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鎮守府大将軍

丹波丹後侵攻作戦

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『京・九条屋敷』鷹司義信・真田幸隆・秋山虎繁・黒影

 「閣下、摂津方面軍団を丹波に攻め込ませてはいかがですか?」

 「虎繁、近衛府軍の一部を大山崎や伏見に展開することは可能か?」

 「大丈夫でございます。京を城砦化する為の人夫が沢山集まっております。何時でもその者を足軽として使う事が出来ます。」

 「練度は落ちるが仕方ないな。」

 「三好や北畠の足軽と同等でございいます。近衛府軍と比べれば見落としりますが、普通に役に立ちます。」

 「そうだな、ならば摂津方面軍団2万1000兵を丹波に攻め込ませるとして、後はどう考えているのだ?」

 俺は幸隆に他の手を説明するように水を向けた。

 「越中国から加賀に攻め込まれた、姉小路軍団に加賀・越前の治安維持を御願いする事と、若狭方面軍団7000騎・1万2000兵に丹波に攻め込んで頂くのは、以前説明させていただいた通りです。」

 「総計で4万だが攻め切れるか? 丹波は攻めにくい土地ではないか?」

 「はい、ですので海軍を総動員します。」

 「そうだな、尼子国久が敵に回った所為で、日本海航路の交易が制限されている。太平洋航路も瀬戸内を通ることが出来ず、土佐周りで行う事になっている。ここは海軍を使って、後方上陸作戦で敵を奇襲挟撃すべきだな。」

 「はい、東国と陸奥の平定は終わっております。治安維持の兵力を残して、残りは西国に回しましょう。」

 「それは少し待て。」

 「何故でございますか?」

 「関東と東国の兵力は、開墾と治水に投入する。そうすれが地侍や農民の支持を得る事が出来る。そのなれば国衆は一揆を恐れて、主力軍を此方に引き上げても謀反出来なくなる。」

 「しかしそれでは中国平定に時間が掛かってしまいますが?」

 「構わん、今回は皇室の御領所を押領している、宇津頼重を攻め殺せればいい。」

 「左様でございますか。ですが大内義通様はどうなされます?」

 「日本海艦隊からガレオン船を分派して、沖合航行して周防・和山城まで直行させる。そして大内義通殿を救出してもらう。」

 「それは! 出来ますでしょうか?」

 「望遠鏡を使った直視と、羅針盤を使った計測航法と天測航法で大丈夫だ。」

 「閣下が申されるのなら大丈夫なのでしょうが、新造出来た南蛮船は10隻です。その内何隻をを派遣されるのですか?」

 「10隻全部投入する。戦力の逐次投入は悪手だ。乗せれる限りの陸兵を若狭方面軍団から分派せよ。」

 「総勢で3000兵は乗せれると思います。それだけの兵で奇襲する事が出来れば、大内義通様を救出することは可能でしょう。」

 「ではその手筈で進めてくれ。」


 『丹波・宇津城』

 鷹司軍・摂津方面軍団は、丹波方面軍団と改称された。そして丹波口から侵攻を開始したが、丹波は混乱の極致となっていた。鷹司卿からの調略に加え、親鷹司派の公家衆が血縁地縁を使い、調略の支援をしたのだ。しかしその一方で、足利義冬・細川氏綱・三好長慶・本願寺・尼子晴久なども、反鷹司で国衆・地侍を調略していった。しかもここに、自主独立し大名にならんとする国衆まで加わるのだ。油断をすれば、味方にしたはずの国衆・地侍から、いつ背中を襲われるか分からない状態だった。

 「飛影さま、右の林に内藤勢が潜んでおります。」

 配下の影衆が、敵の潜む場所を逐一報告している。これにより大型投石機・大型弩砲の攻撃が的確となっていた。

 「分かった、投石隊発射準備!」

 「は!」

 最初に丹波口を突破する為に、丹波守護代を務める内藤宗勝(松永長頼)を破らなければならなかった。老ノ坂に陣地を築き待ち受ける内藤宗勝に対して、大量の大型投石機・大型弩砲による投石と十文字大竹射出で、面制圧を行い大損害を与えて突破した。

 この攻撃を受け、仕方なく流れで参戦していた国衆は、内藤宗勝の元から離反した。宗勝は居城の八木城まで戻ろうとするも、並河城主・並河因幡守を筆頭に亀岡周辺の国衆・地侍が命惜しさに宗勝を襲った。この裏切り攻撃に、老ノ坂防衛戦で激減していた宗勝軍は壊乱し、内藤宗勝も首を取られる事になった。

 「皆の者、入られませ。」

 「は!」

 「並河易家殿、内藤宗勝殿の首を討ち取られたこと真に見事です。しかしながら一旦味方すると決めた大将を裏切るのは卑怯千万である! また逃げ首を討ったとて武士として大した評価は与えられん。その事理解しておられるのか?!」

 「は! 真に御恥ずかしい限りでございます。」

 「よって今回の卑怯な裏切りによって得た首は一切評価いたさん。寝返った国衆・地侍の城地は一旦預かり、今後の丹波攻めの働きで評価いたす。不服な者はこのまま城に帰り籠城なされるも、赤井家や波多野家を頼って落ちるのも自由じゃ。今日1日は追い討ちせぬゆえ好きに為されよ。」

 飛影の叱責と怒りを受けて亀岡周辺の国衆は狼狽した。しかし噂に違わぬ鷹司軍の攻撃を受けて、丹波の軍勢に加わっても勝てない事は骨身に染みて理解した。だがだからと言って、おめおめと城地を明け渡す事も出来なかった。

 「猿渡様、1つお聞かせいただきたいのですが、よろしゅうございますか?」

 そんな時、意を決した渡辺美作守成道が質問をした。その顔には、何としても城地を守ろうとする武士の執念がうかがえた。

 「何でも聞きなされ。」

 「今後の戦いで、大賞首や1番首を討ち取った場合は、城地を安堵していただけるのでしょうか。」

 「それは約束しよう。但し皇室御領や公家領を押領している所は返してもらう。」

 「それは理解しております。それで功名が少ない場合はどうなるのですか?」

 「鷹司卿の国衆・地侍に対する恩賞は聞いているか?」

 「はい、功名があった場合は城と半治を保証し、残り半知分を銭で支給し近衛府や鎮守府に出仕させると御聞きしております。」

 「その通りだ、だが今回は一旦敵対した後で卑怯な裏切りをしたのだ、当然功名の条件は厳しくなる。」

 「どれくらいの知行を減らされる事になりますでしょうか?」

 質問している渡辺美作守成道は勿論のこと、陣幕内にいる丹波国衆は皆固唾を飲んで聞き入っている。自分は勿論一族郎党全ての生活が、いや、命すらこの答えにかかっているのだ。

 「城地を召し上げて、半知分を銭で支給し近衛府に出仕してもらう場合もある。また2割知行分しか銭を支給せぬ場合もある。しかしながら、減らした分召し放ちしなければならない一族郎党は、希望するなら独立した武士や足軽として鷹司家で召し抱える。」

 「え?!」

 「知らなかったのか? 鷹司家では、卑怯な行いをした国衆や大名を減知して、家臣を召し抱えることは禁じている。しかしながら、召し放ちされる者達は哀れである。そこで希望するなら、本人の力量に合せて1個の武士として、鷹司家の家臣として仕官してもらうのだ。」

 「真でございますか?!」

 「この事なら天地神明に掛けて誓おう。」

 「ならば教えて頂きたい。」

 並河因幡守が顔を真っ赤にして、やっとの思いで質問を口にした。

 「もし私に功名が足らず、半知分の銭しか支給して頂く事しかできず、ここにいる並河兵庫介と並河易家を召し放した場合、この2人を鷹司家の直臣として召し抱えて頂けるという事ですか?!」

 「左様、しかしながら扶持は実力次第、血縁地縁は考慮されませんぞ。」

 「結構でございます。いえ、安心致しました。」

 陣幕内の緊張した空気が一気に緩んだ。これで何があろうと一族郎党が路頭に迷い、野垂れ死にする事だけは無くなったのだ。

 「そうか、それでは一旦城は明け渡してもらう。城には我らが入り、田畑の検地を行った上で鷹司卿に敵対する者の城を攻めるが、国衆には先にその城を囲んでもらう。」

 『承りました。』

 鷹司卿に寝返った国衆は、城を明け渡した上で先鋒として出陣して行った。

 城で1日休んだ飛影軍は、飯富源四郎を裏切り組の総大将として分派した。その上で自分達は清谷川を遡り、宇津城主・宇津山城を奇襲した。

 宇津頼重は油断していた。飛影軍団が老ノ坂を越え、亀岡で派手な合戦をしていた為、次は八木城や屋賀城を攻めると思いこんでいた。足利義輝の家臣だった蜷川親世や、細川晴元の家臣だった酒井三河守・酒井孫左衛門が、飛影軍団をおめおめと進撃させるとは思わなかったのだ。

 結局宇津城主・宇津山城は脆くも落城し、宇津一族は皆殺しになった。

 結果として飛影軍団は易々と船井郡に侵攻することが出来た。これに慌てたのが西部を支配下に置いている須知元秀だった。急ぎ使者を送ってきて、降伏臣従を誓って須知城・豊田城・位田城を明け渡した。

 しかしながら塩貝城の塩貝将監晴政と息子の晴道は、籠城して徹底抗戦の意思を示した。飛影は須知元秀に先鋒を命じ、塩貝城を包囲するように命じた。須知元秀が出陣して直ぐに、谷垣兵部・細見河内守・片山兵内・出野甚九郎・粟野久次・川勝光照も降伏臣従の挨拶にやって来た。そこで彼らにも塩貝城を包囲するように命じた。

 しかしここで、赤井直正・籾井教業・波多野秀治が、剽悍な丹波勢を率いて得意のゲリラ戦を仕掛けて来たのだ。


 「足利義冬・細川氏綱・三好長慶・本願寺・尼子晴久など連合軍」
八木城の内藤宗勝(松永長頼)・内藤忠俊
宇津城主・宇津頼重・皇室御領を押領
屋賀城・荒木山城守
黒田城・森筑後守高之波多野方
新庄城・井上治部広政
蜷川城・蜷川親世・蜷川親長・蜷川貞栄・蜷川貞房、足利義輝家臣
数掛山城・波多野与兵衛尉秀親
滝ヶ嶺城・森美作守
猪倉城・中沢豊後守知綱
法貴山城の酒井三河守・細川晴元の家臣
法貴山東城の酒井孫左衛門は、細川晴元

「途中で裏切る」
藁無城・内藤安芸守季行
滝ヶ嶺城・森美作守
猪倉城・中沢豊後守知綱
笑路城・長沢重綱
大村城・田中一族・信長に従う
宍人城・小畠太郎兵衛
埴生城・野々口西蔵坊清親・史実では信長と波多野氏を仲介
余部城・福井貞正
並河城・並河因幡守、並河兵庫介・並河易家
馬掘城・山田五兵衛
古世城・菱田介次郎
浄法寺城・渡辺美作守成道
穴太城・赤沢義政・

「漁夫の利を狙い・丹波統一大名を目指す者」
八上城・波多野秀治
籾井城・籾井教業(丹波の青鬼)
黒井城・赤井直正(丹波の赤鬼)

「素直に降伏臣従した国衆」
須知城・豊田城・位田城・須知元秀
鎌谷南城・鎌谷城・細見河内守とその家臣・細見山城守・細見長助
井尻北城・井尻南城・井尻中城・坂井城・谷垣兵部
和知三人衆・片山兵内・出野甚九郎・粟野久次
中村城・島城・今宮城・川勝光照
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