種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

アルファの最期

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「お前……その首……!?」
「ははははっ!!死ね、死ねぇ!!」


ドンッ!!ドォオンッ!!


次々と周囲の地面から蔓を生み出し、レノの風の障壁に向けて放つ。このままではいずれ障壁を突破して身体を貫くのも時間の問題だろう。だが、それよりレノが気になるのはアルファの首筋で緑の光を強める「聖痕」だった。

まさか、彼が聖痕の持ち主だとは思いもしなかったが、それにしては奇妙な点がある。まず、「アイリィ」から渡されたレノの左手の甲の「聖痕」がどういう訳か反応に遅れた事、そして「雷の聖痕」を持っていたゴウと比べ、彼の攻撃はどうも攻撃力が低い。防戦一方であることは間違いないが、ここまで攻撃されても風の障壁が破壊されないのはおかしい(種類が違うというのも理由の1つだろうが)。


ゴトッ……


「……?」


不意にレノの足元に何かが当たり、見ると、そこには先ほどのやり取りでアルファが地面に取りこぼした「木刀」が落ちており、空いている手でそれを掴み上げる。

「神木」で作られたこの木刀ならば、レノの魔力付与にも耐えられるかもしれない。ミキから貰った「短剣」のように魔力を反発する素材で出来ていない事を願いながら、レノは「反魔紋」の雷を纏わせる。


バチィイイイッ!!


「何だと!?」
「はっ……上手く行ったな」


数秒で木刀に「雷」を魔力付与させたレノにアルファが目を見開き、一瞬だが蔓の動きが弱まる。その隙を逃さず、レノは「風盾」を解除し、木刀を握りしめたまま突進する。そして瞬時に肉体強化はを波頭どうさせて一気に距離を縮める。


「行くぞっ!!」


ダァンッ!!


「ち、近寄るなぁあああああっ!!」


ズドドドドドッ!!


悪あがきとばかりにアルファは地面に魔力を流し込み、蔓を一斉に向かわせるが、レノは強化された五感を駆使し、それらを避け、あるいは木刀で振り払い、アルファの元へ近付く。


「あぁあああああああっ!!」
「やめろぉおおおおおっ!!」


全ての蔓を避け、地面に倒れ込んだままのアルファに木刀を振り上げ、渾身の一撃を放つ。



――ドォオオオオオオンッ!!



まるで雷が落ちたような轟音が森中に鳴り響き、アルファの声にもならない悲鳴が続けて響き渡った―




「――終わった……」


数秒後、レノは痙攣したまま意識を取り戻さないアルファを尻目に、粉々に砕け散った木刀を地面に置く。彼の身体に叩き込んだと同時に衝撃に耐えきれず、砕けてしまったのだ。少々勿体ない事をしてしまった気もするが、レノはすぐにアルファの首筋を掴み上げて先に「聖痕」を確認する

薄らと光り輝いている聖痕に試しに左手の光に浮かんだ紋様を押し当てると、一瞬だけ紋様が光り輝き、すぐに発光は収まる。アルファの首筋の聖痕が消えた事を確認し、そのままアルファを放置して早いうちに結界を抜け出さなければならない。


(……ごめんな)


殺された子供の死体を放って置くのは気に引けたが、ここに居てはいつ他のエルフたちに気付かれるか分からない。このままアルファを放って置くことも不安は無いことは無いが、この惨状ではどうしようもできない。

眼の前には子供の死体に砕け散った木刀、そして大の字の恰好で地面の上で伸びている族長であるアルファ、他者が見たらどう反応するか見ものではあるが、少なくとも彼は最早「族長」とは認められないだろう。

族長の称号とは「エルフ」達の頂点を指し、そんな彼がこのような無様な姿を他のエルフたちに見られたらもうこの集落に彼の居場所は無い。プライドを最も気にする「森人族」だからこそ、こんな醜態をさらしたアルファを族長と認めるはずがない。


「……自業自得だ」


彼が何故、このような事態を引き起こしたのは不明だが、完全に伸びているようでは問いただすこともできない。誰かに見つかる前にレノは立ち去ることを決意する。


ゴトンッ……


「?」


不意にすぐ傍の地面から何かの音が聞こえ、顔を向けるとそこには桃のような果物が落ちていた。上を向くと、どうやら近くの樹木に実っていた果物が落ちてきたようだが、偶然とは思えない。もしかしたら、自分たちを無理やり操っていたアルファを倒したことで、植物たちがお礼代わりに渡してくれたのかもしれない。


「……ありがとう」


蔓を通して魔力を送り込んだ植物たちに礼も兼ねて、レノは有りがたく果物を手にすると、口に含む。


「酸っぱ!」


が、思ったよりも完全には熟していなかったようだった。




――その後、レノが立ち去った後に大勢のエルフたちが異変を察知してこの場所に辿り着き、すぐに目の前の惨状に目を見開く。


子供たちの死体に大勢のエルフが縋り付き、情けない姿で倒れこむ「アルファ」に「森の戦士(エルフ族の戦士)」たちに問い詰め、彼はすぐに外来から訪れた「ハーフエルフ」の仕業だと語ったが、この緑葉の森は結界で覆われているため、誰かが手引きせねば外部から侵入者がこ訪れるはずが無い。

なによりもこの森の「族長」の証である「神木」で製造された「木刀」が破壊されているという事実にエルフ達は激怒し、アルファは何度も言い訳を行ったが、木刀が壊れた事実は覆らず、すぐにも同族のエルフたちに吊し上げられる。彼等にとって「神木」から生み出された武具は何よりも価値がある宝物であり、それを理由も無く持ち出したり、損傷させた者は例え「族長」であろうと許されない。


2人の子供は丁重に埋葬され、アルファは「族長」の座を剥奪、そして木刀を破壊された「罰則」として集落の「長老」から死刑を言い渡される。「森人族」の死刑方法は基本的に打ち首であり、死体は森の動物たちに好きにさせるという方法のみ。



――アルファの必死の弁護もむなしく、彼は打ち首にされてその肉体は森の動物たちに与えられ、残された首だけはせめてもの情けとして供養された。



すぐにも「木刀」を破壊した者の捜索も行われたが、どうやら既に森を抜け出し、遠方に逃げたと判断されて捜索は中断された。結局は犯人は分からずじまいだが、不幸中の幸いか結果としては「族長」である「アルファ」の本性が露わになった。

エルフたちは「アルファ」が執心していた老人の元に行き、彼の死を伝え、今後は友好的な関係を求める。どうやらアルファの狙いは彼が育てている「林檎園」らしく、何らかの理由で奪おうとしたところを何者かに邪魔され、今回の事態に陥ったのだろうと判断された。


老人は二度と高圧的な交渉をしない事を条件に緑葉の森のエルフ達と契約を結び、彼らに果物の売買を約束した――



――後にこの森には多くの林檎園が植えられ、世界唯一の果物である林檎が、大陸中に送られることになる。そして、老人は奇跡の果実を生み出したと人間として歴史に名を刻む事になるのは、まだ数十年先の事だった。
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