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村人M外伝

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※村人M外伝として短編でのせていた物です。








どの世界にも腐の付くお嬢さん方はいるものだ。



巷では”腐女子による腐女子の為の”恋愛娯楽小説が流行っている。
その題材(犠牲者)となるのは一昔前なら専ら勇者×勇者であったが…
最近の流行はあの・・Mである。

数々の逞しくも美しき男達(←ココ重要)に求められ翻弄される悲劇の主人公M。
数々の逞しくも美しき男達(←ココ重要)を魅了し翻弄する小悪魔M。
王道ハーレム総受けストーリーから、ライトなラブコメ。
はたまたロミジュリ的悲劇物、更には昼ドラ宛らのドロドロ略奪愛ets…
純愛系からビッチ系まで様々なジャンルに適応するMは、正にその筋のお嬢様方から神と賞賛されていた。

そんなこんなな中…いち早く時代の波に乗り一財産築いた逞しき乙女がいた。

――――人は彼女を伝説の腐絵師と呼んだ。





商人R「この間の絵は最高だったね!もう1.000.000枚は下らないよ!!いま大急ぎで追加印刷させているが今後の売れ行きはどれくらいになるか検討もつかないよ!!」

腐絵師A「ふふん甘いわねおじさん。あれで1.000.000なら今度は3.000.000は下らないわよ?」

腐絵師Aは先程書き上がったばかりの新作を商人Rの前ににチラつかせた。

商人R「こ…これは~~~!!」  

真っ白なシーツの上で、うつ伏せに寝そべる裸体のM。
組んだ腕に顎をのせ、何処か此方を挑発するようなイタズラな瞳。

商人R「こりゃ3.000.000どころじゃ無いよ!!いや~~困るよ~こんな最終兵器を現段階でぶちこまれちゃ…Mはまだまだ売れるジャンルだ。もうちょっと小出しにしていかないと…」

腐絵師A「大丈夫。新しいMシリーズならもう考えてあるから。この調子でどんどん稼ぎましょう?」





伝説の腐絵師Aこと、村娘A。
日の沈む村に住む生粋のモブである彼女は生粋の腐女子でもある。
普段は友人の書く腐った文章にこれまた腐った挿絵を載せて、半年に一度近くの町で開かれる腐女子の祭典で売り捌く事を趣味としていたが、ひょんな事からこの絵が商人Rの目にとまりペン1本で伝説への道を歩み始めた女であった。

当時腐女子の間で勇者×Mと言うジャンルが定着し始めた頃。
先見の目を持つ名うての商人Rは直感した。コレはそのうち来る…と。
理屈では無い。彼の長年培った商人としてのカンが確かにそう告げているのだ。
早速その日から商人Rは腐ったM本を片っ端から買い漁った。
腐女子に混じってM本を買いまくるオヤジはかなり異色だったが、羞恥心をかなぐり捨てて集めまくった。
全ては商売の為、近年に無いヒットの匂いを嗅ぎつけたハイエナは形振りかまっていられない。
だが…いざ集めてみるとどの(腐)作品を見てもコレと言った物が見つからない。
Mと名の付く物は片っ端から買い漁っていると言うのに、どうしても“コレじゃ無い感”が拭えないのだ。
そして…またある田舎町で腐った女子の祭典があると聞きつけたRは、遠路遥々やって来たこの片田舎でついに見つけたのだ。後に伝説と謳われる腐絵師Aの作品を。




これだ!!Rは雷にも似た天啓ににうち震えた。

…ぶっちゃけ腐絵師Aの書くMの絵と、その他の違いとは即ちリアリティである。
それは技術的な物では無く、単に彼女が本物のMを知る強みに外ならないのだが…



他の絵師の作品も確かに絵として上手い物はたくさんあった。
中にはプロの作品もあった。しかし…

文中にはどれも“平凡な男”と書かれているにも関わらず…

異様に目の大きい絶世の美少年だったり…
または薔薇や星を背負った気怠い美青年とか…
果てはまるきり華奢で愛らしい美少女のような…

…と、一々挙げればキリが無いが商人Rの魂は劇画調で叫んでいた。
「コレ平凡ちゃうやろがっ!!」…と。




実際のところはAの書くMも多少・・は美化が入っている。
腐っても耽美系小説の挿絵なのだから当り前である。
だがその度合いは似顔絵書きが女性を書く時に、本人の特徴を捉えつつも2~3割美化して書くのと同じような度合いだ。
そこは実物のMを知る者が見れば「ああ、これはMだな。」と分かる程度の美化である。
そのナチュラル感がRの直感に触れたのだ。探し求めていたのはコレなのだと。

かくして商人Rと腐絵師Aの躍進劇が幕をあけた。



手初めに葉書サイズの似顔絵ブロマイドを数種類出して見ると…瞬く間に売れた。
卸したどの店からも追加注文が引っ切り無しに入る。
卸していない店からも問合せが殺到する。

はて…?いや、確かに売れるとは思った。思ってはいたが…
先見の目を持つRにもこれは予想外の結果であった。

それもそのはず、買い占めていたのは全く想定外の客層…即ち勇者達である。





当初女子をターゲットに考えていたRは、若い女性の立ち寄りそうな店にのみ・・M絵葉書を委託販売と言う形で置いてもらっていたのだが…因みに謳い文句はこうだ。

**************************
☆これで貴女の魅力も200ptUP間違いなし☆
幾多の勇者を虜にした【魔性の男M】のモテ御利益!!
**************************

*Mのポストカードを購入してから最近綺麗になったねって良く言われるようになりました*
*おかげで念願の彼氏をGET出来ました。Mのポストカードに感謝です*
*最近お化粧のノリが違うなって思ってたんです。これもMのポストカード御利益かな?*
*購入した日に憧れの勇者を真近でお見かけして~!!もう夢のようです!!ハート*

全国から感謝のお手紙がこんなに…




………100%詐欺商法のようなモノであるが、流行とは作るモノ!!
を、スローガンに生きているRにとっては至って真当な商法である。
いつの時代もお守りグッズなどそんなものだ。

だが、ここで思わぬ番狂わせが起こる事となる。
偶々ある雑貨屋で新商品として店のショーウインドウに飾っていたM絵葉書を、偶々店の前を通り掛かった一人の勇者が、偶々見付けたのがきっかけだった。

その場で店にあったM絵葉書を1枚残らず買い占めたその勇者は早速その日の内に…
『俺のMたんv』と言うタイトルで勇者ネットに画像をアップしたからさあ大変。
その日の内にあちこちのファンシーな雑貨屋から雑貨屋を、勇者達が駆けずり回ると言う怪現象が巻き起こった。



バター~~ン!!カラカラカラ…

「Mたん絵葉書は有るかぁ!!」

「も、申し訳ありませんっ!先程売り切れたばかりでして…」

「チィ!またか!!…これで5件目だぞっ!!」

「ひいいいい…すみません!すぐ、すぐに再入荷をしますので…」

「ええい!待ってられん!!」

痺れを切らした勇者は店を飛び出すと、隣町のファンシー雑貨店を目指して駆け出した。





それからは正に怒涛の如くの日々であった。

とにかく新作を卸しても卸しても、瞬く間に完売。
すぐに増産を重ねても重ねても、追い付かない始末。
それもその筈。焦らしに焦らされた勇者達はM絵葉書を見付けるや否や全て買い占めてしまうのだ。
更にこれは売れると踏んだ冒険者ギルドや、宿屋、武器屋、酒場からも次々と注文が舞い込み、果てはカフェに薬屋や本屋、なぜか八百屋や魚屋からまで発注の嵐とあいなった。

そうこうする内に商店街では【本日Mはじめました】の、のぼりがあちこちで上がる事となる。
そんな訳で今や何処の印刷所もM一色で連日フル回転のフル残業である。


さて、天下の勇者様達が血眼になって探し求める“モノ”が、人々の話題にならないワケが無い。
印刷業の皆さんの命懸けの頑張りでやっと生産が追い付いた頃には…
勇者や腐女子以外の一般人にもこの『Mたん絵葉書』はとっくに広まっていた。
因みにM画集、M等身大ポスター、M抱き枕カバーなどバリエーションも豊富である。

空前のヒットとなったMシリーズ。
ここまで来ると当然同業者による類似品も数多く出回ったが、なにせ類似品は実物のMを知らないプロの挿絵家達の作である。
いくら美しく書かれていようが、勇者達にとってはMでなければ何の価値も無いただの絵だ。
異様に目の大きい絶世の美少年…または薔薇や星を背負った気怠い美青年…果てはまるきり華奢な美少女のような…そんなMは最早Mでは無いのだ。
かくして類似品はバッタモノと呼ばれ、腐絵師Aの絵葉書には更に付加価値が付いた。



商人Rは寝る間も惜しんで働いた。
お陰でたっぷりと贅肉を蓄えたふくよかなお腹は見る間に痩せ細り、目の下にはくっきりとした隈が浮き出てきた。
また、時を同じく腐絵師Aも乙女にあるまじき風貌になりつつも、目だけはギラギラと輝きを増し寝食を忘れて一心不乱にペンを走らせた。


ふたりの快進撃は最早留まる事を知らず…

こうしてMのブロマイドは本人の預かり知らぬ所で、その噂・・・と共に大陸中へ流れていく事となる・・・(合掌)





後の人々はこう語る「あれは村人Mの受難が、新たなる幕を開けた瞬間であった」と。







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