偽物の僕。

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37壊れて沈む

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夜。優希は部屋の片隅で膝を抱えている。
壁に爪を立て、虚な目でどこかを見つめている。
叶は優希に近づいてそっと毛布をかける。

優希の指先が震えていた


「やだ……もうわかんない……全部…もう…」
壁に背を押し付け、耳を塞ぐ。けれど、頭の中は自分の声で埋め尽くされていた。奏多の声も、海の匂いも全部思い出に変わってしまった。自分だけが、そこに取り残されている。

だれかが、名前を読んだ気がした。
もう何度目だろう、この声を無視するのは。

「優希」

叶さんだった。すぐ隣にいる。なのに遠い優しい顔が、今日はやけに怖かった。

「大丈夫。俺が居るよ。優希はもう、何も考えなくていい。」

「………っ、」

「全部、俺が忘れさせてあげる。奏多のことも、過去も全部。優希は、ただ俺のそばにいれば良いんだよ。」

その言葉が、刃物みたいに甘くて、優希の心の奥に静かに刺さる。
逃げたいのに、逃げる力が出ない。

壊れてしまえば、叶さんの腕に抱かれてそれで終われる気がした。

「…やだ………」

声にならない声を叶さんはそっと抱きしめるように受け止めた。

「怖くないよ。優希は、俺のものなんだから。」

その言葉に心が少しだけ泣くのをやめた。
それが優しさだと錯覚した。
ーーほんとうは、とても冷たい檻の音だったのに。

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