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聖痕回収編
勇者に救われたはずの村
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「――どうなってるんだ……?」
ヨウカ達と別れて「トウキョウ」から旅立ってから2日ほど経過した頃、レノはアイリィの指示通りに徒歩で旅を続けていた。幸いというべきか、闘人都市に関しては何度か立ち寄ったことがあり、道に迷う心配はないが、馬車で20日以上かかる距離を徒歩で進むのは流石に時間がかかる。
レノは3年ほど前に黒猫盗賊団の皆と供に立ち寄ったことがある「ハナノ」という村に辿り着く。前回は補給だけを済ましてすぐに発ったが、どうにも村の様子がおかしい。記憶の限りでは小さい村ではあるが、活気はあり、それなりに人口は多かったはず、にも拘らずにどういう訳か3年前と比べて随分と寂れていた。
さらに、建物にはまるで大型の動物に襲われたような爪痕が残っており、しかもほとんどの村の建物に刻まれている。村人の様子も随分と落ち込んでいるというか、恐れているというか、どちらにしろ疲れた様子だ。住人に村の宿屋に向かおうとした際も、
「宿……?生憎とこの村に宿屋なんかねえよ」
「え?でも昔は……」
「この間に取り壊されたんだよ……もういいかい?こっちも忙しいんだよ!!」
通りすがりの男性に宿を訪ねた際も、彼は一方的に話を切り上げると、背中に大荷物を抱えて村の外に向かう。周囲を見渡すと、彼以外にも大量の荷物を抱えた人間達がうろうろとしている。まるで、村総出で引っ越しでもしようとしているようだ。
試しに他の人間に聞いてみたところ、結局答えは同じであり、随分と冷たく当たられる。3年前の時はここまでひどくなかったはずだが。
「この街で何かあったのか……?」
気にかかって、レノは直接村の住人に問いただしてみると、すぐに原因が判明した。
――何でも、少し前からこの村の周辺から1匹の「魔物」が出没するようになったらしい。「魔物」の名前は「ハニーベアー」という大型の「クマ」であり、魔物の中では比較的に大人しい部類であり、少なくとも村を襲うなどの大胆な行動は起こさない魔物だった。
だが、1年ほど前から世界各地で魔物たちの「活性化現象」が起こり、この森に外部からやってきたと思われる3匹の「ハニーベアー」が移り住んだらしい。雄と雌の大人2匹に、小さな子供が1匹。名前からは考えられないほどの戦闘力を埃、ハニーベアーの親子は村に姿を現すと、村中の食料を食い漁り、建物を破壊しまわった。
すぐに村の警備兵が討伐に打って出るが、この世界の魔物とは非常に危険極まり無い存在であり、今まで平和な村で警護を行ってきた兵士たちでは太刀打ちできなかった。
そのため、村の人間はこの街の「ギルド(こちらの世界では警察機構の役割も行う冒険者団体)」にハニーベアーの討伐依頼を行う。この村も一応はバルトロス王国の管轄ではあるが、王国に魔物討伐を頼み込むより、ギルドに討伐依頼を頼む方が安上がりで済むのである。
しかし、ハニーベアーは並の冒険者では到底敵わない相手であり、それに時期が悪くて冒険者の大半は闘人都市に駐在しており、仕方なく村人は「バルトロス王国」に助けを求める。
――そして、王国からは「現実世界」から召喚されたという「勇者」の集団が送り込まれた。
普通の「異世界人」である彼らは魔法を扱えないはずだが、特殊な召喚魔法陣で呼び込まれた彼らは、召喚されたと同時に「特殊な加護」を受けているらしく、この「加護」というのは、原理は不明だが異世界人である彼らに特殊な魔術式を身体に組み込ませ、この世界の「魔法」を扱えるという。さらに肉体面にも影響を及ぼし、異世界人の身体能力はまるで「獣人族」を思わせるほど身軽だという。
現実に彼らは一日も経たずに「ハニーベアー」を討伐し、村人は感謝したというが、それから半年も経たないうちに再び「ハニーベアー」が姿を現したという。
半年前に王国から送り込まれた「勇者一行」は確かに討伐を完了したというが、実際にはまだ子供が生き残っており、村は再度「ハニーベアー」の恐怖に苛まれた。
すぐに村人たちは「王国」に救助を求めたが、召喚された「勇者」たちはこんな小さな村を助けるよりも大きな街や王国にとって重要な土地を守ることに専念しており、助けは送られなかったという。
――そして現在に至る。
「……ハニーベアーがまた現れるようになってから、この村はお終いだよ。昔は多くの人間がここに観光に訪れてくれたけどよ……もう村を放棄するしかねえ……」
「そうか……今のハニーベアーは?」
「……間違いなく、成長した子供だよ。あの2匹の子供だ……くそっ!何で勇者様は子供を殺さなかったんだ!!」
村人は悪態を吐き、レノはその場から離れる。既に村人の大勢が退去しているようであり、最早この村は再建は不可能かもしれない。仕方なく、今晩は宿ではなく村の中で適当に過ごすことにしたが、レノは「勇者」の不可解な行動に疑問を抱く。
普通、魔物は例え子供であろうと見つけた場合は殺すのが決まり事だ。基本的に魔物というのは繁殖力は弱いが、成長が異様に早く、放って置けばすぐに人に襲い掛かるほどに大きくなる。
そのため、どんな理由があろうと冒険者の間では子供であろうが魔物を殺すことは常識なのだが、何故、半年前に「勇者」は魔物を殺さなかったのか。
(……どうでもいいか)
今更何を考えようが、この村は数日中に滅びる定めなのだ。レノは建物の屋根裏に寝そべりながら、ゆっくりと睡眠を取ることにした。
ヨウカ達と別れて「トウキョウ」から旅立ってから2日ほど経過した頃、レノはアイリィの指示通りに徒歩で旅を続けていた。幸いというべきか、闘人都市に関しては何度か立ち寄ったことがあり、道に迷う心配はないが、馬車で20日以上かかる距離を徒歩で進むのは流石に時間がかかる。
レノは3年ほど前に黒猫盗賊団の皆と供に立ち寄ったことがある「ハナノ」という村に辿り着く。前回は補給だけを済ましてすぐに発ったが、どうにも村の様子がおかしい。記憶の限りでは小さい村ではあるが、活気はあり、それなりに人口は多かったはず、にも拘らずにどういう訳か3年前と比べて随分と寂れていた。
さらに、建物にはまるで大型の動物に襲われたような爪痕が残っており、しかもほとんどの村の建物に刻まれている。村人の様子も随分と落ち込んでいるというか、恐れているというか、どちらにしろ疲れた様子だ。住人に村の宿屋に向かおうとした際も、
「宿……?生憎とこの村に宿屋なんかねえよ」
「え?でも昔は……」
「この間に取り壊されたんだよ……もういいかい?こっちも忙しいんだよ!!」
通りすがりの男性に宿を訪ねた際も、彼は一方的に話を切り上げると、背中に大荷物を抱えて村の外に向かう。周囲を見渡すと、彼以外にも大量の荷物を抱えた人間達がうろうろとしている。まるで、村総出で引っ越しでもしようとしているようだ。
試しに他の人間に聞いてみたところ、結局答えは同じであり、随分と冷たく当たられる。3年前の時はここまでひどくなかったはずだが。
「この街で何かあったのか……?」
気にかかって、レノは直接村の住人に問いただしてみると、すぐに原因が判明した。
――何でも、少し前からこの村の周辺から1匹の「魔物」が出没するようになったらしい。「魔物」の名前は「ハニーベアー」という大型の「クマ」であり、魔物の中では比較的に大人しい部類であり、少なくとも村を襲うなどの大胆な行動は起こさない魔物だった。
だが、1年ほど前から世界各地で魔物たちの「活性化現象」が起こり、この森に外部からやってきたと思われる3匹の「ハニーベアー」が移り住んだらしい。雄と雌の大人2匹に、小さな子供が1匹。名前からは考えられないほどの戦闘力を埃、ハニーベアーの親子は村に姿を現すと、村中の食料を食い漁り、建物を破壊しまわった。
すぐに村の警備兵が討伐に打って出るが、この世界の魔物とは非常に危険極まり無い存在であり、今まで平和な村で警護を行ってきた兵士たちでは太刀打ちできなかった。
そのため、村の人間はこの街の「ギルド(こちらの世界では警察機構の役割も行う冒険者団体)」にハニーベアーの討伐依頼を行う。この村も一応はバルトロス王国の管轄ではあるが、王国に魔物討伐を頼み込むより、ギルドに討伐依頼を頼む方が安上がりで済むのである。
しかし、ハニーベアーは並の冒険者では到底敵わない相手であり、それに時期が悪くて冒険者の大半は闘人都市に駐在しており、仕方なく村人は「バルトロス王国」に助けを求める。
――そして、王国からは「現実世界」から召喚されたという「勇者」の集団が送り込まれた。
普通の「異世界人」である彼らは魔法を扱えないはずだが、特殊な召喚魔法陣で呼び込まれた彼らは、召喚されたと同時に「特殊な加護」を受けているらしく、この「加護」というのは、原理は不明だが異世界人である彼らに特殊な魔術式を身体に組み込ませ、この世界の「魔法」を扱えるという。さらに肉体面にも影響を及ぼし、異世界人の身体能力はまるで「獣人族」を思わせるほど身軽だという。
現実に彼らは一日も経たずに「ハニーベアー」を討伐し、村人は感謝したというが、それから半年も経たないうちに再び「ハニーベアー」が姿を現したという。
半年前に王国から送り込まれた「勇者一行」は確かに討伐を完了したというが、実際にはまだ子供が生き残っており、村は再度「ハニーベアー」の恐怖に苛まれた。
すぐに村人たちは「王国」に救助を求めたが、召喚された「勇者」たちはこんな小さな村を助けるよりも大きな街や王国にとって重要な土地を守ることに専念しており、助けは送られなかったという。
――そして現在に至る。
「……ハニーベアーがまた現れるようになってから、この村はお終いだよ。昔は多くの人間がここに観光に訪れてくれたけどよ……もう村を放棄するしかねえ……」
「そうか……今のハニーベアーは?」
「……間違いなく、成長した子供だよ。あの2匹の子供だ……くそっ!何で勇者様は子供を殺さなかったんだ!!」
村人は悪態を吐き、レノはその場から離れる。既に村人の大勢が退去しているようであり、最早この村は再建は不可能かもしれない。仕方なく、今晩は宿ではなく村の中で適当に過ごすことにしたが、レノは「勇者」の不可解な行動に疑問を抱く。
普通、魔物は例え子供であろうと見つけた場合は殺すのが決まり事だ。基本的に魔物というのは繁殖力は弱いが、成長が異様に早く、放って置けばすぐに人に襲い掛かるほどに大きくなる。
そのため、どんな理由があろうと冒険者の間では子供であろうが魔物を殺すことは常識なのだが、何故、半年前に「勇者」は魔物を殺さなかったのか。
(……どうでもいいか)
今更何を考えようが、この村は数日中に滅びる定めなのだ。レノは建物の屋根裏に寝そべりながら、ゆっくりと睡眠を取ることにした。
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