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武田義信

一条家の思惑・越中逆撃・侵攻作戦

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 9月『信濃・青崩城砦群』

 青崩城砦群では増強改築にあわせて大量の物資が持ち込まれた、野戦築陣用の柵・木塀・小屋・長屋・櫓の部材だ、全て規格を決めて大量生産した物、墨俣の一夜城を大規模に先取りしたものだ。同時に弓矢・刀剣・具足・弩・盾・大弩砲も青崩城砦群用と遠江侵攻用の物資が持ち込まれた。

 青崩城砦群は遠江に拠点を築き次第、元難民の生産衆や山窩・修験者に貸し与えられることになっている。弩や大弩砲などの武具が貸し与えられるから、守備だけなら十分やってのけてくれる。そもそも元難民は近衛将兵の予備部隊で有り、元難民の集落・城砦は子供達の訓練所的要素が大きかった。

 「道為、慣れて来たか?」

 「は、まだまだ慣れぬ事も有りますが、誠心誠意努めさせて頂きます。」

 小野寺家一の知将と近隣諸将に恐れられた八柏道為が答える。参謀として使えないか連れて来たのだ。暫く適正と能力を見て部隊配備を決めようと思っている、こんな御試し将兵が結構増えた。

 「励めよ。」

 「は、御言葉を賜り感謝いたします。」

 「飛影、山形・越中の黒鍬衆の移動は捗っているか?」

 「は、山形は雪で移動が妨げられる前に諏訪に向かうとの事でございます。越中は出羽の兵が慣れ次第諏訪に向かうとの事でございます。」

 「両国の黒鍬衆が諏訪に集まり次第遠江侵攻を開始するぞ。」


 9月『・・・・・・』

 あの漢も好くやってのけてくれた、今後も密かに軍資金を支援してやらねばなるまい。三好の為に汚名を着てくれたのだ、銭で済むなら安いものだ。もっとも本人は、義冬様に忠義を示せたと誇っているらしいが羨ましい事だ。

 兄上の指示で仕方なく同じ主殺しとなったが、あの漢ほどの思い込みが有れば、もっと楽な気持ちになれるのだろうが、なかなかそうは成れぬ。義冬様も持隆様殺害に激怒され、将軍就任に難色を示されておられる。持隆様を担いで叛旗を翻そうとした国衆が出た為仕方なかったとはいえ、心が晴れることが無い。だが遣って退けた以上、最大の成果を上げねば持隆様に申し訳が立たん、何としても阿波を完全に支配する。

 足利義冬・平島公方
 細川持隆・細川讃州家当主


 『京・一条邸・一条房通』

 陶晴賢も不甲斐無きことよ、此方が色々と手を打ってやっておるのに無様に負けおって。だがこれで兼定も晴賢の傀儡でなくなるかもしれん、上手く余が後見すれば、大内を一条の手中に収める事が出来るかもしれん、骨を折る価値は有る。

 覚院宮・九条稙通・鷹司公頼・鷹司義信・鷹司実信・三条公之などには色々貸しが有る、今回は此方に手を貸してもらう。ようは公家好みの大内義隆親子を自ら隠居するように仕向ければいい、大内家の当主を兼定に譲るなら内大臣に任じると上洛させるか? 他の五摂家への根回しだが、近衛には覚慶の将軍就任を認める事で話をつければいい。内大臣の西園寺公朝(さいおんじきんとも)への根回し資金は晴賢に出させる。問題は二条家だな、現当主の晴良の母は九条の出だし、前当主の尹房も弟達も九条の縁で信濃に下向している。鷹司と九条に話をつけさせれば案外すんなり纏まるかもしれん。

 兼定の安全を図ってやるには、大内家周辺の大名たちへの根回しが大切だが、大友義鑑は祖父に当たるからまあ大丈夫だろう。問題は尼子だな、取りあえずは和睦の使者を出し休戦させるとして、三好討伐の上洛の命を近衛に出させるか? 近衛は覚慶の為に三好を叩きたいだろう。我が一条が表に出るのは雅(みやび)じゃない、備後など尼子にくれてやればよい、播磨摂津で三好と争えば大内に手出しする余裕も無くなるだろう。

一条兼定 土佐一条家当主(1543誕生・10歳)
近衛晴嗣 近衛家次期当主・足利義藤・覚慶・周暠の義兄であり従兄でもある。
二条晴良 二条家現当主・母は九条尚経の長女・経子

 10月『越中・武田信繁』

 若殿の下に朝廷から和睦の使者が参られたそうだ、若殿は腸の煮えくり返る想いであっただろうが御受けになられた。鷹司家の当主として仕方ない事だったのだろう。信虎父上と弟達も人質に取られているから、彼らを無事に伊那に送り届けることが条件であったが、今川は素直に手放さなかった、しかし若殿が伊那に4万を超える軍勢を集められたので、ようやく応じたようだ。

 だが武田家として受けた訳では無い、御屋形様からは越中を完全に取り戻した上で、加賀にも侵入せよと伝書鳩が届いた。若殿からお預かりした1万6400兵は農繁期でも戦える、国衆7000兵は万が一攻め込まれた時の守備に使うとして、今は農作業に専念させればいい。

 儂は一向宗を討ち滅ぼし礪波郡を取り戻すために出陣した。和睦が纏まったと油断している安養寺城(勝興寺)を夜明け前に奇襲、御屋形様が差し向けてくれた忍びが、内から城門を開いてくれた御陰で、殆ど抵抗なく城内に討ち入ることが出来た。手当たり次第に切り殺し、本城と総囲い内の門前町でも根切りを断行した。

 安養寺城は近衛足軽鉄砲隊1000兵・近衛足軽弓隊1000兵・近衛槍足軽3000兵に守らせ、加賀の一向宗に知らせに行く者を倒し、それが叶わず加賀からの援軍が来た場合に一向宗を押し止める役目を与えた。まあ朝倉が加賀に侵攻しているから、そう容易く越中に援軍を送り込めることは思えないが、武田の動きを加賀に知られるのは少しでも遅い方がよい。

 井波城(瑞泉寺)に転進したが、知らせがあったのだろう城門を閉じて迎撃態勢を整えていた。こうなる事は予想していたので、若殿が行われたように、狂主の悪口雑言を全将兵に言わせた。怒り狂った一向宗が討って出る所を、弓を使える兵で射殺した。何度も門前で宗徒が射殺されるのを見て、どれほど悪口雑言を繰り返しても出てこなくなった。次に準備していた大弩砲で、肥松に火を付けた大矢を城内の建物に向けて撃ち込んだ。

 肥松とは松の木の枝や幹の脂の多い部分で、今回の火攻めに使う事に成った。本当は油を使いたかったのだが、若殿から食用に出来る物は極力戦で浪費しないように言われている。若殿の民を餓えさせない信条には少々呆れる所もあるが、代用品を指示して下さるので出来る限り従わねばならん。その御陰で民の忠誠心を得たのであれば、儂が率先して弟や譜代衆に範を示さねば、家中の和が保てない。若殿の命に逆らい、どうしても外道の所業をやってのけ、汚名を着ねばならぬ時は、今回の御屋形様の様に儂が汚名を着れば済むこと。

 次々と城内の建物が燃え出したので、次の段階に移る事にした、消火の邪魔と殺戮の為に、横棒付の大量殺戮用・十文字大竹矢をどんどん撃ち込んだ。火に撒かれた宗徒達が遂に城門を開いて逃げ出した、これを次々と射殺した。


 10月『信濃・伊那・吉岡城』

 御屋形様からは遠江侵攻の打診が有った。昔の俺なら御屋形様の歓心を買い、切腹街道を避ける為に唯々諾々と従っただろう。しかし今なら意見具申も許させる、何より越中・越後・出羽を支配下に置いたことで、武田は海を手に入れた。御屋形様が喉から手が出るほど欲していた海を、俺が御与えした。だから駿河・遠江を後回しにする案が通った。

 遠江を手に入れるの当たって必要な大義名分が尾張に落ちている。だからそれを拾ってから堂々と攻め込めばいい。斯波義統の養子に弟の四郎か五郎を送り込んで、遠江守護を堂々と譲り受ける! 足利義晴・義藤が認めた今川義元の遠江守護職は、三好の担ぐ平島公方を将軍に押してやれば斯波家に戻って来るだろう。いや覚慶の将軍就任を五摂家として押してやる代わりに、代償として覚慶に遠江守護職を要求する手も有る。今確実に使えるカードは鷹司家と九条家、二条家も条件次第で味方してくれるだろう。

 今遠江でやるべきことは調略だ、手元には大きなカードが有るのだから、それを大切にしつつ伊那口を抑える遠江国衆を味方に引き込む。天竜川より西を戦無しで手に入れる為にも、奥山・平賀・日名地の一族には味方した場合に永年3000貫文で別家を立てる事を誓約しよう。

裏鹿城    日名地家
平賀屋敷   平賀助太夫
高根城    奥山民部少輔貞益
水巻城主   奥山美濃守定茂
大洞若子城主 奥山加賀守定吉
小川城主   奥山兵部丞定友

 俺は密かに3万4000兵を率いて吉岡城を出陣、青崩城砦群には8000兵と生産衆を入れて今川に備えさせた。御屋形様にも何時でも駿河に攻め込む擬態を取って貰った。その上で木曽・飛騨を通り、予てから土岐家に忠誠を示していた家、仕方なく斎藤に付いた家、武田と斎藤に両属していた家を下して美濃に攻め込んだ。


総大将 鷹司義信
大将  三条公之
陣代  猿渡飛影
軍師  滝川一益
侍大将 相良友和 今田家盛 加津野昌世 米倉重継 狗賓善狼 
足軽大将 市川昌房  田上善親 田村善忠
武将 酒依昌光 板垣信廣 有賀善内 武居善政 武居堯存 金刺善悦 金刺晴長 矢崎善且 小坂善蔵 守矢頼真 松岡頼貞 座光寺為清 知久頼元 山村良利 山村良候 贄川重有 大祝豊保 沢房重 鵜飼忠和 両角重政 山中幸利 小原広勝 小原忠国 武居善種 花岡善秋 大祝右馬助勢 諏訪満隆 座光寺頼近 千野光弘 千野昌房 千野靭負尉

『美濃侵攻軍』
信濃衆       3000兵
近衛騎馬鉄砲隊   8000騎
近衛武士団     3000兵
近衛足軽鉄砲隊   1000兵
近衛足軽弓隊    1000兵
近衛足軽槍隊    1000兵
近衛黒鍬輜重    9000兵
僧兵        8000兵
総計      3万4000兵

『美濃侵攻時の部隊配置』

「信濃・青崩城砦群」
近衛武士団    1000兵 楠浦虎常 
近衛槍足軽団   5000兵
信濃国衆     2000兵

「信濃・諏訪城」
大将        鷹司実信
陣代        於曾信安
近衛武士団     1200兵
出羽新兵      4000兵

「信濃国・妻籠城」  
近衛武士団     1000兵 甘利信忠 

「美濃」
土岐頼芸援軍    一条信龍・馬場信春
子飼い兵       220騎 1100兵
近衛槍足軽隊    3000兵 
近衛弓足軽隊    1000兵

「出羽」
小野寺家目付    漆戸虎光
近衛槍足軽隊    2000兵 
近衛弓足軽隊    1000兵

「出羽・山形」
山形城代      飯富虎昌・鮎川善繁
近衛武士団     1000兵
信濃武士団     1500兵
近衛足軽弓隊    1000兵

「陸奥」
山之内一族援軍   曽根昌世
近衛槍足軽隊    2000兵 
近衛弓足軽隊    1000兵

「越後」
総大将       武田信廉
近衛武士団     2400兵
近衛槍足軽隊    3000兵
出羽兵       3000兵
越後国衆      7000兵

「越中国」
総大将       武田信繁
近衛武士団     2400兵
近衛足軽鉄砲隊   1000兵
近衛足軽弓隊    1000兵、
近衛槍足軽隊    3000兵
飛騨・木曽・諏訪衆 2200兵
出羽兵       5000兵
越中国衆      7000兵 

横谷入城 浅間孫太郎
三才山城 赤羽大膳
北条城等 三村勢
福応館 福山善沖勢
丸山館 丸山善知(勢
村井城(小屋館) 諏訪満隣勢
殿館 殿勢
荒井城 島立貞知
櫛木城 櫛置当主
波多山城 櫛置勢城代
淡路城 櫛置勢城代

伊深城主 後庁重常

花岡城  元難民が統治
金子城  元難民が統治
その他統治地域の城砦は元難民が統治
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