中の御所奮闘記～大賢者が異世界転生

　永禄八年（1565年）七月　桑名城

　北畠家の軍事訓練は、鎧兜をフル装備で訓練する。その日も騎馬部隊や弓騎兵部隊が訓練を行っていた。

「なっ…………」

　渡辺守綱と本田正重は、呆然と口を開けて訓練を見入っていた。

　巨大な馬を駆る異形の鎧武者が、訓練用馬場を縦横無尽に駆ける。

　深い紅の馬鎧と同色の鎧兜、基本的な色や形は同じようだが、縁取りの色や細かな形の違い。兜も色は共通だが、前立てや造形にそれぞれ個性が出ている為、遠目にも誰が誰だか一目瞭然だ。

　北畠家の馬廻りや、騎馬部隊を率いる武将は、体格が大きい者が多い。

　北畠具房　六尺五寸（約197cm）
　大宮景連　六尺（約182cm）
　大河内教通　六尺（約182cm）
　大嶋親崇　六尺二寸（約188cm）
　芝山秀時　六尺（約182cm）
　島清興　六尺二寸（約188cm）
　前田利益　六尺五寸（約197cm）
　榊原具政　六尺（約182cm）
　蒲生氏郷　六尺（約182cm）

　彼等が率いる騎馬武者も、全員が六尺を超える体格をしている。
　巨大な馬に騎乗すると、その迫力は凄まじい。

　弓騎兵部隊や軽騎兵部隊の馬は、重種のような迫力はないが、日本馬とは一線を画す馬体をしている。

　渡辺守綱と本田正重が驚いているのは、なにもその馬や鎧兜だけではない。
　北畠家の騎馬部隊は、全員が馬上槍を巧みに使うのだ。騎馬突撃や馬上槍の訓練は、彼等にとって衝撃だった。

　この時代の日本の騎馬隊は、移動にのみ馬を使い、下馬して戦うのが常道だった。

「凄い家に仕官したな、半蔵（渡辺守綱）」

「あゝ、だが望むところだ三弥（本田正重）」

「しかしあの鎧、確かに噂通り、龍馬を駆る鬼武者だな」

「あゝ、あの鎧は殿自ら手造りらしい」

　渡辺守綱と本田正重は、自分達もあの馬に乗り、あの鎧を着てみたかった。



「「殿！某達も鎧が欲しいです」」

　訓練を終えた源太郎を、正重と守綱が見つけ、早速鎧兜をおねだりしていた。

「あゝ、寸法を測って貰って、細かな形の要望を小平太に伝えておいて」

「「わかりました！」」

　二人は小平太のもとへ走り出した。






　本田正信は、他の文官と共に事務方の仕事を覚えながら、北畠領内でのお金の動きに驚愕していた。

「藤左衛門殿（石田正継）、北畠家では毎月この金額が動くのですか？」

　北畠家での支出と収入の額が、物凄い額になっている。

「あゝ、弥八郎殿、某もまだ仕官して間もないのですが、北畠家では様々な物産の売り上げに加え、大湊、安濃津湊、桑名湊からの税と、交易でも莫大な利益を得ていますので、出て行く銭も多いですが、入って来る銭も膨大です」

　正信は、北畠家独特の書類のアラビア数字を導入や、決められた書式にも感心する。

「まぁ直ぐに慣れますよ」

　石田正継にそう言われた正信は、貧しい三河との差に愕然としていた。

　先ず米の収穫量が違う。正信の感覚よりも倍以上の収穫量がある様に思う。
　その他の塩や大豆などの戦略物資に関しても、大量と言って良い程流通している。
　領内の住民の笑顔に溢れた様を見ると、三河との違いが良く分かる。

（殿の率いる軍の強さや、南蛮船を多数配備した水軍に目が行きがちだが、北畠家の強さは領内を富ませる手腕にあるのだな）

　正信は勝手の主、家康の事を思い出す。幼い頃から人質として、苦労してきただけあり、我慢強く優れた武将だと思う。
　だが三河の武士は独立心が強く、家康は家臣を纏めるのに苦心していたが、三河武士をなんとか纏め上げていた。
　三河を離れていた時期が長いので、仕方のない部分もあるが、三河はとても貧しいかった。北畠領のように支配階級から河原者まで、豊かに暮らせる国を創り上げた具房、具房に拾われた自分達は幸運だったのだろう。

「北畠家では、武官と同じかそれ以上に文官は重要視されますので、弥八郎殿も活躍の場はおおいにあるでしょうな」

「それは嬉しいですな。某は、弟と違い戦さ働きは不得手ですから」

　北畠家では、内政部門、外交部門、諜報部門が、武官と遜色無い評価を得れる。槍働きだけが評価が高い訳ではないのだ。戦国の世だけあって、武官がもてはやされる傾向が他家ではあるが、北畠家に限って言えば、文官にも働き甲斐のある場だと言える。

　禄も銭での支給だが、三河の頃と比べものにならない位には裕福になって、妻や子供達も喜んでいる。雇い入れている小物や侍女に給金を支払っても、随分と余裕がある。

　正信は、北畠家に仕官出来て心の底からよかったと思う。この生活が続くよう、北畠家の繁栄の為、家族の為、粉骨砕身頑張ろうと誓った。