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第二部 少年期のはじまり

第百九話 その酒盛りは無法地帯につき

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 酒盛りは唐突に始まった。
 ジャズとちょっと仲良くじゃれ合っていたら、いつの間にか大人達が静かに。
 あれっと思って目をやったときには、どこからともなく出てきた酒瓶で旧交を深めあっていたのだった。

 ジャズは恐らく、母親達の酒癖の悪さを知っていたのだろう。
 シュリを連れてそろそろと逃げようとしたが、冒険者の卵が百戦錬磨の強者を出し抜けるはずもなく。
 酒が入って陽気になった三人に掴まって、酒盛りに強制参加させられた。

 20歳にもなってない子供に酒を飲ませるなんて!と前世であれば大騒ぎになるところだが、こちらの世界ではちょっと事情が違う。
 この世界では、基本15歳の時点で大人認定される。
 だから、お酒だって飲んで大丈夫なのだ。

 ジャズはまだそれほど酒に慣れていないようで、なんとか断ろうとしていたが、それは無駄な努力だったと言えよう。
 彼女は大人達による酒の洗礼を大盤振る舞いされ、結果ソファーに沈没した。
 まあ、吐かなかっただけ偉い、とだけ言っておこう。
 今現在、彼女はうーんうーんと唸りながらも深い眠りの中だ。
 シュリは孤立無援で、三人の肉食獣の前に取り残されてしまったのだった。


 「んふ。やぁっと、抱っこできたわ」


 そう言いながらシュリをむぎゅーっと抱きしめたのは、さっきお預けを食らったアガサだ。
 彼女は酒が入ったせいで只でさえ色気ダダ漏れの顔を更に色っぽく上気させて、うっとりしながらシュリを堪能するようになで回している。
 その手つきは子供を可愛がると言うには妙に官能的で、シュリは反応に困りつつ彼女の顔を見上げた。


 「ほんっと、ふあふあね~。この着ぐるみ。抱き心地が良いったらないわね!!」

 「でしょ~?いい買い物だったわぁ。出来るだけ早く、着替えようの着ぐるみを買ってこないと!!」


 アガサのほめ言葉に、ヴィオラは拳を握って力説する。


 (いや、あのね??別に着ぐるみじゃなくてもいいんだよ??まあ、着心地も悪くないし、あったかいし、別にいいんだけどさ)


 内心ヴィオラにつっこみつつ、微妙な場所を微妙なタッチで撫でてこようとするアガサの手に対する防御も欠かせない。


 (前世《まえ》もそうだったけど、酔っぱらいの相手って根気がいるよねぇ)


 そんな事を思いつつ、シュリは再度攻め込んできたアガサの手を、体の動きでさらりとそらす。
 前世でも、会社の飲み会なんかは大変だった。
 上司の親父に絡まれることは少なかったのだが、なぜか周囲をギラギラした女子に囲まれて、酔った勢いで色々触られたり、トイレで襲われそうになったりという事態には事欠かなかった。
 正直、気を抜いてお酒を楽しめたのは、親友の桜と飲むときだけだったなぁと、懐かしく思い出しつつ、何度目になるか分からないアガサの攻撃を再びかわした。


 (いや、あのね?そこを触ってもまだ何も起こりようがないんだよ??まだ、精通、だっけ?それもしてないし。今現在のその場所は、おしっこをするだけのつまんない場所なんだって!!)


 いい大人なんだから、五歳児に過度な期待をしないで欲しいと思いつつ、シュリは助けを求めて周囲を見回すも、唯一味方になってくれそうなジャズはもうすっかり夢の中だ。
 どうやっても、助けになってくれそうもない。
 もう、好きに触らせちゃおうかなぁと、ちょっと疲れてそんな事を思っていると、横合いからひょいとシュリを抱き上げる腕があった。


 「アガサばっかりずるいぞ?アタシだって、ふあふあしたい!!」


 救世主は、ジャズの母親のナーザだった。
 彼女はアガサの腕からシュリを取り上げると、ほんとだ、ふあふあだ、と嬉しそうにシュリを抱きしめた。
 背が小さくて全体的にほっそりしているのに、なぜかおっぱいだけが大きいという反則的なプロポーションの彼女の胸は、実に包容力にあふれていた。


 (うん、結構なお手前で……)


 柔らかな二つの固まりに、顔を半ば強制的に埋もれさせられながら、シュリは思う。
 幼い頃、乳母のマチルダの美乳にぱふぱふされて以来、なんとなくこれには弱いシュリなのだった。


 「それにしても可愛いなぁ。ジャズがチビの頃ももちろん可愛かったけど、それとはまた別の可愛さだよなぁ。贔屓目のない可愛さというか、誰が見ても可愛いと思う正当性があるというか……」


 自分の胸から引き離したシュリを、両手でぶらんと掲げながらナーザはまじまじとその顔を眺める。
 見れば見るほど可愛いと思えてくるから不思議なものだ。
 何だか胸もドキドキするし、だんだん顔が熱くなってくる。
 ナーザはそんな感情の動きや体の変化を、酒のせいかなぁと思い首を傾げつつ、間近でじっとシュリを見つめた。
 シュリも、何となく目をそらすのも悪いような気がして、じぃっとナーザを見つめてしまう。
 そんな風に見つめ合う二人の様子になんだかもやもやしたヴィオラは、


 「はいっ、今度は私の番っっ!!」


 とナーザの手からシュリを強制的にもぎ取った。
 そして、優しく抱き寄せて頬をすり寄せた。


 「んふふ~。シュリのほっぺは格別ね。クセになっちゃう」


 そう言いながら、しばらくはシュリのぷにぷにほっぺを堪能し、それから自分の膝に座らせて、その姿を余すことなくじっくり眺めた。
 シュリのグリフォン姿は完璧と言って良いほどによく似合い、とにかく愛らしかった。
 ヴィオラはその姿を愛でるように、細い指先で着ぐるみの輪郭をたどり、シュリの頭や頬を撫で、ぷっくりとした唇の感触を確かめるようにつついてみる。
 そうしながら、彼女はふいに呟いた。早く、これ以外の着ぐるみ姿も見てみたいなぁ、と。
 それからふと何かを思い出したようにはっと目を見開き、そのままシュリを見つめるとにたっと笑った。


 「そういえばさ、シュリ」

 「ん?なぁに??」

 「[猫耳]ってどんなスキル??」

 「!!!」


 それをよりにもよって今、ここで聞かれるとは流石に思っていなかったシュリは、驚きで一瞬固まる。
 他の二人に聞かれたらやばいと慌てるも、時すでに遅し。
 アガサとナーザ。二人の肉食女子が目を爛々とさせながらにじり寄ってきていた。


 「なぁに?そのおいしそう……もとい、面白そうなスキルは。おねーさん、見てみたいわぁ」

 「うんうん。猫獣人の末席に連なる者としては、どんな[猫耳]なのか、興味がある。さ、遠慮せずにどーんと見せてくれ!!」


 ……二人とも、すでに見る気満々である。
 ちらり、とヴィオラを見た。


 「私も見たいなぁ。シュリはいい子だもん。おばー様のお願い、聞いてくれるよね?」


 にっこりと微笑み、ごり押しをしてくるヴィオラを前に、シュリはがっくり肩を落とした。
 相手は酔っぱらい三人。最初から、勝ち目は無かった。
 これが酔っぱらいの親父三人なら、いくらでも邪険に出来る自信はあるのだが、前世から現在に至るまで、シュリはどうも女という生き物に強く出られないのだった。


 「しょうがないなぁ。わかったけど、変なこと、しないでね??」


 可愛らしくほっぺを膨らませ、唇をツン尖らせて念を押す。


 「だいじょーぶ!おばー様を信じなさい!!」

 「うんうん。私の理性は鉄壁よ!!」

 「わかった。変なことはしないと約束する」


 三人とも、即座に頷いて、一応誓いのポーズをかましてくれる。
 が、いまいち信用できない。信用は出来ないが、断ることも出来無そうなので結局は諦めた。
 シュリははーっとため息をつき頭にかぶっていたフードを脱ぐと、小さく呟くように、


 「[猫耳]」


 と唱え、スキルを発動させた。
 次の瞬間、酔っぱらい三人衆は声にならない悲鳴を上げた。
 シュリの頭に、ちょんっと可愛らしい猫耳が出現したためだ。色は髪の色と同じ、艶やかなシルバー。


 「かっ、かわっ、かわっ……」
 「り、理性が……理性がぁぁっ」
 「み、見事な毛並みだ。う、美しい……」


 三人の目が、微妙に血走ってて怖い。
 シュリは慎重に距離をとりつつ、


 「えっと、触ってもいいけど、一人ずつね?」


 そう主張した。
 とにかく、早く三人を満足させて、早くこんな羞恥プレイは終わりにしたい。
 そのシュリの言葉に、三人は無言でじゃんけんをして、結果、ヴィオラが高々と拳を突き上げた。
 後の二人が悔しそうに見つめる中、ヴィオラがそろそろとシュリに近づいてくる。なつかない猫を驚かせないよう気をつけるように。
 そして、シュリのそばにしゃがみ込み、そうっと手を伸ばしてその頭を撫で、耳に触れた。


 「うっわ。やぁらかい。本物、みたいだねぇ。シュリ」

 「そうだね。ちゃんと動くし、発動中は引っ張っても取れないし。この耳は、よく音を拾ってくれるから便利な時は便利なんだよ?」

 「へぇ~。すごい!可愛い上にそんな便利な機能も備わってるなんて」

 「うん。ちょっとふざけてるスキルだけど、役には立つんだ。まあ、しっぽは正直いらないなって思うけど」

 「し、ししし、しっぽもあるの!?」


 すごい食い付きだった。シュリは若干身を引きながら、まずったかなぁと思いつつ、


 「あ、あるけど?」


 と正直に答える。
 今更誤魔化しても、きっと誤魔化されてはくれないだろうと半ばあきらめの境地に達しながら。
 その瞬間、シュリの体にヴィオラの手が高速で伸びてきてがしっとその肩をつかんだ。


 「しっぽ、出そう!!」

 「へ?」

 「しっぽだよ、しっぽ。出して!!」

 「だ、出すって言っても、服を脱がないと……」

 シュリは戸惑ったようにヴィオラを見上げた。
 今来ているのは上下に境目が無いつなぎタイプのきぐるみなので、しっぽが出てくる隙間がないのだ。


 「服?じゃあ脱ごう!!」


 そんなシュリの戸惑い交じりの弱い反論に、ヴィオラは畳み掛けるように答えを返した。


 「脱ぐって……」


 困った顔をするシュリの肩を掴む手にぐっと力を込め、ヴィオラは何一つ心配などないと力強く微笑んだ。


 「だいじょーぶ、だいじょーぶ。恥ずかしくないわよ!第一、その服を誰が着替えさせたと思ってんの」


 そ、それは確かにおばー様だけど、と答える間もなく、ヴィオラの早業であっという間に着ぐるみをはぎ取られた。
 下着は残してもらえたが、しっぽがあるせいで、お尻側のパンツは少しだけずり下がっている。
 ということは、お尻が半分くらいはこんにちはしちゃっている状態と言う事だ。
 だが、服を着直そうにも、それはヴィオラの手の中。
 シュリは困ったようにヴィオラを見上げつつ、せめて前だけはずり落ちないようにと両手でパンツをしっかり掴んだ。


 「し、しっぽ、いいわぁ……」

 「や、やばっ。理性が崩壊しそう……な、なんなの!?私の理性に対する挑戦!?」

 「美しい……美しすぎるしっぽだ……」


 更に三人の目つきがやばくなった。
 危険と判断したシュリは、


 「おっ、おばー様!!やっぱり恥ずかしいよ!!服、返して?」


 一応、そうお願いしてみた。
 それを聞いた三人ははっとしたようにシュリを見て、それからお互いの姿を確認し、大きく頷きあった。
 なんとなくいやな予感のしたシュリは、逃げた方がいいかなと後ずさりしかけたが、それより前に事態は動いた。


 「そうだね~。シュリばっかり脱がせてたら、そりゃ恥ずかしいよねぇ」

 「そうね。これじゃあ、フェアじゃないわ」

 「そうだな。アタシ達も脱いで誠意を見せるとしよう」


 言うが早いか、あっという間に下着姿に大変身してしまう。
 フェアじゃなくても誠意が無くても良いから、とにかく服を着させてくれという、シュリの心の叫びなど、知る由もなく。


 「ね?これなら恥ずかしくないでしょ?みんなお揃いだもん」


 いや、そういう問題じゃないし!と思うが、ちょっとびっくりして言葉が出てこない。
 そうこうしているうちに、ヴィオラ以外の二人がくるんと向きを変え、シュリに向かってお尻を突き出してきた。
 何を!?と思うが、よく見てみると、男とは違って布地が少な目の下着のお尻からにょろりんと飛び出す細長いモノが。
 二人のお尻から生えてるもの、それはそれぞれに異なったしっぽだった。

 ナーザは猫獣人だからしっぽがあるのは分かるが、アガサは何でとしばし考える。
 それから、彼女の母親の種族の事を思い出し、ぽんと手を叩いた。


 (そっかぁ。アレは夢魔のしっぽなのか)


 そんな事を思いつつ、まじまじと二人のしっぽを見た。

 ナーザのしっぽは当然の事ながらシュリのものに近い。
 耳と同じ色の柔らかな毛に包まれたそれは、実にさわり心地が良さそうだった。

 一方、アガサのしっぽはちょっと変わった形状をしていた。
 細長いのは一緒。
 だが、その表面は黒いなめし革の様につるっとして鈍い光沢がある。
 そして特に特徴的なのはその先端だった。
 しっぽの先はハートの尖った方を先へ向けてつけたような形状をしていた。
 それは、何となく悪魔とか魔族とかのしっぽと言われてシュリが想像するしっぽそのものだった。


 (どんな触り心地なんだろう??)


 純粋な好奇心から、シュリはそっとアガサのしっぽへ手を伸ばした。
 片手をお尻に添えて、もう片方の手でしっぽを撫でる。
 それは思ったよりもひんやりしていて、思っていたよりもずっとなめらかな手触りだった。


 (おお~、気持ちいい)


 触り心地が良くて、ついつい何度も手を往復させてしまう。
 そのたびに、アガサがその体をかすかに震わせている事にも気づかないまま。


 (結構弾力もあるんだなぁ)


 そんな事を思いつつ、無邪気にしっぽを何度も握る。
 その向こうで、アガサがとうとうその上体を支えきれなくなった様に、床に胸を押しつけるように体を倒した。
 結果、お尻だけをシュリに向かって突き出すような扇状的なポーズとなったのだが、シュリはしっぽに夢中でまるで気づかない。
 そんな二人の様子を、ナーザとヴィオラが食い入るように見つめていた。


 「んーと、裏はどうなってるのかなぁ??」

 「っっ!!……んぅっ!!!」


 好奇心のままに、しっぽを持ち上げて裏側を確認。
 指先でつつぅっと表面をなぞるようにして、その触り心地もチェックする。


 「ふうん。継ぎ目みたいな感じもなくて、なめらかな触り心地だな。うん?表側より、少し柔らかいのかな??」

 「っっっぅ!!!……ふっ、ぅん……あぁ、も、もう……」

 「ん?もうって??」

 「も、もう……だ、だめ……」


 首を傾げながらシュリがしっぽの裏側の柔らかさを確かめるようになで上げた瞬間、我慢の限界とばかりに押し殺した声を上げ、アガサは背中を大きく震わせた後、がくりと脱力した。
 どうやら、気を失ってしまったらしい。


 「あ、あれ??」


 首を傾げるシュリの脳裏に、いつもの奴がやってきた。


・しっぽだけで女性をイかせた妙技が称えられ、[しっぽは友達]の称号を得ました!


 (なんでやねん!)


 思わず関西弁が出てしまった。
 関西出身と言うわけでもないのに、人はどうしてこういう時、関西弁が出てしまうのか。
 シュリは現実逃避気味にそんな事を考えつつ、反射的にステータス画面を確認していた。


・[しっぽは友達]しっぽをもっている相手の好感度が上がりやすくなる。また、性感帯でもあるしっぽへの愛撫の精度がupする。更に、しっぽだけでイかせた相手の好感度が大幅にupする。


 (しっぽって性感帯なのか……そう言えば、僕もしっぽを刺激されるとちょっと気持ち良くなるもんな。なるほどなぁ)


 知らないこととはいえ、いきなり性感帯を刺激して問答無用でイかせてしまって悪かったなぁと、幸せそうに気絶しているアガサを見ていると、


・アガサの攻略度が50%を超え、恋愛状態となりました!


 そんなアナウンス。
 うん、そうだよね。そうなるよね……と自業自得の状況に肩を落とす。
 そんなシュリの肩を誰かがとんとんと叩く。
 顔を上げてそちらを見れば、妙に目をうるうるさせて顔を赤くしたナーザがいた。
 あ、これはまずいかもと顔をひきつらせたシュリの手を取って、ナーザは己のしっぽへその手を導く。


 「アタシのしっぽもアガサに負けてない。さ、遠慮なくもてあそべ」

 (も、もてあそべって……ひ、人聞きが悪いなぁ)


 お断りしたいところだが、お断りできる雰囲気でもなく、シュリは手の中のしっぽをすりすりと控えめに撫でた。
 なるべくそっと触ろうと思うのだが、彼女のしっぽの毛は柔らかくまるでビロードのようで、ついつい触り方に熱が入ってくる。
 気がつけば、ナーザの小柄な体が、床の上にくてんと横たわっていた。
 潤んだ瞳がもっと触ってくれと訴えてくるが、流石にこれ以上はまずいと、手を離そうとした瞬間、背中を電流が走るように快感が突き抜けた。
 反射的にぎゅっと手に力が入ってしまい、ナーザはその刺激に何とも色っぽい嬌声をあげ、隣にいるアガサと同様、くてっと倒れて動かなくなった。
 彼女もまた、アガサと同じように気絶してしまったらしい。
 次いで、脳裏にやってくるアレ。


・ナーザの攻略度が50%を超え、恋愛状態となりました!


 (なんてこった……)


 そう思うものの、今更どうにもならない。
 それより何より、今は自分の窮状を何とかしないといけなかった。
 絶え間なくしっぽが伝えてくる心地よさに、体に力が入らない。
 なんとか首を動かして見れば、幸せそうな表情で、シュリのしっぽをなで回すヴィオラの姿があった。


 「おばー様……だめ……」

 弱々しく制止するも、シュリのしっぽに夢中のヴィオラが聞いてくれるはずもなく。


 「んふふ~。私にはしっぽがないから触ってもらえなくて残念だけど、そのかわりシュリのしっぽは独り占めだもんね~」


 言いながら、しっぽの根本から先の方へ何度も何度も優しくなで上げてくる。
 [猫耳]のスキルさえ解除してしまえば、危機は脱出できるのだが、そんな事すらも思いつかないほど、絶え間なく与えられる刺激で頭の中にもやがかかっていた。


 「どぉ?気持ちいい??もーっと、気持ちよくしてあげるね??」


 ヴィオラはシュリのしっぽにそっと頬を寄せ、頬ずりをする。
 そして、ゆっくりとしごきあげるように、さっきよりもちょっと力を込めて刺激しはじめた。
 シュリは、ぞわぞわと背中を通って脳に届く快楽の刺激に、耐えることしかできない。


 「お、ばー様……だ、だめ。だめ、だってば……」


 唇をかみしめ、再び制止の言葉を口にするも、ヴィオラが聞いてくれる気配はない。


 「んふ。気持ちよさそうだね。じゃあ、最後はこれで……」


 ぴとり、としっぽの付け根近くの裏側に、湿った温かいものが触れてきた。
 それは、ヴィオラの舌だった。
 彼女は濡れた舌先で愛おしそうに何度か愛撫した後、カプリとその場所へ噛みついた。甘く、優しく。
 鋭くも、何とも甘い刺激。それが止めだった。
 シュリは己が追いつめた二人と同様、背筋をはい上ってくる強い快感に声を押し殺しつつ背中を震わせ、ふうっと意識を遠のかせた。
 一方ヴィオラは、しっぽを触っても何の反応も見せなくなったシュリに遅ればせながら気付き、その顔を覗き込む。そして、


 「あれぇ?シュリまで寝ちゃったの??みんなしてずるぅい」


 気持ち良さそうに目を閉じる周囲の面々を見回して唇を尖らせ、


 「ふーんだ。いいもん。私だって寝ちゃうんだから」


 そういうが早いか、シュリを腕の中に抱き寄せてあっという間に寝息をたてはじめた。
 みんなが眠る静かな室内の中。
 うーん、うーんと唸るジャズの声だけが、静かに響いていた。

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