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第二章

レッドドラゴン 8

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 残り時間五十秒。

「ワイヤーガン、セット」
 僕は、左腕を奴に向けた。
 バイザーに、レティクルが表示される。
 奴の頭部に照準を合わせた。
「ファイヤー!」
 左腕の手甲に装備してあったワイヤーガンから、ワイヤー付の弾丸が射出された。
 ワイヤーガンは元々、都市部での戦闘時にビルの外壁に素早く登るために開発された武器。弾丸はビルのコンクリートを貫く威力がある。武器と言うより、壁登りの道具と言った方が正しいかもしれない。
 ただ、これは空飛ぶ相手に使用することは想定されていない。
 それでも、弾丸は奴の頭部に命中した。
 弾丸は刺さった後、内部でフックが出てきて簡単には抜けない。
 奴は慌てて逃走にかかったが、もう遅い。
 ワイヤーの長さは五百メートルある。
 僕はベジドラゴンの頭を撫でた。
「ありがとう。後は、任せて」
 ベジドラゴンの背中から飛ぶと同時に、コマンドを唱えた。
「ウインチ スタート」
 そのまま、ウインチでワイヤーを急速に巻き上げていく。

 残り時間三十秒。

 空中で振り子のように降られながらも、奴に急接近。
 奴は、必死で首を振って僕を振り落とそうとするが、そうはいかない。
 右手のワイヤーガンを撃ち込む。
 二つのワイヤーを頼りに奴の首をよじ登る。
 奴の頭に、手が届くところまで近づいた。
 このまま、頭蓋骨を砕けば奴を殺せる。

 殺す?

 殺す必要が、あるのか?

 僕に、奴を殺す資格があるのか? 

 違う!!

 資格があるから、殺すんじゃない。

 僕が生き延びたいから……それを邪魔する奴を殺すんだ。

「悪く思うなよ。お前がここで死ぬのは、僕を殺そうとしたからだ」
 ベジドラゴン最初の一頭を仕留めた時点で、満足して帰っていけばよかったんだ。
 欲張って、食う以上に殺そうとした、お前の貪欲がお前の身を滅ぼすんだ。  
「ブースト」
 奴の頭に、パンチを叩き込んだ。
 パンチは鱗を割り、頭蓋骨を砕き脳に達する。
 血と脳漿が飛び散る。
 バイザーに、もろにかぶってしまった。
 うええ!! 気持ちワル!
 手を引っこ抜いて、二発目を叩き込む。
 そのまま、奴は動かなくなった。
 翼を広げたまま滑空をしているが、脳を破壊されてはもう絶命しているだろう。
 終わったか。
 レッドドラゴンよ、安らかに眠れ。
 さて、帰ろ……あれ? 僕はどうやって、ここから降りればいいんだ?

 残り時間ゼロ秒。

 うそだろ!! おい!!

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