種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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幼少編

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「俺はこれからどうなるんだ?」
「当面は怪我の治療代も兼ねて、うちのギルドで働いてもらいましょうかねぇ」
「治療代?」
「こちらとしても、死にかけたあなたのために高価な聖水を使いましたからねぇ。それ相応は働いてもらいますよ?」
「……いくらぐらい?」
「ざっと、アトラス金貨1枚ほどですかね?」
「アトラス……ぼったくりだな」


こちらの世界に存在する「アトラス金貨」とは、普通の金貨の100倍近くの値打ちがある希少金属と金で加工された通貨だ。ちなみにこの世界の通貨は、「銅貨」次に「銀貨」次に「金貨」次に「ミスリル銀貨」最後に「アトラス金貨」といった順に価値が高い通貨となる。銅貨の下にも硬貨は存在するが、基本的にはこの五つの通貨で成り立っている。

アトラス金貨の値打ちは、だいたい日本円で1000万円近い価値だ。普通の回復魔導士に治療を頼んだとしても、ここまで費用がかかるはずはない。

しかし、迫害されているハーフエルフであるレノは普通の「聖導教会(こちらの世界に存在する教会。多数の医療魔導士を配備しており、病院の役割も担っている)」で治療してもらえない。そう考えると法外とはいえ、彼に助けられた事は幸いだった。


「バルは……他の皆は生きていると思うか?」
「配下の方々に付いては分かりませんが……バルは高い確率で生きているでしょうねぇ。王国に遺産を寄付しようとする貴族の家に忍び込んだのはご存知ですよねぇ?」
「ああ……」
「彼女たちが貴族の屋敷に忍び込んだ際、恐らくはバルは見てはならない物を見たのか、それとも情報を掴んでしまったのでしょうねぇ。だからこそ、ここまで小規模の盗賊団ギルドを相手に、王国がここまで派手に周辺地域の街や都市を封鎖するところ、とんでもないものを発見したのでしょうかねぇ」
「ねぇねぇ煩いな……」
「申し訳ありません。口癖でして……それで、一応は聞きますが貴方はこれからどうしますか?」
「従わなければ?」
「死んでもらいます。こちらとしても、知られてはならない情報を提供してしまいましたから……」
「ひどいな……」


レノはベッドから身体を起き上げると、すぐに目の前の壁際に自分用と思われる衣装が掛けられていることに気付く。彼に視線をやると、にこにことわざとらしい笑みを浮かべて頷くだけだ。


「これがあんたらの組織の装束か?」
「正確に言えば、貴方専用の装束ですよ。先ほどのアトラス金貨の請求も、実はこの服の代金も含まれましてねぇ」
「魔法衣(通常の布や絹で作られた物よりも頑丈で、魔法に耐性があり、魔術師が愛用する)の類?」
「そうですよ。貴方専用に造られた魔法衣ですから、それを着込んだ瞬間にこちらのギルドに所属すると判断しますよ」
「闇ギルドに転落か……落ちたもんだな」
「そうでもないですよ?闇と光はコインの表と裏、闇ギルドも時としては表の仕事を行いますからねぇ」
「どうだか……」


レノは衣装に手を伸ばし、よく覚えてはいないが、もしも自分が小学校に通えていたとしたらこのような服を着るのだろうかと内心疑問を抱きながらも、魔法衣を手にする。外見は小学校というよりも高校生の学生服らしきデザインだが、クズキが話を続ける。


「お察しの通り、これは貴方がこれから通う学園の制服を模した服何ですよ」
「学園……?」


まさか本当に学生服だったとは驚きを隠せないが、それよりも気になるのは「学園に通う」という所だ。レノは彼に視線をやると、何時の間にかクズキには学生手帳らしき物を取り出して彼に手渡す。


「これは……?」
「様々な種族が通う「鳳凰学園」の学生手帳ですよ。これを見せれば、貴方も学生に扮して通うことが出来ますから」
「学園に通って何をすればいいんだよ?」
「その返答は、本格的に私達のギルドに所属すると考えていいんですかね?」
「断ったら殺されるんだろ?」
「ご明察の通り」
「さっき答えてただろ……まあいい、その学園に通うだけでいいのか?」
「まさか、ある人物から情報を聞き出してください」


クズキは懐から一枚の用紙を取り出し、レノに手渡してくる。それを受け取ると、書かれている内容はある人間の似顔絵と、簡単な詳細だった。


「……こいつに何を聞き出すんだよ?」
「ある「召喚魔法陣」の情報を、卒業までには聞き出してください。時によっては、脅しても構いませんねぇ」
「脅すね……1ついいか」
「何でしょう?」
「俺、真面な教育何て受けたことないぞ……」


前世では5歳で死んでしまい、この世界に来てからも真面な教育など受けたことが無い。精々、孤児院や「黒猫」に所属してから、生きていくことに必要最低限の知識しか得ていない。よくある異世界物の小説のように、現世でのある程度の知識さえあれば、勉強しないでも生きていけるなんて都合の良いわけがなく、この世界はそんなに甘くは無い。


「ふむ……困りましたね。どの程度の知識量しか無いのか分かりかねますが、こちらとしても馬鹿さ加減で周囲にバレてしまったら困りますからね」
「うっさい」
「まあまあ、それでは学園に入る前にある程度の勉学を教えてあげましょうか」
「……あんたが?」
「何かご不満でも?」


首を傾げるクズキに、レノは嫌な予感をしながらも、仕方なく従うしかなかった。
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