種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖女護衛編

儀式の内容

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「魔力を送り込めないか……儀式って、どういう風にするんだ?」
「えっとね、水晶玉にこうやって手を差し伸べて……」


ヨウカは虚空に掌を差し向け、「むぅうっ……!!」と力むと、彼女の両腕から白い魔力が放出され、しかしすぐにかき消される。全身から汗を搔き、ヨウカは「はぁっ~……」と溜息を吐きだすと、恥ずかしそうにレノとポチ子に苦笑する。


「こんな風にいつも失敗しちゃって……恥ずかしいな……」
「ふむっ……」
「わぅんっ……」


彼女の一連の動作を確認し、確かにこれでは「儀式」を失敗するのも仕方がない。3秒と持たずに魔力が掻き消えてしまう。落ち込んでいるヨウカの前にレノは自分の右手を差しだし、一瞬で「嵐属性」で形成された魔力の球体を作り出す。


ゴォオオオオッ……!


「きゃっ!?」
「わふっ!?」
「ああ、悪い」


すぐに嵐から放出される風に、間近の2人の服が浮き上がり、すぐに「嵐」を消し去る。今度はレノの一連の動作を見て、ポチ子は感心したようにヨウカはより落ち込むように息を吐く。


「す、すごいですレノさん!!今の、無詠唱魔法ですか?」
「まあ……そうなるかな」
「ううっ……私より年下の子がここまで出来るのに……私って……あうっ!?」


ビシッ!


落ち込むヨウカにレノは頭にチョップを放ち、


「年下も年上も関係ない。お前のやり方は下手くそ以前の問題だ」
「え、ええっ……!?」
「れ、レノさん……お姫様相手にそれは……くぅんっ!?」


パチンッ!


甘いことを告げるポチ子の頭を軽めに叩き、レノは周囲を見渡して、人影が見えない路地裏を確認すると、2人を連れ込んで入り込む。彼はすぐに2人の前で掌を差し出し、今度は両手で「嵐」を作り出す。


ゴォオオオオッ……!!


「ふあぁっ……!?」
「りょ、両手で……!?」
「……慣れればこれぐらいは出来る。ヨウカ、お前に必要なのは正しい訓練法だ」
「く、訓練?」
「さっきのやり方を見て分かったけど、お前は単純に「魔力」の特質を理解していない」


レノは掌の「嵐」を消し去り、今度はポチ子から彼女が装備している「短剣」を受け取ると、鞘から刃を抜き放ち、今度は「嵐」を短剣に纏わせる。


ゴォオオオッ……!!


「ま、魔力付与まで!?」
「すごいすごい!!流石エルフさん!!」


ポチ子とヨウカが興奮するが、レノはすぐに短剣に送り込む魔力を切ると、嵐が消散する。


「この無詠唱魔法、それに魔力付与は俺は習得するのに5年近くかかった」
「えっ……」
「ご、5年?」
「俺はエルフの中では落ちこぼれなんだよ」


レノは自分が特別に優れているとは思っていない。というのは、エルフの集落に居たときは弓矢の矢に風の魔力を送り込むことに失敗し続け、2年も費やして「バル」の元で魔力をコントロールする訓練を行った。

また、「無詠唱魔法」は「ダークエルフ」との戦闘で無我夢中に作り出した偶然の産物だが、魔力の消費量が多すぎて最初の方は苦労した。放浪島の修行で何とか「無詠唱魔法」も「魔力付与」も物にした形だが、最初に「ビルト」魔法を教わったのは5歳の頃であり、そこからの年数も含めると正確にはこの二つを習得するのに「8年」の月日が掛かった。


――集落に居た頃の同年代のエルフたちは簡単に「矢」に風の魔力を練り込む「魔力付与」を行っており、この年でレノがやっと習得した技術は、普通のエルフの子供でも幼少の頃に習得している技術なのだ。


「落ちこぼれは俺も同じだ。だから、お前にもきっと出来る……かもしれない」
「かもしれないって……それに私は人間だし、そんなに上手く行くわけが……」
「同じ人間が儀式を成功させてるんだろ?なら、お前にも可能性はある」
「そうですよ!!頑張って覚えましょうよ!!」
「ううっ……」


2人の視線にヨウカは唸り声を上げ、観念したように両手を上げる。


「分かった……私、やってみる」
「わふぅっ!!それなら、早速他の人に伝えて……」
「あほかお前は」


ぺちんっ


「わぅんっ!?」
「今からやっても失敗するのは目に見えてるだろ……儀式は中止じゃなくて延期だ」
「え、延期?」
「ヨウカは偉い立場の人間なんだろ?なら、儀式を延期させる事ぐらい出来るでしょ?」
「えぇええええっ!?」


レノの無茶ぶりな発言にヨウカは驚愕し、


「む、無理だよ!!私、人に命令できるほど偉くないし……」
「さっきの奴等の口振りから、それなりに大事にされてるんでしょ?なら、今後のために儀式の延期ぐらい出来るんじゃないの?」
「ダメダメ!!そんな事言ったら、他の皆に怒られちゃうし……!!」
「あの~……もう、お姫様が逃げ出したことで、皆さんかんかん何ですけど」
「うぇえっ!?」


ポチ子の発言にヨウカは悲鳴を上げ、レノは笑みを浮かべると、


「どうせ怒られるくらいなら、我儘の1つでも申し出たらどう?」
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