種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

アルファの罠

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すぐにも「嗅覚」と「触覚」が強化され、鼻が敏感となり、周囲の空気の流れを察知する。ここまでくれば隠れている相手との距離もすぐに掴めた。どうやら、レノの後方の約10メートル付近の距離の木陰に隠れており、それ以外に感じられる気配は無い。


「……?」


不意にレノの嗅覚が前方から何かを感じ取り、何やら以前にも何度か嗅いだことがある。そう、生物の死体から放たれる「腐敗臭」を。後方の「敵」も気にかかるが、腐敗臭も気になって鼻で正確な位置を探ると、それほど遠い場所ではない。すぐ傍の木陰から臭いを感じ取り、後方に気を付けながら確認してみると、


「……くそっ……」



――そこには「子供」のエルフの2人分の死体が重なって倒れており、間違いなく先ほどまで会話していたリーノという少女とその弟と思われる少年だった。


何が起きているのかは分からないが、1つだけ言えることはこの2人を殺した者が今現在レノを狙っているのは間違いない。


ビュンッ!!


「舐めるな!!」


ガキィッ!!


風の魔力付与を纏った「矢」を弾き返し、レノは確実に相手の位置を掴む。魔力をかき消す能力がある「短剣」だからこそ簡単に矢を弾き飛ばせたのだろうが、何時までも相手が一本ずつ放つとは限らない。

レノは短剣に「嵐」を纏わせられない以上、魔法で対処するしかない。だが、ここで戦えば木々をなぎ倒してしまう。いちいちこの状況でそんな事を気にするのもどうかと思うが、半分は「森人族」の血を引いているせいか、どうにも木々を無意味に破壊する行為は罪悪感を抱いてしまう。


「どうするかね……」


「乱刃」でこの距離から狙うか、それとも接近戦を挑んで「撃雷」で一気に決着を付けるべきか、考えあぐねていると、


「……おやおや、まさか「聖剣」の類をお持ちとは……」


後方から嫌に聞き慣れた声が聞こえ、振り返るとそこには不気味な笑みを浮かべた「アルファ」が現れる。レノはすぐに彼がこの2人を殺し、そして自分を招き居れた黒幕だと知る。レノは後方の死体を確認し、アルファを睨み付けると、


「あんたが俺を招き入れたんだな?」
「さてさて?いったい何を言っているのか分かりませんね……」


アルファは弓矢を背中に仕舞い込み、木刀を握りしめる。そして子供達の死体に視線を向け、


「おおっ!!リーノにフォール……まさかこんな姿で再会するとは……」
「はあ?」
「貴方が2人を殺した犯人ですね!!絶対に許しませんよ!!」
「……なるほどね」


まだ事情を完全に理解した訳ではないが、眼の前のアルファがこの子供たちの死体を作り出した罪をレノに擦り付けたいらしい。確かに、状況的には子供の死体の傍に居るレノが怪しいだろうが、あまりにもわざとらしいアルファの態度に反吐が出る。

理由はまだ不明だが、アルファの目的はレノを犯人に仕立て上げ、自分がレノを始末することで解決しようとしているのだ。この森の異変も、そしてレノを招き込んだ理由もだいたいは見当がつく。「ハーフエルフ」の彼がエルフの子供を殺し、「族長」であるアルファが始末するという筋書きだろう。


「手の込んだことを……」
「何を言っているか分かりませんが……見逃すことは出来ませんね」
「その話し方やめてくれないかな……知り合いの顔がちらつくから」


短剣を構えるレノに対し、アルファは木刀を構える。リーチの差はあちらの方が上、しかも地の利もあちらに有り。明らかに不利な状況だが、


(……あいつらと対面した時ほどじゃないな)


レノの脳裏に「白狼」と「ダークエルフ」の姿が思いつき、不意に笑みが浮かべる。あれらと比べたら、目の前のエルフの男がどれほど小さく見えるか。

彼の笑みに疑問を抱いたのか、アルファは不審げに彼に視線を送るが、すぐに自暴自棄でもなったのかと判断し、彼は木刀を剣道でいう所の「正中線」の構えを取る。

その姿に一切の隙は無く、間違いなく彼がこの森のエルフを収める族長だと思い知らされる。だが、「ダークエルフ」ほどの威圧感は無い。短剣を右手に構え、左の掌に「嵐」を形成させると、彼は鼻で笑う。


「……我々に風が通用すると思っているのですか?」


言われて思い出す。エルフの集落に居た頃、「フレイ」から「森人族」が最も相性が良い属性は「風」であり、彼らに風属性の魔法は通用しにくい。

実際にエルフ同士の決闘では、魔法を使用することはせず、純粋な剣術と勝負を決めるという。森人族の肉体は「風属性」の魔法に対して抵抗力が強く、通常の魔法は効かない。確かめたことは無いが、森人族の血も引いている「ハーフエルフ」のレノも風属性の魔法と最も相性が良く、実際に早い段階で「嵐属性」の魔法を修得している。彼の態度から察するに、どうやらこの余裕は嘘ではないらしく、木刀を構えて接近してきた。


「あまり時間は掛けられませんので……一気に終わらせますよ」
「くっ……!!」


ガキィッ!!


振り下ろされる木刀に対し、レノは短剣で受け止めると相手が蹴りだしてくる。肉体強化をしているため、すぐにその足を自分の膝で防ぐと、一旦距離を取る。アルファはレノの意外な戦闘力に感心した風に口笛を吹くが、


「このような魔法をご存知ですか?」


そう告げるとアルファはレノが今までに聞いたことも無い詠唱を始め、地面に掌を置くと、


「プラント」


次の瞬間、周辺の木々に異変が起きた。
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