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第十九代白神家当主 ⑩

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桜井区長ご一行が去った後、顔の布を外した女性の賢者が俺を見ながら、
「あなたは、間違いなく安芸の孫ですね、、。やることが安芸にそっくり。あの子も曲がったことが大嫌いで、常に弱い者の味方でしたよ。」
と言った。俺は祖母に似ていると言われて、少しうれしい気持ちになった。



翌日の夕方、杜人家にゆずが一人で俺を訪ねて来る。
俺のいる祖母の部屋に案内されたゆずは、やや興奮気味に、小さな鼻の穴を膨らませながら、昨日の夜に起きたことを話し始める。
桜井の爺さんが仲間と共に白神家に現われ、今までの事を謝罪していったそうだ。彼らは杜人家を出たその足で、白神家に謝罪に行ったのだろう。
明日の夜、改めて今まで白神家に与えた損害の弁償に来ると言って彼らは帰って行ったらしい。

「正博も来たのか?」
「うん。来たよ。でも、なんかアイツおかしかったから、、、。」
「おかしかしいって?」
「何にも意地悪な事を言わないから、調子狂っちゃって。」
「それに、正博が、、、。」
「正博がどうした?」
「白神家のお役目ご就任おめでとうございます。って、、。お館様。あいつ、頭でも打ったのかもしれませんよ。」
正博は、俺との約束を守ったようだった。

「なんだ、ゆずは正博や、正博の爺さんのことを許せないのか?」
「そんな事ないですよ、お館様!ゆずは土地の人たちと仲良くしたいです。今まで仲良くできなかった分を取り戻さねばなりません。」
ゆずは強い子だ。それに辛い環境に負けず優しく育ったらしい。俺はすっかり感心してしまった。

「お館様、これは何ですか?」
ゆずは、俺が魔物の学習用に与えられた本を見ながらそう言った。

「なんか、その本で、魔物の事を勉強しろって言われたんだけどさ、そんな文字で書いてあるから訳わかんなくってさ。」
「お館様は、魔物の勉強をしなければいけないんですか?」
「そうなんだよ、ゆず。このままだと俺、守人になれないかもなぁ。」
「守人になれない!それは白神家にとっても一大事。魔物の勉強は、このゆずめにお任せ下さい。」
そう言うと ゆずは一目散に部屋を飛び出して行った。

小一時間程たった頃、息を切らしたゆずが、結女さんを連れ、大きな袋を抱えて戻って来る。
「お館様ぁ。お待たせしました。」
袋の中から、何やら小さな箱を取り出す。

「お館様。これが魔物を憶えるための秘密兵器でございます。」
そう言うと、箱の中から何かカードを取り出し部屋の畳の上に広げ始める。
「なんだ、それ?カルタか?」
俺はゆずが、広げているカルタの絵札をのぞき込む。カードには生々しい魔物の絵が描かれている。

「そうです、お館様。魔物カルタです。ゆずは魔物の種類をこのカードで憶えました。さぁ、さぁ。始めましょう。結女がカードを呼んでくれますから。」
結女さんが、字札を持ってすでにスタンバイしている。
俺とゆずは、絵札の前に座りカードの読み上げを待った。

「怪鳥鵺 まず 羽を断つべし~。」「かいちょうぬえ まず はねをたつべし~。」
「はいっ!」

先にカルタを取ったのは、もちろん。ゆずだった。
「お館様、これが「怪鳥鵺」にございます。最初に羽を断ってください。」 
なるほど!これなら分かりやすい。
その後もカルタは続いたが、当然ながら俺は一枚の絵札も取れなかった。

「狂蛇王の弱点 頭を落とせ~。」「きょうじゃおうのじゃくてん あたまをおとせ~。」
「はいっ!」
初めて俺が絵札を取った!

「とったぁ!狂蛇王のカードを取ったぞぉ!」
俺は大人げなくカルタを持って大喜びしてしまった、、、。ゆずと結女さんがドン引きしている。

「ゆず。お前、このカルタの読み札をあの洞窟で言っていたんだな。」
「はい、お館様。ゆずは、すぐにお役目に復帰できるようにこのカルタで日々精進しておりました。」
全ての絵札が無くなって、カルタが終了した。俺が取れたのは「狂蛇王」たった1枚だった。

その後も、何回かカルタをやったが、なぜが俺は狂蛇王の札しか取れない、、、。
「お館様は、よほど狂蛇王が好きなのですね、、、。」
ゆずは呆れたように言って、結女さんと俺を笑っている。

でも、この方法なら、魔物の名前と弱点が一気に覚えられる!ゆずに感謝だ。
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