魔拳のデイドリーマー

osho

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第15章 極圏の金字塔

第263話 活気ある雪国

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――ぎしっ、ぎしっ。

問題。コレ、何の音?

答え……僕ら『邪香猫』+αのメンバーたちが、地面に降り積もった雪を踏みしめて歩く音。

あー……懐かしい、この感触。
新雪、というか、積もりたてのパウダースノーって、踏むと『ぎしっ』って感じの感触あるんだよね……足で押し固める感じになるから。
何というか、要所要所で前世のおばあちゃんちの田舎を思い出すな、この国。

今僕らは、城下町から少し離れたところで『オルトヘイム号』を降り、石畳の敷かれた街道沿いに歩いて町を目指しているところである。

周りを歩いている皆のうち、エルクやシェリーなんかの雪初めて組は、気温や景色もそうだけど、足元からすらも伝わってくる初めての感触に驚いている。
今言った新雪を踏む感触はもちろん、整備された街道を少し外れて歩いてみると、地面に霜が降りた『ざくっ』っていう感触もあったし。

ちらほらみられるようになってきた家の屋根から下がっているつららや、凍っている水たまり、道のわきに生えている木の枝に雪が積もって、それが重みに耐えかねてしなった結果、時折ざざーっと落ちてる様子なんかを見て、いちいちびっくりしてたりする。

まあ、無理もないか……船に乗ってる時にも思ったけど、雪国……というか、雪が降る環境下にいたことのない人にとっては、どれも未知にもほどがある光景だ。こんなことになるのは、氷属性の攻撃魔法か何かを使った時だけ、って認識だっただろうし。

もっとも……雪国でちょっとでも暮らしたことのある人間からすれば、ごく普通の光景――少なくとも、『おー』とか感心はしても、いちいち驚くようなものじゃないんだけどね。
僕もそうだけど、ザリーもオリビアちゃんも、ネリドラも普通にしてるし。

むしろ、驚いている面々を見てほほえましそうにしている。

そして、今の僕らの服装だけども……いよいよというか、衣替えを行いました。
オリビアちゃんの資料を参考に、僕が手ずから作り上げた防寒用の服を、皆身にまとっている。

僕は、いつもの服装の上に黒のロングコートを重ねて着ている。
それに加えて、やや厚手の手袋とブーツを装着。
頭にはファー付きの耳当てをし、首にはマフラーを巻き、コートについているフードをかぶってがっちり首から上をガードしてる感じ。
なお、吹雪いてくるとここにさらに雪用ゴーグルも装着されます。

他の、僕以外のメンバー達も、基本的にはそんな感じの防寒具で固めている。
コートもしくはマント型のやつで全身を覆い、手袋とブーツで体の末端をガード。
ファー付きの耳当てやマフラーなんかは、各自お好みで、って感じ。

ナナや義姉さん、ギーナちゃんやスウラさん、アリスにクロエといった『元』含めた軍人メンバーは、ほぼ同じだけどちょっと毛色が違う。
彼女たちの場合、軍にもともとそういう装備があるらしいので、そのデザインを参考に作った。その方が、彼女たちも使いやすいだろうし。

そして完成したのが……今彼女たちが身に着けている、トレンチコート風の外見の防寒具だ。それに加えて、手袋とブーツ、そしてファーの耳当てつきのキャップである。
他のとはややデザインは異なり、若干ごつい気がするが、皆満足してくれているようだ。

なお、ナナと義姉さん、そしてクロエは、その下の服装も変えている。
普段は3人ともスカートなんだけど、今はズボンだ。動きやすさと体温保持を最優先するなら、この方がいいから、とのこと。さすが元軍人、考え方に女子力が割り込んでこない。

で、今ざっと述べた面々の中に入らないのは……僕の仲間の中でも、普段の服装の露出が多めな部類に入るシェリーとエルク、そして他者からの評価とか一切気にしない師匠の3人である。

シェリーとエルクは、いつもの服装および装備を、露出を普通レベルにまで下げたものを身に着け、さらにその上に防寒装備を身に着けてもらっている。あの露出度の装備の上に厚手のコートって、違和感もあるだろうし、目立つだろう。建物の中で、コート脱いだ時とか。

要望通り、戦闘時には動きやすい形態に変化するように術式をきちんと組み込んであるので、そこは普段は我慢してもらうということで。
エルクは普通に納得してたけど、シェリーはまだちょっと不満げだったな。

で、最後に師匠だけど……この人はほぼいつも通りだ。
一応、白衣の代わりにやや厚手のコートを着て、スノートレッキングシューズっぽい靴に履き替えてはいるものの、それ以外は完全にいつも通りだ。というか、部屋着そのまんまだ。

この人、こういう街道や街中だけでなく……雪山とか行く段階になってもこのカッコで行くんだろうな。

まあ、よっぽど危険な場所に行くとかになればきちんと装備整えるだろうけど。『ネガの神殿』とか『アトランティス』の時みたいに。
けど、危険度AAとかAAAくらいならそれもないと思う。あの人、危険度AAの『暗黒山脈』とか普通に部屋着で出歩いて素材とか採取してきてたから。

まあ、これに関しては僕が指図できる立場にいるでもなし……気にしないでおこう。
あんまりにも悪目立ちするような状況にでもなれば、まあ、その時は色々言うけど。

そんなわけで、とりあえず視覚的には、違和感を抱かれることもなくなっている僕たちは、わずかに雪煙を含んで吹いている風の向こうに見える、今回の最初の目的地……ザリーの兄である『トリスタン辺境伯』が治める城下町へと、歩みを進めていった。

「……ところでさ、ミナト?」

「? 何、エルク?」

「あのさ……確かに、薄着とかそのへんを理由に目立つことはなくなったんだろうけど……間違いなく目立ちはすると思うわよ? コレ」

言いながら、エルクはちらっと後ろの方を見る。
僕もそれに従う形で、後ろに続々と続いてきている仲間たちを見てみる。

……特に何も、変わっている様子はない、と思うけど……?
別に何か、奇をてらった感じの装飾とか装備を付けているでもなし。普通の防寒具だ。

「形はね……私が言ってんのは色よ」

「色?」

色って……えーと、だ……コートとか装備品各種のメインカラーが……

ザリーがオレンジ色で、ナナが藍色で、シェリーが赤、ミュウが黄色、シェーンが赤紫、オリビアちゃんがちょっと明るい赤紫、スウラさん青、ギーナちゃん灰色、ネリドラはピンク、義姉さん明るい灰色、クロエ茶色、アリス青紫、師匠濃い藍色……あと、エルクが緑で僕が黒。
……だけど、何か?

「こんなカラフルな集団がまとまって移動してたら目立つっつってんのよ! せめて色統一するとかしてもよかったんじゃない?」

「いや、それだとせっかくのオーダーメードなのにつまんないじゃん。それに、イメージカラーで誰だかすぐにわかるのがうちのチームのいいところなんだから」

「いやそれ違うと思うけど……ってか、こんな色じゃ危険区域での隠密行動とかできないわよ?」

「大丈夫大丈夫。認識阻害の術式組み込んであるし、いざとなったら色変えられるから」

「あっそ……ま、いいわ。ちゃんと一応考えてるなら」

☆☆☆

それから数十分後、
町に到着した僕らは……門のところでの手続きをオリビアちゃんに任せ(やってくれるっていうので、お言葉に甘えた)、僕らは身分証を見せるくらいですんなりと通過に成功。

関所だか城門だかを通って、町の中に入った僕らの目に飛び込んできたのは……

「……おぉ……雪国」

「……たしかに、言葉通りそんな感じの光景ね、これは」

空からはらはらと振ってきている雪は、石畳を一面覆い、屋根にも多少積もっている。
その屋根からは大小さまざまなつららが下がり、ちょっと危なげなビジュアル。

家々の壁や窓には吹き付けた雪や氷が張り付いていて、触ったら冷たそうだし……断熱構造とかが甘いと、家の中にもガンガン冷気伝わって寒くなるんだよねアレ。
そしてアレ、開けるの大変なんだよね。凍ってるから、動かないんだ。特に引き戸だと酷い。

しかしそんな寒冷地でも、人々はたくましく日々を暮らしている……というのも、町の様子を見ればわかる。

毛むくじゃらの牛みたいな動物に引っ張らせた、運送用と思しき荷車があちこちに見られる。運んでいるのは、食料品だったり、生活雑貨だったり……魔物の素材か何かだったり。

さらに、寒空の下だってのに露店が出てたりする。メインはもちろん、あったかい食べ物や飲み物のようで……ぶっちゃけ気になるな。いい匂いが結構、そこら中から……。
肉まんっぽいものや、シチューっぽいもの、焼き鳥っぽいもの……色々ある。

そして、他の国の他の町と同じような、武器防具、生活雑貨、食料、薬品、各種素材なんかを取り扱ってる店ももちろんある。ただし……やはりというか、ご当地特産のものも多いようだ。

花の町『ミネット』の花製品・花料理や、水の都『ブルーベル』における水関連の素材や製品みたいに……寒冷地には寒冷地にしかないものがある、ということなのだろう。前情報として知ってはいたけど、実際にこうして目にすると……やっぱり、興味深い。



で、そこから先は……まあ何というか、いつも通りな感じになった。

まず、今日泊まる宿だけ最初に確認して、後は自由行動。
日暮れ前までには宿に戻ること……ってだけ決めて、解散。

観光するもよし、買い物するもよし、食べ歩きするもよし。

で、僕は何を選んだかと言えば……2番目と3番目だ。
エルクとネリドラ、それに師匠と一緒に、大通りを中心に色々と見て回っている。

とりあえず、露店に並んでいる美味しそうな料理を片っ端から買い食いしつつ歩いている僕らは――片っ端から食べてるのは僕だけで、他3人は時々、って感じだけど――面白そうな店を見つけたら、入ってみて並んでいる商品を物色し、いいのがあったらがっつり買っていっている。
そして全部僕の収納用マジックアイテムに放り込んでいる。荷物持ちで苦労する心配はなし。

そういうわけで4人とも両手はフリーなので、買い食いも思う存分楽しめている。
現在は、今しがた露店で買ったハンバーガーみたいなのをみんなでぱくついているところだ。

「さすがは雪国というか、何というか……体があったまる系のグルメは他の追随を許さない感じに発達してるんだね」

固めに焼いた黒パンに、濃いめの味付けのソースで焼いたと、ピクルスっぽい野菜を一緒に挟んであるそれは、だいぶ大味ではあるものの、味自体は僕の好みに合った感じである。

噛むと、挟んである肉から肉汁がたっぷりでてソースと混ざり合い、それが黒パンに吸い込まれて美味しさがさらに広がっていく。その中で、噛んでいる最中に時折顔を出すピクルス(仮)があっさりしていていいアクセントになっている。

これは熱いうちに食べた方が絶対に美味しい、と直感し、まとめて買った5~6個のハンバーガーを、冷める前にさっさと胃袋に収めていく僕。

ちなみにこれ以外にも、肉まんみたいなパン?や、肉団子の入ったスープ、小麦粉で作った生地で温野菜を包んだものや、やわらかく煮た肉を葉野菜で巻いたものなど……バリエーションは多種多様。いくら見て回っても飽きが来ない感じである。

さて次は何食べようかな、なんて周囲を見回しながら物色していると、

「ん……そうみたい。私も、初めて知った」

「? ネリドラ、あんたここ地元じゃなかったっけ?」

呟くように言ったネリドラに、不思議そうに聞き返すエルク。
その疑問にネリドラは、指についてしまったソースを舐めとりながら答えた。

「一応……私、貴族だったから。あんまり、買い食いとかしたことなくて」

「あ、なるほど」

「でも、正直に言って……こういうのを知らずに今まで生きて来たっていうのは、もったいなく感じる。私にはきっと……こっちの方があってる気がするし」

再び、手にしているハンバーガーにかぶりつきながら、そう言うネリドラ。
その様子は、おいしいB級グルメを楽しむ、普通の女の子のそれである。熱々の肉をはふはふ言いながら噛んで飲み下す姿からは、貴族の子女がどうとかいう雰囲気は感じ取れないけれど……時折見せる幸せそうな笑顔は、十分にネリドラの魅力を引き立てていると思う。

「どの道、もう私は貴族の子女に戻ることはないんだし、今までの分も、これからいっぱい楽しむつもり。貴族だったころにはできなかったことも、今はできるようになったし」

今の生活が幸せだから、と言って笑うネリドラ。

……貴族云々の話題が出た時は、昔のことを思い出して、ちょっと雰囲気暗くなっちゃうんじゃないか、と心配したけど……その心配はなさそうだ。
これなら、普通に故郷に帰ってきたって感覚だけで一緒に気楽に楽しめそうだな。

それじゃあ、気を取り直して食べ歩きを再開……しようとしたところで、横を歩いていた師匠がぽつりとつぶやくように言った。

「ところでよ……今日か明日か、何か祭でもあんのか?」

首や顔は動かさず、眼球だけを動かして通りを見渡しながら、そんなことを。

「さあ……ザリー達からは特に何も聞いてませんけど……何でです?」

「いや、さっきから通りの真ん中をひっきりなしに『削雪獣』の荷馬車が行き来してるんだがよ……匂いかいでみろ、ほぼ全部食料品だぜ」

「スン……ほんとだ。しかも、何か高級そうなのもちょいちょい混じってる」

「……その会話が成立するあたり、2人の嗅覚に一般人とは隔絶した差を感じるわ」

『エレメンタルブラッド』で強化されている僕はもちろんだが、『吸血鬼』である師匠も嗅覚がかなり鋭い。その気になれば、そんじょそこらの犬系獣人程度なら上回るレベルだ。

で、そんな僕らの嗅覚に引っかかったのは、一般人の口に入りそうな安価なレベルの食材から、貴族御用達レベルであろう高級食材まで、色々とごっちゃになった匂いだった。

荷車ごとにランクのすみわけ?みたいなものは成立しているようだが、ランクを気にしなければ、確かにほぼすべての荷車から食材の匂いがする。大量に。
それぞれ行先は違うみたいだが……これ、確かに指摘されると気になるかも。

それに気のせいか、すでに加工されたような芳しい匂いがやたら目立つ気も……?
燻製の肉とか、チーズとか、漬物にした野菜とか……あれ、保存食系多いな?

「こんだけ大量の食糧が露骨に、それも急いで運び込まれるとなると……俺の知る限り、理由は祭か収穫期か……戦争くらいのもんだ」

最後に出てきたフレーズに、僕ら一同ぎょっとなるものの……でもそれは違うな、とすぐに思い至る。

もしこれから戦争なら、こんな風に活気に満ち溢れてるはずがないし、露店なんて出してる余裕もないはずだ。まあ、兵隊や傭兵相手に一旗あげたろっていう商魂たくましい連中がいないともかぎらないけども。

しかし、祭があるなんて話は聞いてないし、そこまで浮かれた雰囲気が街中に漂っているわけでもない。仮にそんなものがあるなら、もっと屋台多いと思う。

そして、今は冬の終わりが近づいてきたくらいの時期。収穫期とは程遠い。

……あれ、順々に推理してみたら、候補が残らなかったぞ?
ていうか、『保存食が多い』っていう条件を当てはめると、むしろ最初の『戦争』が後押しされるんだけど……うーん、わからん。

「……でもクローナさん、なんで『急いで』運んでる、なんて思うんですか?」

と、エルク。
その問いに、師匠は荷馬車のうちの1台……を、引っ張っている獣を顎で指す。

全身毛むくじゃらで、長い牙を生やした、象とアリクイを足して2で割った感じの見た目。4本ある足は丸太のように太く、蹄が雪の下の石畳とぶつかってがつがつと音を立てている。

「あの獣な、さっきも言ったが……正式名称はまた違うんだが、『削雪獣』っていう奴でよ。雪国で使われる運搬用の家畜の中じゃ最上級の奴だ。パワー、スピード、スタミナ、どれをとっても文句なしなんだが、それだけに雇うとコストが高い」

「そんなのをあっちこっちで見かけるってことは、相当急いでこの町に食料が運び込まれている……ということになる、と」

なるほど、納得。
しかし、相変わらず理由はわからない。

「こーいうのはさっさと聞いちまった方が早ぇな。おいおっちゃん、ちっといいか?」

言うが早いか、師匠は手近にいた露店の親父さんに声をかけた。
そして、並んでいる商品をいくつか適当に――値札どころか品物そのものもろくに見ずに、『コレくれ』といって買い取りつつ、この町の現状について尋ねていた。

質問だけでなく、きちんと買い物もする……ってのは、冒険者とかがこういう形で情報収集する際の、一種のマナーみたいなもんである。僕も聞きかじりだけど。
あれだ、コンビニとかでトイレ借りたとき、お礼?に何か買い物していく感じのアレ。
昔取った杵柄、とでもいうのか、極めて自然に師匠はそれをこなしていた。

ものの数十秒でそれを終えると、師匠は買ってきた……何だコレ、アクセサリー?を『やる』とだけ言って僕によこす(押し付ける)と、早速手に入った情報を話してくれた。

この地域は、フロギュリアの中でもかなり寒い部類に入る地域であり、冬の間は吹雪やら大雪やらで、他の町との行き来も大変である。当然、その期間は作物なんかほとんど育たないので、その前に保存のきくものをよそから購入して備蓄しておく必要がある。
それに、冬の間も育つごく一部の作物を合わせて、冬を乗り切る……って形だ。

しかし、今年はその冬の期間が長くなる見通しらしい。風向きとか季節風の吹く頻度、出現する魔物の種類や分布、海水の温度や海流の向きなんかから推測できるらしいんだけど。

その結果、現在この町にある食料の備蓄では、冬を乗り切るには足りない可能性が出てきた。なので、近場の余裕がある町や村から大至急補充しているらしい。それが、あの屈強な『削雪獣』に引っぱられる荷馬車に満載された食料の正体だったというわけだ。

ここで僕、『そんな食料に不安あるなら露店とかしないで節約するべきじゃないの?』とか思ったわけなんだけれども、それにも理由があった。

以前ちらっと言ったように、このフロギュリアでは、冬の寒い期間のみとれる素材というものが結構多く、冬期間はそれを狙ってくる冒険者が多くやってくる時期でもある。彼らを相手にした商売をしている者達からすれば、稼ぎ時でもあるのだ。

そんな中、寒村みたいに露店も何も開いていない閉鎖的な状態にしてしまったのでは、客である冒険者たちが寄ってこなくなってしまう。なので、食料の心配はしつつも、ある程度露店やその他商店やらはきちんと営業して、顧客のニーズに対応しておかなければならないそうだ。
それで、こんだけ寒くてもきちんと活気があるんだな。需要があるから。

それに加えて……不安要素もあるとか。

「冬の寒い期間が例年より長い時期は、例年より多くその時期の素材が取れて、冒険者やら何やらを呼び込めるものの……他のいらんもんまで呼び込むこともあるらしいな」

「……具体的には?」

「過去の例だと……雪原に住む魔物が食料を求めて人を襲いだすとか、冬が終わってないのに冬眠から覚めた魔物が人里に降りて来たとか、寒流に乗って遠洋に住む魔物が沿岸に姿を見せたとか、国境付近の『アイスマウンテン』から縄張りを広げるために氷龍が何匹か……」

「あー、そういうろくでもない系ですか」

「狩猟できる実力のある冒険者的にはおいしいんだろうけどな……というかすでに、そういうのを期待して、この国に冒険者が集まり始めてるらしいぞ? 特に、もしかしたらそういうのが出るかもしれない地域に」

「ここ含め?」

「そういうことだ」

……なんか、今までにも何回かあったパターンだなー。

さっきまでは、寒さにも負けない町の活気のしるし、みたいに思えていた『削雪獣』の蹄の音が、バックグラウンドを聞いた今では、現金なもので……どことなく不吉の足音に聞こえるから不思議だ。
フラグだとは思いつつ、思わずにはいられない。何も起こらなきゃいいんだけど……

……いや、今更か。もし何か起こったとしても、対応すりゃいいだけの話だ。
氷龍だろうが何だろうが、倒して素材と金に変えてやろうじゃないか。

うん、最初からそう思うようにしておけば……幾分気が楽かもしれない。
……気のせいかもだけど。

とりあえずは……何も起こらない限りは、明日予定している、ここの町を治める辺境伯――もとい、ザリーのお兄さんとの面会その他に集中して対応する、ということで。うん。



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