関白の息子!

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秀頼ルート 黒幕捜査3

雑談

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 今回は徳本先生のお話を。

 まず最初に、

①林羅山を弟子にしていた時期がある。
②牛に乗って移動した。
③十六文(十八文?)で薬を売り、見事に治療した。
④患者を直接見ないのに、その家に住んでいる者の寿命が分かるような発言をした。

 と言うようなことは全て伝承に残っています。
 決して作者の完全な創作ではありません。

 ④は分かり難いので捕捉しますと、徳本先生が何時もの様に牛に乗って移動していると、偶然葬式を行う人々に出くわします。
 それを見た徳本先生は、「この家では直ぐに死ぬような者はいないはず。娘さんなら、棺を開けてみてごらん」と言ったそうです。
 試しに棺を開け、脈を診たところ、確かにその娘は生きており、危うく生き埋めにならずに済んだというエピソードです。

 ここら辺は気の流れとかで見るんでしょうか?
 全く科学的なお話ではないですよね。

 少し触れましたが、医の漢字はもともと醫と書き、その省略になります。
 矢はもともと古代中国では邪を払う神聖な物で、分かりやすいところでは破魔矢・戦前に放つ鏑矢なんかにその名残が見られます。
 「匚」は囲われた場所・隠された場所ですから、そこで神聖な矢を用いて邪を払うわけです。
 更に、「殳」は杖(つえ)ぐらいの長さの矛。「酉」は酒です。
 神子による儀式を現していると考えればいいかと思います。

 つまり、呪いから生まれたものなんですよ、東洋の医術って。

 そう言った意味で、個人的には天海と徳本先生は何処か近しい物を感じながら書いてきたわけですが、作者は圧倒的に徳本先生贔屓です。
 僧は悟りを開くことを目的としますが(たしか)、それは一重に自分のためでしかないように思うのです。
 おまけに死んだ後の生だとか、そう言ったどこか今の人生を諦めている感が有ります。
 今まさに生きている他人のために、自分の人生を尽くし続けるお方と比較できるわけがありません。

 因みに、これは今の仏教を批判する意図は全くありません。
 僧侶に立派な方が多い事はもちろん分かっています。
 友人にも何人かいますからね。

 今の仏教では僧侶が修行し、その恩恵を一般の人に分け与えることになっています。
 つまり、僧侶の修行はまんま他人のためになるわけです。
 それが何時から始まったルールなのかは知りませんが・・・・・・。
 宗教も進化するものですからね。

 さて、話を戻します。
 徳本先生の患者には有名人では徳川家康(診療ではなく診療方法を伝えただけ?)と徳川秀忠がいます。
 御典医がいると言うのに、それとは別に親子将軍の診療に関わるのだから大したものです。

 個人的に本当に大好きになったお方で、この作品、ひいては桜ちゃんに毒を飲ませる展開にしなければ恐らく知ることも無かった人物。
 書いていて良かったなぁ、なんて感じてしまいました。

 林羅山と繋がっていたのは、物語的に超美味しかったですしね。
 ただ、徳本先生を完全な善人にするためにそんなに生かす方向にはしませんでしたw

 そして、桜ちゃんに予想よりも早く選択の時が来ました。
 医聖たる徳本先生が出てきた時点で、完治させてくれると思った人もいるかもしれません。

 ・・・・・・ごめんなさい。

 作者がひねくれていると考えてくださって結構です。
 なんか見ているとやはり嫌だったのか、お気に入りも4件減りました。
 うん、ある程度覚悟して書いてますので、それも本望です。

 ちょうど「なろう」では、お梅ちゃんが産まれそうになっている時期。
 タイミングが良いと言うか、悪いと言うか。
 普通に幸せな家族、それでも良い、そうしたいと言う気持ちも強かったのです。

 ですが、この時代、如何に医聖であろうと、易々とことが上手くいくわけがないんです。

 この作品において、時代背景だけは失ってはならない。
 そうした途端、この作品は歴史・時代のカテゴリにいてはならない。

 今回の雑談は最後に、徳本先生の上記に書かなかったエピソードを一つお話しして雑談を閉めたいと思います。
 何時もより雑談もおふざけ成分なしでしたね。




 徳本の名は既に天下に轟き、金銭や名誉を求めないその高潔さ故に、身分に関係なく多くの者が彼が訪れるのを待っていた。

 そんなある日、徳本は旅の途中で一泊するために、道中の村に立ち向かった。
 徳本の訪問に村の者は大層喜び、宿には次々と村人が集まってきた。

「ほれ、これを3日ほど続けて飲むが良い。それで直る」

 そう言って徳本は一人の村人に薬を渡す。
 普通に薬屋に売っているものなど、高すぎて庶民にはとても手が出ない。

「お代は、十六文じゃ」

 そう言って徳本はズイと木箱を押しやる。
 見れば中には大量の小銭。
 だが、金額としては小さい物ばかりで、全て足してようやくここの宿代になるといった程度だろう。

「先生、もっと取った方が良いんじゃないのか?」

「ほっほ、要らぬ世話じゃ。大体、更に貰うては儂が背負うには重すぎる。お前はこんな爺に大荷物を持たせたいのかい?」

 カラカラと笑う徳本に嫌味は一つもない。
 本当に金銭を欲してなどいないのだろう。

「ハハ、本当に噂通りの人なんだねぇ」

「ほっほ、儂はその噂を知らんがのう」

 そう言って、薬草をしまい始める。
 この男が今日の最後の患者だったのだ。

「さて、明日も早い。儂はもう寝たいのでな。はよう帰れ」

 シッシッと言う手振りで、村人を追い払うように言い放つ。

「あ、待ってくれよ先生。もう一人いるんだ」

「なに? じゃぁ、連れて参れ」

「いや、それが強情な奴でな。俺は必要ないって言って、家から出ようともしないんだ」

 どんなに安かろうと、田舎の村人などやはりゆとりがあるわけではない。
 徳本の薬ですら出し渋る者も確かにいるのだ。

「やれやれ、では儂の方が出向こうかの。これ、案内いたせ」

「おいおい、これからかい?」

「言うたじゃろう? 儂は明日の早朝にここを出るんじゃ」

 有無を言わせぬ徳本の様子に、村人もならばさっそくと、村外れの家へと向かう。

「あの家だよ。先生」

「・・・・・・患者は男か?」

「ん? ああ、五平ってんだ」

 まだ患者を診てもいないのに、家の外観を見ただけで徳本はそう言う。
 少しだけ徳本の様子を訝しく思いながらも、村人は五平の家の玄関を叩く。

「おい、五平! 先生が来てくださったぞ! 観念して十六文くらい払いやがれ!」

 ドンドンと扉を叩けば、中から声が聞こえる。

「てめぇ、茂吉! いらねえっつっただろうが」

 ガラリと音を立て、中から出てきた五平と言う男は筋骨隆々でいかにも健康そうであった。
 威勢の良い声も、とても病人とは思えない。
 少々の風邪をひいた程度なのだろうが、少しだけ顔が赤らんでいる。

「先生、この五平が最近中々元気が出ないってんだ。どうか見てやってくれよ」

「茂吉! ああ、もう! 連れて来たんじゃしょうがねぇ」

 ボリボリと頭を掻きながら五平も観念したようにする。

「先生、悪いが診てくれ――

 だが、顔を上げてみると、目の前で徳本は大粒の涙を流し、人目を憚らずに泣いていた。

「・・・・・・先生?」

 呆気にとられ、二人は徳本を見つめることしか出来なかった。

「せ、先生、何故泣くんだ?」

 しばらくの沈黙の後、茂吉がそう問いただす。

「・・・・・・今は言えん、言えんのじゃ」

 涙も拭わずに徳本はそう言い、茂吉に出したのとは全く別の処から薬を取り出す。

「これを飲め」

「あ、ああ。ありがとう。十六文で良いんだったな?」

 五平もそれを受け取りながら、代金を確認するが、徳本はフルフルと首を振る。

「要らぬよ」

 そう言って徳本は牛に跨り、その場を去っていった。
 その方向は先ほど来た宿の方角ではなく、次に行くと言っていた村の方角だった。

「なんだったんだ? で、でもまぁ、薬がただで貰えたんだから良かったな」

 ガハハと笑う五平に茂吉も上手くやりやがったなと笑って答える。



 それから、四日ほど経ったある日。
 五平は突然激しい痛みに襲われ、のたうち回った。
 慌てて周りの者が徳本の薬を飲ませると、少しだけ痛みが和らいだような表情になる。

 だが、結局はその日のうちに眠るように死んでしまった。

 徳本は五平が既に助からぬと一目で診て取り、なんとか苦しまぬようにと痛み止めだけを処方したのだ。

 医聖・永田徳本。
 類稀な薬学の知識と、病を見越す洞察力を持った当代随一の名医である。
 また、貧富身分を分けず、医術を施すその仁厚く、徳高き人物であった。
 しかし、この時代の医術は、彼の崇高な精神ほどには成熟していなかった。

(徳本先生の伝承に少し脚色させていただきました)
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