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12-【ダメ見本】怖気づいてはいけません。

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 ……脱がせてしまおうか。
 ドライに至る緩やかな快感のなか、煮えてきた頭でそんなことを考えた。

 カクン、カクンと腰が小さく揺れる合間に、手に触れる布地を少しずつ手繰り寄せてみる。すると、俺が脱がそうとしていることに気づいたらしい大悟が身を起こして、勢いよくTシャツを脱ぎ去った。
 その大きな動きが引き金だった。

「っっん、」
 大悟のペニスがわずかに入り込んで、カリがそこから移動する。
 内壁を擦られ波立つ多幸感。
 アナルの隙間を埋められるような閉塞感。
 押しあげられた前立腺からくる、溢れんばかりの射精感。
 それらが一度に押し寄せる。

 これまで、俺にとってのドライへ至る行程は、神経を研ぎ澄まし、見つけた道を失わないよう、慎重に山を登っていくような感覚だった。
 でも、これは違う。
 ゆらゆらと揺れる波間に身を任せていたら急に大波に攫われて、どこか高いところへ勢いよく押しあげられる。そんな感じだった。

「んんー。んく、ふぅ」
 いや、まだだ。本当のドライオーガズムはこの向こうにある。ドライまで、あと少し。
 俺は、この高みから滑り落ちないよう、目を閉じて集中した。


 不規則なようでいて、まだ予測のつく波に身を任せていると、ふいに、胸元を探る指先を感じた。濃い快感に重くなった目蓋を持ちあげると、大悟が俺のシャツのボタンを外そうとしているのが見える。
 途端に、身体の真ん中を何かがぞくぞくと駆け抜けた。

「あ、あ、だめ。ぬが、すな」
 いつの間にか舌までが重たく痺れてて、制止の声がいくらか舌足らずになってしまった。それでも、すでに動かすのも億劫な手を持ちあげて、ボタンにかかっていた大悟の手を押しとどめる。

 大悟と肌と肌とで触れ合いたい。その誘惑はとても強い。だけどその誘惑以上に、大悟に肌を晒してしまうことが、なぜだか怖かった。

 親友である大悟とのセックスは、いろんな意味で初めてのことばかりだ。そんな諸々を受けとめきれず、すでに心も身体も飽和状態になってるんだ。
 ボタンを外し、シャツを開き、大悟と素肌を触れ合わせる。いま、それをしてしまったら、村谷幸成の何もかもを西原大悟に晒し、すべてを明け渡してしまうような気がした。

 そんなことしたら、親友よりも濃密で、セフレよりもずっと深い……俺の知らない何かに、きっとなってしまう。
 身体の芯に走ったぞくぞくが、そうなりたいと望む声なのか、そうなることを怖れる声なのか。
 自分で自分がわからない。それが一番怖かった。


 俺に押しとどめられた大悟は、素直に手を引いてくれた。少し残念にも思ったけど、とりあえずホッとした自分がいるのも確かだ。

 俺の身体とえいば、注意が逸れたせいでドライに至らず終わるかと思ったのに、連れて行かれた高みからはまだまだ降下する様子はない。
 信頼できる男に身を任せて、ゆっくりと濃化していく悦楽をゆるゆると味わう。腰は重いし、すっかり息もあがって苦しいはずなのに、それでもやっぱり気持ちがいい。

 そうして高みの波間にたゆたっていると、今度は脇腹に触れられた。シャツの裾から潜り込んできた大きな手が、熱くなった薄い皮膚をそろりと撫でる。
「あッ、あ、や、」
 だめだ、やめろ。
 そう言いたかったのに、すっかり痺れてしまった舌に、言葉を紡ぐことができない。

 大悟の手が、また俺の脇腹をそろりと撫であげる。その手の動きにつられて、シャツの裾が少し捲れた。大きな手のひらが、俺の肌の上をゆっくりと彷徨う。脇腹を辿り、肋骨を数え、さらに上を目指して這い登ってくる。


「んんっ、ふ、ぅ」
 ああ、どうしよう。大悟の手が、そのままシャツの下を進んできたら……。
 触れてしまう。触られてしまう。
 そこは、だめなんだ。とくにドライ寄りなこんなときは、すごく敏感になってしまう。もし、いま触られたら。

 あ。
 ダメだ。想像しただけで小さな乳首がきゅっと勃起してしまった。

「や、や、あ、」
 俺がこんなにやらしい乳首をしていると、大悟に知られたくない。男のくせに、勃起して大悟の指を待ってるような、触られたがりの乳首をしてるだなんて。
 アレコレしておいて、いまさらだけど……これだけは、どうしても恥ずかしかった。


 俺の羞恥をよそに、大きな手のひらは俺の鳩尾の上でぴたりととまった。その場でじっとして動かない。
 そのまま動くなよと願う気持ちと、あと少しなのにと惜しむ気持ちとが入り交じり、大悟の手の下でモヤモヤとした気分が膨らんでいく。

 期待させておいて触れてもらえなかった乳首がずきずきと痛い。
 悦楽の波が、少しだけ凪いでしまった。このままドライに辿り着けずに終わるのかな。
 いやだ。ここまできたらドライを味わいたい。アナニーでも、ここまで辿り着くのは珍しいんだから。

 俺のそんな欲などはお構いなしに、大きな手のひらはじっとして動かなかった。何を思ってか、ただ静かに、鳩尾の上へとどまり続けている。
 シンとして……まるで、手のひらが耳を澄ましているみたいだ。


 そう思い至ったとき、凪いだばかりの波が大きくうねった。
 まさか、手のひらで心臓の鼓動を確認してる? 誤魔化しようもない心音を?
 そんなことされたら、大悟にすべてバレてしまう。俺がどれだけ感じてるか。何に感じてるか。すべて。

 せっかく服を脱がずに済んだのに。すべてを晒すことなく済んだのに。
 心音を、乳首へ近づく大きな手に速まる鼓動を大悟に聴かれてるのかと思ったらよけいに、息苦しいほど鼓動が速くなってしまった。
 いまの、急に速くなった心臓の変化も、きっと大悟に知られた。そのことが無性に恥ずかしい。

 もうこれ以上、鼓動を速めたくない。意識しまくってると思われないよう、できるだけ平静を保っていよう。
 そう思うのに、それまでじっとしていた大悟の手がジリジリと動き出した。

「あっ、や、やあッ」
 ただでさえ大きな大悟の手のひらが、さらに大きく広げられて、少しずつその位置をずらしていく。
 そうして伸ばした指先に、左の乳首をそっと撫でられた。
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