種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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幼少編

枯葉の森

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街から無事に抜け出してから馬車の中で揺れること数時間、バル達は自分たちのアジトの1つである「枯葉の森」と呼ばれる場所に辿り着く。森の中はレノが訪れた「深淵の森」のように大木で形成された森であり、唯一の違いはエルフ達が住んで居た森は緑溢れる美しい場所だったが、この森の木々の殆どは枯れ木のように萎びれており、生物の気配が全くしない。


「隠れ家にご到着~!!」
「やたらとテンション高いな……」
「まあ、久しぶりの大金が手に入ったからな……」


馬車が森の奥に造られた古びた洋館に到着し、馬車から4人が出てくると、館から十数人の人間が出てくる。全員が人間であり、2年前にレノを取り囲んだ少年たち以外にも人間が増えていた。


「お帰り~!!」
「どうだった?今回の獲物?」
「土産は!?土産はあるのかぁあああああっ!!」


やたらとテンションが高い青年たちが群がり、中には幼い子供も含まれている。この2年の間に入った新入りであり、レノはすぐに馬車に置かれている果物箱を取り出し、他の青年たちもそれに習って無数の果物を青年たちに渡す。


「おおっ!!今回は果物か!!」
「これ、エルフたちが育てた品じゃねえか!!」
「お頭が商人に化ける時に大目に持ち込んだんだよ……って、ここで喰うな!!」


子供たちが果物に手を伸ばし、夢中でかぶりついて周囲に果汁を飛ばす。慌てて周囲の青年たちが離れる。


「本当の収穫はこっちだよ、ほらよっ!!」
「「「おおぉおおおおおおっ!!」」」


バルは金貨袋から無数の金貨を空中にばら撒き、すぐに地面に落ちた金貨を拾い集めた青年たちを蹴飛ばす。



「うげっ!?」
「げふっ!!」
「全部、あたしの金貨だよ!!勝手に取るな!!」
「じゃ、何でいちいち地面にばらまいたんスか!?」
「うるっさいねぇ……ノリだよノリ」


どことなくビルドを思い出させるバルの姿にレノは笑いながら、既に彼は「男」の姿に戻っている。追放されてからこの2年間、彼女の元でレノは「盗み」と「武器」の技術を学び、そして忌々しい「反魔紋」の抜け穴を教えてもらう。



――反魔紋は「魔法」を発動する際に対象者に電流を走らせる仕組みであるが、魔法ではなく「魔力」を操る段階では発動しない。



魔法とは魔力を形にした現象であり、例えば自分の身体に魔力を纏わせて身体能力を向上させる程度では反魔紋は発動しない。反面にどんなに簡単な魔法、つまり呪文を唱えて「魔法」を発動させようとするだけで即座に反魔紋から高圧電流が肉体に流し込まれる。レノはこの2年間、身体能力を上げるだけに魔力を注ぎ込み、そのお蔭なのかエルフの中では貧弱な肉体だった彼の身体も随分と筋肉が付いた。

また、理由は不明だがレノは現在もソフィアの姿に変わることが普通に出来る。族長の言葉通りなら子供を宿せない体にされるそうだが、今の所は実感は沸かない。流石に他の男の身体を許して本当かどうかを試す勇気は無いが。



「はいはい、皆集まりな~!!次の標的の作戦会議だよ!!」
「「「うぇ~い」」」
「その返事は何とかならないのかい……」


バルの元に青年たちだけが集まり、幼い子ども組は未だに果物に夢中だった。彼女は外に放り出されている大きな机に、何処から取り出したのかここいら一帯の地図を取り出し、机の上に広げる。


「これが今回のターゲットの屋敷だよ。何をとち狂ったのか、溜め込んだ金を王国に寄付するんだとよ」
「王国に!?そいつは相手が悪いんじゃないんですか!?」


バルが語る「王国」とは、人間が収めるこの大陸最大の国家であり、正式名称は「バルトロス王国」と呼ばれ、人口は300万人を超し、王国の兵士の数は100万人と言われている。人間は5つの種族と比べ、魔力も身体能力も低いが、知能の高さならば種族一であり、この世界では相当な科学を身に着けている。

別にファンタジーのような世界観の異世界だから現実世界と比べればそれほどの科学が進んでいない等という訳でもなく、既に列車ぐらいを生み出す技術は発展しているらしい。


「今回のターゲットは余命少ない爺さんでね……自分が死ぬ前に、あまり余った財産の半分を王国に寄付するらしいね」
「何でそんな事を……生前の悪行を生産できるとでも思っているんすかねぇっ」
「噂によれば、孫夫婦が王国に住んでいるとか……孫を人質に金をむしり取る気だろうね」
「腐ってやがるな!!許せねえ!!」
「泥棒の俺達が言えることか?」
「それもそうかっ!!」


和気あいあいと作戦会議を始めるバルたちにレノは溜息を吐きながらも近くの席に座り込み、自分のナイフを取りだして砥石で研ぎ澄ませる。ハーフエルフの耳は人間よりも遥かに優れているので、多少離れていても声は聞き逃すことは無い。


「今回は中央都市にまで遠征だからね。悪いけど、役立たずはお留守番してもらうよ」
「ええ~っ!?マジですか?」
「これ以上、人員を割いたら成功するものも成功しませんよ!!」
「文句言うんじゃないよ!!今回の相手は、それほどやばい相手なんだよ!!」


配下たちが文句を垂れる中、バルは一括して黙らせると、作戦会議から離れた場所に座り込むレノに視線をやり、目つきを細める。


「レノ……今回はあんたは置いてくよ」
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