眷属のススメ

ヘイトクライム（憎悪犯罪）の親玉 ⑭

犯人グループと彼らが持ち込んた武器を持って、秦首相は宮城県庁内にある中央（東京）とのパイプ役を果たすために設けられたヴァンパイア連絡課に向かい、日本国政府の安藤総理に即時電話会談を申し込んだ。

安藤総理大臣は、ヴァンパイアとの共存を始めてから初めての事前に決まっていない会談申し入れに驚いたが、それを受け入れ、ヴァンパイア政府と日本政府の電話会談は深夜まで続けられた。

翌朝、各報道機関は、ヴァン共反会によるヴァンパイアポリスへの大規模なテロ事件の全容と、会談で新たに決まった二つの協定事項が発表した。

一つ目は、ヴァンパイアに対して罪を犯した者は、ヴァンパイアポリスから摘発を受け逮捕することが出来る。

二つ目は、人間に対して罪を犯したヴァンパイアも同様に日本の警察官によって摘発を受け逮捕される。

また、警視総監が早朝に総理官邸に呼び出され叱責を受ける事態になった。それにより、今までのヴァンパイアポリスから引き渡された犯罪者について追跡調査。及び、報告をヴァンパイアポリスにするようきつく言い渡された。彼らは罪に見合った刑に服すことになだろう。
この事が、多発するヴァンパイアに対する犯罪の抑止力になることは間違いなかった。

秦首相が、いったいどのように総理大臣を説き伏せたかは不明だった。「開戦」のカードを切ったのかもしれない。ヴァンパイア市民、人間双方にとって良い結果になることを望むばかりだ。

でも、ヴァンパイアポリスが人間の犯罪者を捕まえても良いなら、俺たち眷属隊の存在理由が無くなってしまう、、、、。
それが俺の不安の種でもある。
俺は、この眷属という仕事と眷属隊の日々が大いに気に入っているからだ。

次の日の朝。山田さんと俺は、ヴァン共反会の本部がある教会に向かった。教会には規制線が引かれ、警察官でごった返していた。
俺たちは沢口牧師や「ヴァンパイアとの共存を模索する会」のメンバーが心配になった。

規制線の中で沢口牧師が俺たちに手を振っている。
俺たちは規制線をくぐり彼の元へ急いだ。

「大変な事になってしまって、、、。」
山田さんが沢口牧師に頭を下げる。

「とんでもない。ヴァンパイアの首相が、教会とヴァン共反会の事情について警察に説明して下さったお陰で、教会は警察とのトラブルは全くないんですよ。」

「それでも、これから今回の事件の報道があると思います。そうすると、この教会に対する誹謗中傷があるかもしれません。」

「それは仕方のない事です。元はと言えば私が大野弁護士に対してきちんと言えなかった為にこんな事態を引き起こしたのですから。嵐が過ぎ去るまでじっと耐えて待ちましょう、と教会の皆さんと話し合っていたところですよ。」

それは違う。この事態を引き起こしたのは白神というヴァンパイアなのだから。敵は身内にありという事だ。大野弁護士は、白神の操り人形でしかない。
このヴァンパイアに対するヘイトクライム（憎悪犯罪）の親玉はヴァンパイアの白神だった。

でも、俺たちが教会に対して心配していた事態にはならなかった。
司さんは、その辺の事も考えていたらしい。

大野弁護士が、記者会見を開いて自分の悪事を洗いざらい暴露したのだ。
彼は、自分の欲の為にヴァンパイアから多額の金銭を受け取り、ヴァンパイアに対する根拠のない恐怖を煽り、憎悪を搔き立てたと。それと、ヴァンパイアに対して起こした犯罪まで次々と暴露したのには驚きだった。その犯罪の中には、先日の「v☆girls」への脅迫とライブの襲撃事件も含まれていた。

また、大野弁護士は、沢口牧師のヴァン共反会への関与を明確に否定した。彼らのヴァンパイアとの共存を目的に開かれていた勉強会を乗っ取り、偽造文書で沢口牧師を脅迫し、教会を占拠したと発言したのだ。

大野弁護士はコールドスリープの影響か、記者会見中小さく咳こみながら、鼻を何度もかんだ。真っ赤な鼻をした大野弁護士は弱々しく以前の威厳に満ち溢れた感じはすっかりなくなっていた。
彼も白神の被害者なのかもしれない。
でも、彼はあまりに多くの罪に関与しすぎた。彼はこの記者会見の後、自ら警察に出頭した。