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安濃津湊と安濃津城
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弘治二年(1556年)二月 安濃津
長野工藤氏との戦の後、源太郎は直ぐに居を安濃津に移した。
戦で荒れ果てていた安濃津湊を大々的に改修整備して、交易拠点と造船所、水軍基地として開発している。
今も、小浜景隆の第一艦隊と九鬼嘉隆の第二艦隊が訓練に勤しんでいる。
それと源太郎は、史実で在った津城の規模を遥かに超える城を築いている。
北は安濃川、南は岩田川に挟まれ、これらを天然の大外堀とした。中央に内堀で囲まれた本丸と、それに付属して東丸・西丸があり、本丸・東・西丸を取り囲んで二の丸が配された輪郭式の平城で、岩田川と安濃川の水運を活かした水軍基地の役目も果たしている。
同時に、伊勢街道の整備と城下町の建設を整備している。
安濃津城の築城に関しては、恐ろしく早い築城ペースとなっていて、まだ一年も経っていない現在、九割方出来上がっている。
当然、源太郎が夜中に基礎になる工事を魔法を使い済ませたのだが、増員した黒鍬衆の頑張りでもある。また、近隣領民に賦役では無く、日当と食事を与え工事の人足として雇うと通達すると、大勢の領民が集まった。
源太郎の魔法に付いては、道順や小南その他側近には見られているが、意外とこの時代、不思議な物を受け容れる事が出来るようだ。
源太郎がその気になれば、一夜城は不可能ではない。この巨大な安濃津城の堀の掘削や、その他基礎工事は、三日間で済ましている。
近隣の領民はさぞかし驚いた事だろうが。
源太郎が安濃津城の築城工事を眺めていると、伊賀崎道順が現れた。
「あゝ道順か。何かありましたか?」
「若、斎藤道三が子義龍と長良川で戦い討死したようです」
「美濃も中々治らんな。道順、今川と織田の動向は注視しておいて下さい」
その後、源太郎が道順とたわいの無い話をしていると、神戸小南が現れた。
「小南、いかがした」
道順が小南に何かあったのか聞くと、伊賀の上忍三家、百地丹波守泰光と藤林長門守正保が源太郎に繋ぎを付けて欲しいと要請を受けたようだ。
「里に帰っていた所を呼ばれまして」
小南も突然呼ばれて困惑したようだ。
「ふむ、まあ当然の事か。若のもとには現在、某を始め高山兄弟や小南といった、伊賀の中でも腕利きが家臣として働いているのだから。しかも若は、下忍にも分け隔てなく住む家と禄を与えている。里の暮らし振りとは雲泥の差でしょうからな」
故に、道順達は源太郎の為になら命も投げ出す事を厭わないのだが。
「でも伊賀の上忍三家ともなれば、六角辺りの紐付きだろう?」
源太郎の問いに、道順と小南が笑う。
「若の母上は六角定頼の娘、現当主義賢様は叔父でしょうに」
「この先、伊勢を統一しようとすると、何時まで味方で居るかはわからないからな」
源太郎の言うことに道順は頷く。
「北勢四十八家ですな」
北伊勢の地に勢力を持つ小規模な城主や豪族の存在がある。六角家の紐付きの勢力や北畠家の影響下にある勢力が入り乱れて争っている。
ここに長島願証寺、一向宗本願寺派の影響もあるので、余計に混沌としている。
「少しずつ取り込むのが一番だけど、あまりゆっくりもしてられないからな」
「とりあえず伊賀の上忍三家に関しては、某が一度里に戻って話をしてみましょう。我等と違い、上忍三家を信用する事は出来ませんからな」
道順は、源太郎の側に仕えさせる人員については、同じ伊賀者でも、一人一人慎重に確認して、これはという者を少しずつ増やしている。
下手な忍びを側に置くのは、源太郎のために成らないどころか、首を絞めかねない。
「源太郎様の周りには、隠さねばならない事が多いですから。同じ伊賀者でも信に足る者でなければ、源太郎様のお側には置きたくありません」
道順が伊賀の里に戻ると告げると、小南も同胞とはいえ慎重になるべきだという。
「まあ、当分は領地を富ませる事を考えないと」
石高を上げ、商業を発展させる。ひとつひとつクリアしていかないと、と思う源太郎だった。
北伊勢を統一して、桑名を支配下に置こうとすると、目の前は長島だ。現状、宗教勢力との対立は表立って無いが、今の宗教勢力は本願寺にしても、延暦寺や高野山から熊野三山まで、武力を持ち戦国大名と変わらない。
頭が痛い話だ。源太郎が家督を継ぐ頃に周りの状況がどうなっているかも予見できない。
そこで源太郎は、優秀な人材を確保して育成する事にした。
ターゲットは、榊原康政だ。三河国岡崎の浄土宗大樹寺に預けられているのを思い出した。
早速、大之丞と道順を派遣し、小姓として仕えないか勧誘を頼む。
後の徳川四天王の一人、この時は亀丸と名乗っている。
伊勢一志郡の榊原の分家筋、榊原長政の次男。
亀丸としては、武士に成りたかったようで、喜んで伊勢に来ると言ったそうだ。
父長政も兄清政も、喜んで送り出してくれたそうだ。
安濃津城の本丸御殿に移り住んで暫く、源太郎は机に向かい、ひとり図面を引いていた。
そこに井上専正が、書状の束を持ってやって来た。
「若様、目を通して頂きたい書状をお持ちしました」
ドサッ
「うわぁ、またたくさんあるな」
源太郎がゲンナリする。
「それは仕方ありますまい。それだけ領内が順調に発展しているということでしょう。安濃郡でもこの春から農業指導を行っていますので、他の領内と同じように収穫量が見込めるでしょう」
報告する井上専正が、源太郎が描いている図面に気づく。
「若様、それは?」
「あゝ、味兵衛にまた頼もうと思っている事業なんだけど」
そう言って源太郎が広げた図面は、流下式塩田の図面である。
「ほう、塩ですか。一応本所様にお伺いしておきましょう」
塩に関しては戦略物資なので、当主の具教に確認をしておくと告げる。
「伊勢街道の関所を、出来れば神宮領まで、せめて大湊まで廃止したいけど……、難しいだろうね」
味兵衛が少し考えて助言する。
「若様が家督を継がれれば、不可能ではないと思いますが、いくら一門衆でも関所を廃する替わりになる利を示さねばならんでしょうな。
しかし、鳥屋尾石見守殿や大河内中納言殿、家城殿、大宮含忍斎殿ら重臣方は、若様を高く買っておられますぞ。むしろ御一門衆の方が厄介やも知れませんな」
そう、何故か一門衆よりも北畠家四家老を含む重臣達は、源太郎の事を高く買っている者が多い。これは、幼い頃から文武に才を魅せる源太郎への嫉妬だと、薄々気づいているだけに、味兵衛も思わず溜息をつく。
「税も四公六民で揃えたいけど……、これも私の力がもっとなければダメだよな」
「そうそう、家臣の中から若様の騎馬部隊に入りたいと言う若者が増えているそうですが、最低限六尺を超える身の丈が必要と通達しておきました」
濃紅の馬鎧を身につけた巨馬が率いる騎馬部隊は、先の戦での活躍を受け、北畠領内では羨望の的に、他家では恐怖の象徴として広く知られるようになった。
「そうだな、馬の数をもう少し増やさないと。飼料用作物の栽培地も拡げないといけないしな」
「角屋とそれ以外の商人にも依頼していますが、こればかりは運ですからな」
馬の輸入に関しては、継続して依頼している。決して安くはないが、お金には余裕がある。
「それと馬で思い出しましたが、大之丞殿や新左衛門が、あの馬鎧の様な軽くて丈夫な、鎧が欲しいと言うておりましたな」
(という事は、赤龍の鱗はまだまだあったよな)
「造るのは構わないけど、どうせ自分のは造る積りだったし。でもあれは私しか造れないから、直ぐには無理だし、前立ては自分で好きに造るように言っておいて」
どうせ自分の分と、馬廻り衆の分は、ガチガチにエンチャントかけた鎧を造る予定だったので、それは問題ないが、源太郎が前回の戦で使ったバルデッィシュを見て、自分達もと欲しがった。
現在、ハルバードやビルの発展形であるスコーピオン、グレイブの発展形のフォーチャードなど、領内の鍛治職人と試作して、自分にあった得物を見つけようとしている。
最終的に、鎧ごと敵兵を斬れる武器を、源太郎が造る予定だ。
鉄砲部隊の増員と訓練も順調で、銃剣を使った訓練も行っている。
(まだ子供なのに、過労死しそうだな)
長野工藤氏との戦の後、源太郎は直ぐに居を安濃津に移した。
戦で荒れ果てていた安濃津湊を大々的に改修整備して、交易拠点と造船所、水軍基地として開発している。
今も、小浜景隆の第一艦隊と九鬼嘉隆の第二艦隊が訓練に勤しんでいる。
それと源太郎は、史実で在った津城の規模を遥かに超える城を築いている。
北は安濃川、南は岩田川に挟まれ、これらを天然の大外堀とした。中央に内堀で囲まれた本丸と、それに付属して東丸・西丸があり、本丸・東・西丸を取り囲んで二の丸が配された輪郭式の平城で、岩田川と安濃川の水運を活かした水軍基地の役目も果たしている。
同時に、伊勢街道の整備と城下町の建設を整備している。
安濃津城の築城に関しては、恐ろしく早い築城ペースとなっていて、まだ一年も経っていない現在、九割方出来上がっている。
当然、源太郎が夜中に基礎になる工事を魔法を使い済ませたのだが、増員した黒鍬衆の頑張りでもある。また、近隣領民に賦役では無く、日当と食事を与え工事の人足として雇うと通達すると、大勢の領民が集まった。
源太郎の魔法に付いては、道順や小南その他側近には見られているが、意外とこの時代、不思議な物を受け容れる事が出来るようだ。
源太郎がその気になれば、一夜城は不可能ではない。この巨大な安濃津城の堀の掘削や、その他基礎工事は、三日間で済ましている。
近隣の領民はさぞかし驚いた事だろうが。
源太郎が安濃津城の築城工事を眺めていると、伊賀崎道順が現れた。
「あゝ道順か。何かありましたか?」
「若、斎藤道三が子義龍と長良川で戦い討死したようです」
「美濃も中々治らんな。道順、今川と織田の動向は注視しておいて下さい」
その後、源太郎が道順とたわいの無い話をしていると、神戸小南が現れた。
「小南、いかがした」
道順が小南に何かあったのか聞くと、伊賀の上忍三家、百地丹波守泰光と藤林長門守正保が源太郎に繋ぎを付けて欲しいと要請を受けたようだ。
「里に帰っていた所を呼ばれまして」
小南も突然呼ばれて困惑したようだ。
「ふむ、まあ当然の事か。若のもとには現在、某を始め高山兄弟や小南といった、伊賀の中でも腕利きが家臣として働いているのだから。しかも若は、下忍にも分け隔てなく住む家と禄を与えている。里の暮らし振りとは雲泥の差でしょうからな」
故に、道順達は源太郎の為になら命も投げ出す事を厭わないのだが。
「でも伊賀の上忍三家ともなれば、六角辺りの紐付きだろう?」
源太郎の問いに、道順と小南が笑う。
「若の母上は六角定頼の娘、現当主義賢様は叔父でしょうに」
「この先、伊勢を統一しようとすると、何時まで味方で居るかはわからないからな」
源太郎の言うことに道順は頷く。
「北勢四十八家ですな」
北伊勢の地に勢力を持つ小規模な城主や豪族の存在がある。六角家の紐付きの勢力や北畠家の影響下にある勢力が入り乱れて争っている。
ここに長島願証寺、一向宗本願寺派の影響もあるので、余計に混沌としている。
「少しずつ取り込むのが一番だけど、あまりゆっくりもしてられないからな」
「とりあえず伊賀の上忍三家に関しては、某が一度里に戻って話をしてみましょう。我等と違い、上忍三家を信用する事は出来ませんからな」
道順は、源太郎の側に仕えさせる人員については、同じ伊賀者でも、一人一人慎重に確認して、これはという者を少しずつ増やしている。
下手な忍びを側に置くのは、源太郎のために成らないどころか、首を絞めかねない。
「源太郎様の周りには、隠さねばならない事が多いですから。同じ伊賀者でも信に足る者でなければ、源太郎様のお側には置きたくありません」
道順が伊賀の里に戻ると告げると、小南も同胞とはいえ慎重になるべきだという。
「まあ、当分は領地を富ませる事を考えないと」
石高を上げ、商業を発展させる。ひとつひとつクリアしていかないと、と思う源太郎だった。
北伊勢を統一して、桑名を支配下に置こうとすると、目の前は長島だ。現状、宗教勢力との対立は表立って無いが、今の宗教勢力は本願寺にしても、延暦寺や高野山から熊野三山まで、武力を持ち戦国大名と変わらない。
頭が痛い話だ。源太郎が家督を継ぐ頃に周りの状況がどうなっているかも予見できない。
そこで源太郎は、優秀な人材を確保して育成する事にした。
ターゲットは、榊原康政だ。三河国岡崎の浄土宗大樹寺に預けられているのを思い出した。
早速、大之丞と道順を派遣し、小姓として仕えないか勧誘を頼む。
後の徳川四天王の一人、この時は亀丸と名乗っている。
伊勢一志郡の榊原の分家筋、榊原長政の次男。
亀丸としては、武士に成りたかったようで、喜んで伊勢に来ると言ったそうだ。
父長政も兄清政も、喜んで送り出してくれたそうだ。
安濃津城の本丸御殿に移り住んで暫く、源太郎は机に向かい、ひとり図面を引いていた。
そこに井上専正が、書状の束を持ってやって来た。
「若様、目を通して頂きたい書状をお持ちしました」
ドサッ
「うわぁ、またたくさんあるな」
源太郎がゲンナリする。
「それは仕方ありますまい。それだけ領内が順調に発展しているということでしょう。安濃郡でもこの春から農業指導を行っていますので、他の領内と同じように収穫量が見込めるでしょう」
報告する井上専正が、源太郎が描いている図面に気づく。
「若様、それは?」
「あゝ、味兵衛にまた頼もうと思っている事業なんだけど」
そう言って源太郎が広げた図面は、流下式塩田の図面である。
「ほう、塩ですか。一応本所様にお伺いしておきましょう」
塩に関しては戦略物資なので、当主の具教に確認をしておくと告げる。
「伊勢街道の関所を、出来れば神宮領まで、せめて大湊まで廃止したいけど……、難しいだろうね」
味兵衛が少し考えて助言する。
「若様が家督を継がれれば、不可能ではないと思いますが、いくら一門衆でも関所を廃する替わりになる利を示さねばならんでしょうな。
しかし、鳥屋尾石見守殿や大河内中納言殿、家城殿、大宮含忍斎殿ら重臣方は、若様を高く買っておられますぞ。むしろ御一門衆の方が厄介やも知れませんな」
そう、何故か一門衆よりも北畠家四家老を含む重臣達は、源太郎の事を高く買っている者が多い。これは、幼い頃から文武に才を魅せる源太郎への嫉妬だと、薄々気づいているだけに、味兵衛も思わず溜息をつく。
「税も四公六民で揃えたいけど……、これも私の力がもっとなければダメだよな」
「そうそう、家臣の中から若様の騎馬部隊に入りたいと言う若者が増えているそうですが、最低限六尺を超える身の丈が必要と通達しておきました」
濃紅の馬鎧を身につけた巨馬が率いる騎馬部隊は、先の戦での活躍を受け、北畠領内では羨望の的に、他家では恐怖の象徴として広く知られるようになった。
「そうだな、馬の数をもう少し増やさないと。飼料用作物の栽培地も拡げないといけないしな」
「角屋とそれ以外の商人にも依頼していますが、こればかりは運ですからな」
馬の輸入に関しては、継続して依頼している。決して安くはないが、お金には余裕がある。
「それと馬で思い出しましたが、大之丞殿や新左衛門が、あの馬鎧の様な軽くて丈夫な、鎧が欲しいと言うておりましたな」
(という事は、赤龍の鱗はまだまだあったよな)
「造るのは構わないけど、どうせ自分のは造る積りだったし。でもあれは私しか造れないから、直ぐには無理だし、前立ては自分で好きに造るように言っておいて」
どうせ自分の分と、馬廻り衆の分は、ガチガチにエンチャントかけた鎧を造る予定だったので、それは問題ないが、源太郎が前回の戦で使ったバルデッィシュを見て、自分達もと欲しがった。
現在、ハルバードやビルの発展形であるスコーピオン、グレイブの発展形のフォーチャードなど、領内の鍛治職人と試作して、自分にあった得物を見つけようとしている。
最終的に、鎧ごと敵兵を斬れる武器を、源太郎が造る予定だ。
鉄砲部隊の増員と訓練も順調で、銃剣を使った訓練も行っている。
(まだ子供なのに、過労死しそうだな)
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