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春の訪れと人生の分岐点 ①

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ヴァン共反会が壊滅した。代表の大野弁護士がバンパイアから金銭を受け取り、その為に作られた会だったという事実を知った知ったヴァン共反会のメンバーのモチベーションが下がったためか、自分たちの忌み嫌うヴァンパイアの手先になって働いて事に対する反動か、、、。日本の警察の取り締まり強化が原因かもしれない。
いずれにしても、喜ばしい事だった。

喜ばしい報告がもう一つあった。
半沢主任との約束通り、彼の部屋へ頭を下げることなく、お茶を飲みに行った俺は、眷属隊の行く末について、思い切って主任にそのことを確認してみた。

「はははは。本田君は、そんなことを心配していたのか。安心して下さい。眷属隊を廃止することはありません。あなた達が考える以上に、眷属隊は活躍しています。やっぱり主と眷属と言うのは相性が良いのでしょうね。パートナーの役割に眷属以上の者はないと言ってる上層部もいるくらいですから。」
俺は心の底から安心した。

嬉しくない報告もあった。ヴァン共反会の残党が新たなヴァン共反会と同様の会を結成しているらしい。
「NEOヴァン共反会」や「ヴァン排会」「VKHK」などい付くかの団体が名乗りを上げているらしい。
だた、それらの会には、以前のような団結力や組織力はなく、警察の取り締まりが強化された現在、彼らがすぐに大それた事件を起こすことは考えにくい。また、白神に利用される団体が現れないとも限らないが、ヴァンパイアポリスも新しい団体を注意して見守ることになっている。

それと、、、。これは勝手な俺の考えなので誰にも言っていないが、白神の使った偽名、「モリアキト」これは、祖母の名前「もりとあき」のアナグラムではないかという事だ。
白神は、50年経った今も祖母の事を引きずっているか、、、。

ヴァン共反会の本部として利用されていた、教会の沢口牧師がヴァンパイア政府を訪ねると言う珍事も起こった。
沢口牧師からは、今回のヴァンパイア政府の働きに対するお礼と、ヴァンパイア政府にヴァンパイアとの共存に向けて何か力を貸せることはないかと申し出があった。
ヴァンパイア政府では、彼が以前、福祉活動で行っていた恵まれない子供たちの為の擁護施設、「子どもハウス」の再開と、そこで供血動物として育てられていた子供たちを受け入れてもらえないか提案した。
沢口牧師はこれを快く承諾し、ヴァンパイア政府も彼の教会に対し資金の援助を申し出る。

若干の不安の種を残してはいるものの、人間とヴァンパイアの共存は良い方向に向かって歩みを進めているような気がした。

冬の冷たい風が春の暖かい風に変わった頃、俺はアヤメとの約束を守るために、仕事帰りにアヤメを誘いだす。ただ予定外だったのは、俺がアヤメを誘っている時にそこに類がいたこと、、、。
「どこに行くの?僕も行く!」
こうなってしまったら、みんなで行くしかない。

アヤメ、俺、類、常盤さんの4人で向かった先は、仙台市西公園へと向かう。
前回と異なり、満開の桜が俺たちを迎えてくれた。
アヤメと類は桜に大喜びではしゃいでいる。

こんな日常が永遠に続く。俺はそんな錯覚に陥っていた。
そして、それが錯覚だとわかったのは、翌日仕事に行って半沢主任の呼び出しを受けてからだ。

その日、刑部家にアヤメを迎えに行くと、暗い顔をしたアヤメが無言で車に乗り込む。そのまま一言も言葉を交わすことなく俺たちはヴァンパイアポリスに到着した。俺はアヤメに何かしたのかと頭を悩ませるが、思い当たることは何もなかった。

ヴァンパイアポリスに到着するとすぐに、俺とアヤメの二人が半沢主任の呼び出しを受ける。

「一宇ぅ。今度は何したの?」
ノエルが俺に聞いてきたが、全く心当たりがない、、、。
アヤメは、何か知っているのだろうか?早々に席を立って主任の部屋に向かう。俺もアヤメの後を追って主任の部屋へと急いだ。

「刑部と本田です。」
「入ってください。」
俺たちが部屋に入ると、難しい顔をした主任が俺たちに座るように促す。
俺は何が起こったのか分からず、言われるままにソファーに座った。

「刑部君にも連絡はいってますよね。それで、本田君に説明は?」
「連絡は昨日きました。まだ彼には何も話してません。ここで主任から話してもらった方が良いと思って。」
この二人の間には、共通のしかも俺に関する懸案事項があるらしい。

「あの、それって。」

「実は昨日。ヴァンパイア賢人衆から、私に連絡がありました。」
賢人衆、、、いやな予感しかない、、、。

「君のご家庭の事情は賢人衆から聞きました。でも驚きました。君が守人の家系だったとは。」

「俺自身も最近知りました。守人の家と言われても。まだ、実感もないんです。」

「それで本題なんですが、賢人衆は君がヴァンパイアと人間のクォーターであることから、守人の仕事に従事できるのか心配しているようでした。そのことは本田君本人にも伝えてあると言っていましたが、聞いていますよね?」

「はい。そのために、いずれ試験をしたいと言うようなことを言われました。」

「その試験に、君を寄こすように賢人衆からの連絡があったんです。」
やっぱりか、、、。

「それは、いつからですか?」

「明日の昼からだそうです。杜人家に明日来てほしいそうです。今日は、準備もあるでしょうから帰宅してかまいませんよ。」

「明日から休まなければならないのであれば、今日はこのまま仕事をさせてください。お願いします。」

「もちろん。本田君の好きにしていいですよ。東門は、現在安定してると聞いています。本田君が試験に通っても、そのまま守人になる必要はないと賢人衆は言っていました。私たちは君が元気に戻って来るのを待っていますよ。それと、他の捜査員や眷属の皆さんにはこのことは内緒にしてください。」

「わかりました。」

主任の部屋を出た後、アヤメは一人でスタスタと行ってしまった。
この事態は、俺が杜人家に最初に行った時から決まっていたことだったでも、そうなるのはまだまだ先の話だと俺は勝手に考えていた。アヤメもそうだったのかもしれない。
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