乾坤一擲

響 恭也

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唐入りー決戦ー

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 秀吉はさらに軍を北上させてゆく。長期戦も覚悟していたが、敵があまりにもろく、まともな戦闘がなかった。そして大同江を挟んで平譲を望む位置に布陣する。
 後方の維持のため兵力を割いており、正面に振り向けられるのは2万程度であった。吉川、小早川の両軍も後方支援に残っている。上杉、浅井、そしてある種切り札の島津軍の編制となっていた。宇喜多は釜山まで退いている。
 東国の兵はあまり動員していない。だが甲斐、信濃、東海道の諸将は動員の命令を受けていた。そのあたりの軍が続々と九州に到着している。そしてある意味待ち望んでいた人物が前線に到着した。

「筑前殿、役目大義」
「秀隆様もお変わりなく」
「ああ、おかげさまで」
「平壌を抜けば明軍と会敵と思われます、数は5万ほどで、後続の軍を待つべきでしょうか?」
「そうだな。ちょっと手を打ってるんだが、もう少し時間がかかりそうだ。川を挟んでにらみ合いにした方がいいな」
「承知しました。対岸には1万ほどのようですな」
「なるほど、下手につつくと2万ほどで明軍と戦うことになる。負けはしないだろうが危険は負いたくないな」
「ですのう。可能な限り一撃で終わらせたいものです」

 基本方針は後続を待って決戦となった。陣屋にいる兵力と、野陣の兵力をうまく配置して敵に総兵力を読ませないようにする。川を渡って仕掛けてくることもなく一見して平穏に日々は過ぎてゆく。
 明軍もさらに後続の兵を待っているようだ。後方に使者が何度も往復している。また鉄を貼り付けた盾を用意し、鉄砲隊の対策を取っていた。朝鮮ではそういった知恵が働かないのかとすら思っていたが、単純に資金がなくて用意できていなかったようだった。
 さらに救いがたいことに、国から装備を整える資金が下賜されたとして、その資金はまず将軍たちの懐に入り兵の装備などには回らない。食料なども着服、横流しが横行している。

「こいつらは何を考えているんですかのう?」
「目先の事さ」
「にしても目先すぎませんかな? このいくさに勝たなければまず国が無くなるというに」
「朝鮮は明の属国だからな、明に逃げ込む算段なんだろう」
「そもそも兵が満足に戦えなければ戦に勝てないでしょうに。そうなれば率いる将の命も危うい」
「うむ、おそらくだが、そこまで考える頭がない」
「は…はい?!」
「中華思想にどっぷり浸っているからなあ。中華に蛮族は天地がひっくり返っても勝てないことになっているんだそうだぞ。だから明が出てきたら俺たちはコテンパンにされて負けるんだそうだ」
「めでたき奴らですなぁ…」
「まあ、負けてやる義理も義務もない。機が来ればあとは一気に勝敗を決するのみだ」
 秀隆の言葉に多いの頷く秀吉。秀隆の指示を実際に現場で実行しているのは秀吉であり、どのように軍が動いているかも把握している。明と朝鮮連合軍は包囲の中ですりつぶされるしかない。

 お互い待っていた援軍が到着した。明軍のもとに女真の騎兵1万が到着したのだ。織田軍のもとにも尾張衆、美濃衆、三河衆が到着した。
 秀隆は尾張衆を先陣に兵を進める。朝鮮、明の連合軍と川を挟んで相対する。正面兵力は4万対7万。織田軍の不利である。丸1日にらみ合うが、ついにこちらの数が少ないと見て取った明軍が攻勢を仕掛けてきた。
 野戦陣を敷く。信秀は巧みに射線を構築し、敵前衛部隊を十字砲火で文字通り消滅させた。臨津江は真っ赤に染まり後続の軍の足が止まる。鉄砲隊の制圧射撃で援護を受けた先手が川を渡りだす。
 明軍も弓矢で応戦するが、鉄砲を防ぐ盾を構えた織田勢にはほとんど効果がない。そのまま接敵し白兵戦に移行した当たりで、あらかじめ川を渡っていた部隊が上流側から攻め寄せる。
 あきれたことに、この期に及んで偵察の何たるかを彼らは理解していなかった。目の前にいる兵力が全てだと判断し、別動隊がいるということを想定すらしていない。孫子発祥の国とは思えぬ体たらくであった。
 不利を悟った明軍が後退を始める。その際に、援軍先である朝鮮軍に敵を食い止めろと命令していた。この時点で命令系統は崩壊している。右往左往する連合軍を草でも刈るようになぎ倒していった。
 敵前衛はほぼ全滅した。が、それにより本隊はほぼ無傷で撤退に成功している。その中で女真族の軍は秩序を保って撤退しており、その姿は織田軍に科の兵は侮りがたしとの印象を植え付けた。
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