中の御所奮闘記~大賢者が異世界転生

小狐丸

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閑話 我が息子

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 弘治二年(1556年)二月 多気御所

 儂は北畠権中納言具教、村上源氏の流れをくむ名門北畠家の当主だ。
 伊勢で勢力を拡げ伊勢国司となった。
 南伊勢五軍(一志・飯高・飯野・多気・度会)を治める公家大名などと呼ばれておる。


 天文十六年、六角定頼殿の娘、辰姫が嫡男となる虎松丸を産んだ。
 儂もその時の嬉しさは忘れられん。
 余り泣く事もない、手の掛からない子供だと乳母が喜んでいた。

 しかし、虎松丸が三歳になった頃からであろうか、守役の井上専正と一緒になって、井上専正と虎松丸に与えられた知行地で、何やらしているようだった。
 何をしているのか多少気にはなったが、三歳の虎松丸に出来る事も知れておろうと黙認することにした。
 とにかく手習いにも積極的に取り組み、頭の出来は相当良さそうだった。

 天文二十二年、父晴具の隠居に伴い家督を継ぎ第八代当主となった。
 この頃からであろうか、虎松丸と井上専正の治める知行地が、豊かに賑わい始めたのは……。
 儂は子飼いの伊賀者を使って、我が子虎松丸の知行地で何が行われているのか探ろうとした。
 暫くして、伊賀者からもたらされた報告は、満足出来る物ではなかった。農政改革で、米の収穫量が増えている事以外、これといった報告はなされなかった。
 南蛮から馬を輸入していたが、黄金に輝く馬は美しく気品があった。『あるはてけ』とか言うたか、譲られた馬に年甲斐もなくはしゃいでしまった。
 この時点で、儂も領内の米の収穫量が増えるのであればと、源太郎に南伊勢五郡の農業指導を指示するにとどめた。
 剣術の稽古にしても、虎松丸は儂が一教えれば十知る程の才を見せた。


  天文二十四年、父晴具の命で、中伊勢に勢力を持ち、南北朝時代から戦ったり、共闘したりしてきた長野工藤家を攻めるよう指示を受けた。
 父上は隠居なされたが、今だ強い影響力をお持ちだ。それに従うしかない儂が力不足であろうが。

 この戦は、虎松丸改め源太郎の初陣となったのだが、源太郎は僅か千五百の兵で、細野親子率いる二千五百の兵を討ち破り、その勢いのまま儂らの攻める長野城へ進軍して来た。
 あの見た事もない馬鎧を装備した巨馬の部隊が到着するや、長野城に籠る雑兵は逃げ出し、まともな戦が行われる事なく長野城は落ちた。

 驚いた。剣術の稽古をつけている時から、その才に驚きを持って接して来たが、あれ程の戦果をあげるとは……。
 源太郎の率いる騎馬部隊は、今や敵兵にとって恐怖の象徴だ。

 戦後、安濃郡の東側半分を源太郎の所領に与え、長野城と雲院林城を安堵となった長野工藤家、儂が直接得た所領は多くないが、戦略的な意味は大きかった。これで北伊勢への足掛かりが出来たのだから。


 源太郎は、安濃津湊の大々的に開発を始め、同時に、岩田川と安濃川の間に巨大な城を築き始めた。巨大な城郭は、何の冗談か僅かな期間で出来上がっていたと言う。城に合わせ城下町の開発整備も進んでいる。
 常々源太郎は、伊勢街道の整備と関所の破却を進言するが、その考えが何となくだが理解できる様になった。
 関所を廃し座の力を弱め自由な経済活動が行なえる様にすれば、領内の経済が活発になるであろう。
 もう一つ源太郎が訴えている、松坂や大湊の会合衆の自治権を取り上げるのを同時に行う事は、強大な軍事力を背景に一気に進めねばならんだろう。

 源太郎は、鳥羽と志摩の海賊衆を纏め上げ、南蛮船を建造して交易と訓練に励んでいるようだ。
 水軍の規模も拡大して、松坂や大湊の会合衆への圧力にもなっておる。あの乱暴者の九鬼の次男坊が、源太郎の前では、尻尾を振る仔犬のようじゃ。ようも手懐けたものよ。

 これは先が楽しみよのぉ。

 意外と早くに家督を譲ることが出来るやもしれん。本当に楽しみじゃ。

 ふむ、そうじゃ早めに官位官職を頂く手配をせねばならんな。石見守に指示を出すか。
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