなり厳しいだろうけど、華奈が加わってくれれば…

 「ボクも1つ良いかな?」
 「何、飛鳥?」
 「以前彼がボクの流派の技を使っていたんだけど、慱が彼に教えたの?」
 「彼の話によると、獣に襲われてからしばらくした後に、飛鳥のお爺さんに誘われて紅蓮院流の全ての武器の技を体得したと言っていたよ。 …ごめん、詳しい話は彼に聞いてくれる? そろそろ彼も限界みたいだし…」
 「次はいつ会えるの?」
 「次は八魔将に勝利して体を取り戻した時に会えるよ! それまで、華奈と飛鳥も頑張ってね!」

 慱は姿を消すと、僕も魔力の放出が止まり…結界と暗転が解除された。
 僕の体から離れたアトランティカとシャンゼリオンは、元の位置に戻った。

 「慱と話は…出来た…かな? これ、すっごくしんどい…」
 《相棒よ、慱に相談された時は出来るか半信半疑だったが、これ正直きついな…シャンゼリオンも平気か?》
 《彼がダン殿の中の…なんですね。 それにしても、きつかった…》
 
 僕は地面に座り込んだ。
 翔也と賢斗は手を差し出してくれた。
 僕はその手を掴むと、新たに会得した【吸収】で彼らの魔力を少し奪い取った。
 
 「ダン…で良いのかな? 色々ごめんなさい。」
 「あぁ…こっちもごめんね。」

 事情は聞こえていた。
 僕の罪を慱が被ってくれた。

 「さて、これからどうしようか?」
 「サーディリアンの国王陛下と王妃殿下を迎えに行ってから帰るのだろうけど、城の中の人達と話すくらいの時間はあるんじゃないか?」
 「そうだね、久々に皆に会いたかったし…王様には会いたいとは全く思わないけど…」

 僕は久々に城の皆に会って行こうと思った。
 その時の話は、次の閑話で語られます。
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