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元治2年/慶応元年

あんた、誰?(壱)

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 元治2年、1月8日。

 この日、新選組壬生村の屯所に、新選組大坂屯所から一件の報告がもたらされた。

 大坂に身を隠していた土佐勤王党の残党による、大坂城乗っ取り計画を阻止した、というものだった。

 大坂屯所に滞在する隊士たちで、土佐勤王党の潜伏するぜんざい屋に討ち入ったが、一部の残党に逃げられたらしい。

 その報告を受け、新選組は追討部隊を編成し、京から大坂にかけた街道を捜索することを決めた。




 その日の屯所はバタバタしていた。

 まあ、薬を作りまくってる私にはあまり関係ない話なんだが。

(確かぜんざい屋の生き残りを捜索しに行くんだっけ?)
『そうだと聞いておる。大坂も何かと物騒だよな』
(康順先生は大丈夫かしら?)
『大丈夫だと思いたいのう』

 年越しからまださほど経ってないのに、もう出動か。新選組は忙しいな。

 年を越して8日、八木邸と前川邸の新選組隊士及び幹部たちは七草粥を食したばかりだ。私も作るのをちょっと手伝ってみた。

 永倉さんが平助君のおかずを狙って食事中に大広間を駆けずり回り、キレた土方さんにげんこつ落とされてたのをよく覚えているよ。

 被害者の平助君はともかく、どうして永倉さんってあんなに、男臭いんでしょうね。

 ちなみに、平助君は隊士募集を終えて江戸から帰ってくると、途端に永倉さんと原田さんにとっちめられていた。原因はもちろん、伊東さんだ。

「ちょっとぉ~、隊士の剣の腕がダメダメじゃないですのぉ~。みなさん、ちゃんと鍛えてらっしゃいますのぉ~?」

「やっだぁ~、なぁに?これぇ~。こんなおしゃれじゃないもの、あたくしは着ませんことよぉ~?」

「まぁ!なんですのぉ~?これぇ~。ちょっと味付けがひどいんじゃなくってぇ~?」

 とにかく、いろいろとすごすぎる。どこへ行っても嫌味しか言ってないという。

 しかもこのオネエに感化されちゃってる人もごく数名見つけてしまった。早くも幸先の不安な結果となりました。

(伊東さんの存在って、残念ながら幹部たちの悩みの種だよね)
『あの天然ボケの近藤だけは伊東にメロメロに心酔しておるがのう』
(天然ボケって………)

 でもそうだよね。平助君みたいな賛同派と斎藤さんみたいな中立派はいるけど、幹部連中はほぼ全員伊東さんに頭を悩ませてるのに、近藤さんだけは頭に花咲いているみたいに伊東さんに心酔しまくってるもの。

 確かに伊東さんは剣の腕も頭もいいから心酔しちゃうのもわかりますけど。誰だってそんなすごい人が来たら頼りたくなる。

(でも、もう少しぐらい山南さんの気持ちも考えてあげて欲しいよ)

 私が予想していたとおり、伊東さんが来て以降、山南さんは塞ぎこむようになった。無理もないだろう。今の近藤さんは、何かあったら伊東さん、何もなくても伊東さんだもの。

 もちろん山南さんのことをないがしろにしているわけではない。それでも山南さんからすれば、新選組から自分の居場所がどんどんなくなっているように感じているだろう。

 なんだかんだ近藤さんを慕っている土方さんも近藤さんに強く言えず、結果山南さんはますます部屋に引きこもるようになってしまった。

 今では私と山??さん、沖田さんと土方さんしか部屋に入れないという始末。

 この間なんて。

「優秀な参謀の加入で、総長はもうお役御免なんでしょうか?」

 とか。

「私にはもう研究しかないみたいですね。御影君、君だけですよ、私を必要としてくれているのは」

 とかものすっごい重いこと言われたし。

 あああ、新選組の先行きが不安ー。
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