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34.昇級テスト
しおりを挟む私は今、ギルド地下の訓練場にいます。訓練場はサッカー場のように広いスペースが半分に区切られ、それぞれ頑丈そうな柵で囲われている。
あれからランクアップの説明を受け、すぐにテストを受ける事になりました。一度部屋へ帰って防具は付けてきたけど…展開早くない?
テスト内容は、ギルドに指定された数種類の魔物のうちどれかを倒してくる事。それと、上級ランクの冒険者との練習試合。ランク上の者との戦いなので勝敗ではなく内容で合否が決まる。練習試合といっても、失格条件は相手を殺した場合と訓練場にある武器以外を使用した時のみ。訓練場の武器はもちろん刃を潰してある。魔法やスキルについては制限などない。
魔物に関してはトロールとキングトロールで充分との事で、今は練習試合の準備中。スペースを片方空けてもらい、そこで行います。相手はなんとエルブさん。彼は現役のSランク冒険者だそうで…すでに位置について大剣を持ち、仁王立ちしています。審判の位置には何故かギルド員を押しのけて統括自らが立っている。ただの昇級テストとは思えないメンバーが揃い、訓練していた冒険者たちも手を止めてこちらを見ていた。
レオンさんとエヴァさんも心配そうな面持ちで私を見ている。そんな彼らに大丈夫の意味を込めて笑いかけ、ローブを脱いだ。
その途端、冒険者たちから歓声が上がる。
ヴェスタに来てからはずっとローブを着ていたので、レオンさんとエヴァさん以外にこの装備を晒すのは初めてなのだ。だけど今そんな事はどうでもいい。私は考えを巡らせる。
あの巨漢とじゃ、キングトロール同様長くなるほど私の不利。スピード勝負、一本で勝負を決めよう。いくつかの流れを想定し、大剣を手に取って柵の中へ入った。
位置について剣を構えると集中力が増し、喧騒が遠のく。久しぶりに剣道の試合を思い出した。
「始め!」
開始の合図と同時にエルブさんを解析する。のんびり検証している暇どない、注目すべきは素早さとスキル欄だけ。
素早さは私が少し上、戦闘と関連しているスキルは格闘(A)と剣術(A)、それに雷魔法(C)。
ドンッ!とエルブさんが飛び出す。その巨漢からは想像もつかないスピード。私も一瞬遅れて走りだした。
レオハーヴェンとエヴァント以外の誰もが思っていた。ベテランのSランク冒険者、エルブに女冒険者が敵う訳がないと。彼女の魔力の強さを知るロンワン統括でさえ、エルブ相手にどのくらい出来るかを見てランクを決めるつもりだった。経験の差も大きいし、まさか勝つとは思っていない。周囲は目の保養とばかりに試合そっちのけで見事なプロポーションのビキニアーマーを眺めている。
エルブの巨体が先に飛び出す。この体格差と実力差で先手を取られれば、それだけで負けがグンと近づく…はずだった。
が、
エルブが大剣を振り上げ、剣での攻撃と見せかけてサンダーショットを放とうとした時…
「サンダーショ…(バキンッ!)…あ…?」
詠唱途中に当たった石つぶてで大剣の刃が根元から折れ、チラリと剣を見るエルブ。その一瞬をついてキラが大剣で斬りつけた。
「ぐあっ!!」
ズドンッ!!
たった一撃。刃を潰した大剣での、たった一撃でエルブの巨漢は倒れ、それっきり動かなくなった。詠唱さえなかったので何が起きたか分からない者が殆ど。だが、Sランクのエルブを新人の女冒険者が倒したのは紛れもない事実。
訓練場はかつてない興奮の坩堝と化していた。
私は集中を解いて息を吐き、床に伸びているエルブさんを解析する。体力は少ししか残っていないが死んではいなくてホッとした。使った技は峰打ち。強い相手にどのくらい効くのか分からなかったが上手くいった。
ギルド員がエルブの無事を確認すると統括の声が響く。
「勝者キラ!」
歓声を受ける私の元へ2人が駆けてきて、エヴァさんがローブを羽織らせてくれた。
「怪我がなくて良かったぜ。隙をついて上手く峰打ちを出したな」
「エルブさんも君の魔力には注意してただろうけど、剣でやられるとは思ってなかったんじゃないかな」
「ありがとうございます。一瞬でも気を逸らすことが出来たらと思って石つぶてを当てたんですけど、まさか折れるとは…」
2人が称賛してくれる。
魔法でも剣でも、どちらでも私の戦法に変わりはない。石つぶてを当てて一瞬の隙を作れれば勝てる見込みがあるかもしれないと考えていた。でもかなり緊張はした。相手はSランクだし防具も装備しているとはいえ、ホーンラビットを破裂させた石つぶてが人に当たるとどうなるのか分からなかったから。結果的にはエルブさんが剣を振りかぶってくれたので、刃の根元を狙うことが出来てホッとしている。
「おめでとうキラ君、まさかあのエルブを一撃で倒してしまうとはの。全く大したもんじゃ」
統括がやって来て満面の笑みで讃えてくれた。
「ありがとうございます」
「うむ。言うまでも無いじゃろうが合格じゃよ。君は今日からAランク冒険者じゃ」
……は?……え?Aランク?これはCランクに昇級するためのテストじゃなかったっけ?
「やっぱりか。にしてもAとは凄いな」
「まあ当然といえば当然だね。おめでとうキラ、晴れてオレと同じランクだ」
「おめでとうキラ」
訳が分からずポカン、とする私をよそに、2人はすぐ納得してお祝いなど言っている。
「あ、あの…Cランクじゃないんですか?」
「ん?Cランクのテストじゃと言った覚えはないがのぅ?」
「えっ……」
言われてみれば、確かに昇級テストだとしか…聞いてない、けど…えぇ~。
「君はAランクがパーティーで討伐するキングトロールをエヴァの助けだけで倒した。更にSランクのエルブに一撃で勝ってみせた。充分合格じゃ、ここに居る冒険者たちが証人じゃよ。もちろん儂とエルブも含めてな」
統括の言葉に鎮まりかけていた冒険者たちからまた歓声が上がった。戸惑いながら2人を見ると笑顔で頷いてくれる。
「…ありがとうございます。Aランク冒険者の名に恥じぬよう頑張ります」
「うんうん、まあそう肩肘張らずともキラ君なら大丈夫じゃよ。レオンとエヴァもついとるようじゃしな」
「はい…」
最後に含み笑いしながらそう言う統括に、私は赤くなって返事をしたのでした。
それにしても…DからAへの飛び級ってホントに良いのでしょうか?
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